「演劇部とか、ええかな思っとる」
「演劇部とか、ええかな思っとる」
それは意外な返答だった。
「えっ⁉運動部じゃないの?」
私は席に戻り、真正面から聞き入った。
「だって、運動部はもう飽きたし、違うこともやってみたいやん」
歓迎公演あるみたいやしと付け加え、照れた様子で下を向いた。
そんなことお構いなしに私は、ニヤニヤするなとツッコまれるくらいに、とてつもなく笑顔であったと思う。
「今日、見に行ってみようよ」
そう言うと美佳は、微笑んでもちろんと言ってくれた。
小腹が空いてくる時間帯、演劇部の新入生歓迎公演が、行われることを知らせるポスターを一瞥した。5階の視聴覚室で行われるらしかった。早速、私と美佳は5階へと駆け上がった。風が吹き窓の外では、桜が舞っている。まだ皺の寄っていないスカートが、ひらひらと揺れる。運動部であった美佳の体躯は、意外とゴツゴツしていないが、ふくらはぎには、しっかりと筋肉がついていた。
「あそこちゃう?」
確かに何人かの生徒が、教室に入っていくのが見えた。美佳の言葉に頷き、歩みを速めた。部屋の前の壁には、ここへ来る時に見たものと同じポスターが、貼られていた。赤い目をした奇妙なウサギのぬいぐるみを持った青年が、こちらを睨みつけている。ホラーなのか、そう思うと少し足が引けるが、美佳が先に入ってしまったので、慌てて後を追う。端の席で見ようと考えていた私だったが、美佳は、ど真ん中の席で私を手招きする。どうせ見るのなら、ちゃんと見ようかと考え直し、先に座っていた生徒の前を手刀を切って通り、美佳の元へと辿り着く。席へ座るとすぐに始まった。継ぎ接ぎだらけで手作りと思われる幕が、上がる…上がりはしない、左右に開くタイプであった。