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ご近所のトラさん

地名は実在するものを使いますが

アパート名などは

一切実際のものとは関係ありません。

無いとは思いますが一応…。


ま、マジでかぁああ!!!



坂下君、もとい坂下先生の朝食を美味しくいただいてから私も自宅へ帰る事にした。昨日からお世話になりっぱなしだし、そろそろ帰らないとね!名残惜しいけれど。


洗い物だけでもと、奪い取ったスポンジを泡立てながらソファに座ってスマホを弄っている坂下君に話しかける。


「いやぁ、美味しい朝食もいただいて、本当に昨日からお世話になりました。ありがとね」

「気にするな。俺も楽しかったし」

「そういえば、彼女とか大丈夫だった?修羅場になるのは嫌なんだけど」

「俺が彼女がいるのに女連れ込むような馬鹿男に見えるのか」


あ、ちょっとムッとしてる。

一応の為の確認だったのに、坂下君は眉間に皺を寄せて強面の顔を更に強化している。今にも唸りだしそうな雰囲気だ。

というか、連れ込むって!なんだかいかがわしい事でもしたみたいじゃないか!思いっきり健全な関係でしかないのに!


「全然見えないよ。酔っ払いの世話をして化粧まで落としてくれるような紳士ですもんね」

「三池…。化粧勝手に落とした事、もしかして根に持ってるのか?」


ええ、少しは気にしてますとも。一度白旗をあげたとはいえ、皮肉の一つくらいは許してほしい。


「やっぱ駄目だったのか。元カノにもそういうことしてたら振られたし…。女心は難しいよな」


ソファの背もたれにでろーんともたれて、落ち込む坂下君。そうか、これが原因で振られたのか。私だったら、彼氏ならそんなに抵抗ないけど。きっと化粧にポリシーのある彼女だったのだろう。


「ふふっ、冗談だよ。ちょっと意地悪しただけだから元気出して」


元気の無い坂下君には申し訳ないが、萎れている坂下君が可愛すぎて思わず笑ってしまった。見た目はともかく反応がいちいち可愛すぎる。くそぅ、強面の癖に!!


「慰めなんていい。俺はどうせこれからも『お母さんみたい』とか言われて生きていくんだ」


完璧にいじけモードに入っている。きっと歴代の彼女に言われた捨台詞なのだろう。世話好きでお節介な性格が災いしたらしい。


名前に見合ったワイルドな見た目な事からはギャップがありすぎるのだろう。私は寧ろ良いギャップだと思うのだが。元カノ達は見る目がないな。というか、化粧のことから思うに坂下君も見る目が無いのではないかと思わなくもない。


「いいじゃんオカン系男子」

「せめてオトン系でありたい」


オトン系…少なくともうちの父とは掛け離れているように感じる。それよりも話に聞く世のお母さんに近い性格だと思うので、やはり坂下君はオカン系なのだろう。


それは置いといて、自宅に帰る為にはここの場所を知らなければならない。先程の会話の最中に洗い物は全て終わらせたので、私もソファの方に向かう。相変わらずソファで萎びている坂下君の向かい側のラグの上に座り、地図アプリを起動した。


「あれ?」

「どうした?」


坂下君が起き上がってこちらを見てくるが、それどころではない。地図の現在地は、私にも覚えのある場所を指している。


「まさかここ『ホワイトアイ・目白』なの⁉︎」

「そうそう!変な名前だし、もしかして見たことあったのか?三池も家この辺?」


確かに和訳すると『目白・目白』というネーミングセンスを疑うアパート名だが、そんなことで驚いているのではない。


「私『ホワイトアイ・目白』の5階に住んでるんだけど」

「…え?」


そう。まさかの、部屋は違うものの自宅アパートまで帰り着いているという展開。


マジでか。

マジでかぁああ!!


坂下君もつり気味の三白眼を見開いて、口までポカーンと開けて驚いている。きっと私の顔も同じ様な表情を浮かべていることだろう。


何せ、同時期からここに住んでいながら1年以上も出くわさなかったのだ。所属部署が違う為、勤務時間の違いはあるものの通勤経路はほぼ同じ筈なのにだ。最早奇跡に近い。


いつに無く間の抜けた坂下君の顔を見ていたら、笑いが込み上げてきた。そしてそれに気付いた途端、坂下君は何時もの仏頂面に戻ってしまった。残念。


「坂下君」

「なんだ?」

「もし今日暇なら、夜ご飯も一緒食べない?この千春ちゃんがご馳走してあげるよ。恩人兼ご近所さんのよしみで」


そう言って笑うと、仏頂面がまた驚愕に変わった。本当に最初の印象と違って顔に出やすくて面白い奴だ。


「何がいい?」

「もう一緒に食べる前提なのか」

「今日、予定無いんでしょ?私がゆっくりしてても何も言わないし。起こさなかったし」


バツの悪そうな顔で目をそらすと、小さく何かつぶやいた。


「え?何?」

「ハンバーグがいいって言ったんだ!」


またチョイスが可愛いなこいつ。


「了解いたしました。じゃあまた、6時くらいに持ってくるね!」

「わかった。待ってる」


荷物を持って玄関を出ると、やはり同じアパートの3階だった。エレベーターを使って自宅に帰る。

昨日ぶりの我が家に着いてまずシャワーを浴びる。そういえば昨日からお風呂に入ってないという事に気が付いたのだ。体臭は弱い方だけど汗臭くなかったかな?

着替えて、布団を干す。坂下君の布団に負けてられない。うちもふかふか布団にするのだ。


そして買い出し。玉ねぎ、人参、卵はあったからパン粉と肉だな。ソースも三池家特製のやつ作っちゃお!スープもいるかな?


そんな事を考えながら過ごす休日は、とても充実していた。ご飯を食べてくれる誰かがいるってやっぱりいいな。実家を思い出して少し懐かしくなった。


6時頃にタネの入ったボウルと、スープの入った鍋を持って坂下君宅を訪れると坂下君が鍋を奪い取った。


「なんっつー無茶な持ち方してるんだ。落としそうな時は分けて持て!」

「了解いたしました先生!!」


ボウルを小脇に抱え敬礼すると、坂下君の眉間から皺が消えた。ふっと柔らかい雰囲気になる。顔は呆れ顔だけど。


それから現地(坂下君宅)で焼いて食べた訳ですが、三池家特製ソースをえらく気に入りレシピを聞かれた。秘伝なので教えられませーんと言うと、イラッとしたのが眉間の皺でわかった。

ムスッとしながらもパクパクと食べあげ、結局坂下君は私の倍以上は食べた。流石、伊達に体格よくないね。


「三池。箸の持ち方崩れてる。」

「…イエッサー。」


レシピの鬱憤を晴らすかの様に、夜ご飯の時も坂下先生は厳しかったです。何故ナイフで切って箸で食べているのか…。


なんだかんだありながら、夜ご飯も大変美味しかった。一人で作って食べるハンバーグよりずーっと美味しかった。

これからも坂下君宅に押しかけて一緒にご飯食べようと、私は密かに心に決めた。



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