39―追手―
「…え?何それマジ?」
アルとサラがヤルディン達第2騎士大隊に理由不明のまま引っ張られた翌々日。リョウとハルとローの3人も王都に無事到着していた。なお、彼ら三人がアル達3人の後を追えたのは偶然ではない。
アル達は第2騎士大隊と共に行動を共にしている最中にリョウ達の存在を打ち明け、彼らと合流するにはどうするべきか隊員たちに相談していた。その結果第2騎士大隊の面々と共に王都に行くことを決めたわけだが、これにはいくつかの理由が存在している。
一番近くの街で待ったとして必ずしもリョウ達とそこで遭遇できるわけではない。ならばいくつかの街を巡って伝言等が残されているかどうかもしくは残した方が良い。
また、伝言を残した場合は第2騎士大隊と言う信用のおける集団により、必然的にその伝言の信憑性が増す。誰しも見ず知らずの人物から聞いた友人の消息をよりも何らかの公的機関を介して聞いた消息の方を信用する。故に彼らは隊員に協力してもらい王都に向かう途中のギルド・役所あるいは門番などに言付けた。
また大隊の向かう先が国の中心地であったことも彼らの決断を後押しした。情報が最も集まりやすい地であり、大体の本拠地故に友人となれた隊員たちの協力を得る事が容易くなる。
これらの理由により彼らは近くの街ではなく王都を目指したのだが、これらの効果は非常に大きかった。
リョウ達も当初王都を目指すことを決めたのだが、果たしてそれで良いのか悩んでいた。ところが最初の街に着いた時ギルドを介して彼らの伝言を聞くことが出来たためそれ以降は一路王都へと進んだのだ。その証拠にリョウ達はアル達が王都に入った二日後と言うほぼ同時のタイミングで到着したのだ。
しかしながらそこで彼らを待っていたのはアルとサラが二日前の夜に『他国家隠密』…すなわち他国のスパイであるという容疑で捕まったという信じられない情報であった。
「はい…お二人が泊まっていた宿に騎士団の方々が来てその場で宣言して連行していったそうです。ここまでしかギルドには伝わってきていません…上層部は聞いているかもしれませんが」
ネリーが泣きそうな表情をしながら話す。『冒険者』と宣言したことにより今回の件はギルドに直ちに伝えられたのだ。そして今回の事件は彼女に大きな衝撃を与えていた。
そのためリョウ達がギルドを訪れるとすぐさまネリーは彼らをギルド近くの喫茶店――奇しくもアルとサラが利用した所――に連れ込んで受付嬢として働いている事で得られた情報を話していた。
「うーん…このリョウならスパイと疑われそうな事をやってもおかしくないんだが…あいつらがそんなことをするか…?」
ローが何気なくリョウの行動に対する信頼度の低さを露呈しつつ考え込んだ。
「おっさん、何気に俺の事を侮辱してねーか?ていうか俺の名前に変なルビが付いた気がするが気のせいだよな?」
「気のせいだろ…多分」
「スパイって国家機密を盗んで自分の国に持って帰る!みたいな事をするのかにゃ?あとヘリコプターから飛び降りるとか」
ハルが彼女なりの予想を持ちだす。前半はともかく後半は映画の影響ではないだろうか。
「多分って何だおい」
「大体そんな意味で合っていると思うぞ。…にしてもどうしたもんか…どうすりゃ出て来れる?」
「ええと…疑いが晴れるかもしくは身分が高い人の保証があれば…ですね。スパイの疑いはそう簡単に晴れませんからこの場合は地位が高い人に保証してもらうしかないでしょう」
「地位が高いって事はギルド長とかにゃ?」
「おい待て無視すんなお前ら」
「もう少し上じゃないと無理だと思います。それこそ貴族の中でも上位ですね。…ただ今回王都までくるにあたってアルさんたちは第2騎士大隊、つまり貴族の方々と仲良くなっているんですが、その方々がいまだ動いてないらしいので…多分相当難しいんじゃないかと思います」
そばで絡んでくるリョウを流しつつも話し合う彼ら。しかしその前途は明るいものではなかった。
「となると手も足も出ない…という事か」
「とことんまで無視するのかお前ら…。アル達がこうなったんなら俺らも行く羽目になるんじゃね?」
「どういう意味にゃ?」
「こっちは聞くのかよ!…もうやだこいつら…何なの…」
「放置してもお前のメンタルは頑丈だからな。…で、『行く羽目になる』って言うのはどういうことだ?」
「頑丈かどうかの問題かコレ!?…信頼されているようでされてない気分……まぁいいや、アル達がスパイと思われて連れてかれたんなら仲間の俺らも同じように強制的に連れて行かれる可能性があるんじゃないか?」
「言われてみれば…今からでも皆さんは王都を出た方が」
慌てて立ち上がるネリーだがそれに構わずリョウは話し続ける。
「と言うか多分ネリーがまだ捕まってなかったのって俺らを釣り出す為じゃ……あ、もう来たっぽいな」
リョウが何かを見つけた方向を向くと…確かに複数人の騎士がいくつかのグループを作ってやってくるのが見えた。おそらく今から逃げても無駄…どころかより疑いを強めてしまうだろう。
「あ…すみません、皆さんをみすみす…!」
ネリーが慌てて頭を下げて謝ろうとするが、それをローが止めた。驚いたネリーがその顔を見ると、彼ら3人は笑っていた。
「いやぁーわざわざ城まで道を探しながら行く手間が省けてよかったんじゃね?」
「それは…得しているのか?…正直言って俺らはどこが出身なのか不明な集団だ。しかしネリーはこの国の国民だからスパイといった容疑はかかっていないだろう。捕まっていないのはただ単純に優先度が低いと言う事と『ギルドの受付嬢』には手が出しにくいんじゃないか?
というかアル達のこれまでの動きを聞くかぎり多分これほど早く騎士が来たのは俺らも通った『疾風馬』の登録手続きが原因だろう。短期間に2度も似たような騒ぎがあれば関連性を疑ってしかるべきだ」
「そういえばトレディアに行くまでの道程では2頭…いえ、3頭の馬を連れてたような気がしますね」
「3頭であってるにゃ。もともとうちが一家丸ごと捕まえたのにゃ…そういえば結局トレディアで別れた後のうちらの事は話せにゃかったけど無事親の2頭を連れて来れたにゃ」
「ぶっちゃけ迷宮の爆発?に巻き込まれてはぐれた後、また見つかるとは思ってなかったけどな。…馬に関しては俺らの宿に預けてある。ネリー、悪いが世話しておいてくれ」
ローがその懐から鍵を取り出してネリーに渡す。
「………(爆発ってこの人たちナチュラルにすごい事言ってる…)」
「一応10日間分の宿泊費用は前もって渡してあるが、その間に戻ってこなかったらギルドの方で引き取っておいてほしい」
「…んじゃ、俺らは行くわ。警官サンが来てるってのもあるけど…仲間を放っておけるわけねーしな」
「そうだにゃ。…と言うわけでネリーは待っていてくれればいいにゃ。多分数日で出て来れると思うにゃ」
「おい根拠はどこだ根拠は」
「そんなもん無いに決まってるにゃ…」
「え…」
ネリーが色々と硬直している間にリョウ達は会計を済ませるとそのまま騎士たちがやって来る方向へと進んで行った。
ネリーの居るところからは何も聞こえなかったが彼らと騎士の数人は会話をするとそのまま大きな騒ぎを起こすことなく視界から消えていった。
「………なんで…?何であの人達笑って行けるの?リョウ君もハルちゃんもローさんも何でそんな簡単に笑いながら大変な所に行っちゃうの?……そういえばアルさんもそんな人だっただっけ…」
ギルドに始めて彼らが来た時、ネリーの胸は高鳴った。彼女は以前アルに対して『父と見間違えた』と言ったがそれはそこまで強い理由ではなかった。確かに鎧は似ていたが祖父テッケンの元で様々な武具防具を見、受付嬢として若いながらも既に多くの冒険者を見ていた彼女にはすぐに別のものだという事が分かった。
それでいて尚もアルの事を好きだと公言して憚らなかったのは彼の話し方、その顔つき、姿勢が今では既におぼろげになった両親の背中に重なって見え、つい目で追ってしまう癖をごまかしていたのだ。
しかしアルを通して両親に送っていた思慕の念が本当に恋心になるとはネリー自身思っていなかった。結局ひと月ほどしか彼らはトラベリアに居なかったが、半月もあれば気持ちが変わっていくのには十分だった。
そしてトレディアへ向かう時の野営の夜にアルと交わした数々の会話はネリーにとってとても心地良い物であった。
「『家族や婚約者、友人、名誉…各々最も守りたいと思うものを守るためにその手に握るのです』」
トレディアから脱出した時、強制的に馬に乗せられ、背中に感じた存在感は忘れられない。そしてその後第2騎士大隊のそばへ飛び出して彼らを無事救い出す様子を遠くから眺めた光景もまたネリーを魅了した。
うねる樹々を背景に蒼く煌めく剣を振るい、水飛沫と共に先頭に立って道を切り開く彼の様子はとても勇猛で見とれてしまう光景であった。
そして彼が演説で言った一言はネリーに町と娘の命を命がけで守った両親を思い出させた。ここに至るまでの数週間でアルと友人以上の親密な関係になれた自覚がある。
リョウ達とアル達の事を話し、彼らの気負わぬ様子を見たことでアル達が捕まった知らせを聞いて以来堪えていた不安な心と共にアルの事を好きに思う気持ちが一気に噴き出した。
リョウ達の仲間に対する姿勢や考えを見てネリーは強く思った。
『あぁ、誰かをほっとけなかったり親しい人を放っておけなかったのは家の両親もそうだったなぁ』と。そしてもう一つ
『やっぱりアルさん達はいつも賑やかで仲が良くて…まるで家族みたい』とも…。
「もし無事に戻って来たら…もう一回告白しよう」
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「…以上が先日までの調査で分かった事です」
リョウ達が騎士と共にネリーの目の前から姿を消した日の夜、シークアランス海洋大国王都『ティホルン』、その中心部にほど近い建物の中…その内部で一人の女性が報告を読み上げていた。
「そう…大体の事は分かったわ」
先ほどまで『報告』をしていた女性が顔を上げる。その見つめる先には銀色の指輪を見つめながら片手で弄る女性…『部屋の主』こと皇太子サアルの『先生』が居た。
「…そうね、明日皇太子殿下の所に行ってみましょうか。多分面会させてくれると思うわ。『トレディア』だけじゃなくて『トラベリア』の迷宮にも絡んでいた……ならその前の足取りも分かればより確定的になるでしょう」
「では後ほど…と言ってももうすでに夜ですので明日の早朝に面会申請を出しておきます」
「ええ」
「では失礼いたします」
女性が一礼して部屋を出ていく。部屋に残された女性は立ち上がると窓の傍に寄った。
「…見つける前に私の寿命が間に合うかどうか不安だったけど…ようやく手がかりを見つけた…のかしら。二回目の引きこもりは百年単位とか本当に迷惑千万すぎる…」
口調は重かったが窓ガラスに映るその顔はとても楽しそうで嬉しそうだった。
「これだけの事をやらかした責任は必ず取ってもらいましょうか」
訂正…猛禽のごとき笑顔へと変貌した。
恋愛の表現って難しい(。-`ω-)
と改めて思いました(; ・`д・´)
11/11 追記 不足部分を追記しました




