22―ボスとの闘い Ⅱ―
先ほど綾雅様に教えて頂いて設定集にマップを上げました。
今話をご覧になった後見て頂ければと思います。
怒りの咆哮を上げた黒竜がリョウ達を打ち払わんと横薙ぎにその尻尾を振るった。
「さすがにそれはまずいよな…『剛力』!ふぬんっ!」
―ガガキィィン!
まさしく金属同士が衝突する甲高い音を立ててローが金槌を下からすくい上げる様に尻尾に叩き付けた。そしてその一撃は尻尾の運動方向を水平からやや上へと跳ね上げ、そこに――
「いやぁ、ここまで新参に頑張られちゃ俺らのメンツがつぶれる気がしないでもないんでね、ちょっと思いっきり行かせてもらうわ。『剛剣・地断』」
ハルの武術と獣人の速度を活かした高速移動術にて黒竜の本体と尻尾が射線上に来る位置へと先回りしたオウンが空からただの剣を振るい下す。すると、剣の大きさに似合わぬ大きさの衝撃波が生まれ、黒竜の尻尾を頭へと叩き付ける。
思わぬ方向からの打撃を受けた黒竜は先ほど自らを縛り上げたサラ達を今度こそ撃ち抜かんと溜めていたブレスを中断され、怒りの咆哮を上げた。
「ふー…助かりました。さすがにブレスは防げないんで我が身でサラやエインさんを庇う羽目になるかと思いましたよ」
「いやまぁ助かったんだけどさ、即席でよくそんなに動けるよな…」
それぞれの手段でブレスから身を守ろうとしていたリョウとアルが声を上げる。と、そこに――
「うちはオウンに頼まれただけにゃ」
オウンの革鎧の首元をつかんだハルがいつの間にかリョウの目の前にいた。
「くっそ痛ぇ…嬢ちゃん良く簡単に移動できるな…。さっき早く動くのを見せてもらったからダメ元で頼んだんだが…先にこのこと言ってほしかったぜ。何はともあれうまく行って良かったぜ。痛みが半端ないがな」
「簡単に言えば武術と魔法を適当に混ぜたらあんなことが出来るのにゃ。そもそもの技術を持ってないであんな動きすると下手したら腕とか色々もげるのにゃ。だからその痛みは仕方ないのにゃ!…今はちょっと獣化して本気出してるからちょっと早すぎたかもなのにゃ」
かもで済む話なのだろうか?オウンも良く耐えきったものだ。
「……。分かりました。要はハルも人外だったんですね。サラ、とりあえずあの拘束はどれくらい持ちそうです?」
オウンがその剣撃で黒竜の動きを一瞬止めた隙に今日何度目かの束縛魔法をかけたエインとサラへと質問が投げられた。
「う~ん…持って後五分かしら。ちょっと土の精霊に助力を頼んだから強度は上がったはずよ」
「おっけー。今のうちにとりあえず確認…の前に、ハルに聞きたいんだけどその空手着って何?もとは革鎧じゃなかったっけ」
リョウがハルに問いかける。サラは普段は出ていない虎の尻尾を見せるように振りながら少し得意げに説明を始めた
「今はちょっと獣化して武術を使っているのにゃ。その時にこの服を着ていると攻撃にボーナス補正が付くんにゃ。…あと空手着じゃなくて道着にゃ。まぁうちのは武術と言っても適当に作った奴なんにゃけど…」
「あ~、そこらへんは分かった。だが最初にあの黒竜の動きを止めたのは何だ?一瞬硬直していたようにも見えたんだが…」
オウンが横からハルの説明を打ち切って尋ねた。
「あれはただの掌底を魔力でコーティングしたものをぶつけたのにゃ」
それで黒竜を止められるのだろうか。一瞬その場が静寂に包まれたが、その中でサラが手を挙げた。
「う~ん、ちょっと思ったんだけどいいかしら?」
「お、何?」
リョウの問いかけに土魔法から抜け出そうとしている黒竜を横目で見ながらサラが言う。
「あたしの土魔法での拘束、精霊に宿ってもらったとはいえ、ちょっと効果が予想より長く持っているのよね。いくら精霊に宿ってもらったとはいえ、そんなに長持ちはしないのよ。…で、思ったのがあの竜って魔法系統には弱いんじゃないかしら?」
「なるほど、それはありそうです。ローさんの金槌?やオウンさんの攻撃ですら尻尾にあまり傷がついていません。まぁ尻尾がやけに固すぎるという仮説もありますが。ですが逆に魔法や魔力に関わるものにはかなりの影響を受けていますからサラさんの仮説は正しい可能性があります」
「つってもよ…」
リョウが頭をかきながら言いだした。
「あの竜の移動速度尋常じゃねーぞ?今は何とか抑え込めてるが、あの速度で突進されまくったらこっちが魔法で攻撃する前にサラ達がやられちまう」
「そこはもう前衛の僕たちが抑え込むしかないでしょう。こうして人数も揃いましたし。僕も水魔法は使えますが、まだ弱いのでエインさんとサラさんに任せましょう。黒竜の動きは他の人で抑え込むしかないかと」
アルがそう提案した時、遂に黒竜がサラの土魔法の拘束から抜け出した。
「おう、もう時間はねぇな…アルの提案で行くぞ。それとオウン、俺の金槌で上空まで飛ばしてやるから来い」
ローがさっさと決めてオウンと共に駆け出す。
「わーったよ。……なぁ俺どうやって足止めすんの?毒の短剣とまだ弱い剣術だけなんだけど」
「リョウ君は高火力の打撃系を使えるハルと一緒に動いて何とか毒をあの竜に食らわせてください!できれば麻痺で!」
「ぶっつけ本番でか!?実際問題竜に効く毒ってあるのかよ!?」
「同じ竜人のリョウがやれば多分なんとかなるにゃ。行くにゃ!」
走りだそうとして固まったリョウの手をハルが掴むとリョウはいきなり体がちぎれるような感覚に襲われた。
「痛ててててて!?」
「ほら、敵の上なのにゃ!しっかりするにゃ!」
二人は一瞬のうちに黒竜の10メートルほど上空にまで来ていた。
「あとこれ空中じゃ微妙に制御が大変だからうちじゃリョウを連れての移動はまだ無理なのにゃ。…とにかく生き残れにゃ!」
そう言い置くとハルは体を丸めて空気抵抗を少なくすると一気に加速して黒竜へと向かっていった。
「いやいやいや俺空中の移動方法持ってないんですけど!?…ガン無視かい!もういいやとりあえず『炎球』!」
空中でリョウはひとしきり叫ぶと黒竜へと炎球を放った。が、そのように上空で騒いでいたら当然黒竜の方も気付くわけで…
―ブゥン!
黒竜が上へと向けた尻尾の一振りで振り払われた。
「マジっすか…俺ちょっと涙目」
そしてそんなことをすれば当然黒竜の意識も多少上空に割かれるわけであり―
「ここまで楽に侵入できるとかありがたいですねぇ。油断しているのかもしれませんが…さすがにさっきみたいにはいきませんよ?」
アルが黒竜の警戒網を突破して黒竜の横、右前脚の後ろ側に立っていた。アルは剣を関節部に向けて構えると…
「久々ですけど…『細剣技・魔刺突』…あちゃあ、さすがに関節破壊は無理でしたかね?」
アルが剣に魔力を纏わせて放った一突きが黒竜の関節部の鱗を破壊し、肉の部分に多少食い込んだところで止まってしまった。黒竜は鱗を砕かれたことに驚き脚を持ちあげる。そのためにアルの剣は刺さったまま持っていかれてしまった。
「早々に攻撃手段無くしちゃったんですけど…」
「だあほー!絶対取り返せ!テッケン爺さんに俺が怒られるだろうが!」
走る途中でドワーフの種族としての遅さのためにアルに抜かれたローが叫んだ。しかし…
「どこに攻撃したらいいか迷ってたんにゃけど…助かったにゃ!」
上からリョウより先に落ちてきたハルが黒竜の持ちあげた右前脚の後ろにちょうどおり、アルの剣の柄を思いっきり殴った。結果、アルの剣は途中で折れてしまったが…
『ギャォォオオオオ!』
黒竜の内部の骨の関節部に剣の先端部が到達して、無事破壊することに成功した。
「おいハルお前何やっていやがる!?っとにふざけんなこの野郎!!」
怒りのあまりローはその膂力を用いてハルの居たところへとその200キロの金槌を投げ飛ばす。
サルが木から落ちるのと同時にサルに向けて銃を撃った場合、銃弾もその途中で落下を始め、結果としてサルに銃弾が当たるという物理の話がある。これをモンキーハンティングと言うのだが…そう簡単に物事はうまく行かなかった。
ローの膂力で投げられた200キロの金槌は高速でハルの居たところへと飛ぶ。しかし、ハルはアルの剣を殴った反動で地上へと加速していた。結果、ローのハンマーはハルと黒竜の右前脚の間の空間を飛び…
―ゴッカァァンッッ!!
『ギャァァォオオ!?』
およそ生物と金属が衝突したと思えない音を立てて右前脚を庇おうと動いていた黒竜の右後脚へと直撃し…結果として黒竜の右後脚に大きな穴を空けて貫通してしまった。黒竜の悲痛な悲鳴が部屋中にこだまし、その部屋にいた全員の顔が思わずひきつってしまったのも仕方のない事だろう。
「…僕もひどいですけどローさんもひどいですよね…」
「狙ってやったのにゃ…?」
「てめーらなぁ!?…うん?あ、あぁ…まぁあれな?結果オーライだろ?」
金槌の行く末を見つめていた二人が戦闘中に関わらず思わずジト目で見てきた事に対し、なぜかローは怒りも忘れ弁解していた。一方未だ上空のリョウは…
「…ちょっと俺あいつらの攻撃がそこらの毒よりえげつない気がしてきたわ…。てか毒を出すのってどうやんだ?竜をもしびれさせる毒って無理じゃ…ん?『竜の魂にしばしの停滞を命じん、竜縛の毒』…あかん、なんぞこれ…魔力めっちゃ吸い取られてくんですけど」
『竜をもしびれさせる毒』を考えたところ、リョウの頭の中に一つの呪文が浮かび上がった。リョウが読み上げたところ、急激な魔力を短剣に吸い取られた。その一方で短剣の柄から紅色の雫が数滴生まれ、短剣の刃を伝ってリョウの下へと落ちていった。
雫の落ちた先では未だにローの金槌によって後脚を思いっきり痛めつけられた黒竜が顔を上空に上げて叫び続けていた。その口の中へと雫が落ちた瞬間、黒竜の叫びが一瞬にして途切れ、黒竜は体を硬直させたまま微弱な痙攣を始めた。
「…おい、サラあいつらの攻撃がめちゃくちゃえぐいが、好機到来だ。気にせず行くぞ。…オウン!後は任せた!『灼熱の炎よ、空を巡りて猛る焔風となれ――焔風波』」
「了解。『精霊さん、力を借りるわ。――湧き出す水の 揺らめく下に しかと大地の 固き礎 今こそ前に 顕現れよ 水面の礎』」
サラの精霊魔法の詠唱により黒竜の周辺に水が湧き出す。事態に気付いたローとアルはとっさに黒竜から離れて回避し、ハルは黒竜の上に落ちて脱力状態のリョウのそばに飛んでその首を掴んでローの所へと急いだ。
ハルたちが黒竜から離れ切ったころ、黒竜を囲むようにして湧き上がっていた水が大きなドーナツ状になって黒竜を囲んでいた。そして気が付くと黒竜は部屋の床から不自然に50センチほど盛り上がった土の上にいた。
「おい、ありゃあ…」
ローが声に出す前に事態は加速した。丘の周囲の水が渦巻き、丘の土と混じり合いながら泥となって痺れたままの黒竜の体の各所に取り付いて拘束した。
そしてサラと同時にエインが放った焔風波は…上空にいたオウンのもとに向かっていた。彼はローに打ち上げられた際に力が強すぎて天井に剣が根元まで刺さってしまい、それ以降天井から降りられていなかった。
つい先ほど『次元鞄』に剣を収納してから取り出すという荒業でもってどうにか落ちてくることに成功したのであったが、そのオウンに向けてエインはあろうことかこれまで自身が扱ってきた中で最も得意な魔法を放っていたのである。しかし、オウンはうろたえず…
「…これマジで魔力喰うからやりたくないっていつも言ってんのに…つかローのせいで折れるかもしんないところだったんだぜ?そこらへんエインなら気付いてんだろうに…はぁ、『魔喰い』」
オウンの持つ普通の剣がひときわ輝き、エインの焔風波の前にオウンが剣をかざすと…何と、オウンへと向かっていた焔風波が消え失せ、代わりに剣が燃え上がった。
そしてオウンが落下しながら固まって動けない黒竜に向けて剣を振ると、その剣先からエインが放ったものの数倍の大きさの焔風波が放たれ、黒竜を焼いていった。その炎はサラの泥の拘束を乾かしてより強固に固め、しかしそれでは飽き足らず黒竜の体の一部を焼けこげさせるほどの熱量を発していた。そして当然、その熱風の余波はリョウ達も襲った。
そしてオウンはサラの生み出したドーナツ状の湖の中へと落ちていった。
「…何かすごいこと起きてるにゃ」
「魔法を纏う剣って何それ…本物の魔剣士かよ」
「はは…マジでファンタジーじゃねぇか。いやまぁドワーフになってる時点で俺もファンタジーなんだがよ…」
「あの人事あるごとに『先輩面出来ねぇ!』とか言ってましたけどこれのどこが出来ないんですか…」
「いや、ありゃあ俺とオウンの最後の手って奴だぜ?オウンの持ってる剣は迷宮から出たドロップアイテムでな、かなりの量の魔力を消費する代わりに一度だけ魔法を吸収して3倍か4倍に増加して撃ち返すっていう魔剣なんだよ。
名前は『魔喰い』な。オウンの持つ魔力のほぼ全部を喰う以上、どうしようもなくなったか完全に相手にとどめを刺すときに俺らが使う最終手段だ」
「最終手段が土を溶かすとか反則にゃ…」
そう、黒竜や泥の拘束に覆われていない盛り土の部分はまるで超高温のバーナーで炙られたかのように溶けて固まっていたのである。
「ていうかまだ動いているわね…」
サラの言葉を聞いて一同は黒竜を見つめた。するとすぐに…
『ガ…グ、グルル…』
先ほどまでリョウの麻痺毒に縛られて声すら出なかった黒竜が僅かに身じろぎしてうめき声さえあげた。
「ちょっとあれ強すぎますねぇ…何か攻撃手段あります?僕は黒竜とは別の人に剣折られたんで無理です。あと水魔法もあの拘束を洗い流すだけなんで無理…ていうか当たる前に蒸発しますよ」
「説教は勘弁してにゃ…。うちはさっきリョウを連れてくるときに使った移動で魔力切れにゃ」
「てめぇら覚えとけよ…俺は金槌自体がどっか行っちまった」
「あたしやオウンさん達は無理ね。片方は魔力切れ、もう一方は今湖の中で落とした魔剣とやらを探しているわよ。」
「何やってんだ…んじゃ、多少なりとも魔法使えるの俺だけか。炎の槍を出来るだけ撃ってみるわ。…『炎の槍、炎の槍…』」
数度リョウは黒竜に向けて炎の槍を放った。そして――
『グオォォオオオオ!!』
黒竜が泥の拘束を打ち破ってリョウ達の所にブレスを放たんとした。しかし
『炎の槍』
放つ直前にリョウの無慈悲な一撃を食らい、遂に黒竜はその体を地面に横たえた。
そしてそれと同時にリョウは…
「がっ!?ぐぅ…なんだこれは…!」
体の底から湧き上がって来た強力な波動に衝撃を受けていた。そしてそれはリョウ達だけでなく…
「ぐおっ!?」
「くっ…!」
「何よこれ…!」
「にゃ…!」
「ぐっは…久しぶりだな…」
「がぼぼぼぼ!?(やべぇまた魔剣落としちまった!?)」
一名を除いて全員が同じ事になっているようであった。
ここまでです。
黒竜を倒したと思ったら体に異変が起きた一行……果たして彼らの運命は!?(笑)




