第四話 友の死、フランちゃんの誕生
そして三年がたった。
とはいかない。赤ちゃん二日目で大事件が起きた。
あぶあぶ赤ちゃんな俺は、金髪美人な吸血鬼お姉さんにオムツを替えてもらっている途中、タイヘンなことに気がついてしまったのだ。
俺はリアル赤ちゃんプレイにより、体の中でなにかが発芽するのを感じていたとこでそれに気づいた。
アレがないのだ。
アレとは来る聖戦にむけて鞘に収められたエクスカリバーであり、俺の分身体であったアレだ。
そのショックは身体が弾け飛んだことに気がついた瞬間に匹敵し、そこで俺の意識は
落ちた。
◆
目が覚め、夢だったのではないかと確認し、そこにあるべきモノがないということを再確認し、大泣きした。
驚いたフェリシアさんに抱きかかえられ、豊満な胸に包まれあやされるものの、涙は止まらない。いや、むしろ女性の象徴に抱きかかえられ、より悲しくなってしまった。
あるべきものがある彼女に比べ、あるべきもののない自分のなんと醜いことか。
慣れ親しみ、時には一緒に遊ぶこともあった自分の分身の死を目の前に突きつけられ、その一日涙が引くことはなかった。
次の日、泣き疲れて寝てしまったことに気づき、なによりも親しい戦友(とも)の死を思い出し、激しく憂鬱な気分となった。
一応確認してみるも、男の部位も女の部位もなく、人形のようにつるんっとしており、排泄のための穴が開いているだけであった。
昨日よりも冷静に観察できたものの、これが転生の代償なのか吸血鬼の種族的特長なのか、といった疑問を抱くだけの余裕は生まれており、冷静に死を悼むことができた。
「きっと・・・きっと、復活させてやるからな・・・・・・!」
止まらぬ涙が頬を伝い、黙祷を捧げる俺はここに異世界に来て初めての誓いを立てるのであった。
それから俺は人間ではありえぬスピードで成長を始める身体と共に、友を復活させるために、魔法とこの世界について深く熱心に寝る間も惜しみ学び始めた。
どうやら俺の吸血鬼としての能力は種族間でもなかなか高めであるらしいこと、吸血鬼は強い力を持つが為に、魔法の類はあまり使わず、変身や、膂力を使った戦闘を好むらしいこと、魔法の上位に、術式理解を深めたもののみ扱える魔術があるらしいこと、人大陸の主教であるルルス教なるものらしいこと、息子の死は種族的特長で、眷属を増やせることから生殖機能がいらないから、であること。多くのことを学んだ。
吸血鬼として完全に成長が済むと変身能力が使えるようになり、それで体形などもある程度いじれるとフェリシア先生から聞き、俺の努力はより一層激しいものとなった。
肉体の破壊が成長がより早まるという吸血鬼の禁術を発見。フェリシアさんが精神の崩壊を招く恐れがあるから、と強く止めるのを振りきり、この世のものとは思えない痛みを耐え、常人なら100回は廃人になるほど繰り返すことにより、500年かかる吸血鬼の完全成長を3年で遂げた。
そう、戦友(とも)の死が俺を強くしたのだ。
そして3年目....
鍛えに鍛えた俺の身体は、華奢で、今にも折れてしまいそうなたおやかさと、一目では女にしか見えないような可愛らしい容姿、濡れたような黒髪と漆黒の黒目を小さな顔に備えた、どこからどう見ても美少女な逞しさとは無縁のものに成長をとげていた。
なんでだよ
もはや元の工藤巽さんの面影は黒髪、黒目にしか残っていないという驚きのビフォーアフター。
匠を撲殺したくなるほどの変わりぶりである。
「まさか、TSを自分の身で体験することになるとはな・・・・」
思わず呟く俺。
ここ三年間は息子の蘇生のために必死に努力をしていたため、容姿なんて意識することもなかった。
体の痛みには慣れたものの、心の痛みには全くといっていいほど耐性のないペーパーハートな俺の心がダメージを受ける音が聞こえた気がした。
工藤巽は死んだ!ここにいるのはフランちゃんだ!
意識してみると、そこそこあった身長が一気に縮んだからか視点の違和感も半端じゃない。
「また、落ち込んでるのね。フランちゃん」
フェリシアさんが呆れたような口調でそう言ってきた。
「そりゃ、落ち込みますよ。TSですよ?たまんねえですわ」
フェリシアさんはこの三年間を支えてくれた癒しであり、バラバラな身を再生してくれたハイパー恩人である。
どうやらこの人は吸血鬼としてかなり異端な存在で、仮にも死んでいる身体を再生させるほどの大魔術を使える超すごい人らしい。吸血鬼は魔法を使わないというのが常識らしいのだが、魔法どころか魔術を使える上に始祖吸血鬼という激レアな存在なのだ。Sレア+なのだ。今、てぃーえす?とか可愛く小首を傾げてるこの人はすごい人なのだ。
「それじゃあ準備はいい?」
準備とはこれから行われる『成鬼の儀』の準備だ。
『成鬼の儀』とは、眷属が個人差もあるが500年ほど歳を得て、主である吸血鬼が鬼として成ったと判断したときに行われる儀式で吸血鬼のリミッターを外し、変身だとかの能力を使えるようにするらしい。
俺からしたら復活の儀だ。
「ええ、いつでもいいですよ」
キリッと付き添うなほどいい顔で返事をする俺。
じゃあ始めようか、とフェリシアさんが呟くと、俺の頭に手を突き刺した。
失って人間は強くなると思います。
※クライン教という名前でしたが、某ほにゃららクラインと被るのでルルス教に変えました。