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27―サンズ―

遅れました…

「え、それ本当なん?」


「ええ。この町の周辺にある3つの迷宮が同時期に迷宮決壊の兆候に入りました。なので国から来た騎士団と連携して都市防衛の準備中です」


翌日、リョウ達一行は『トレディア』の街へとたどり着いていた。だが町の雰囲気が騒がしく感じ、ギルドで受付嬢に護送任務の依頼達成報告をする共に尋ねたところこのような返答が返って来たのであった。


「迷宮決壊か…ふむ、以前にも聞いたな」


ローが腕を組んで以前エインから教わったことを思い出しながら言う。


「ちょっと待ってください、迷宮決壊の兆候が現れたらすぐにギルドが攻略へと乗り出すんじゃなかったんですか?自分はそう聞いたんですけれど」


そこへアルがリョウを押しのけ、前日にネリーから聞いた事と照らし合わせて疑問に思ったことを尋ねた。


「ええ、その通りです。ですが攻略部隊が3つ全ての迷宮の途中で何らかの形で足止めを食らいまして…ほぼ迷宮決壊は避けられない状況です」


「すみません、『トラベリア』ギルドから人員交流と以前の支援の件で来ましたネリーと申します。3つの迷宮が同時期に迷宮決壊に入るというのは確定ですか?」


「あぁ、貴女が人員交流の方でしたか…このような時に来ることになってしまい申し訳ありません。…時期の方はほぼ確定と思っても良いかと。何分監視員から連絡が入ったのが先日だったので…」


「ちょっと聞きたいんだけどにゃ、足止めって言う事は何か強いモンスターが出たのにゃ?」


ハルの質問に答えるように受付嬢が机の下からファイルを出してめくりながら各迷宮の情報を話し始めた。


「ええ。それぞれの迷宮に今のところ名前が無いのでこの町から見た方角で語りますが…


北側に存在する迷宮ではオークの群れが階段へと続く部屋に密集しており、強行突破が不可能だったそうです。魔法で薙ぎ払う案も出たそうですが、その後の戦闘にきたす影響が甚大なものになりそうだったとのことで撤退したそうです。モンスターそれぞれのレベルはおおよそ110前後。…あそこは普段ゴブリンが出て来るので初心者向けだったんですけどね…


西側…と言うより西の山の中に存在する迷宮ではトラップがメインだったんですが今回その数が爆発的に増加し、迷宮決壊までに攻略ルートの解除作業が追い付かないという事で不可能になりました。まぁここから大きなモンスターは出てこないと思われているんですけど。


北からやや東寄りのこの町から最も遠い迷宮では最後のボスモンスターまではギルドの攻略組が行けたそうですが、そこにいた最低でもレベル120越えのサイクロプスが四体揃って連携を組んで攻めてきたとかで…」


「結構大変な状況ね。あたし達も攻略…というか防衛の手伝いをしましょうか」


「そうだな。ここに来たら護衛依頼を探してすぐ出立…と考えていたが俺らも回った方が良いだろう」


サラが考え込みながら言うとローがそれに同意した。他のメンバーも更に同意するかのように頷いている。


「ありがとうございます!では皆さんのカードを見せて頂いてよろしいでしょうか?……皆さんBランクなんですか!これは頼もしいです。ぜひよろしくお願いしますね。リョウさんは…Cランクですか?」


「あ、こないだレベル100超えたんだけど…Bに上がれる?」


「確認をお願いします」


受付嬢の出してきた板にリョウが手を載せると、どうやらレベル101であることが確認できたようで受付嬢が一つ頷くが、すぐに困ったような表情になった。何が原因で困っているのかを敏感に察したネリーは一つため息をつくと口を開いた。


「リョウさん、そういう時は上がった時にその街のギルドで申請してください。CからBに上げる時はレベルだけじゃなくてどんな活動をしたかも参考にしないといけないんですから……すみません、この方々は『トラベリア』南部に新たに発生した迷宮の初回攻略者です。


リョウさんもその一員でレベル150は最低越えていたとみられる竜型のボスモンスターの討伐を経験しているためBランクへの昇格は妥当かと思われます」


「レベル150越え…!?はぁ、了解しました。…えっとリョウさん、今回は『トラベリア』のギルド職員の方がいらっしゃったので実績があるとみなして特例で昇格しますけど…本当はレベルが基準の100を超えた時に滞在していた街のギルドの判断で昇格するのできちんと覚えていてください」


「あはは…すみません…」


ネリーのみならずギルドの受付嬢にまで釘を刺され、リョウはひたすら謝るのみであった。ロー達はその周囲でため息をついたり頭に手をやったりしてその様子を見ていた。受付嬢がリョウのギルドカードを何やら機会に差し込み操作をすると…


「…はい、Bランクへの昇格が出来ました。で、皆さんはどうされるおつもりですか?ランク的にも高く、強いようですし迷宮攻略に行って頂けるのならありがたいんですけれど。


実はこの町にもAやBランクの方々が何人かいらっしゃるんですが…彼らには防衛の指示系統の構築や対策などを依頼してまして、現在手一杯です。なので今のところ今日いらした皆さんが手が空いている中では最高ランクです」


「ええと、私は人事交流なのでこちらで業務のお手伝いという事になりますね。ギルドマスターからの手紙も預かっておりますので後ほど案内していただけますか?」


「分かりました。後ほどご案内しましょう。では皆さんは…?」


「僕はこちらで町の防衛の用意の手伝いに回りましょう。一応『錬金』のスキル持ちなので薬品の作成ができますし、話を聞く限り刺突系の僕では相性が悪そうですからね。防衛の際には僕も前線に出ましょう」


「……どうでもいいかもしれんが、迷宮の一つでサイクロプスが出たんだよな?」


ローがふと顎に手をやりながら何かを思いついた様子で受付嬢に尋ねる。


「ええ。この町から最も遠い迷宮ですね。サイクロプスが4体でチームを組んでおり、攻略完了があと少しと言ったところで終わってしまいました。一体一体攻めている間に道中のモンスターが復活して挟み撃ちにされる危険があるので撤退せざるを得なかったそうです」


「最初から4体だったのにゃ?」


「いえ、元々は1体だったんですが…」


「何体でもいいけどよ、俺が思ったのは『小僧のオオワシをサイクロプス退治に使えるんじゃないか?』って事だ。実際FWでサイクロプスを倒したことがあるんだろう?行けるんじゃないか?」


「そういう話もありましたね…。いいんじゃないですか?」


「アインか?…うーん…行けるかも?やってみるか」


「なら4体のうち1体はアイン、もう1体はうちが受け持つにゃ」


「なら1体は俺が受け持とう。残りの1体はリョウ、お前に任せた」


「はぁ!?…ああそうか、アインが出る以上俺も出ることになるのか…分かったよ、俺も行くわ」


「あたしは?」


「サラはアルと共に町で防衛の用意をしてくれ。精霊魔法で堀を作るとかな」


「それはちょっとこの町の規模的に無理ね。…風の精霊に頼めば広域警戒なら出来るしそっちをやるわ」


「オッケー。んじゃー受付のお姉さん、そういう事で頼むわ」


「えっと…ではアルさんとサラさんが防衛に、リョウさんとローさんとハルさんが最も遠い迷宮の攻略ですか?分かりました。防衛の方は本日の午後の鐘5つにこのギルドにいらしてください。防衛関係の会合が開かれますので。迷宮攻略の皆さんは北門にいる門番が道を教えてくれると思います」


「分かったにゃ!備品とかそういった物はどこで買えるにゃ?」


「今回の事態に関しては『ウエイトドラゴン』という商会が多くの物資を搬入していますのでそこから購入なさってください。ただ、防衛用に大半が流れているので出来るだけ確保しておいた方がよろしいかと」


「ウエイト…了解。んじゃー行きますかね」


「そうしましょうか。僕たちも今のうちに色々揃えますよ」


リョウが話を終えたという事でギルドの入口に向けて歩き出すと皆動き出した。すると受付に残っていたネリーが急にアルのもとに走ると、その手を取った。


「あ、アルさん!」


「ネリーさん、何ですか?」


「絶対に死なないでくださいね…?夕べも言いましたけど私の両親も迷宮決壊で死んでいるんです…どうかくれぐれも油断しないでください。私はまだアルさんに押し切れていないんですから」


「はは……押し切られたくないんですけどね。まぁでも死なないことは約束しましょう」


「本当ですね!?」


「はいはい…そろそろ僕も行きます」


「分かりました…どうか…」




「(何かいつの間にかいい感じになってるにゃ)」


「(あれ一歩間違ったら彼氏を案じる彼女よね…こんな状況でも断り続けるアルが恐ろしいわ…ふつうここは『ネリーさん、貴女も気を付けてください。僕もあなたに何かあったら…』とか言う場面でしょ)」


「(…妄想はそこまでにしとけ…。まぁこんな風に言われりゃあアルも一応気を付けて戦うだろ。俺らも気張っていくぞ)」


「(へいへい…にしても無事に済んで俺らがこの町を出ていくときネリーさん泣きそうだなぁ……)」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ギルドを出たリョウ達一行は『ウエイトドラゴン』と言う店の前にいた。そこでは従業員が慌ただしく商品を搬入したり、荷物を運びこんだりしており、かなりの喧騒だった。


「…うわぁ…すげぇな…かなり大きな店舗だな…。三階建てか?コレ」


「これだけ大きいと名前の由来が何となく想像できるわね」


「由来にゃ?」


「ウエイトドラゴン…『ウエイト』は『体重』でしょう、ドラゴンは『竜』…竜の体重ほどある量の商品を一度に扱える大きな店って事じゃない?ほら、また向こうから新しい馬車が来たわよ…」


「ふむ、マンモス企業と同じような意味という事か…?この光景を見りゃあそれも納得できるな。一体どんだけ金を持ってんだよ…」


「国際企業とかそういうレベルに行っていそうですね」


と、田舎者丸出しで仕入れや商売の様子を眺めていたリョウ達の所にたった今来た馬車から降りてきた少年が話しかけてきた。


「おう、にーちゃん達『ウエイトドラゴン』に来るの初めてか?俺はここで働いてるサンズってーんだ!」


「おおう、いきなり話しかけてくるからびっくりしたぜ…おう、その通りだ。初めて見たが…でかい店だな」


ローが応答しつつも感嘆の息を漏らした。


「ははっ、俺もここで下っ端として働いている身だけど、実際すげぇと思うぜ!…けどこの店結構いろんな所に店を出していて有名だぞ…?兄ちゃん達知らなかったのか?」


「そうにゃ。うちらは『トラベリア』から来たんにゃけど、向こうにはこの店は無かったにゃ」


「あぁ、あそこは周囲の街にこうやって店を出してるからな…今まで出す必要が無かったらしいぜ」


「『無かった』?今は違うって事?」


「おおっと…口が滑っちまった。…ここだけの話、この事件…っつーか戦い?が終わったら『トラベリア』にも出すらしいぜ」


「どうして君が知っているんです?」


「そりゃあ俺がそこで働くために雇われた店員だからな!…今回の件が終わるまで俺もここで手伝い…って訳さ」


「なるほど、そういう事でしたか…」


すると店の中の方から男性の声が聞こえてきた。


「こらー!サンズ!てめー働かないでさぼってんじゃねぇよ!とっとと荷物を運びこみやがれ!」


「今客と商売中です親方!」


「ぬぁーにが商売中だ!そんなこと言うんだったらそこのあんちゃん達を店に入れて見せやがれ!」


「了解っす!」


サンズはリョウ達に向かって向き直ると手を合わせて下からのぞき込むような感じになりつつ…


「なぁなぁ、あんちゃん達冒険者なんだろ?ここで買っていかないか?いろんなものが揃ってるぜ」


「はは、サンズつったか?大したくそ度胸じゃねぇか!」


「もともとここで買うつもりでしたからね、別に構いませんよ」


「ありがたい!親方、今から戻るわ!さ、こっちへ来なよ!」


サンズの導きで一行は店の中へと入っていった。店内には様々な声が飛び交いつつも、様々な商品が並べられ、そこかしこで商談が行われていた。


「あら、一階は武器や防具がメインなのね?」


「あぁ、そういった物は重いし、それに見栄えが良いからな。あんちゃん達は見た感じ装備は問題なさそうだから備品とかの方へ行こうぜ。食糧とか軽いものは2階や3階だな」


「(へぇ、僕のような鎧はともかくサラ達のローブや服の状態が見ただけで分かりますか…結構良い目してますね)」


「(もともと向こうで俺が武器を直したり防具屋で修繕したりしているからそれでごまかされたのかもしれないけどな)」


「お、こっちはキャンプセットか?」


「あり、竜人の兄ちゃん見ただけで良く分かったなぁ。初見で分かるはずがないんだけど…」


「俺も同じの持っているからな。『キャンプセットB+』って奴だが」


「あんたが最初に持ってたの『キャンプセットB+(笑)』じゃない。ごまかしちゃダメでしょ」


「危険な本が色々入ってたにゃ!」


「へぇ、兄ちゃんそんなの持ってたんだ?」


「いやぁ、元々は友人との会話のネタにしようと思って作ったんだけどな…けどそれって2人分のスペースしかないから狭いんだよな。3人分とかあるか?」


「おう、あるぜ!3人ならこれだな…えっと45万カクテと言ったところか」


サンズが箱を引っ張り出しながら言った。しかしそれをアルが制止した。


「ああでも他にも見たいから支払いや受け取りは後でいいかな?」


「おう!んじゃ他にはどんなのが欲しい?」


「そうだにゃ…迷宮の中で食べる食糧が欲しいにゃ」


「分かったぜ!こっちだ!」






しばらくした後リョウ達一行は『ウエイトドラゴン』から出てきた。


「あんたら空間魔法持ちだったのかよ…道理で鞄とか持ってなかったわけだ」


「まぁな。けどそれに驚かねーサンズもすごいと俺は思うぜ?」


リョウが言ったことに対してサンズは得意げな顔をしながら言い放った。


「俺はこんなでかい店で働いてるんだぜ?そういうのにも慣れてるんだよ。…そういやあんたらの名前なんて言うんだ?帳簿に名前書いとかねーと『お得意様』扱いにならねーよ。あんたら結構買っていったからなぁ…」


「俺か?俺の名前はリョウだ。元々俺も店をやってたんだけどな、ほっぽり出してきちまった。こんな風にでっかくなってるサンズの店を見るとすげぇと思うぜ」


「ハルにゃ!うちもすごいと思うのにゃ!…サンズ個人はすごくないように思うけどにゃ」


「ひでぇな!?」


「サラよ。親方とかいう人に怒られないようにあたし達を連れ込んだあんたが言う事じゃないでしょ…」


「はっは、違いねぇ!サラの言う通りだな。サンズ、真面目に働けばお前もいつか店を持てるんじゃねぇか?あぁ、俺の名前はローだ」


「アルです。ローの言う通りですね。君の物を見る目は結構いい線行っているようですし、きちんと働くことを勧めますよ」


「へへっ…わーったよ。今回は毎度ありー!」


サンズが手を振りながら店の中へと戻っていく。消えたと思ったら悲鳴が聞こえてきた。どうやらサンズは荷物運びをしなかった制裁から逃げられなかったようだ。


「ふふ、ああいう子っていいわねぇ…」


「ああいうのって江戸時代の丁稚(でっち)とか言うやつなんじゃないか?」


「だとしたら将来は『ウエイトドラゴン』の番頭ですかね?」


「「「「いや、無いだろ(わよ)(にゃ)」」」」


「はは…でしょうねぇ」


リョウ達はひとしきりサンズの未来を想像して笑うと次の目的地へと向かった。そんな彼らを『ウエイトドラゴン』の中からサンズが覗いていた。


「…あいつら『キャンプセット』の45万カクテどころか今日一日だけで100万カクテは落としていったんだけど…そんな簡単に冒険者って稼げたっけ…?」


「おいサンズ、今のうちにここまでの帳簿付けるから手伝え!この機会逃したら夜まで客が途切れなくなって徹夜で帳簿付けになるぞ!」


「うわっ!了解っす!親方!」



ここまでです。

明日の投稿は有りません。

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