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トラえもん


助けて!

トラえもーん!!



それを渡されたのは、しょっちゅう夜ご飯を食べに押しかける私が、坂下君もといトラさんと通算10回目の夜ご飯を食べる前だった。

余談だが、前回の夜ご飯の時から親しみを込めて、プライベートではトラさんと呼ぶ事にしたのだ。本人は、某男は辛いよの人みたいだから止めろと言っていたが。名前の由来らしい。


「何?この変な箸?」

「これはな、秘密道具だ」


なんか顔に似合わずファンタジーな事言い出した。どっちが顔面詐欺だ。

私の手の上に乗せられたその箸は、一本ずつ違った形にボコボコ窪みがある。不良品なのではなかろうか。


トラさんは一度私の手から箸を取り上げて、頭上に掲げた。


「ちゃらららっちゃらー。れーんしゅーうばーしー」


この間何時もの仏頂面である。唖然として見つめていると、トラさんの顔が耳から順に赤く染まってきた。赤鬼の様だ。


「わ、わぁあ!どうやって使うの?トラえもーん」


遅ればせながらトラさんの渾身のボケにノッてあげなければ可哀想だと思い発した言葉は棒読みだった。しまった!


「…慣れないことするんじゃなかった」


やはり棒読みが効いたのか、ぷるぷるしながら両手で顔を覆ってしまった。そうだよ。こっちだって慣れないから反応に困るよ。


「なんでこんなボケを…?」

「今野にな『箸の持ち方教えてる奴がいるんだけど、何かいい練習方法無いか?』って聞いたらこれ勧められて、こういう渡し方を推奨された」


今野は私達の同期の一人で、明るく爽やかなイケメンで、社内での人気も高いできすぎ君だ。確か、姪っ子の躾を手伝ってるとか言ってたっけ。というかトラさん。それ絶対、子供相手だと思われてます!


今野君もキャラ考えて!あんな赤鬼のような顔で某青い猫ロボのモノマネしても怖いわ!!だいたい最近の子供ってシビアだから似てないモノマネすると厳しいよ。


とりあえず話を戻そう。


「これ、どうやって使うの?」

「あ、あぁ。この窪みに指を置くんだ。親指はここ。人差し指はこっち」


よく見ると窪みにそれぞれマークのようなものが描かれている。言われた通りに指をセットすると、あら不思議。


「す、すげぇ!私、箸が綺麗に持ててる!なぁなぁトラさん!今、私の箸すっげえ綺麗じゃねえ⁉︎」

「綺麗綺麗。でも今度は、言葉遣いが崩れてきてるぞ」


久々にチョップをうける。

いつか受けた勢いの割に痛くないステキチョップだ。これなんか好きなんだよなぁ。こう、トラさんの優しさが滲み出てる感じがして。


「これなら何でも綺麗に食べられそうな気がする!かかって来い夜ご飯!!」

「そうかそうか。それは良かった。因みに、今日の夜ご飯はこちらです」


最近はトラさんの提案で、夜ご飯を一緒に食べる時は交互に作るよう当番制になっている。今日はトラさんの番だった。さて、顔面詐欺師トラさんの作った今晩の夜ご飯は…?


「鶏そぼろ丼ー!めちゃくちゃこぼれ落ちるやつじゃん!!私のスキルじゃ厳しいよ!好きだけど!!!」

「食べないのか?」

「食べるよ!いただきます!!」


案の定、箸と箸の間からポロポロとこぼれ落ちていく。でも、いつもよりもスムーズに箸を使えている気がする。

窪みがつっかえになって指が簡単にズレないからなのか。トラえもんの秘密道具すげぇ!これ、私の為にわざわざ買ってくれたんだろうな。何この天使。


「おぉ!大分上手くなったな」


小鉢のひじきを食べながら、トラさんが私を褒める。その食べ方はいつものごとく綺麗だ。


それにしても、トラさんは本当に見かけによらない。私が丼ものを作る時は、丼のみなのだがトラさんは小鉢や汁物も付けてくる。各家庭の食文化の違いもあるだろうが、全てにおいて細やかで気遣い屋さんなのだ。


「三池。汁物をそんな所に置いたら肘が当たって零すだろう。もっと奥に置きなさい」


どうだこの気遣い。おかん力と言うことなかれ、私は小さい頃に母が亡くなったのでトラさんのこういう気遣いが堪らなく心地よいのだ。


「はーい。トラさんの鶏そぼろ、すっごい美味しい!これどうやって作るの?」

「口に物入れたまま喋るな。これはな…」


私を注意しつつ、鶏そぼろは自信作だったのか作り方を饒舌に語る。作り方が細かい。

私の料理は大概目分量で、味付けは大抵塩、胡椒だ。時たまに甘辛の味付けもするが大抵塩一択なので、トラさんの繊細な味付けには感動を覚える。


断っておくが、私は料理が苦手な訳ではない。味付けがワンパターンなだけだ。


「聞いてたか?」

「聞いてた聞いてた!私も今度作って持って来るから、味見よろしくお願いします先生!」

「しょうがないな」


そう言いながらも、トラさんはどこか嬉しそうな顔をしている。ツンデレか!


ゆっくり時間をかけて完食すると、食後のお茶まで用意してくれる。何時でもタイミングが絶妙だ。今日はそれと一緒にみたらし団子が目の前に置かれた。


「あれ?どうしたのこれ?」

「この前好きだって言ってただろ?今日買い物行った時、評判の店があったから買ってみた」


何この天使!!


「ありがとー!トラさん天使!!鬼の顔した私の天使!!!」

「ちょっと待て、誰が鬼だって?」


あ…。私の天使の眉間に皺が…。


「没収。」

「え⁉︎ちょ、ごめんって!!」


私の団子が遠ざかっていく。

助けて!トラえもーん!!!!


…結局、団子はいただきました。

ツンデレ万歳。



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