2 正義の慟哭
今回は主人公不在です。
「なぜだ!なぜ勇者は現れないのだ!」
大国エルラント王国の建物は全てが白で統一されている。建物を白く染めることは法律で定められており、その徹底具合が伺える。その白の中でもひときわ大きく目立つ建物こそ国の誇る王城であり、その大きくも美しい様相は精緻な技巧を凝らす職人技が作り出した産物であり、この世界では珍しく、魔法を使わずに建てられたということで、エルラント国民の誇りでもあった。
その城内で醜くわめき散らす存在がある。この城の主であり、エルラント王国の代表。すなわち、フランク・エルラント・キング、王その人である。
代々勇者が降臨するというこの国は勇者の圧倒的戦力とカリスマにより、アララクナン、神のいない時代と呼ばれる小国群の争いの時代を終わらせた。勇者を召喚した国、エルラント国の統一という形で。
群雄割拠した時代には亜人差別の文化はなく、皮肉なことに最も団結した時代であったと言えるだろう。
余裕は差別を生む。エルラントの一部であった少数民族であるエルフ、獣人、ドワーフなどの亜人は人から見るとその異様とも言える外観で社会から弾かれるのはそう遠くない未来の話であった。
ドワーフはその卓越した鍛冶の腕によってある程度の自由を得ることは出来たが、エルフ、獣人は奴隷や国外追放、一部金や権力を持っていた者を除き、その尊厳を踏みにじられる結果となった。
国家群を統一した先代と比べられ、幼少のフランク王子は父と比べられる毎日であり、その頃には既に統一を果たしていた父へと対抗心を燃やした彼が目指した道は亜人の排除による人による国家の統合だった。
それはエルラント国における指針としては正解であったのかもしれない。結果的に彼は周りから認められることが出来たのだから。
勇者とは国にとって信仰の対象であったが、彼にとっては便利な兵器、という認識である。亜人の排除や、人と共存している魔族の排除に役立つ存在、という認識であったからだ。
禁術である『認識昇華』によって、正義を肥大化させたのもより扱いやすいようにするためだ。召喚の主である自分の正義を押し付けることも可能であり、もはや狂信とも言えるほどのフランク王の人史上主義に操られた勇者を攻めることは出来ないであろう。
しかし、彼の絶頂にも終わりが来た。勇者の失踪、である。
それを知るのは国の上層部のみで、おそらく生きてはいるだろうことだけは分かっていた。勇者はこの国においてどの貴族よりも重要で下手したら王より要たる人物なのだ。その失踪は国の上層部を震撼させた。
何よりもそのことに動揺した人物、それは王である。
彼の夢を叶える存在がいなくなったことは大きな衝撃を与えた。
ゆえに再召喚を決意したのだ。
この国唯一勇者召喚に伴う大きな魔力を持つ実の娘を使った勇者召喚を。
しかし、『認識昇華』を組み込み新たに構築した魔方陣はたしかに起動した。その証拠に術を行使した娘は魔力が急激に減ったことが原因で気を失い、三年たった今もまだ目覚めていない。
しかし、彼にとってその事は些事に過ぎなかった。
何よりも重要なことは、召喚したはずの勇者が表れないといった現実だ。
召喚の儀式を行った後三年間、一日も欠かすことなく彼は叫んでいた。そう、「なぜ勇者は現れないのだ!」と
彼は考えていた。勇者が現れない原因はなんだ、ということを。
原因の一つとして挙げられる術式の失敗はすでに判明しており、術式を刻んだ魔術部隊の者は既に処刑している。
しかし、一応発動し、召喚することには成功した、ということは『勇者召喚』の魔法文字がしっかりと刻まれていることから分かっている。
ならば座標指定が間違えているのだ、と理解していたフランク王は三年前、既に国中に捜索部隊を派遣しており、広大なエルラント全土を十分に捜索しきれる数を動員している。その数は国庫にダメージを与えるほどの給金を発生させるほどであり、国民への税も上がるほどだ。
なのに見つからない。その事実は今日も彼を叫ばせる。
「なぜ勇者は現れないのだ!」
と
工藤巽くん、改めフランちゃんを召喚したのは王女さまでしたー
ありがちですね。王女さま三年生昏睡状態だとかもうそれ死んでるじゃん、と思ったアナタは感想にちょこっと書いてください、お願いしますなんでもしますから!