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ハシゲキ!-目指せ全国、都立大橋高校演劇部-  作者: 片吹尋乃
第1章:本当の私
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「そうね、琴音はできる子だからね」

「おかえり、遅かったのね」

 台所で食事支度をしている母に、ただいまと返事をし、自分の部屋へ向かう。何と言われるか分からないから、母には、まだ知られたくない。ちゃんと直しなさいとか、不良にならないでなど、想像すればするほど悪いことばかり思いつく。変な気、遣わせたくない。

 原宿駅から北東方向に、私の住まうマンションがある。その5階の代々木公園が見える方向に、私の部屋が存在する。

 早く剥がさなきゃ、『絶対合格』なんて紙。勉強机のペン立てには、合格祈願の鉛筆それにお守りが掛けられている。

 どうしてだろう。学校と家で全く違う私でいる。どちらが本物で、どちらが偽物なのだろう。はたまた、どちらも演技なのか。本当は、答えなんて分かっているはずだ。ただ、怖いだけ。言い出すのが、恥ずかしいだけ。そうしていつも、時が過ぎるのを眺めている。

 ベッドに腰かけ、そう俯き考えているとき、突然扉が開いた。驚きハッと顔を上げた。

「お姉ちゃん、ご飯だよ」

 そう言うのは、小学4年生になったばかりの弟だった。

「着替えたら、すぐ行くよ」

 作り物の笑顔で、扉が閉まるのを見つめた。

 4人掛けの食卓には、カレーライスが4つ並べられていた。そのうち一つは、父親のものでラップに包まれている。

「学校どう?」

 母の問いに、適切な言葉を探している私を気遣ってか、弟がカレーを頬張りながら言った。

「楽しいよ、ミキちゃんと同じクラスだし」

 お姉ちゃんに聞いていたのよ、と指摘されている弟を見ていると、なんだか和んでくる。

「付いていけそう?」

 あぁそっちか。友達できたよなんて答えるところだった。

「大丈夫だと思うよ」

 カレーに入っている豚肉をすくい出し、自信無さげに答えた。

「そうね、琴音はできる子だからね」

 志望校にも行けたしと、付け加え話す母を見て、少し肩身が狭い。苦笑いするしか出来なかった。


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