表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハシゲキ!-目指せ全国、都立大橋高校演劇部-  作者: 片吹尋乃
第1章:本当の私
6/61

「あたし藤園星奈って言うの」

 ポスターで見た気味の悪いぬいぐるみ、そしてそれを抱えるように持つ青年。ぬいぐるみには、不慮の事故で死んだ妹の魂が、宿っているのだという。でも、それはただの思い込みで、悲しい現実を受け入れられない青年が、仲間に支えられ死んだことを理解し、成長していく。そのような話であった。

 そして、出演者全員で感謝の意を伝え、一礼した。それと同時に幕も閉まる。ホラーでなかったことに安堵する私の隣で、すすり泣く美佳の姿があった。

「良い話やったね」

 とても恥ずかしかったが、そうだねと言い、背中を擦りなだめていた。

 入部希望者は、こちらの紙に名前を書いてください、と言い、あの青年が舞台袖から出てきた。ついさっきまで泣いていた美佳が、涙を拭い一目散に名前を書きに行った。

 琴音の分も書いてきたからと言う美佳に、呆気に取られていた私だったが、一拍程置いてようやく理解した。私、演劇部に入るんだ。不安とほんの少し、本当にほんの少し焦燥感が生まれた。

 教室には、20人ほどの生徒がいたが、その半数は名前を書いたようだった。2回目の開演時間が迫っているということで、私たちはそそくさと外へ出た。

「なんか、これから楽しみやわ」

 と、まだ目の周りを赤らめている美佳が、目を爛々と輝かせて言う。私は、実感が湧かず、ややすっきりとしない感じが残る。窓の外で舞う桜は、私の気持ちをどう思っているのだろうか。その答えを聞けるわけもなく、ただ右から左へと流れていく様子を眺める。

「演劇部、入るの?」

 教室前で余韻に浸っていた美佳と、ただぼーっとしていた私に、そう問いかけてきた。

「あたしは、入ろうと思ってるんだけど…」

 いかにもお嬢様という感じで、何時間掛かったのかと思うほど、綺麗に髪を三つ編みにしている。

「そうなん?うちらも入るで!」

 一番に名前書いたし、と美佳は自慢げに言う。

「そうなんだ!あ、あたし 藤園ふじぞの星奈せいなって言うの」

 よろしくね、とニッと笑う。私はというと、満面の笑みを浮かべる美佳の隣で、やや微笑する。そして、一瞬にして仲良くなった美佳に乗じて、私も名前で呼び合うようになった。

 美佳が関西出身だということで盛り上がったり、帰り道が一緒でまた、嬉々として戯れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ