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おはトラ


…ここはどこ。私はミケ。



目が覚めると見知らぬ部屋にいた。


白と茶色を基調とした、落ち着いていながらも温かみのある良い部屋だ。ちなみに、ホテルなどではないことは棚に並ぶ漫画等を見ればわかる。ちなみにちなみに、私も同じ漫画を集めている。家主は中々いい趣味をしてらっしゃるじゃないか。


私が寝ていたベッドは、お日様の匂いがしてふかふかしていてとても気持ちが良い。きっと持ち主がこまめに干していて、尚且つ良い布団に違いない。けしからんな。私だって高い布団に買い替えたいの我慢しているのに。


そんなくだらない事を考えている内に、大分目が覚めてきた。


どこだここー!

昨日のバーからの記憶がないぞ!!

どうしよどうしよ知らない人にお持ち帰りされちゃった⁉︎まさかそんな⁉︎

今日は土曜日だから仕事休みだよかったー!

朝日が眩しい!今日はいい天気!!


混乱により頭の中が、寝起きの状態より更に酷い状態に陥った。支離滅裂もいいところである。そんな状態の私の前に、黒エプロンを付けた一人の救世主が現れた。


「おはよう三池。朝ご飯食べるか?頭痛はないか?」

「…こ」

「…こ?」

「これが朝チュンというやつかー!!」

「朝っぱらから何言ってやがる寝坊助」

「痛ぁ⁉︎」


おバカな事を大声で叫んだ私の額に、坂下君のチョップが飛んできた。でも、勢いの割に全然痛く無い。多分当たる直前に弛めてくれたのだろう。つい痛いと言ったがそれは条件反射のようなものだ。

くそぅ、優し過ぎるわ!強面のくせに!!


「違うだろ!服だって着てるだろ!俺が昨日どれだけ大変だったと思ってるんだよ!自力で帰れなくなるうえに、自分の家の案内も出来なくなるくらいなら酒を飲むな!警戒心というものが無いのかよ!俺が自制心の無い馬鹿男だったらどうするつもりだったんだこのアホ!!!」


この間坂下君はノンブレスである。

肺活量半端ない。


「はい、すいません先生!」

「よろしい。それで、朝ご飯は?」

「食べたいです!先生!!」


混乱状態から立ち直ったら途端にお腹が空いてきた。我ながら現金な腹だ。

落ち着いてみると、服もきっちり着ているし身体に違和感も無い。かれこれ2年ほど彼氏無しなので、何かあったならヒリヒリやら筋肉痛やら酷い筈である。一瞬でも坂下君を疑って申し訳なかった。


「あ、でも朝ご飯の前に洗面所借りていい?」

「あぁ。そこ出てすぐ右の扉な」

「はぁい」


メイクしたまま寝て、酷い状態になっているであろう顔を見るのは勇気がいるが、せめて身だしなみは整えたい。もう見られた後だけれど。


洗面所に行って鏡を覗き込む。



「なんでだーーー!!!」



思わず叫んだ。叫ばずにはいられない。


「どうした⁉︎何があった⁉︎」


坂下君も驚いて飛んできたが、それはこっちの台詞だ。何故メイクが綺麗さっぱり落ちている!しかもよく思えば肌のつっぱり感も全く無い。


「なんで私のメイク落ちてんの⁉︎」

「あぁそれか。ワンデイの化粧品コンビニで買ってきて俺が落とした。化粧したまま寝ると肌に良く無いんだろ?布団も汚れるし」


気が効くのか、デリカシーが無いのか。

有難いけど…有難いけどぉ!

そして、布団の件はすいません!!


「あ、悪い。勝手に触られるの嫌だったか?化粧水とかも付けといたけど」

「え、本当に?どうりで。ありがとう」


つい返事してしまったが、違う。ここはガツンとナイーブな乙女心について熱弁すべきところだ。


「うちの姉が酔っ払って帰ってきた時、自分でするのが面倒だからって『メイク落として!』って頼まれてたからつい癖でな…」


心なしか肩を落としてしゅんとする坂下君を見て、私は心の中で白旗をあげた。何だその切ない理由。悲しい弟の定めか。実家の弟にも謝る。かくいう私も坂下君の姉と同じことをさせた事があるのだ。ごめんよ大次郎。


「いや本当ありがとね。お陰で肌荒れを気にせずに済んだよ。ただ、帰り道スッピンなのが少し恥ずかしいけど」

「そんなに変わらないだろ。落とした時コットンに着く汚れが少なすぎて本当に落ちたのか疑ったくらいなのに」

「…ありがと」


少しでも童顔を大人っぽく見せようと、メイクを頑張っている身としては些か微妙ではあるが褒めてくれているようなので一応感謝しておく。


「それより、朝ご飯の用意出来たぞ」

「あ、いただきまーす」


坂下君の後ろについてリビングに行くと、美味しそうな匂いの味噌汁。白く輝くご飯。ふっくらだし巻き。香ばしいししゃも。

あぁ、坂下君は朝ご飯和食派でしたか。

私はパン派です。何故なら箸が苦手だから。


おい。これは私の箸遣いが酷いと知っていての狼藉か坂下虎ぁ!

そういう気持ちを込めて見上げると、坂下君は軽く笑ってまたチョップしてきた。


「箸の練習するんだろ?」


そういえば昨日そんな事を言った。まさか本当に練習に付き合ってくれるとは。


「する!」


嬉しくなって、満面の笑みで応えると坂下君は顔を背けた。耳が少し赤くなっているところを見ると照れているのだろう。愛い奴め。


私は何だか楽しくなって、机に駆け寄った。この家のリビングはラグを敷いてその上に机がある、地べたに座るタイプだ。きっと冬場はコタツになるに違いない。


「おい!こぼすなよ⁉︎」

「大丈夫だって!早く!食べよう!!」

「三池を待ってたんだろ!」


文句を言いつつ席につき、どちらともなく手を合わせる。


「「いただきます」」


坂下君のご飯は、自分の家で一人で食べるパンよりも格段に美味しかった。


…ちなみに。坂下先生は大変厳しかったです。



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