32―異形のサイクロプス―
前半リョウ視点です。
そもそも「サイクロプス」と聞けば多くの人は顔の上部中央に一つ目がある単眼巨人を連想するのではないだろうか。FW―ファンタジーワールド―のサイクロプスもそうであったし今目の前に居るモンスターの本来の姿はそうだったのだろう。だけど…
「単眼の顔が4つまとまって全周囲の視野を確保してるとかそれもう『単眼=サイクロプス』じゃないと思います」
頭には1本の大きな角と2本のねじれた角を持ち、後頭部と言う部分が存在しておらず4つの顔がそれぞれ別の方向を向いている。手は6本あり、2本は無手―すなわち素手―、残りの四本で斧2本・剣・棍棒と近接武器を持ち足は2本。奇妙な形であることを抜けば巨大な筋肉マッチョのサイクロプスと俺らはやりあっていた。
「それは同意だが、文句言いながら逃げ回るんじゃなくて攻撃もしろ!」
「いやいや俺にどうしろと。こんなバリバリ近接タイプと接近戦なんて俺無理。一撃でも食らったら死ねる自信あるわ」
俺達は結局階段から出て戦闘を挑むことにした。挑発と攻撃、退避を繰り返しながら戦っていた。
「俺の『図書館』スキルを使うにしてももうちょっと距離の余裕持ちたいっ…!」
叫ぶと同時に振り下ろされて来た斧を4メートルぐらいの高さまで斜めに飛びながら避ける。元々レベルが上昇するに従って身体能力が上がるのは知っていたがここまで飛び上がれるようになるとは思っていなかった。そう内心思いながら俺が宙に浮かんでいると…
「危ないにゃ!リョウ、そっちに剣が行ったにゃ!」
ハルに向かって振るわれ、あっけなく逸らされた剣が俺の方に向かってきた。サイクロプスも俺が剣の軌道上に居ることに気づいたらしく剣速を弱めるどころか更に上げてきた。
…俺巻き込まれてない?
「いやいやいやそりゃないっしょ!…『蔵書領域解放 第一書庫から防御系魔導書全召喚』ぶっつけだけどうまく行ってくれ!」
そのまま地面に落下した俺は『図書館』スキルの発動を宣言し防御用の魔導書を複数呼び出した。
――ここでFW時代の『図書館』スキルの戦闘方法を詳しく言うと、まずメニュー画面から『図書館』スキルを選び、収蔵している『書庫』を選んでその中から召喚したい『魔導書』を選択する。召喚した魔導書をかざしその中に記述された魔法の名前を読み上げるだけで使うことが出来る。魔力の消費は本を召喚するために書庫を開放した時だけだ。
この魔導書の召喚に使う魔力は対象の本が分類されている『書庫』の難易度によって変動した。例えば『第一一般書庫』の解放なら魔力100、第二なら200…といった感じである。ゲーム内の魔法使いが最初に覚える魔法はほとんど魔力20程度で放て、初心者は種族により変動したとしても最低でも魔力100は持つ。
そして初級から中級の魔法の多くは第一か第二の一般書庫に収められていた。そこから考えると非常にコスパが悪いのだが…このスキルは育てば育つほど一度の書庫解放で出せる魔導書の数が増えた。つまり一番強力でコストのかかる書庫から魔導書を一度にたくさん出しても総合の魔力消費は変わらず相対的に一冊当たりの魔力消費が下がるのである。
詠唱無し、魔力の使用量も開放する書庫次第…そして多くの本をスキル内の図書館に収蔵したりスキルの使用回数を増やしたりすればそのコストも下がっていく。故にこのスキルは『大器晩成型かつえげつないスキル』と呼ばれた。
そしてリョウはモヒカン戦で無意識に『図書館』を使った時の事を参考に新しい戦い方を編み出していた。それがメニューを用いず言葉で操作する方法と―――
俺の周囲に数多くの魔導書が浮遊して現れる。それらを撫でてたった一言つぶやいてみた。
「『全開放』」
全ての魔導書が光り輝き様々な魔法を発現させた。ある本からは光の壁が現れ、またある本からは水の壁が現れ、またある本からは光の矢が多量に発射されて剣を迎撃する。
全ての魔法の効果が終了した時俺が立っていたところから少し離れた地面に剣先が埋まっていた。迎撃魔法で軌道をわずかながら逸らされ、多数の防壁魔法に受け止められて俺の所にまで攻撃が届かなかったようだ。
「―やっぱりか。FWではコール…いやAIが管理していたから出来なかったけど一度に書庫から出せる魔導書の数が大幅に違うし、手に持たなくても発動している…色々使いやすくなっている。…FWと同じだと思って魔力の浪費を惜しんで使ってこなかったのは失敗だったな…コールの奴そこらへんも俺に説明しろよ…」
――制限のあった召喚限度が大幅に変わった事、同時に扱う事が出来るという事であった――
俺はぼやきつつもサイクロプスの足元に駆け寄って燃え上がるハルバードを叩きつけたおっちゃんの所へと走っていった。
「おっちゃん大丈夫か?」
「一応はな。けどこいつどんだけ体力と耐久力があるんだよ!」
一緒にサイクロプスの脚の付近から離脱して遠ざかりながらおっちゃんが言い返してきた。まぁ正直俺も同じ気分だな…コールは役に立たないって事で送り返し、今はアインを飛ばして顔のあたりで牽制させている。
ハルとアインが弱点と思われる(てか目が弱点じゃない生き物はいないだろ)顔の付近で攻撃し、手や武器攻撃がハルたちに行かないように俺らがけん制しているんだが、いつまでたっても状況が好転していないんだよな…
「『猫咲流拳技・裏拳』にゃ!」
「グルォオオオオ!?」
ハルとサイクロプスの大声に驚いて武器から頭の方へ目線を動かすと、ハルが顔の1つを裏拳で潰しているのが見えた。
「…たかが小さい子の裏拳で仮にも巨人の域に入るサイクロプスの顔が陥没するって何それ…『猫咲流拳技』ってどんだけ強いん?」
こないだも空中での高速移動とかしてたし拳技の域超えてない?
「『小さい』って聞こえたにゃ!だまれにゃ!」
地獄耳だな!そういや猫耳だったな…んじゃ試してみるか?
「……まな板……」
「聞こえてるにゃ!リョウ後で殴るにゃ!」
「まるで『まな板の上の鯉』みたいだなって言ったんだよ!変な意図はねぇ!」
「むぅ……仕方ないから今回だけは見逃すにゃ!次は無いにゃ!」
あ、危ねぇ…
「リョウ…お前は…なんちゅう事を…」
「ま、まぁ俺もさっきちょっと戦い方の確認をしたからこれからガンガン行けるぜ!おっちゃん俺らも行くぞ!」
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リョウ達が戦い始めてから1時間経つか経たないかと言う頃、遂にハルが顔の3つを破壊…否、陥没させることに成功した。
一方ではリョウとローの攻撃によってサイクロプスの腕も無手の手2本と斧の手1本にまで減らしていた。
「うっし、もうそろそろか?」
「だな。死角からの攻撃で斧もぶった切ってハルへの援護とする。素手ならリーチが短い分足元の俺らに攻撃できなくなるだろうからな。お前は脚を攻撃して転ばせて来い。そうすりゃ後は腕の対処も楽になる」
「おっけ。おっちゃんは斧か。了解」
リョウ達が別れようと動いたその時サイクロプスが急に無手の二本を動かしてまるで食事前の「頂きます」をするかのような動きをしてきた。
『グオォ…グオオッグアァア…』
「あり?…何か嫌な予感する」
「…リョウ、ちっと防御系魔法発動してくれ。初見で突っ込むわけにもいかん」
「おけ。『蔵書領域解放』…ちょっと魔力不足が怖いから現時点の残存魔力を計算した上でやるわ。『第一禁書庫から《覇王の書》を召喚』」
リョウの目の前に金色の本が現れた。リョウは本に手を置くと―
「『《覇王の結界》起動』……禁書系は複数召喚できるのかどうか調べとけばよかったな…重複すると効果無しなんてことになりかねないし……」
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サイクロプスの手のひらが指先だけくっつけた状態で離れる。生まれたドーム状の空間の中に赤色の小さな光が生まれる。サイクロプスが唸るたびにその光の大きさがじわじわと大きくなる…
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「一番固いやつか?」
「うんにゃ。けど今のところ物理と魔法の両方でバランスよくガードできてそこそこ強い結界がこれだからなぁ…他のはピーキー過ぎてもし特性が予想と外れたら意味ないかんな。それにこれ以上ってなるともう禁書庫開なくなっちまう」
「そうか。まぁ一応俺らも防御姿勢は取るぞ」
リョウとローが話している間にも本から光があふれてリョウ達の周囲に球状の金色に光る結界を構築する。
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サイクロプスが合わせた手のひらの空間いっぱいに赤い光が満ちる。
ハルも攻撃を中止してロープをサイクロプスの首に回すことで素手の反対側の背中にぶら下がる。残っている斧を持った手はサイクロプスが光の制御に集中しているからかだらんとぶら下がってぴくりとも動いていない。
「何か危険な気がするにゃ…せめて大音響だけはしてほしくないにゃ」
ハルの猫耳がしゅんと倒れて音を聞こえないようにするかの如く頭に密着する。
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「…この金色の光は何とかならないのか?まぶしくて見えん」
「伝説の騎士皇帝サマが使ったって言う魔法だからそれなりに派手なんじゃないか?やっぱ透明だったり赤色だったりすると威厳無い…ん、やばいかも!」
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『グゥ…グァォオオオオオオオ!』
サイクロプスがその手から赤い光をリョウ達に向かって打ち出す。
球体だった光は矢の形に変化しリョウ達の張った結界へと徐々に加速して向かい……
――――ズドオオオォォォン!!!!!
大きな音を立てて爆発した。
突風が部屋の中を吹き荒れ、土ぼこりを舞い上げる。ハルがぶら下がっていたロープも爆発でちぎれたのか、ハルは土ぼこりの中へと吹き飛ばされた。
「にゃあああぁぁ!やっぱりかにゃぁぁ!?」
サイクロプスは爆風を受けても微動だにせず残った唯一の目でリョウ達の居た部分を見つめていた。土ぼこりが晴れた先には結界も何も見えず大きなクレーターがただ見えるだけだった。
今まで無表情だったサイクロプスの顔に安堵が浮かび、今度は先ほどまで自分の顔をしつこく狙っていた猫を捕まえようと向きを変えた。赤い光を放った両手は反動なのか焼けただれ、陥没していた顔の目の一つから赤い血がダラダラと流れていた。
「うにゃ…ひどい目に遭ったにゃ…」
ハルは地面に落ちて伸びていた。そこを狙うかのようにサイクロプスは残った一本の腕の持つ斧を構え、大きく振り上げると一気に振り下ろした。
「にゃ…?にゃあああ!?」
ハルの体は地面に叩き付けられた時の衝撃がまだ抜けておらず動けないところへの一撃。ハルは混乱して叫ぶしかできないところに斧が近づき――
――ガキン!!
金属音を立てて斧が跳ね上げられた。甲高い音が間近から聞こえ、自分に衝撃が来ないことに戸惑ったハルの目の焦点が合った時ハルの目の前にハルバードを振りぬいた態勢で固まったローが立っていた。
「『―蔵書領域解放、第一禁書庫から《氷王の書》を召喚』――『《氷結の波動》起動』…こいつならどうよ…?もうこっちも魔力の残りが無ぇよ…マジで四体のサイクロプスの状態で戦った方が楽だったかも」
ハルの後ろに立ったリョウの手元に蒼い本が現れ、ハルとロー以外の存在…すなわちサイクロプスへと青色の光線が飛ぶ。十分近づくと光線は扇状に裂け、更に裂けて…最終的には青い光の波のようになってサイクロプスを襲う。青色の波が過ぎ去ったサイクロプスはその全身が凍り付いていた。しかしその目は未だギラギラ赤く輝いていた。
そこへ向けて衝撃から立ち直ったハルが飛びあがり、サイクロプスの体の中心線、みぞおちの付近へと放物線を描いて近づきながら手を固く握り大きく引いた。
「さっきのは色々痛かったりうるさかったからからお返しにゃ!『猫咲流拳技・王虎・波動』」
ハルの放った拳がサイクロプスの全身を覆う氷にぶつかるとそこからひびが全身に入り…
――パリィィン
大小さまざまな氷の破片に分かれて砕け、同時に部屋の中央、先ほどの爆発で生まれたクレーターの斜面に赤色の魔法陣が生まれた。
「お、終わった…?魔法陣出てるし…。……うっしゃあぁぁ!やっと勝ったぜ!」
「やっとか…めちゃくちゃ疲れた…」
「良かったにゃ…あ、リョウ、さっき『小さい』って言った分殴るにゃ」
「え、それ無しなんじゃないの!?」
「それは『まな板』だけにゃ」
「マジかよ!?ラッキーだと思ってたのに」
「やっぱり確信持って言ってたにゃ!『まな板』の分も追加にゃ!」
「はいはいそっちは帰りにやってくれ…まだ色々残ってんだぞ」
「そういえばそうだな!行こうぜ!な!」
「むぅ…後で覚えとけにゃ」
いつの間にか氷の破片は無くなり地面に赤く透明な石が4つ転がっていた。リョウが鑑定すると…
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名前:魔石
ランク:Aランク
属性:火
・・・・・・・・・・・・・
名前:魔石
ランク:Sランク
属性:爆破
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「爆破…って何にゃ?」
「おそらく最後の魔法だな。火が3つに爆破が1つ…素手も1つだけだったしな。にしても爆破属性なんて聞いた事ねぇな…」
「俺もないな。火・水・風・土・光・闇が基本属性だろ?って事はFWじゃまだ見つかってなかった属性なんじゃね?コールの言ってた事が合ってれば…ここと向こうは似ている世界なんだろ」
「ふむ…まぁひとまずこれで外に出れるようになったんだから早いとこ行くぞ」
「分かったにゃ」
リョウ達がクレーターの斜面にできた魔法陣に乗ると魔法陣が発光を始め…
次の瞬間リョウ達は迷宮の入口に立っていた。
「おおー…お?」
「何にゃ?」
「どうなってんだ?」
リョウ達の周囲には多くの冒険者がおり、その全員が剣や弓などをリョウ達に向けて来ていた。
ここまでです。
リョウ達が迷宮に入っていた間に何が起きたんでしょうね…?
次話からはアル達です。




