33―不穏な戦場―
遅れました。すみません。
ガキ、ゴッ!「うらぁっ!」「おいてめぇ危ねぇよ!」……
アルたちは「トレディア」の西門の上、町を取り囲む壁の上に設けられた通路からゴブリンの大群と冒険者たちの戦闘を見ていた。
「うーん、今のところは五分五分…いえ、こっちが優勢かしら?」
「ですね。『ヤマタノオロチ』の皆さんも軽快に…」
アルが『ヤマタノオロチ』がいるはずの前線を見るとゴブリンが絶えず上空へと吹き飛ばされている様子を目撃した。
「訂正しましょう…豪快に遊んでいるみたいです。罠がメインの迷宮と言うだけあって小物しかいないみたいですね。そうそう気張らなくても大丈夫でしょう。…サラさん、右翼中央の人たちに少し下がるように伝えてください。ちょっと出過ぎです」
「あれぐらいならいいんじゃないの?弱い相手よ?」
「ですが後ろに回り込まれる事への注意を怠っていますから一度下がらせるべきでしょう。『後方注意』ですよ」
「そうね…そうだったわね」
アルが右側に固まっている冒険者パーティの動きを睨みながら言う。サラは手を前方にかざすと…
「風の精霊さん、また伝言をお願い。対象は…えっとあそこの茶色い鎧を着ている人たちね。『ちょっといったん下がりなさい。出過ぎよ。後ろから刺されたら責任持てないわよ』」
「…聞こえたみたいですね。少しずつ下がっています……右翼の残りと合流できました」
「精霊に直接耳のそばまで声を届けてもらっているのに命令無視したらそれこそ本当にこの町の人たちは無礼って事になるわよ」
「はは…彼らはそこまでじゃないと思いますけど…とりあえず言われたように『後方注意』を怠らないようにしましょうか。…タケは下にいますよね?」
「ええ。逃げるため…でしょ?一応置いといたわ。…ネリーには言わないでいいの?」
「……」
「あの子も危険かもしれないわよ。なんせあたし達みたいに『外様』なんですもの。危険な場所に追いやられていたっておかしくないわよ」
「そう…ですね。一応こっちに呼び寄せたほうがいいですか…」
「あの子は今日『ウエイトドラゴン』の方に行くって聞いたから行くならそっちね」
「…分かりました。ではここの指揮は任せますね」
「任しときなさい!あたしはあんたらを応援してるわよ」
「…微妙な気分になりますね…」
アルが壁に立てかけられた梯子から降りていくのを眺めながらサラは一昨日の夜の事を思い出していた。
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ギルドから少し離れた場所にある酒場。その中で…
「何か嫌な記憶思い出したんですけど。『トラベリア』の迷宮のような…」
「おい、次の作戦の説明に行くぞ」
「あっはい、すみません。…何だったんだろう…」
「あんたがよそ見って珍しいわね。何か気になった事でもあったの?」
「いえ、誰かに呼ばれたような気がして…ハクラウドさんすみません」
「うんにゃ。まぁ飯のついでの話し合いだからそこまで神経質にはやらねぇよ。まぁ…嫌な予感の方は俺も感じてるんだがな」
酒場でアルとサラは茶髪の筋骨隆々として金属鎧を着こんだ男性…『ヤマタノオロチ』のリーダー、ハクラウドと食事を共にしながら陣形や動き方などを教わっていた。
ハクラウドは一気に酒をあおると大きく息を吐いた。
「いやな予感ですか?」
「ああ。ふむ……お前さんたちは今回何で指揮官とか言う立場に据えられたか不思議に思わねぇか?」
「そりゃあ思うわよ。会合って言うから義勇軍決起集会とかの集まりかと思ったらいきなりトップレベルの会議よ?何なのよあれ」
「だろうな。お前らは俺らの事をどう認識している?Aランク冒険者パーティって事を除いた上でだ」
「うーん…やり手で熟練のパーティかしら?強さは分かんないけどずっと一緒に戦ってきて互いに信頼を置いているんだなと思うわね」
サラは自分たちの隣で酒を飲み交わしている『ヤマタノオロチ』の人たちを見た。彼らは槍や剣、杖などそれぞれが全く違った武器と共通した形の剣をそれぞれの傍らに置いてにぎやかに飲み食いをしていた。サラの視線の先を追ったアルも続けて口を開いた。
「そうですね。鎧など武具は定期的に更新するものですからいつから戦い続けてきたのか分かりません。ですが見た限り全てが希少な素材で構成されていたり作りがきちんとしていたりしてこれらが高価なものであるという事を示しています。共通の武器を持っているのは誰かの武器が折れた時に融通できるようにでしょう?長く組んでいる証なのではないですか?ですから僕もサラの言う通りずっと前からやって来たんだと思いますね」
「あぁ、その通りだ。かれこれ10年は一緒にいるか…「よっ老け顔リーダー、思い出話なんか始めたら更に爺さんになるぞ!」「だな。リーダーもそろそろ生え際に悩み始めてるしな!」…うるせぇよお前ら!てめぇらも作戦考えろよ!あと俺の生え際はまだ1センチしか下がってねぇ!主にお前らのせいだがな!
…すまん、見苦しいところを見せちまったか」
「いえ、僕らの故郷ではとても親しい人達を『気の置けない仲』と表現しますがまさしくそうですね。出会ったばかりの僕たちにはまだ無い物ですからうらやましいですね」
「はは、ほめ言葉をありがとよ。…まぁお前らの言う通り俺らはずっと長くこの国の王都でこのパーティで冒険者をやって来た。いまじゃあAランクにまで上り詰め…俺が言うのも何だが結構いろんなところで有名になったな。それに国の上の方にもそれなりに名が通っていて、良く指名依頼を受けたりするようにもなったし…今回の件に関して呼ばれたのが良い例か。だが、そう聞くとお前らは気にならねぇか?」
「何がです?」
「何で国の上層部にまで知られているような高ランク冒険者じゃなくてその一個下のBランク冒険者に全体の指揮を任せているのか…って事ね?」
「サラ嬢ちゃんの言う通りだ。確かに王都で指名されたときも防衛団の主力となってあふれ出て来るモンスターを殲滅してほしいと言われていたが…な。こう言っちゃなんだが流れ者で実力が明確に分からんBランクのお前らが全体指揮。Aランク、それも国の上の方でも名の知れた俺らが前線指揮…どうだおかしくないか?」
「確かにおかしいですね。ですが会議ではハクラウドさんが僕らに説明して来ませんでしたか?」
「まぁ確かに俺が説明した。だがな、ありゃあギルド…ていうか今回の本部、つまり領主共から一方的に通達されたもんを繰り返しただけだ。国の方…と言っても皇太子様の直属の騎士団、要は王室から来た第2騎士大隊の配置の方も一方的な通達だったらしいぞ。俺らと同様に前線、それも一番危険な北門だ」
「それは……。皇太子様からの援軍なんですよね?一方的に命令して大丈夫なんですか?」
「んなわけねーだろ。見ようによっちゃあ国への反逆ともとられかねない。ヤルディン…あの騎士団長と俺は知り合いでな。それで聞けたんだがここの連中から通達されたときあの補佐官シロンがものすごく怒り狂って連中を今にも切り捨てそうな勢いだったそうだ。他の部下たちも同様だったそうでな、なだめるのが大変だったそうだ」
「うわぁ……ヤルディンさんって豪快な感じで楽をしていそうだったけど裏では大変なのね」
「あぁ。今回の件が終わったら国…ていうか皇太子サマに報告を上げるって事で今は抑えたらしいがどのみちギルド長はギルド本部から…領主は国から良くても財産没収、悪けりゃ死刑にされるだろうよ」
「え、そんなに厳しいんですか?」
「そもそもこの町から騎士団派遣の依頼が来たんだよ。他の街から適当な騎士団を作って出そうとしたら皇太子直下の第2騎士団を激しく要請されて皇太子様や上層部がお情けで出したらしい。そんな経緯で来ているのに配置場所や指示系統の一方的な通達だ。不敬を通り越してもう別物だろ。それに肝心な指示権限をあいつらは持って居ないんだぜ?冒険者の俺らにも依頼中は依頼主…国の上層部からか騎士団長からの指示しか受けないルールになっているはずが命令しているしな」
「あらら…それならその処分も当然かしら。…でも初めて会ったあたし達にそんな裏事情を話していいの?」
「心配いらねぇよ。ほれあいつの指輪を見ろ」
ハクラウドが隣のテーブルでプチ宴会をしているパーティの魔法使いがしている指輪を指さす。アルとサラがそれを見るとうっすらと指輪から微小の緑色の粒がふわふわ漂って三人の周辺を包んでいた。
「ヤルディンから極秘裏に頼まれた依頼があったんだよ。『もし全体指揮官となった冒険者たちが信頼できそうならば今までの事情を詳しく話して注意を促してほしい。君たちのパーティなら密談している様子の隠ぺいなんて楽だろう?』だと。まぁ…報酬も何も提示されてねぇがお前らが判断をミスったら俺らもお陀仏だから極秘裏の情報漏えいを請け負ったって訳だ。周りからは酒を飲んでつまらんことを喋っているように見えるだろうよ」
「なるほど…」
「あいつからはこうも言われているな。『一応我らの敵はモンスターとなっているが今回の件は何もかもが不自然ゆえに戦場への指示に夢中になっていたら後ろから殺害されるという可能性すら存在している。』…要はここの奴らも敵として見とけって事だな。
『我らに回された配置場所が死の危険の高いところであったり社会的に殺されかねん場所であったりしているから敵とみなす必要性が無いとは言い切れん。いかに『ヤマタノオロチ』と言えども全体指揮官からの指示なしに的中突破は難しいだろう。その死すら背負い込まされたら…な。故にもし命の危険を感じたら役目を棄てて逃げることを推奨する。
その結果もしこの町が落ちたとしても国からは一切のお咎めも受けないようにしよう。元々不敬をやらかしているんだ、文句を言ってくる前にひねりつぶすことが出来るだろう。ハクラウド、もし離脱するなら彼らも連れて行ってやってほしい。巻き込まれただけのようだから出来る事ならむやみに死なせたくない、名誉を潰させたくない』ってな。一応手紙も貰ってる」
ハクラウドが懐から手紙を取り出してアル達に見せるとまたしまい込んだ。
「そういう事だ。無理だと思うかもしくは命の危険…要はこの町の人間から攻撃されたりだな。そういうのがあった場合はすぐに指揮を放棄して俺らに連絡をよこせ。ここから逃げなきゃならん。
お前らの事を慮ってのことだ。逃げたくないかもしれんがこれだけは守ってくれ。肉体的でも社会的でも構わん、もし死にそうな目にあったらすぐ俺らに呼びかけろ」
「なるほどね…もし危険が迫ったと判断出来たら『ヤマタノオロチ』全員に精霊魔法で連絡するわ」
「頼んだ。できれば俺らが撤退すらできなくなる前に連絡してほしい。…さて、面倒な話は終わりだ!改めて飲み直そうじゃねぇか」
「そうですね。実際僕たちの考えすぎという事もあり得ますから気楽に『後方注意』で行きましょうか」
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(今のところ何もなさそうだし…思い過ごしであってほしいわね。)
「またお願いね。今度はあそこの…笑いながら大剣を振るっている怖いおじさんよ。『ハクラウドさん、今見える群れで途切れるみたいです。一気に薙ぎ払って休憩に入ってください』」
ハクラウドは返事を返すかのように振り回していた大剣を一度止めて上空にかざすとそのまま振り下ろしながら2、3回転した。するとその斬撃や剣圧で押し寄せる多くのゴブリンが切り裂かれた上に上空に吹き飛ばされ…落下した衝撃で絶命したのか魔石へと変わった。
その衝撃波は戦場全体を襲い、そこかしこで体が小さく装備もろくなものじゃないゴブリンがその体重の軽さゆえに吹き飛ばされて落下ダメージを負い絶命した。冒険者たちはどうにか生き残ったゴブリンを囲んで倒し、中には気勢を上げる者が何人か出た。弱いゴブリンとはいえ大量に狩れば何人かがレベルアップできるほど経験値が溜まったらしい。
「――とはいえそんなに多くないみたいね。…まぁ最終的に集団でボコっていればそりゃ経験値も薄くなるでしょ。それにほとんどハクラウドさんが殺っちゃったし…薙ぎ払うと言っても前方だけを頼んだつもりだったんだけどなぁ…」
サラはそのまま北の方を見やる。と、向こうでもモンスターの群れが途切れたらしく叫び声や金属音がまばらになって来ていた。
「…正直嵐の前の静けさはやめてほしいわね…」
そして完全に無音になった戦場や町を眺めつつそうサラが呟いた。
サラの足元に落ちていた小さな軽石が風も吹いていないのに少しグラグラと揺れはじめ……壁の下へと転がり落ちていった。
ここまでです。
昨日この小説の題名を変えました。旧題『扉から異世界へ』から『迷子から始まった異世界冒険譚』です。
それに合わせてあらすじも変更を行いました。
素人作品ですが拙作をこれからもよろしくお願いします。




