爆発村は今日も泣く
長谷川ミキは走っていた。
町の真ん中を貫くようにできた商店街、通称『逃げ道』を全速力で駆け抜けていた。空から照りつける光なんてお構い無しに、少女はひたすら走り続けていた。
長谷川は普通の女子高校生である。現在、彼女の置かれた状況は人に追いかけられているとかそういう人的環境化の事象ではなく、天変地異の類であった。
長谷川は瞬時に後ろを振り向き何かをみたとおもうと、次には急ブレーキをかけたように、勢い余るくらいに前にのめりつつ、立ち止まった。
「ここまで来ればいいんじゃない」
彼女は自分の来た道を振り返り、顔に手を当て、遠くの景色を眺めた。
目線の向こうにも店や雑居ビルが立ち並んでいたのだが、それらが吹き飛んだのは、その直後だった。
黄色い閃光がその周辺にちらばり、打撃のような音が数秒後に、長谷川を襲う。しかし、長谷川はその光景をみても何も驚かなかった。ただその光景を日常の風景と見ていた。
「まっ黄色に染まっちゃった」
長谷川は消極的な声で呟いた。こぼれた声が地に落ちぬうちに彼女はこうも告げた。
「さすがにもう笑えないや」
長谷川はまた前を向いて駆け出した。
「――地獄村、此処はそう呼ばれている」
それはここ数年起きている異常現象が元で呼ばれるようになった。
「ここ周辺だけ、町が爆発するとかさ、一体何なんだろうね。地球温暖化の友達か」
長谷川は何も一人で語っているわけではなかった。彼女には聞き役がいた。
「分からん」
彼は長谷川と同じように地獄村に住んでいる高校生である。名前は石川。
「僕らは理解のしがたい状況下に立たされているのさ。そもそもあの爆破現象が圧か、エネルギーの膨張かさえも分からん」
「どっちも似たように聞こえるんだけど」
二人は商店街を抜けた場所にある公園で涼んでいた。この場所が爆発の心配が無いかと言えば皆無ではないが、爆破現象は続けては起きないことは統計的に証明されている。彼らもそのことを知ってはいたため、落ち着いていた。
「なんでこの町だけが爆発するんだろって思ったっていいよね」
長谷川は自分の足元を見た。小さなアリが一人ぼっちでうろついていた。
「私だってさ、今日の爆発なんか予測警報どおりに出現したから逃げれたよ」
予測警報はこの町の住人なら誰でも知っており、この警報がでた瞬間、その地域に滞在している人間は速やかに退避する義務がある。しかし、この警報は爆発前に発せられる磁場を観測し、警告するものであった。
「サイズの小さな爆発は検出できないんだよ。でもって、そういう規模のでは人間は死んだり、傷ついたりする」
長谷川はぐらつく視界を押さえようと額に手を置いた。
「なんで、爆発するんだろ。ここだけじゃなくて、別のところだって、爆発すればいいのに」
長谷川がそういうと、石川はこう返した。
「――泣いているんじゃないのか」
告げられた瞬間、長谷川は二つの予測が立った。
「――誰が」
長谷川がそういうと、石川はそれの含む意味を捉えきれずに、中途半端に返した。
「え、地盤が」
それを聞いたとたん、長谷川の肩から力が抜けた。
「ば、バカ」
「え?」
「何も分かってなさすぎ」
長谷川は息を吐き出した。
肺がへこむくらい酸素を追い出したくても、そこに何かがたまった。
気を取り直して、彼女は聞き直した。
「で、なんて」
「いや、だから僕が言いたいのはこの場所の地盤が一定のストレスに耐え切れずに、泣いているというか、泣く代わりに爆破現象が起きているというか」
石川はしどろもどろになりながらもそういった。
長谷川は返す言葉が無かった。
「あんた、ばか正直すぎてやばいね」
それだけ告げると、くすくすと笑い出した。
泣いてる。そこまでわかってどうしてその方向が分からないのか。
彼女には少し不思議で、おかしくてたまらなかった。