29―魔眼って福利厚生になったっけ?―
「迷宮まで連れて行ってくれるのは助かったにゃ。正直どう行けば良いのかか分からなかったにゃ」
アル達とギルドの前で別れたリョウ・ロー・ハルの3人はギルド職員の男性の案内を受けて元サイクロプスが立ちふさがったという迷宮へと向かっていた。
実は当初リョウ達も会議に参加するつもりであった。だが防衛の話し合いに参加しても意味がないという事で一路迷宮へと進むことにしたのであるが…
「いやはや、皆さんが運よく馬を持っていて助かりました。前代未聞の事態のせいで色々と移動手段が町の外へ行ってしまうとはギルドとしても想定していなかったんですよね…。まぁ…今は数も少なくなって希少種指定された疾風馬だとは思いませんでしたが」
迷宮監視や囮部隊へ物資を補給するための移動手段を求めていたギルド側から頼まれてマツとサクラを貸し出し、案内代わりに便乗させてもらっている最中であった。
「一応種族の名前は知ってたんにゃけど…珍しいのにゃ?」
「ええ。意外と専門家の間でもあまり知られていない種族なんですけど……皆さんは鑑定能力を持っているんですか?」
「能力?あースキルの事なら俺やおっちゃんが持ってるぞ」
「それでですか。いえ、名前を知っているだけでその詳細や価値を知らないというのは奇妙だったので。皆さんはそういった系の義眼や魔眼を持っているわけではなく鑑定能力の方ですか…」
「魔眼って何なんだ?」
リョウやハルが御者をしている男性に荷物のぎっしり詰まった荷台から身を乗り出すようにして聞いた。
「おおっ!?いきなり脅かさないでくれますか…皆さんは『能力』として持っているようですがギルドでそういった義眼・魔眼を職員に貸与もしくは付与しています。得た情報の守秘義務があるので厳しく検査されていますね…様々な物品を見れる義眼で冒険者が持ってきた魔石とか肉を鑑定しますから結構重要なんですよ。
特に皆さんのような義眼・魔眼を使わずに能力で鑑定出来る人はより詳細に視ることが出来ますし。これから皆さんが行かれるような迷宮内のモンスターのレベルや強さを判定する効果の義眼を持っている人もいますね。結局のところ千差万別ですよ」
リョウは実際に男性の目を覗いてみたがその目が微妙に淡く光っているのを見て少し驚いた。
「あれ、初めて見ましたか?まぁギルド職員の全てがそうなっている訳じゃありませんし知らないのも当然かもしれませんね。ですが受付の人たちは物品鑑定系の道具の他にそういった目を持っていることが多いですよ。今度注意して見てみたらどうですか?」
「義眼…は何となく分かった。だが魔眼と言うのはどういうことだ?移植手術か?」
今までさほど興味が無かったのか聞き流していたローが話の中に入って来た。
「誓約魔法で目に魔法をかけるんですよ。見えなくなっていても眼球自体が残っていれば可能ですね。誓約については…ニュアンス的には絶対に知り得た情報を漏らさないという内容だったり、中には仕事では絶対に公正…という内容だったりしますね。自分の場合は片目とかそういった事情じゃないので魔眼の付与を受けています」
「誓約…か。何か重たいな」
「目が見えない人が職員になって義眼とか貰っていたりするのかにゃ?」
「実際その通りですよ。ある意味世界規模の福利厚生ですね。ただ強力な誓約をして本来は持っていない義眼や魔眼を得るのでそれなりに負荷がかかりますし何より誓約を破った時に受ける罰が重いですから覚悟が要ります」
「盲に対する福利厚生で魔眼とか…ついでに仕事場付きとか何なんだその好待遇…」
「もし今うちが貰おうと思ったら…」
「最低でもギルドの職員にならなきゃ無理ですね。…それはさておき今回の迷宮決壊対策の攻略チームに自分もモンスターの強さ測定で加わりました。が…正直強すぎます。無理そうなら引いてください。そして後方からの攻撃に専念していただければありがたいんですけど」
「まぁ…俺らも腕にはそれなりに自信があるから大丈夫だと思うぜ。…あとマツ達は迷宮の入り口かその近くに放し飼いにしてくれれば助かるぜ」
「分かりました。皆さんは貴重なBランクですから無駄に死なないでください。こちらの防衛戦力が足りなくなります」
男性が心配そうな顔をしてその不思議な色の目でリョウやハルを見つめた。その目にはありありと恐怖の色が浮かんでおり、どれほど強かったのか自信満々に言い放ったリョウを不安げにさせた。
また、彼らが受付で迷宮について聞いた際にモンスターのレベルをギルドが大まかながら把握していた理由も同時に知った。リョウ達も迷宮内部や以前の黒竜戦の時に弱点を探ろうと出会ったモンスターや黒竜の体を鑑定していた。しかし結果は全てUNKNOWN…
彼らの心にはいくばくかの不安が渦巻いていた。―スキルの鑑定能力が使用できる限界が来てしまったのだろうか―もしかしたら最悪ゲーム内のシステムは一切使えなくなってしまうのか―いつかこのレベルやスキルが初期化して使えなくなる日が来るのか―
しかし『鑑定』スキルの対象が限定されて様々な種類にわたるという事を聞いた彼らの心には『FWの鑑定スキルの対象は動植物や物体だけだったためモンスターについて判定できなかったのではないか』という仮説が心の奥深くに浮かび上がり、彼らの心を安心させた。
が、そう楽観出来る事でもない…むしろ悪くなったのではないかと三人の中でただ一人ローは考えていた
「(ギルド職員の話を聞く限り鑑定のスキル…こっちでは能力か?には対象が分かれていることがあるらしい…よく考えてみりゃ鑑定できなかったのはモンスターだけじゃねぇ。人だって鑑定できなかったじゃねぇか…。FWではプレイヤー名や迷宮のモンスターの上部には名前と体力が浮かんでいた。鑑定なんていらなかったしなぁ…
だが能力にも種類があるとすればそれは俺らの持つスキルがどこまで十全に力を発揮するのか分からなくなったのと同じだ。
例で言やぁハルやリョウの『地図作成術』か。向こうではオートでメニューのタブに地図が作られていたらしいがこっちに来たらオート機能は無くなり、手で正確に書けると言っても一度通った所しか書けなくなった。
これが戦闘系…特に魔法・アルやハルのような接近戦のスキルに影響したら…命に関わりかねないが、今のところは言い出せねぇな。不安になってパフォーマンスが落ちちまったらそれこそ死にかねない…)」
「そろそろ着きます。荷卸しの手伝いはいいですよ。見張りも交代制なので何人か暇人が居るでしょうし…そもそも切羽詰まっている状態です。皆さんは一刻も早く潜ってください。許可については最初に中央にある迷宮に行くので問題ありません」
リョウ達の馬車は木で作られたと思われる柵の合間を縫って中央部へと進んで行った。柵の多く…ほとんど全てが何らかの形で中央へと切っ先や組み合わせた杭の先端などを向けていた。
迷宮が決壊した時に出来るだけモンスターの足止めをするために迷宮に向けて突起や凶器が出ているのだろう。
「へぇ、完全に戦争態勢みたいな雰囲気だなあ」
「小僧、間違っても戦争なんて物騒なこと簡単に言うんじゃねぇよ。こちとら何十年も平和を謳った国に住んでたんだ…そうそう聞きたい単語じゃないな」
ローが地球で身についた戦争への嫌悪感を露わにすると、それに反応したのか男性が言った。
「戦争ですか…近々あるかもしれませんよ。どうにもきな臭いことになっていますし…」
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しばらくした後リョウ・ロー・ハルの3人は無数の柵の中央部ににぽっかりと空いた空間、そこに所在なさげな雰囲気で大きな石を2本の石柱の間に渡した太古の鳥居…とでも言うべき建造物が立っていた。
こういった時のお約束と鳥居の裏にも回ってみたが裏からはただの石に囲まれた空間であり、その奥には表側に張り巡らされた大量の柵が見え、肝心の表側からは黒々とした闇…とでも表現すべき空間が見えた。門の裏の柵は一切見通せなかった。
「うちらより前にこの迷宮を攻略しようとした…さっきの御者さんが臨時で入っていたパーティは地図の作成が方向音痴なせいで出来なかったみたいにゃ。手探りの攻略となるにゃが…出来るだけ早く帰ってくることにするのにゃ!いいにゃ?」
ハルが他の二人を見まわし、頷いたのを見て取るとリョウ達が止める間もなく一気に闇の中へと飛び込んでいった。そしてすぐにやけに響くような声で悲鳴が聞こえてきた。リョウとローは互いの顔を見合わせると正体不明の危機からハルを救うべく飛び込み…すぐさま悲鳴を上げる羽目になった。
「ぬうぉおおおお!?」
「なんだこいつら…スライムか!?って言うかハルはどこだよ!?」
リョウ達が飛び込んだ先には以前入った『トラベリア』の迷宮と同じような石造りの通路であり…足元には大量のスライムが存在していた。
「ちっ…!すぐに死ぬくせにうっとうしい…!」
「口調乱れてるぞおっちゃん!?あそこの壁に穴が開いてる!ハルの声も少し聞こえるし…多分ハルがあそこに穴をあけたんだろ。迷宮は不壊だからもし壊れても修復するから塞がらない今のうちに行くぞ!」
リョウは言葉を言い切らないうちに穴へと突進し飛び込んだ。ローも慌ててその後を追い、スライムの居ない壁の向こう側の部屋へと移動できたかと思ったが……飛び込んだ先には地面が無かった。
彼らは落下していた。
「何でこうなるんだ!?ハル、ふざけるなぁぁ!」
彼らの足元、暗闇の中からくぐもったハルの声が聞こえてきた。
「うちも分からないにゃぁあああ!…足がぬるっとしたから思いっきり突進しただけにゃぁあぁぁ!」
「自分で落とし穴に突っ込んでんじゃねぇよ!……いや『作った』とも言えるのか?壁に空いた穴が『落とし穴』なのかどうか俺には疑問だがなぁ!」
「おっちゃんそんなところで疑問に思う必要は無いんじゃねぇのか!?」
落ちていくリョウ達の上部ではハルの開けた穴が閉まり…少し差し込んでいた光が消えうせ真っ暗闇になった。リョウに分かるのはただ自らが落ちているという感覚のみだった。
「…どうせならアル連れてくりゃあ良かったかも」
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「何か嫌な記憶思い出したんですけど。『トラベリア』の迷宮のような…」
「おい、次の作戦の説明に行くぞ」
「あっはい、すみません。…何だったんだろう…」
ここまでです。




