30―異界の理―
お、終わりました…
キリのいいところまで書き続けました。今までで最長です。
リョウ達一行は洞窟の中をさまよっていた。落とし穴は意外とすぐに終わったのだが、落ちた先が迷宮なのか洞窟なのか良く分からない場所であった。天井や地面から鍾乳石と思われる石の柱がそこかしこに生えている空間だった。鍾乳石と断定していないのは天井や地面と一体化している物を鑑定しようにも対象が広すぎて『鑑定不能』と出るし、折ったら折ったで『石』と出て断定できなかったのだ。
彼らは昨日―落ちた時に全員気を失ったためにどれほど時間が経ったのか分からなかった―サンズから買った『魔力を流せば透明なガラスの球体の内部に炎を発生させる魔法具』を使って辺りを警戒しながら進んでいた。遠くから見えてしまうが、奇襲を食らうよりは良いとおよそ20メートルの範囲を見渡せるぐらいの強さの炎にしていた。
「ここはどこなんだ…そしてどっから出て行きゃあいいんだ」
「ごめんなさいにゃ…ぴとっと液体が靴の中に入って張り付いてきて気持ち悪かったのにゃ…」
「まぁまぁ、済んだことは仕方ねぇさ!…それはさておきここの構造が訳分かんねぇ…水滴の落ちる音が聞こえる方に行こうと思ってもこいつのせいか反響して聞こえるんだよなぁ…」
リョウが鍾乳石に手を当てた。鍾乳石のみならず地面も表面がしっとりと湿っており、水がどこからかこの周辺に流れ込んでいることを示していた。だが、リョウの言う通り洞窟内の空間はかなり広いらしく、色々なところから水滴の落ちる音が反響して聞こえていた。
様々なところから聞こえてくるため、彼らの方向感覚もかなり惑わされていた。
「むっ…!マスター、ここの石も折りました。進んでも問題ないかと」
惑わされていたことに気づいたコールから言われた後彼らは魔法具の光が届く範囲に見える鍾乳石の先端を折り取ることで道しるべにしていた。鍾乳石が元の大きさに戻るのに数百年は時間が掛かるだろうことは容易に想像ついたが、割り切って折っていく事にしていた。
彼らがどことも知れない洞窟の中を数時間さまよっていると彼らの視界に今まで一度も見れなかった壁が見えてきた。すぐに近寄りたかったが、彼らの立っているところから壁のすぐそばの地面の間にはどれほど深いのか分からない地下水の川が流れていた。
地下の鍾乳洞を流れる地下水を見たことがあるだろうか?長い年月をかけ、地上の土を通って地下数百メートル、場合によっては数キロの所にに存在する鍾乳洞までしたたり落ちてきた水は非常に透明度が高い。更に言えば普通は蝙蝠やその他の動物がいるものだがリョウ達の落ちたところには一切の生命活動が無く、その透明度は非常に高かった。
その水をもってしても川底が見えない深さ…さすがにハルも気楽に『川を泳いで渡ろう』などと言い出せなかった。地下水は非常に冷たく、緩やかとはいえ多少の流れもあり、無事に壁の見える向こう岸まで泳いで渡れるとは言い切れなかった。
「うーん、こりゃあ厳しいなぁ…つかめっちゃ冷たいなこの水。試しに飲んで毒は無いと分かってるけど…この中泳ぐのは勘弁したいな。風邪を引いちまう」
「その前に冷たすぎて使っただけで気を失いかねんな。確か人間が急に冷たい水の中に入ると体に悪影響が出てショック死するってのを何かの雑誌で見たぞ。ドワーフになったとはいえ勘弁したいな…」
「マスターの『図書館』で検索させていただきました。多くの場合で冷たい水の中の活動は危険なようです。竜人や竜にどれほどの影響があるのか分かりませんでしたが少なくともドワーフや獣人にはよろしくないようです」
コールが一度目をつむるとすぐに開いて報告した。リョウは思った。
―――獣人やドワーフがダメだって言うんならスキルから生まれたコールに運んでもらえばよくねぇ?こいつ多分死なないだろ
しかしそんなリョウを見透かしたかのようにコールがリョウの目を見つめながら言った。
「私はスキルに付属しているので死なないと思われます。…ですが一般的な作業は問題無くともこれ程低い水温で泳ぐとなるとどれほど耐えられるか分かりませんので。竜人たるマスターが紐を持って向こう岸まで渡られてはいかがかと。
体に紐を括り付けて泳げば溺れたり流される心配はいらないでしょうし、ハル様方が渡られる際には向こう側でマスターが私を再び呼び出していただければ二人がかりで一気に引き寄せられるでしょう」
「そいつは良い案だな。リョウ頼んだ」
「これぐらいの長さの紐ならたぶん何とかなるにゃ」
コールの提案を受けてすぐさま動く二人。無理して泳がないで済むと安心したのかどことなく雰囲気が嬉しそうである。
「おい…おっちゃん…ハル…ひでぇ…」
しばらくした後リョウ達一行はリョウの尊い犠牲のおかげで壁にたどり着き、空洞があるかどうか耳をつけて探っていた。後方の川岸ではリョウが薪にあたりながら必死に暖を取っていた。
「よ、予想以上に冷たかった…何なのあれもうちょいで手足が凍傷になるところだった。いつかあいつらにも味あわせてやる」
「いえマスター、竜人はそうそう簡単に凍傷にはならないかと。それに渡ってからすぐに焚き火で暖めて差し上げたではありませんか。それにハル様方もあれはあれで渡るのに結構力が必要ですよ」
「鍾乳石の間に紐を張ってモノレールみたいにぶら下がって来るとか俺に比べればすごく楽じゃねぇか……こちとらあまりの冷たさに全身の筋肉が釣りかけたんだぞ」
「まぁまぁ…」
「…やっぱここらへんだけか?」
「そのようにゃ。他のところは全然響いてこないけどこのあたりだけはわずかに響くような音が聞こえて来るにゃ。かなり遠いと思うけど掘り進めば別の空間にたどり着くと思うにゃ」
「お、おっちゃん…何か見つかった?こんだけ頑張って何もないとかだったら俺は泣くぜ?」
「ここら辺の壁は…果たして壁と言っていいのか分からんが、とにかくかなりの厚さがありそうだ。ほとんどの場所で反響…と言うか手ごたえがねぇ。だが、ハルが言うにはこの辺りだけちょっと音が違って聞こえるそうだ。ここらをしばらくは掘ってみるからリョウは休んでろ」
「あいあい。穴掘りや重作業が専門のドワーフに任せますよっと…っくしゅん!…あー俺はここで暖まらせてもらうぜ」
「失礼ながらお聞きしたいのですが、ロー様は岩を掘る材料とかは持っていらっしゃるのでしょうか…?専門外の私には分かりませんが何やらただのピッケルには不可能そうに見えるのですが…」
「あー…それな。この壁を見るまで微妙過ぎて気付かなかったが…ここの地下水や折って来た鍾乳石に少し魔力が存在してた。ちっと硬かったのはそのせいだな。実際この壁にもそれ以上の魔力が染み込んでいやがるからかなりの硬さだろうな」
「じゃあ無理なのにゃ?」
「いや、今までリョウ以外には言ったことなかったが、俺ぁミスリルで出来たピッケルを持っていてな。魔力を通したミスリルはそんじょそこらの金属にゃ負けねぇ固さを誇るぜ。…これ一本しかねぇから折れたらどうしようもないが。とりあえずやってみっか…おお、これ結構固いな……俺と壁の根比べと行くか?」
「男の思考回路って分からないにゃ…壁と勝負してどうするのにゃ」
「よし…お前らいいな?俺が打ちこんだら多分一気に開けると思う。そしたら飛び込んで位置や敵の確認だ」
「おけー」
「分かったにゃ」
「現状では戦闘に役立てませんが警戒の目の一つになりましょう」
ローの頑張りもあって彼らは壁の向こうの空間までもう少しの距離まで掘り進んでいた。ローが最後の一撃とばかりにピッケルを打ち込み、一気に壁が崩れるとリョウ達が飛び込み、未だ土煙が舞う空気をどうにか見通そうと目を凝らして見つめた先にあったのは…
黒色の水で満たされた池であった。周辺には若草色の草花が池を中心にして広がり、リョウ達から幾分離れたところには人工物の上に続く階段が見えた。池の中央には小さな陸地があり、祭壇らしきものが見えたが…そこには
―ドクンッ―――ドクンッ―ドクンッ――
不規則に瞬く黒色の靄に周囲を囲まれつつも緑色に煌めく綺麗なガラスのような材質の球が存在していた。
「え…何なのにゃあれ」
「あれは色が違うけどこないだのダンジョン…いや迷宮か、で見た核に似ているな」
「てかあの黒い霧…ていうか煙?は何なんだ?この水も何かさっきまでの水と違うし…」
リョウが池に近寄り黒色の水に触ろうとするが…
「だめですっ!」
コールに引き戻された。リョウ達は今まで聞いた事の無かった執事コールの慌てた声に驚いて振り向くとその顔は怒りとも驚きとも判断できない表情に染まっていた。
「おい…?どうした?何か知っているのか?何でそこまで切羽詰まった表情をしているんだ?」
コールにリョウが尋ねる。一息つきその顔を落ち着かせ、普通の顔に戻ったコールはリョウ達を出来るだけ池から遠ざけるようにすると全員を座らせてから口を開いた。
「ふぅ…マスター、申し訳ありません。…まずここは例の迷宮の最後の階で合っていると思います。…煙と黒い水についてですが…恐らくあれは異なるものです。触れば良くない影響が…それも看過できないレベルで現れるでしょう」
「異なるもの?そりゃあここの雰囲気にあれはそぐわないものだから一目で別物だってわかるけどよ…」
ローがコールの言葉の意味をとらえきれず首をかしげる。
「あぁ、言葉が足りませんでしたね…そのままの意味です。あれは元々この世界に存在するものではありません。文字通りこの世界とは『異なるもの』です。存在自体がこの世界の法則に則っていません。そうですね…分かりやすく言えば未知のコンピューターウイルスでしょうか。どこから来たのか分からず、またどのような法則で出来ているのかもわからない」
「この世界に存在しないもの…にゃ?なら何であそこにあるのにゃ?」
「うーん…まずマスターにも自らの位置を知っていただかなくてはなりませんね…マスターやロー様方の使うそのスキルや称号は何を用いて発現していると思いますか?」
「そりゃあ…魔力だろ?ステータスのMPが使うたびに幾らか消費してるし」
「そうですね。今は魔力をもとにしています。ですが、それは皆様の中に『魔石』が新しく生まれたからです。この世界の方々は大小の差はあれど必ず体内に魔石を宿しています。それはここで生活するにつれて魔力が体内に溜まり、魔石として変化するからです。そして生まれた魔石は魔力タンクとして機能する…皆様もそうです。
ですが実は小さな空間を生み出す空間魔法ですらこの世界はかなりの魔力を消費します。そんな世界でただのプレイヤーが持つ魔力だけで図書館のような巨大な空間―実はあれも異空間なのです―それを生み出せると思いますか?」
「言われてみれば物をしまう時『空間魔法』って言うだけで皆かなり驚いていたにゃ」
「ええ。マスターに名づけられてから私も多少この世界の事を調べさせていただいておりました。結果として分かったのは…私たちの用いるものとこの世界には差異が存在します」
「さ、差異?」
訳が分からずリョウが混乱するが、それはロー達も同様だった。
「ええ。皆様の居たゲームの能力は皆様の体内に存在する魔石に転写…と言うより魔石が生成された段階で組み込まれております。故にゲーム時代の能力を意識せず使えるのです。…実際のところ魔石なしではもうこの世界の能力は使えないと思います。
以前マスターから伺いましたが、竜が死に急激に魔力が増加した草原に多少の間滞在していたのは賢明な判断であったと思います。そのおかげですぐに魔力が体内に満ちあふれゲームの能力が消える前に生成された魔石に組み込まれたようです」
リョウ達が驚愕に声を失っている間にもコールの説明は続く。
「ゲームとこの世界で用いる魔法やレベルの仕組みがほぼ同じだという事も判明しております。使用している考え方や根本的な仕組みは皆様のやっていらしたゲームと同じでしょう。これに関しては私が様々な方にこっそり触れて調べさせていただいた為言い切れます。
…ですが、問題は皆様の用いる魔法や力が魔石の中に組み込まれた『スキル』を通して発動しているところにあります。もはやスキルと言うより『特殊能力』と言うべきレベルに昇格したそれらは確かに皆様の魔力を多少使用しますが、この世界の理とは別の理に従って行われているため言葉が同じであっても圧倒的に魔力効率が違います。そうですね…300…いや400年以上時代の違う情報機器のような差とでも言いましょうか」
「おい…情報技術で300年とか400年って言ったらそりゃあもう別物だぞ?使いやすさどころか次元が違う」
現代のコンピュータ…すなわち電子計算機に二進法が使われているのは知っているだろうか?0と1の並びで数を表す仕組みである。かなり昔から計算機は開発されてきたが人類初の二進法を用いたコンピュータは1942年に開発された『ABC』と呼ばれる計算機である。
現在のコンピュータはその全てがABCから流れをくむパソコンと言っても良いかもしれない。全て2進法で構成されているからだ。…ABC計算機はおよそ1.6キロにもわたる電線を用いていた。それがたった50年から60年ほど経った時には手で持ち運べるサイズになり…更に数十年経ったリョウ達の時代にはパソコンと言う言葉すら変わり、脳波を読み取ることで全ての感覚をコンピュータ内に生み出した仮想空間に持っていけるようになっていた。
つまり情報技術の発達と言うものは非常に速い。それが300年400年経ったらシステム自体の基板が別物になり、その効率もけた違いになっているだろう。
コールが言いたいのはそういう事だ。リョウ達の用いるゲームの力…そのもとになっている魔力も考え方もこの世界と変わらない。だがその運用形態が異質なのだ。
ゲームの世界では様々な法則を無視して好きなように設定することが出来た。故に…
さほど魔力を用いないで巨大な異空間を生み出したり、ただの突撃で頑丈なはずの迷宮の壁を打ち破ったり、金属並みに固い大量の角がスキルを使えば細剣をそうさほど曲げることなく斬り飛ばせたり、精霊に呼びかけて大きな竜を捕獲することのできる泥の拘束を生み出したり、無意識に半分発動しただけの称号が巨大なハンマーを容易に扱わせあまつさえ投げただけで固い竜の脚を貫いたり…
そんなこともゲームの世界では普通なのだ。それはゲームの世界の『理』として成立している。だがそれが現実世界に存在したらどうなるか?言うまでもなく異常な力となる。
リョウ達はそんな異常な力をその身に刻み込んでおり、実際に使えるようになっているのだ。
「ええ。恐らくマスターや皆様の種族も外見は同様ですがこの世界とは別の『理』に従っている可能性があります。つまりマスターや皆様は今でこそこの世界に同化していますが元々はこの世界とは別の理の存在なのです。運よくゲームの『理』という理論ごとこの世界に組み込まれたため使用できているにすぎません。
ですがあれは…あの靄は何の理にも属していません。あやふやであった私だからこそ分かります。あの靄は…あらゆる『理』に従っていません。恐らくは世界の狭間…そのようなところから生まれたものでしょう。理に従わないものは混乱をもたらします。本来あの池はあんな色ではなかったはずです。ですがあの靄の影響を受け汚されて理から外れてしまっています」
「じゃ、じゃああの核はどうなっているのにゃ?未だ緑色のままにゃ」
「迷宮核はこの世界の魔力が集結して生まれたものです。それは世界の仕組みの一つですからそうそう容易に汚されないでしょう。ですが少なくない影響は受けているはずです。
マスターから焚き火にあたっている時に聞きましたがいくつかの迷宮が同時に迷宮決壊しようとしているとの事でした。この世界と皆様のゲームの世界の『理』は根本的なところは同一です。それから考えるならそんなことは本来あり得ません。
そして更にあり得ない事が色々と起きたとも。ここでは本来1体のサイクロプスが4体でチームを組んでいるとか。恐らくはこの靄が原因かと思われます」
「てことはこれをどうにかすれば良いわけか?…手段は?」
「…そのためにはマスターの力が必要になります」
「俺か?…これをどうにかすれば迷宮決壊は無くなるのか?」
「確実に止まると思われます。迷宮決壊が起きる時は核自体が崩壊を起こしますが現状傷さえ見られないので猶予はあります。もしこの靄が迷宮決壊を引き起こしているのなら靄をどうにかした上で回収なり破壊なりすればよろしいかと」
「…ふむ、実際の所リョウはどうするんだ?」
「あれは理から外れたものです。故に消滅させる手段は不明です。ですがマスターの『図書館』ならばあれの消滅は不可能ですが封印はできます。…いくつか段階を飛ばしますが『最終の書庫』を起動してください。マスターがレベル100を超えたことで私の補助が要りますが開けるようになった書庫です。最大レベルの封印書庫、そこにこの…」
コールが懐から全てのページや表紙が白く分厚くいかつい本を取り出した。
「『最終の書庫』専用のこの書はあらゆるものを本の形態に強制的に変化させ封印します。封印専用の書ですからあの靄さえも封じれるでしょう。その上で最も強力な封印の施される『最終の書庫』に収蔵すれば問題ないかと思われます。世界の『理』に干渉できるものを封じるのですからそれぐらいやらなければ…」
話している間に白い書はコールの手の中からうっすらと透けて消えていった。
「はぁ…やはり仮顕現ですら無理ですか…マスターが直接『最終の書庫』を開けてください」
「分かった…けどどうやればいいん?」
リョウは覚悟を決めて立ち上がった。
「さすがは私のマスターであり『図書館の主』です。…しばしお待ちください。まず図書館側で『最終の書庫』を開きに行ってまいります。その後マスターが現実世界と『最終の書庫』を繋げて頂ければ。ロー様方はマスターが倒れそうになったら支えてください」
「え、それどうい」
リョウが焦って聞く前にコールは光の粒になって消えた。
「……やべぇまたなんかすっごく大変な役目引き受けた気がする」
「まぁ…その、なんだお前にしかできない事っぽいから頼んだ」
「その通りにゃ。…あれは世界の狭間とか言ってたにゃ?もしもあれを調べられたら世界を越えるやり方が見つかるかもしれないにゃ」
『ハル様の言う通りかなり時間が掛かるでしょうが恐らく見つかると思います』
三人の頭の中にコールの声が聞こえ、三人は非常に驚いた。
「…心臓に悪いにゃ」
「だが手がかりが掴めたかもしれんな。終わったら他の迷宮にも行くぞ。もしそこにもあったなら封印すればより手がかりが増える」
「了解っと…何かいろいろ大変だなぁ…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『…恐らく見つかると思います』
さて…マスターにああはいったものの実際問題この『最終の書庫』を開くのとても大変ですね…」
リョウの図書館の内部にコールは立っていた。そこは以前にリョウがモヒカン男を追い詰めた門…すなわち禁書庫の門の前だった。
だが、そのどこにも鍵穴が見つからない。どのようにしてこの先に進むというのか?
「まず第一禁書庫…通常書庫は簡単に移動できるのに禁書庫はそうそう簡単に移動できないとか面倒ですね。『最終の書庫』まで複雑な順番で各書庫を通っていかなければならないと言いうのが…」
コールは腰にある様々な大きさの鍵を束ねた鍵束に手をやって取り外し、その中から一本の鍵を抜き出し門にかざした。
――――何者――――
「マスターより管理権限を委譲されているコールです。マスターの承諾の元『最終の書庫』へと」
――――解錠権限確認、解錠――――
門からわずかに離れたところ、コールがカギをかざしたところから空間に波紋が走り…
―――パリィィン―――
割れるような音が立ったかと思うと門が静かに開いた。
コールはためらいもなく足を中に踏み入れると周囲を見回した。第一書庫の周囲にはまたいくつかの門が見え、そのうちの一つに歩んでいった。
「さて、ようやく最後の門ですか…」
コールは今白く巨大な門の前に居た。コールの背後はただの広場であり、最後の禁書庫の本棚すらかなりはなれたところに存在していた。
コールの目の前の門はそれまでの門とは違って門の反対側が見通せるような細い柱で組まれたものではなかった。すべてが真っ白に光り輝く巨大な金属であり、驚くべきことにそれは高さ6、7メートルにも及んでいた。門と言うよりも巨大な両開きの扉と言う方が似合っていた。その表面は様々な装飾が施されており、描かれた絵や刻まれた言葉の端々からそれらの一つ一つが持つ強大な力が伺えた。
「ここまで来れましたか…ここだけは私の管轄ではありませんからマスターの許可が要りますね。『最終の門よ、どうか館長代理人に答えたまえ』」
――――――管理権限所有者代理か…何の用だ――――――
『館長の依頼に応じこの先の書庫に。疑うならば館長に問われたし』
――――――ここまでの禁書庫全ての鍵を預かるか…かなり信用されているようだな――――――
『ええ。時間がない、急がれたし』
――――――焦る必要は無い、ここまで来れたのならば既に基準100は超えたのであろう――――――
――――――『図書館所有者、最終封印の門解錠依頼受諾。認証の有無確認』――――――
「認証する」
――――――受諾――――――
コールの目の前の扉が大きな振動を立てながら開いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何かだんだん一気に魔力が減っていってる」
コールが消えた後リョウは緩やかに魔力が減少する事態に遭遇していた。ロー達から魔力回復薬を受け取って飲みつつステータス画面を眺めていた。画面上で『MP』と表された魔力の数値は緩やかにその減少量を増やしていた。
それに伴いリョウから少しずつ重圧が漏れ、ローとハルを圧迫していた。彼らから離れたところにある池の黒水の水面も少しずつ波打ち始めた。
「それはそれで危険なんだけどよ…お前のスキルやばくないか?だんだん威圧の強さが上がってきているんだが」
「ま、まぁ…死にはしないんじゃない?結構疲れてきた…」
「多分急に魔力が抜けていっているからだと思うにゃ」
「一体何やってんだよコール…ってやべぇ、急に消費量上がった!?」
「これも飲め!今何割だ!?」
「んぐっ…ぷはぁ、残り4割…あかんそろそろ3割?」
「やばいな…」
「お?止まった?」
その時リョウの脳内に機械的な声が聞こえた。
「え?」
「どうかしたにゃ?」
「魔力の減少が止まった…んで『図書館所有者、最終封印の門解錠依頼受諾。認証の有無確認』って声が聞こえて来て…」
「なら認証しとけ。ようやく終わるって事だろ」
「おっけ『認証する』っとお!?」
リョウの背後の空間に人ひとり通れる大きさの白い扉が生まれ、少しずつ開いた。開いた隙間からあふれ出て来る威圧感はそれまでの比ではなくローとハルは立てなくなってしまった。そんな中でも強く頷いたローを見てリョウは覚悟を決めてその扉をくぐった―――
ここまでです。初めての一万字です。
今回書いていたら予想以上に続いて遅れました。
こんなに長くなるとか考えてなかった( ゜Д゜)
10/9 ロン→サンズに訂正




