「あの……えっと、よろしくお願いします」
高校を選ぶ際に、偏差値や制服、その学校の風紀などを基準に決めることもあるだろう。私も制服が可愛かったというのが、決め手の一つにある。それが似合っているかどうかと聞かれると、返答にはやや困る。私の可愛いと思うことと他人からの見た目は、かけ離れていることの方が多いからだ。自分らしさや貴方らしさとは、何が基準なのだろうか。
それらは、時の流れと共に変化していくものだ。
中学生時代は、大人しく真面目で眼鏡を掛けていて、友達の少なそうな人が、高校に入るとその印象とは正反対に明るくなり、リア充になることがよくある。それを、高校デビューと呼ぶらしいが、私はまさに今、それを実行しようとしている。今が変化の時なのだ。そう私は決めつけた。
明るく楽しい人と思わせる。華やかなグループに入り、いつも話題の中心にいる。そんなことを思い描き、最初が肝心と小さく呟きながら、高校生活初日の自己紹介という山場を迎える。眼鏡をやめ2時間かけてコンタクトを付け、髪もおさげからポニーテールに変えた。スカート丈も膝上で、外見はリア充そのものだ、と思う。
次の人どうぞという担任の先生の声が掛かり、私の順番が回ってきた。前の人に対する拍手が止み、私の椅子を引く音が響く。
「わ、私は、私の名前は、工藤琴音です」
早速2回噛んでしまった。緊張し勝ちなところは直せなかった。
「さ、裁縫とか得意です。あの……えっと、よろしくお願いします」
拍手に包まれながらすぐさま着席する。顔が真っ赤なことは、触らなくても分かる。とても熱い。