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不死属性の生き方  作者: ひみゃらや山脈。
第三章 魔大陸編
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第二十四話 動き出す陰謀

 アイゼル連峰に入るまで魔物にあまり襲われなかったし、襲ってきた魔物は雑魚ばかりだったのでなんだか残念だ。

 魔獣の肉は旨いし腹に溜まる。

 吸血鬼は血液を飲んで、その中に含まれる魔力を吸収して腹を満たしている。正確には魔力というより、血中魔力、とも言うべきものなので肉とかじゃダメなんだが、魔獣は体のほとんどを魔力が形成しているため、ある程度上位の魔物なら血液の代わりになる。

 ただし、渇きは収まらないので結局は血を飲まなければならないのだが。

 渇きとはまんま渇きで、血を長いこと飲んでいないと喉が渇いたような感覚に襲われるのだ。

 これがまた、たまらなく不快だし、あまり放置すると命に関わる。

 お腹は一杯になるが喉は渇くあたり普通に食事のような感覚であっている。

 血なら比較的少量で腹も喉も満ちるから比べ物にならない効率だが。


 アイゼル連峰の麓に着いたのはラライヤを出発してから丸一日後だった。

 休みなく歩いてきたのだが、まったく疲れていないあたり吸血鬼の便利さを感じる。

 たぶん走ってきてもそれほど疲れなかったことだろう。


 山は俺の記憶に変わりなく、普通に山だ。

 亀の背中に乗ってるとかそういう異世界的なことはない。

 ナチュラル森だ。


 俺はその前にいて、休んでから入るかそのまま突撃するか悩んでいた。

 今は丁度日が登った時間だし、今入るのが正解なような気もする。


 と、暫くグダグダ悩んでいたら、何やら巨大な気配が近づいてくるのを感じた。これは魔獣だろう。

 じっと待っていると、のしのしとデカイ亀がやってきた。

 噂をすれば影ってやつだなー。


 その亀の顔は目つき鋭く、口は鋭い歯がずらっと上下二層に生えており、大きな牙が二本生えていた。

 なんだかグロい顔の亀はこちらに向けて大きく吠えると、のっしのっしダッシュで迫ってくる。

 上に四メートルはありそうな大きな体が迫ってくる姿に興奮しながら俺も笑顔で亀に向かって走っていく。


 距離を完全に詰めると、亀はそのグロテスクな口を開けて俺に噛みついてくる。

 その顎にアッパーを食らわせるが、直前で水が盾のように亀を守ると、威力が相殺される。

 それでも殺しきれないパンチを顎に食らった亀は怒りの色を瞳に写しながら背中を向けた。

 亀の尻尾は尻尾というより凶器だった。

 モーニングスターのような見た目をしており、黒々と光っている。

 どうやら甲羅が尻尾まで伸びているようだ。

 二メートルはありそうなその尻尾が俺を打とうと迫ってくる。


 俺はそれを受け止めた。

 もし尻尾が横から凪ぎ払うように来ていたら、吹っ飛ばされていただろうが、縦から来た一撃ならば受け止められる。

 重量がかかった為に陥没した地面を踏みしめて抱きつくようにして受け止めた尻尾を手放し、真上に飛んで甲羅に踵落としを食らわせる。

 しかし、40%は解放しているにも関わらず、その甲羅にはわずかなヒビが入るのみで、割れるまでには至らなかった。

 亀が巨体を震わせると、足元から湧いてきた水が俺に向かって刺すように向かってくる。

 その一つ一つをいなして背中から飛び降りた。


「ふははっ、俺の力でも割れねえのか」


 俺は笑う。

 まさかこんなところでこれだけの敵と会うことになるとは思っていなかった。

 まさか魔王がこんな亀より弱いわけもないので、俺はこの亀くらい楽勝で勝たなければならない。

 ならばあの甲羅を叩き割ってやろう。

 長所を打ち破ってこその完全勝利だ。


 俺は襲ってくる槍のように鋭くなった水をギリギリで避け、ときに刺されつつ、再び甲羅に飛び乗った。


 この頑丈な自慢の甲羅を粉々にしてやる。


 そう心に思いながら、俺が今ほぼリスクなく出せる限界、50%を解放すると、その背中に右左と拳をうちつけた。

 俺の拳も砕けるが、右を打ち付け、左を打ち付け、の間に左を、右を、と再生させる。

 半端じゃなく痛いが、それすらも心地よく感じながら交互に素早く甲羅に拳を下ろす。

 ドガガガガガッ!と連続する音となって叩きつけられる一撃一撃が必殺になりえるものだ。

 その一発には耐えられる亀でも、連続となると流石に耐えられまい。


 案の定百発ほど打ち付けると甲羅は粉々に割れる。

 割れた中で見えるドクンドクンと鼓動をする魔石に手をかけると、一気に引き抜いた。


 魔獣にとって心臓である魔石を取られた亀は、びくんっと痙攣すると力なく地面に倒れ伏した。


「ふふふっ、魔大陸は面白いなあ。こんな亀がゴロゴロいるのかなあ」


 俺は笑いながら呟くと、亀の解体を始めた。亀の食べられる部位、とかそんなのは知らないので、とりあえず肉を引きちぎり、かぶりつく。

 亀はなんというか鶏肉っぽい味がした。



 腹一杯魔獣の肉を食べると、自分の魔力が安定するのを感じる。

 やはりなかなか高位の魔物だったみたいだ。

 心臓部でもある魔石だが、さすがにこれを食べる気にはなれない。

 なんでも魔石は魔力を引き出すためにも使われるらしいので、売ればそこそこに金になるだろう。

 文無しの俺にとってはかなり重要アイテムだ。

 今後も魔獣を倒したら収集しよう。

 さあて、次は山登りだ。

 俺は日本でも遠足でさほど高さのない山しか登ったことがない。

 そんな山登り初心者の俺が富士山がいくつも繋がっているような高い連峰を踏破できるのか少しだけ心配ではあるが、まあそこは吸血鬼ボディに期待しよう。吸血鬼が山を苦手にしている、なんて聞いたことがないのが救いだ。


 ◆


 さて、諸君。

 山で一番怖いことはなんだろう。

 熊?逆に食ってやるさ。

 気候?雨なんてなんのその。フランちゃん舐めるなよ。


 答えは、遭難だ。


 端的に言うと迷子になった。


 ふぇえ....ここどこだよぅ.....


 意気揚々と登り始めること10分でもうすでに方向感覚は失っていたと思う。

 今に至っては前に進んでいるのかどうかすら分からない。


 さて、こういうときこそクールなハートが大事だ。

 思い出せ.....!

 遭難したときにはどうすればいいのかを....!


 遭難になったら....『落ち着け』。そう俺は日本で教わった。

 胸に秘めた『落ち着く』という『覚悟』が道を切り開く...!


 俺は....!

 生きたい.....!



 と、一人で茶番をして焦りを抑えていると、山の木々の上に無数の気配があることに気づいた。

 大きさは大したことないが、数が問題だ。

 200、300は平気でいそうだ。

 野性動物との出会い、みたいなものはあり得ないとして、まあ間違いなく魔獣だろう。

 なんというか、これくらい小さな気配の魔獣が絡んでくるのは初めてだ。

 大抵は遠巻きにじっと見ているのが精々だったのに、目の前の木の上にもいるようだし、近すぎるのだ。

 なかなか襲ってこないのはいいが、鬱陶しい。

 気配の察知というのは上手いこと説明できないのだが、観察するような視線が300近くあると鬱陶しいのは間違いのないことだ。

 アイドルはすげえよな、こんな視線に耐えられるんだもん。

 残念ながら俺には無理だ。

 ということで警告なしで、目の前の木を殴る。


 たとえ10%でもたかが木程度凪ぎ払える。

 モラルがあるので無差別な自然破壊はしないが。


 殴った木はみしみし音をたてて周りの木々に引っ掛かりながら俺が殴った部分を中心にしてへし折れる。


 と、猿のような敏捷性をもった黒い毛玉が落ちてきた。

 この毛玉に見える生き物がさきほどの気配の正体らしい。


 毛玉は俺を見ると怯えるように襲ってきた。

 キャーッ!と甲高い声で自分を鼓舞するように襲ってくる毛玉を蹴り飛ばす。

 それを境にして次々と毛玉がワラワラ木々から飛び降りてきた。

 その一匹一匹を手を振って処理していく。

 弱い。弱すぎる。

 なぜ、こんなモンキー毛玉が襲ってくるのか分からないが、なるべく殺さない程度に手を振る。

 もしこの毛玉が原住民だったりとかしたら嫌だしね。


 結局、毛玉をアクビをしながら300匹ほど叩き落とすのに五分もかからなかった。


 二、三匹は死んでしまったかもしれないがそれは自業自得だとして、その百倍は生かすことに成功したのは僥倖だった。

 どうやら10%は自在に扱えるようになったらしい。これからは10%を常時解放にしとこう。


「おや?思いの外簡単に負けてしまいましたねえ」


 俺は声のした方向をゆっくりと見る。

 敵意を感じなかったので気がつかなかったが、そこには黒いローブを男がいた。

 フードで顔は分からないが、声で男だと分かる。


「こんばんわ」


 フレンドリーな声音でそう挨拶される。


「ああ、こんばんわ。何か用があるのか?」


 挨拶を返してやって問いかける。

 友好的な声音だが、話の内容は友好的ではないことが分かる。


「ええ、あなたの名前はフラン、でよろしいですね?」

「ああ。フランでよろしいぞ」


 どうやらきちんと俺に用があるようだ。洒落じゃないよ?


「あなたの情報を小耳に挟みましてね。なんでも魔王城に向かっている、とか。吸血鬼であるあなたに魔王が負けるとは思えませんが、少々私の方にも事情がありましてね。死んでもらいたくてお伺いいたしました」


 なんだか面倒そうな事情だなあ。

 そもそもこの小者臭い男に俺を殺せるとはまったく思わない。


「やれるものならやってみるといい」


 そう答えておく。

 というより、そんなに強いのなら是非とも戦いたい。


「ふむ、あなたは戦闘狂の気があるようだ」

「俺のような平和主義者を捕まえてなんてこと言うんだ。というかまずは名乗れよ。無礼な奴だ」


 これから戦う相手なら名前を聞いておかないと墓標を作れないからな。

 あれ、俺ってこんなに好戦的だったっけ?まあいいや。


「私の名前はヴァンフォール。従魔獣使い(テイマー)のヴァンフォールです」

「俺は吸血鬼のフランだ」


 そう名乗るとヴァンフォールに向かって一気に距離を詰めた。

 もはや俺の必殺技と化した拳だ。

 魔属がどれほどの力を持っているか分からないが、亀の甲羅ほどに防御力があるとも思えない。まず食らったら動けまい。


 俺の拳が奴の顔面にめり込む前に、何かに阻まれた。

 空間が裂けたように割れ、そこから覗いているものは例の亀だ。


「グランドタートル。私の最高の一匹です。差し向けた個体はあなたに撃退されたみたいですがこちらは成年体。強いですよ」


 普通亀ってのは甲羅から顔が覗いているものだが、こいつは顔もまた甲羅の一部だった。

 甲冑のように着ているのかまんま体の一部なのか、分からないが相当硬いってのは分かる。


「親子揃って殺されるのか、可哀想な話だな」

「あなたの親がどこにいるのかは知りませんがそこまで言うのでしたらあなたを殺した後に殺しに行きましょう」


 腹のたつ皮肉だ。

 まあ俺の親は絶対殺せないがな。なんせ別の世界にいるんだ。


 グランドタートルはのそっと割れた空間から出てくると俺に噛みついてきた。

 相変わらず口にはグロテスクな歯がぞろりと並んでいる。

 目まで顔の甲羅に守られているせいで顔で唯一見える口が俺に噛みつく速度は意外と早い。

 なんだかすっぽんを思い出す首の動きだ。


 その一撃を危なげなく避けると、俺はその顔面にヤクザキックを浴びせようとした。

 しかし、後ろに立っているヴァンフォールが放ったレーザーのような水を避けなければならず、追撃することが出来なかった。


「....2対1は少し卑怯じゃないかな」

「従魔獣使い(テイマー)の戦いがこれでね。申し訳ないが許してください」


 許しません。

 俺はまた飛んでくるウォーターレーザーとグランドタートルの一撃を避ける。

 俺の後ろでは攻撃の巻き添えに盛大に環境破壊されている。

 グランドタートルが動いたせいで木々が凪ぎはらわれて広場が山のなかに出来ていく。

 ....なんだか避けている俺が申し訳ない気持ちになってきた。

 さっさと決めてしまおう。


 ウォーターレーザーを敢えて避けないで肩に受けながらグランドタートルが噛みついた後に出来た隙を狙って、50%解放の力でグランドタートルをひっくり返す。

 十数tはありそうな巨体が派手な音をたててひっくり返ると、驚きで目を丸めたヴァンフォールに一気に近づくと貫手を腹に思いっきり突く。


 もう盾である亀は奴にはいない。

 この貫手が刺されば俺の勝ちだ。


 ....やったぞ!はやってないフラグだとすっかり忘れていた。


 貫手はひび割れた空間に刺さり、後ろから振られたグランドタートルの尻尾が俺の背中に当たり、俺を割れた空間へと突き落とした。


「いやはやグランドタートルがひっくり返されたときは驚きました。力だけなら魔王と同じくらいにありそうですね」


 そんな呟きを聞きながら、閉じるひび割れた入口が閉じるのを見ながら俺の意識は闇の中に落ちた。


 ◆


 山の一部が激闘の影響でさっぱりとしている。

 フランのいなくなったそこでフードを被った黒い男はひっくり返りながらも作戦通りに動いてくれたグランドタートルをひび割れた空間に入れてここではない場所へと送り込んだ。

 従魔獣使い(テイマー)として一人前だと認められるにはこの転移門(ゲート)の劣化版を扱えるようにならなくてはならない。

 巨大な従魔を引き連れて歩くわけにはいかないため、制限つきではあるが、自在に呼び出せるこの『窓』が必須なのだ。

 本来契約した獣にしか使えない『窓』だが、条件付きで使用できる。

 それがフランに使ったものだった。

 条件とはすなわち座標が指定できない、ということ。

 しかし、ヴァンフォールにとってそれは障害となりえないことだ。


「全ては魔神様の為に」


 彼は呟くとすっかり禿げた山から姿を消すのであった。

はー、なんだか久しぶりに普通に投稿した気がします。

新キャラヴァンフォールは最後の方で明らかになる重要人物です。でもこの先あまり出ません。....彼を忘れないであげてください。


感想ブクマ評価は私の餌です。いつもありがとうございます。



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