―幕間―とある町の地下でのお話(+α)―
前話の直後ですが本編から逸れているので幕間です。
床には畳が敷きつめられ、天井には四角を基調にして気をくりぬいた木の枠組みに和紙を張り穏やかな光をもたらしている間接照明の下で黒髪の少年がゴロゴロしながら本を読んでいた。
と、その時部屋の端のふすまの向こうから―
「リーダー、入っていいでしょうか?」
「いいよー。サフリアお疲れー」
少年は本から目をそらさずに返答する。それを受けてふすまが開き…
「リーダー…迷宮の支配力が上がってやれることが増えたのは良いと思うんですけど…さすがにだらけすぎじゃないかと…」
蒼い長髪と整った顔にすらりとした長身、反則的な爆弾を胸部に抱え、サフリアと呼ばれた女性が部屋に入ってきた。しかし注目するべきはその美貌と胸部装甲ではなく…ふすまの向こう側の光景にあった。そこはむき出しの岩肌が剥き身で存在している洞窟のような通路であったからだ。
彼女は後ろ手にふすまを閉めつつ心配するような表情で少年を見つめた。
その伸びやかな声と表情には普通の一般男性であれば骨抜きにされかねない驚異的な破壊力が潜在していた。
しかし少年はあろうことかそれをこともなげに一蹴した。
「いやーここにしばらくは居るつもりだし?その間に少しずつ『希魔力』も溜まっていくでしょ。だったら今のうちにある程度安心出来てリラックスできる拠点の確保が最優先だと思って。それに快適な生活はサフリアの望むところでしょ?」
「うっまぁ…それはそうなんですけど…」
なおも何かを言わんとする彼女の声を遮って―
―パシーン!
「あ、お姉ちゃんもここに居た!リーダー、何なのあの連絡!?あの騎士っぽい男ぐらい何とかなったんじゃないの?」
アルとトレディアの街で対立した少女がふすまを勢いよく開け放ち、そのままの勢いで黒髪の少年に詰め寄った。
「いやさー、あの騎士っぽいお兄さんだけどさー、こっちで僕の能力を通して見た限り多分騎士じゃないと思うんだよね」
「え…?でも結構手練れそうな雰囲気出してたけど…あと何か言い方が騎士っぽかったよ?」
「まぁそれには同意だけどね」
「千花、きちんと戸締りはしなさいといつも言ってるでしょ」
サフリアがため息をつきながら少女が開けっ放しにしたふすまを閉めようとする直前に…
「やっほー。駿君、例の迷宮見に行ってきたよー」
これまたリョウ達と迷宮の出口で対立した少女が顔を覗かせてからやってきた。そこにはリョウ達とやり取りをした時のような冷徹さや冷たさは感じられず黒髪で明るく朗らかに笑う少女が居た。
…余談になるがリョウ達と対話していた時彼らは緊迫感のあまり気付いていなかったが彼女もまた人より多少大きな胸部装甲の持ち主であった。着替えたのかその服は白色のかっちりした服からゆとりのある赤色の現代風の衣服になっておりサフリアと並ぶとその潜在的な脅威度を増していた。
唯一人並みかそれ以下の装甲持ちが千花と呼ばれた少女であり…
「うう…サフリアお姉ちゃんと穂乃花お姉ちゃんが並ぶと何でかみじめな気分になるよう…」
部屋の隅に座り込んでしまい先ほどまでの明るさは何処かへと行ってしまった。サフリアが懸命に慰めているが…逆効果ではないだろうか。がんばれ千花、弱者は君だけじゃないはずだ。…多分。
「うーん…あの子はこういうのに関して弱いのが悩みかなー…」
「本人がそれ言っちゃったら終わりなんじゃないの?」
さすがに哀れに思ったか黒髪の少年も本から目を外すと部屋の隅で未だに落ち込んでいる少女を悲し気な視線で見つめる目の前の元凶に対してつぶやいた。
「…何か言った?」
「何にも?…で、どうだった?あっちの様子は。急に抵抗が薄れたかと思ったら全然支配できなくなって状況が読めなかったんだけど。穂乃花が向こうで例の物を使ったから制圧できて良かったけど」
「んー、何か他所から来た冒険者達が攻略しちゃったみたい。んで私達が調べようと思ってたあの変なもやもやを封印したって」
「攻略…まぁそれはいいけどあれを封印?…ねぇ…あれってそんなに危険なの?」
「さあ?何か厳重に鎖巻いてて『自分も研究しようと思ってたんだけど解除できなくなっちゃった』とか言ってた」
「…その人馬鹿?自分も解けなかったら研究できないんじゃ…」
少年が呆れたのか視線を部屋の中央に向ける。と、一瞬後に丸い一般的なちゃぶ台が現れた。
「ま、立ってるのも何だし座りながら教えてよ。俺もどれぐらい計画が終わったか穂乃花に報告したいしね」
そう言って少年が少女に優しい声音で呼びかけ、笑いかけると彼女は顔を赤くさせながらも少年の右隣に座った。サフリアや千花と呼ばれた少女たちもいつの間にかやって来てサフリアが少年の左隣、千花が対面に座った。
「…で、その馬鹿な人って複数?」
「えっと…人間と獣人、ドワーフが1人ずつかな?成人した男2人と女の子の獣人1人で3人だった」
「ふぅん…何かいけない妄想を連想するなぁ…」
「駿君「リーダー」?」
そんな事を少年…駿とやらが漏らした途端両側にいた2人がその腕を絡め取って姿勢を変えずに腕を締め上げた。
「それってどr…痛い冗談抜きで痛い!ごめんって!ギブ…!……はぁ、痛かった…他には?」
関節締めが解かれ腕が絡んでいるだけになった後、賢明にも駿は2人に文句を言い立てなかった。…いつの世にも理不尽を追及したら冗談抜きでひと昔を風靡したドラマのように『倍返し』を食らいかねない事態は存在するのだ。駿は内心涙を堪えながら至って自然な表情を心掛けた。
「仲良くしてたみたいだからそう言ったことは無いと思う…かな」
「やっぱ聞こえて…えっと、何か気になること喋っていたりした?」
腕に絡む手に一瞬力が込められたのを察した彼は即座に話題転換を図った。
「うーん…あ、大阪…ていうか関西弁だった。獣人の女の子に『エセ関西弁』とか言われてたけど」
「それ重要じゃない!?何で最初から言わないの!?」
「もしかしたら私にとって分かりやすく翻訳されているのかも知れなかったから。それにこっちの地方言語が私たちの知る関西弁に似ているだけかもしれないし」
「あぁ、そっか…僕たちあまり世間を良く知らないしね…サフリア達も孤児だったんだよね?」
彼の確認にサフリアと千花が揃って頷いた。
「そっか…じゃあ他の言語があるのかどうか分かんないな…でも一度話を聞けたら聞きたいね。どうにか封印を解いて僕たちに調べさせてくれるように頼めれば…」
「それもそうだけど、せっかくこの町を確保したのに本来の目的はどうするの?ここが有望そうだとか言って今回の事をやったわけでしょ?」
「あぁ、それなら一応目的の大部分は達成できたよ」
少年が先ほどまで読んでいた本を指さす。サフリアが手に取りテーブルの上に置いたその本の名前は…『~魔石活用法~魔石を用いた魔力貯蓄』
「…これが?」
「今までは迷宮で生成した『希魔力』をずっと溜めていられなかったんだよね。それが溜められるようになる…これは大きいよ」
「って事は…?」
「もしかしたら一時的にでもここを維持したまま離れられるようになるかも」
「確かにそれはいい知らせですね。それだけですか?」
サフリアが先を促す。
「うーんと…この町と迷宮3つを支配したらかなり希魔力の生成効率が上がった。しばらく溜めたら穂乃花の言う人達に会いに行こう。一応宣言は伝えたんだよね?なら向かった先の方向はこの町の地図で絞り込めるし僕らの事もきちんと話せば協力してくれると思う。あれについて研究したいって事は僕らにも無関係じゃないからね」
「そういえば穂乃花お姉ちゃんが言ってる人たちと千花が出会った騎士さんって多分パーティだと思うよ」
横合いから千花と呼ばれた少女が口を挟む。
「え?…そういえば僕たちが上から目線で出した宣言を言うべき対象が見つからなくて探してもらっていたんだっけ」
「宣言と言えばサフリアも騎士団の方々にはリーダーと穂乃花さんの能力があまり及んでいなかったので一度警告をしてから宣言を伝えておきました」
青髪の少女が駿の知らないところでの行動を話した。彼はその頭を撫でてねぎらった。
「こっちは『近づくな、他の街へ行け、偉い人達のところに行け』…ぐらいかなぁ…」
穂乃花が上手く伝えられなかった自分は撫でてもらえないと思ったのか萎れた表情で報告した。それを見た駿は苦笑しつつももう一方の手で穂乃花を撫でた。
「うーん…じゃあ封印したって言うのもここの偉い人の手に渡っちゃうのかな?せっかく見つけた手がかりなのに…」
「獣人の女の子も『調べたい』みたいなこと言っていたからしばらくは大丈夫だと思う」
「なるほどね。…でも早いうちに接触した方が良いよね?」
「まぁそれは確かに…」
穂乃花の同意を得た少年、駿は他の二人の顔も見つつ宣言した。
「しばらくはここで力を蓄えよう。ここなら3つの迷宮に集まる莫大な魔力の上澄み…『希魔力』が今までより多く生成されるだろうね。つまり今までとは段違いの速さで『希魔力』生成が進むと思う。
本当なら別の事の為にここに住んでいる人達の協力が必要だったんだけど…今は出来るだけ早く希魔力を魔石に溜める方法を見つけよう。騎士さんや獣人さんのパーティがそう遠くないところにいるうちにある程度のめどを付けて僕が離れてもここの維持を出来るようにしなくちゃならない」
とある町―――トレディアの地下に新たに作られた4つ目の迷宮のどこかで少年少女たちがリョウ達にいつか会う事を決めた。
彼らとリョウ達がいつか、どこかで、出会う時……世界の歯車の動きを記述する本のページはまた1つ…捲れるだろう。
それが果たして良いことなのか悪い事なのか…それはまだ…誰にも――そう、神でさえも――分からない。
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リョウ達も、駿と名乗る少年とその周囲の少女たちも知らないどこかで……とある会話が交わされた。
「む…ここにおったか」
「やぁ。――――――、どうしたの?」
「どうしたも何も、お主『コール達』に―――したな?」
「う~ん…だってそうでもしないとまた色々なモノが危険な事になりそうだったから」
「まぁ…儂も他の――――も同様の意見じゃが…何もお主がその―――を削ることは無いだろう。お主や――――はやっとその―――を取り戻したばかりではないか。他の――――も心配しておる」
「そうだね…かなり―――が掛かっちゃったし…今回のようなことは1度で十分だよ」
「当然だ。どれほどかかったと思ってる。お主は『大変な思い』で済んだかもしれんが儂や――――達はかなり大変な目に遭ったんじゃぞ…もし今度―――が無くなったらもう全てが終わりじゃ。はぁ…彼らの動向も重要だがその一方で―――も重要なんじゃがな……む、『コール達』だけでなく『迷宮維持者』たちも見ておったのか」
「え?…ああ、だって彼らも彼らで被害者だし、もう少しで『コール達』に接触するところだったから。今はまだ…しばらく待ってもらわないとこっちが壊れる」
「む…一度――――するべきか…それは―――と―――が行う。お主は―――――してくれ」
「そうだね。…じゃあこっちは任せるよ。かっての『龍王』にもよろしく」
「…あ奴は今も寝ておるじゃろ。というか起きてしまったら――――するはめになるぐらいは把握しとるはずじゃから意地でも寝るじゃろ」
「ははっ…あれも相変わらずだなぁ…君も老けたし」
「まだ死なんわい。お主もすぐ老けるじゃろ」
「縁起でもないなぁ…まぁ君も僕もそうそう死ぬわけもないか――――――なんだし」
「じゃがそういうわけでもないのは今回分かったじゃろ」
「まぁね。…本当に大変な目に遭ったよ…ま、ここはお願い、――――」
「うむ。――――ものう」
まだ先の展開が決まっていないのでとりあえず幕間を出しました。
2日後…に展開を決めるのが間に合わなければ前話でも言ったように活動報告を上げます。




