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【更新】迷子から始まった異世界冒険譚【無期限停止】  作者: 音燕
第1章 ~出会い、そして迷子~
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08―三日目―

ほのぼの回です。少しずつ彼らの情報が出てきます。

朝日も昇り、少しずつ風が吹き始めた草原の中、一台の幌馬車(ほろばしゃ)が二頭の馬に引かれてゆっくりと走っていた。そしてその脇には一頭の子馬が幌馬車の陰になる場所を並走していた。


御者席に座るのは商人ロールの関係で少しは馬の扱いを心得ていたリョウともう一人…あろうことかおっさんであった。


この二人昨夜色々やりあったにもかかわらず次の日の朝には並んで喋っているあたりつい最近出会ったばかりとは思えない。


「よし、一通り分かった。手綱貸してくれ、やってみる。」


「おうよ。一応言っとくけど片方に寄りすぎんじゃねーぞ。特にあっちにはタケがいるんだから。…ほれ」


実は彼らは昨日捕まえた馬たちに名前を付けていた。父馬には「マツ」母馬には「サクラ」子馬には「タケ」である。名づけたのはハルである。次のオスが手に入ったら「ウメ」にするのだろうか…?


「おう、さんきゅ。まぁ気を付けていくわ。…っっと結構楽か?いやまっすぐな分楽なのか」


「どうです?御者業は楽そうですか?」


アルが馬車の中から彼らの声を聞きつけ、二人に尋ねた。


「ん~、俺も初心者だから何とも言えねーけど今のところは馬がまっすぐ進んでくれてるってのが大きいからなぁ。正直御者業はやりたくねぇな。」


「だなぁ。俺もできる事ならミスリルとか打って遊んでいる方が何倍も楽しいわ」


「それ遊びなんですか?…法律関係者が鍛冶師って何かすごい違和感ありますねぇ…」


「まぁエリートだろうが何だろうが今のところただの鍛冶師のおっちゃんだろ!中身38外見18の外見詐欺だけどな!」


「昨日みたいに首締めるぞリョウ…女子はどーした?」


ローが車内に顔を向けつつ聞いた。


「えーと相変わらず卵をなでたり磨いたりかわいがってますねぇ。」


「何で卵なのに揺れたり震えたりして感情表現するんだろうなぁ…マジふぁんたじーちっく」


「だなぁ…。昨日寝ていたら腹の上でぶるるって震えて腰抜かした」


「それ仕掛けたのリョウ君ですよ」


「あ、黙ってろっつったじゃねーか!「…おい?小僧…?ちょーっと顔こっちに寄せやがれ」ま、まぁ落ち着け餅つけ」


「餅はつかんわ!」


「ま、まぁとりあえずはこのままゆったり行こうや。おっちゃん後は任せた。俺ぁ中で寝てるわ。んじゃっ!」


リョウは急いで立ち上がると馬車の荷台スペースに入っていった。


「あ、逃げる気か!はぁ、まぁほっとくか…アル、おめーも御者の練習やってみたらどうよ?全然町の影すら見えねーしいい暇つぶしになんぞ」


「後でぜひ教えてください。…けどそう言いつつ御者から逃げる気ですか?」


「はっは…んな事ねぇよ。あれだ王子も馬の扱い覚えておくとよりかっこいいかと思ってな?」


早口でアルを気遣うようなセリフを言いながらすっと目線をそらすロー。腹芸は苦手のようである。


「なら良かったです。後で昼食の後にでも教えてくださいね。では自分も引っ込みますね。」


「おう、教えてやんぞ~。んで今のところは任しとけ。…ん?」


さらりとローに押し付け逃げるあたりアルも意外と腹黒いようである。そしてローがちょろい。

一方車内では…


「あ、リョウ」


「卵震えててかわいいのにゃ!食べたくなるのにゃ!」


サラとハルが毛布を巻き付け馬車の振動から卵を保護した上で構い倒していた。


「それ絶対恐怖で震えてるだろ…」


「ねーリョウに聞きたいんだけどこの模様とか竜の樹商会の模様?円の中の樹の枝の上で居眠りしている竜。」


サラが馬車内の柱に彫られた模様を指さして尋ねた。かなり精巧に彫られている。野暮だとは思うがこの竜良く落ちないものである。

そしてまさかの竜=熊の生態疑惑。はちみつが好物なのだろうか。


「おう、それが商会のシンボルマークだな。」


「じゃあ聞きたいんだけど天井の梁にあるあの模様は?円の中、樹の下で居眠りしている竜の模様。あれだけ他の模様とは違うんだけど。」


「あ~、よくあれに気付いたな…」


幌馬車という都合上天井部分は多少暗いものである。そこに彫られた模様に気付くとは確かに良く気づいたものだ。


「うちが気付いたのにゃ!間違い探しだったのかにゃ?どっちにしても竜のくせにだらけすぎにゃ!」


「いや、天井のは『竜の樹商会長の証』って意味合いがある。軍隊とかじゃあ階級とかを線の数で表すっていうだろ?


だから俺の商会では『木の上で居眠りしている竜』をシンボルマークにして、それぞれの階級は天井の模様みたいに樹の下にいる竜の姿で表してる。」


「へぇ、それは初耳ですね。まぁ内輪の話ですから当然なんでしょうけど。序列の見分け方とかは簡単なんですか?」


アルが背伸びして模様に触りつつ尋ねた。


「簡単っちゃあ簡単かもな。竜が樹の下でどれほどリラックスしているかで判断するな」


「それ簡単かしら…?」


見ただけでは判断しづらい事この上ない基準である。


「気の抜ける判断基準にゃ!」


「俺の場合は一番偉いって事で爆睡状態の竜だな。ああやって寝そべっているって事は外敵への警戒を一切してねぇ」


それは果たして偉いのだろうか?


「おもしれぇ話してるなお前ら。御者席からじゃあ模様は見えねぇけど俺も聞くぜ。二番目に偉いやつはどんな感じなんだ?」


「鼻提灯を膨らませてる」


それはより深く眠っているのではないだろうか?


「それあんまり違いなくない?あるか無いかだけじゃない」


「鼻提灯=空気センサーって考えてるから少しは警戒してるんだよ。…多分」


「多分って何です?」


「いや、ほとんどの模様は俺が遊び半分で序列を決めたんだが、二番目の奴だけは本人が『これが良い!!』つって聞かなかったからそうなった。


…えーとこっち来る前にそいつから手紙貰ってたな…おうこれこれ。最後の名前の下、模様があるだろ?そんでここに鼻提灯がついてる」


リョウがアイテムボックスから数枚の便箋を出し、床に置くと模様のある部分を示した。リョウが魔力を流すと輪郭が緑色に光り鮮明になる。


「どれどれ…本当についてますね…。ローさんにも見せていいですか?」


「おう、見せていいぞ」


「おっさん、これにゃ!」


「おう。…ほんとについてるのな…綺麗だがすっげー気の抜ける模様だな。名前は…コ…ラル?コラルって言うのか?プレイヤーの間では聞いたことが無いな。」


「おうさんきゅ。…一応聞くけどおっちゃんの鍛冶ギルドってどこよ?」


「『アイアン・ハンド・スミス』だが?ちなみに俺が副ギルド長な」


「おう、ならコラルが交渉関係で行ってるはずだぞ。ていうかおっちゃん副ギルド長だったのな…ちょくちょく新情報出してきやがるな…」


「ローさんは掲示板でも結構有名ですよ?特に純ミスリル精錬製法の発見で一躍有名人になりましたし。それでかのギルドも一躍トップギルドになりましたね」


「うちはパーティで迷宮に潜ってばっかりだったから知らなかったにゃ!」


「あたしはエルフの里を中心にしてたから聞かなかったわね…」


「まぁ俺の知名度なんざどうでもいいだろ。てか竜の樹商会と交渉?あったっけなぁ…?」


「おっちゃんが開発者ってのは知らなかったけどさっきアルが言ってたじゃん。純ミスリルの精錬方法。あれの特許登録にゃうちも深く関わったしこないだ結構な量の精錬依頼出しただろ」


「あー、特許関係はギルド長に勧められたんだけどめんどくさかったから『そこまで言うなら全部任せた』つって交渉を全部投げてたな。


まぁ特許料とか結構な額だったしそこら辺は感謝してるわ。そういえば結構な精錬依頼がうちに来てたな…あれが竜の樹商会かよ」


「特許って何にゃ?」


「えーと…噛み砕いて説明するとアイデアの登録ですかね?他の人が思いついていないやり方で新しいコップを作ったとしましょう。これを登録するとそれ以降他の人がそのやり方でコップを作ったら登録した人…この場合はローさんのギルドですかね?にそのアイデアの使用料を支払わなきゃいけないんですよ。」


「アイデアだけで大金が手に入るのかにゃ?」


「そこら辺は内容次第ね。純ミスリルの精錬方法なんてかなりの価値があるだろうし高額になったんじゃないかしら?」


「おう、俺ぁ知らんが7桁ぐらいの収入がギルドに入ったって聞いてるぞ。その半分近くは俺が貰ったが。」


意外と大きい額を暴露するロー。そして何気にかなりの資金を獲得している。


「それ本気ですか!?ちなみにそのお金は何に使ったんです?」


「その金額は俺も初耳だな…。コラルに『なんか大金が動く特許の交渉関係がやばいらしいから行って纏めて来い』って投げただけだから」


交渉などを大金が絡む癖に面倒くさがるあたりやはりこのおっさんとリョウは同類である。一種の馬鹿か。

そしてリョウはどこからその情報を仕入れた。


「ギルドの方は施設の拡張や炉のアップグレードに使ったらしいぞ。ちょうど炉が限界になってきていたからな。俺のは今着てるこのツナギだな。


耐火じゃきつくなってたから耐炎に上げて、ついでに耐刃付きのを新しくこしらえた。全部使ってもそこそこのグレードのしか作れなかったが。」


「耐刃て何でよ…」


「できた武器の試し切りをする時にたまに真ん中で折れて跳ね返ってきたやつがぶつかって来るんだよ。その対策だな。試し切りで死に戻りとか上級の鍛冶プレイヤーなら一度は経験してるぞ」


実はそんな死に戻りはFWの運営側も想定しておらず発生当初は非常に慌てた。試し切りをする場合は破損・切断判定が必須の為プレイヤーだけ除外することが出来なかった。

また、その一方で死に戻った職人のほとんどが笑いながら帰ってきて何もなかったかのように作り直しの作業に戻るため対策を諦めた経緯が存在する。

げに恐ろしいのは職人プレイヤーのその根性であろう。


「へぇ~。おっさんすごいにゃ!」


「そういえばふと思ったんですけどリョウに聞いていいですか?」


「お?なに?」


「いえ、ローさんところのギルドの特許とか聞く限り結構な範囲で竜の樹商会って動いてますよね?情報収集能力もかなりあるみたいですし。」


「そういえばそうね。」


「そもそも何でそんな商会を建てようと思ったんですか?資金も気になりますけどそこが結構気になるんですよね。」


「確かに考えてみりゃあ大企業に近いことやってるよな。まぁこの世界にあるか分からんが。」


「あ~それか…」


「聞いていい話なのかしら?」


「う~ん…。まぁこうなっている以上俺らにゃあんまり干渉来ないだろうし…話すわ。」


「干渉とか結構大きな話なのにゃ?」


「大きいっていうか現実世界では世界中を巻き込んだ事件が始まりだな。」


「物騒すぎる単語がちらほら聞こえてきて早くも聞いたこと後悔してきたんですが…降りれます?」


「まぁ始めちゃった以上最後まで聞くわよ!ロー、あんたもどうせなら馬車止めて、聞きましょ。警戒はアインがしてくれるでしょ。」


道端の木の木陰に馬車を止め、一行は馬車の中でリョウの話を聞く態勢になった。

ちなみに卵はハルの腕の中で抱え込まれている。


「う~ん、実は俺もあまり細かくは知らないんだよな。おっちゃんたちの方が事件の詳細を知っているかもな。――とりあえずは『クリスフィ対策〇×特別病院特別棟晶化事件』ってのは知ってるか?」


地味にくそ長い事件名である。…しかしこれは当時全世界を震撼させた大きな事件であり、そしてFWのきっかけとなった事件でもある。


「それ俺もちょい関わってるわ…」


「僕も当時消防署に来た通報で出動して関わりましたねぇ。あれって4~5年前の事件ですよね?裁判とかで異例尽くしだったとか。」


「あたしはテレビで聞いた」


「うちは小学生の頃だったからあまり知らないにゃ。」


「そっか。じゃあおっちゃん達詳しく語れるってなったら引き継いでくれや。俺も途中からはよく知らないんだ。教えてくれなかったからな。この際だから教えてほしい。


――さて、そもそもあの事件のきっかけは俺がクリスフィに罹ったことから始まった」


次回投稿は9/2正午、2話を一気に連投します。

その後は一気に色々進めようかと。

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