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不死属性の生き方  作者: ひみゃらや山脈。
第三章 魔大陸編
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第二十三話 外される箍

 一日苦しそうにしていたミハサは翌日になると、さっぱりした顔をしており、どうやら無事俺の眷属となったようだ。

 瞳の色が赤くなっており、なんだか心なしか美人度合いがアップしたように感じる。

 おそらく吸血鬼の発する魅了チャームが備わったのだろう。

 さて、そんなミハサだが、問題が発覚した。


 単純な力が弱いのだ。


 俺は100%解放すれば山をも持ち上げられそうな力を発揮することが出来る。これはまあ、始祖の力に勇者の力が合わさった結果で、例外的な圧倒的な力なのだが、俺自身今のとこコントロールできる力は50%がいいとこだ。

 まあそれでも人間くらいなら100人は片手間で殺せるんだが。


 ミハサは俺の5%も出せない。

 吸血鬼と言っても、おしべめしべな行為をして、産まれる吸血鬼と、眷属として主人に能力を与えられる二種類がいる。


 眷属はおしべとめしべな感じで産まれた吸血鬼と違って、手っ取り早く能力が手に入るが、その能力はおしべめしべな吸血鬼より弱い。

 体のリミッターを外した人間の力と、主人の吸血鬼の持つ力を一つ継承できるのだ。

 ただ、体のリミッターを外していようがなんだろうと、人間では吸血鬼には遠く及ばない。

 始祖の眷属だから普通の眷属よりはスペックが高いわけだが、ミハサが本気で腕相撲しても俺なら小指で欠伸交じりに勝てる。


 そして、それくらいの力を持った魔族は魔大陸ここにはゴロゴロいるわけだ。

 正式なファミリーになったミハサを出来ればそんなところに連れて行きたくない。


 というわけで、折角眷属化したのだが、ミハサはグラルの屋敷でレイとレイナと共に修行をしてもらう事にした。

 最初は嫌がっていたミハサだが、家族を危険に合わせたくないと言ったら、涙目になって、家族....と呟くとお留守番を了承してくれた。


「ふむ、再生能力もあるのだしこの娘くらいなら連れて行ってもいいと思うがね」


 グラルは何か言いたげだ。

 吸血鬼は基本的に死なない。

 フェリシアさんも勇者にバラバラにされても生きていたそうだし、俺もそれくらいじゃあ死なない。ミハサだって眷属であろうと、仮にも吸血鬼ならそうそう死にはしないだろう。

 だが、俺はバラバラになった見方を死なないからって平気で見ていることは出来ない。

 心はまだ人間なので、ミハサがバラバラになりでもしたら、と思うととてもではないけれど連れて行きたくない。そう、グラルに話すと、彼は笑って、


「やはりフラン、お前はドラクリアの血族にふさわしい」


 と言った。


 ◆


 結局四日ほどグラル邸にお世話になってしまった。

 彼からするとたった四日だが、俺からすると四日も、だ。

 ここらへんに生きた年月の価値観があるのだろう。


 出発するときに教えて貰ったのだが、ミハサに俺から継承された能力は変身能力らしい。

 なんと、人外に変身できるそうだ。

 うらやましい。

 俺も羽を生やしたり、霧になったりしたかった。


「グラル、それじゃ三人を頼む」


 俺はこの屋敷にいるうちに彼に言われてタメ口で話すようになった。

 なんでも魔族にとって、丁寧な言葉は自分より格上に使うものだから、よほどレベル差が無い限り使うのは避けたほうがいいらしい。

 変に相手を増長させることになるので面倒事を招きかねないのだ。

 まあ、悪魔とかは格下にも敬語を使うらしいが。


「ああ、任せろ。お前が戻るまでには一人前の戦士に育てると約束しよう」


 レイナがムキムキにっ!とかになってたら報復にこの屋敷を塵に変えてやろう。


「おとーさん!期待しててね!最強の白獅子になってるから!」

「フラン様。私もきっと強者になると約束しましょう」


 レイナとレイは意気込みを語る。

 この二人ならきっと強くなれるだろう。

 なんせ根性が違う。


「フラン様が帰るまでに私も変身術をきっとマスターして見せます」


 くっ。

 ミハサの変身能力は正直に羨ましすぎる。

 いつか勇者の紋章を乗り越えて真変身を身につけてやる!と、意気込んでから、出発することにした。


 俺の寿命は100だとか200だとかじゃあ利かないくらいあるんだ。

 少しの間会えないことくらい我慢しよう、と自分の心を慰めながら。


 ◆


 さて、俺の目的地、魔王城は魔大陸の真ん中あたりにある。

 魔大陸はかなり大きい上に、砂漠だ渓谷だと嫌がらせのように険しい自然がある。

 大陸を分けた神はこっちの大陸を住みにくいものにした、とかいう取って付けたようなルルス教の教えがあるのも頷けるような険しさだ。

 この険しさこそがこの大陸に人間があまりいない理由になっているのだろう。

 地力の貧弱な人間はただ生きていくことすら出来やしない。

 なんにせよ俺は一人でその厳しい大陸を横断しなければならない。

 ....寂しくなんかないんだからね!


 まず向かうはアイゼル連峰。土着の言葉で意味は“別れ”だ。

 あまりに険しい山だから生と死を分ける、とかいう由来がある。

 なるべく近づきたくない由来だが、俺はこの他にも“死の”砂漠だとか、“帰らずの”森だとか物騒な所をいくつか抜けなければならない。


 アイゼルまでは普通に平坦な道だ。

 実はすでに目に見えているのだが、巨大だから遠くからも見えるんだとか。

 たぶんビルとか高い建物が無いことも理由だろうね。


 ラライヤを出てから暫く立つのに一向に景色が変わらない。

 前方に連峰、周りにはオレンジ色の土をした荒野。

 後ろに見えていたラライヤはもう見えないな。


 正直に言おう。飽きた。

 もっと竜どーんっ!魔物どーんっ!山賊が突然襲来!みたいなものを期待していたのだが、よく考えれば貿易地の近くがそんなに荒れてたら荒れてたで魔族の未来が心配になってしまう。

 ただね、異世界特有の襲撃イベントを俺はまだ一度も....ああ、騎士に襲撃はされたな....ルルは元気だろうか。そろそろ計画も実行されてる頃合いだ。俺は計画を聞いて特に何も問題がないような気がしていた。

 だけど、ミハサは残念そうと言うか、心配そうな顔をしていた。

 たぶん、何か波乱がルルを襲うことだろう。

 なんだろうか。国の膿みは綺麗さっぱり粛清してしまえば問題も起こらないような気がするんだが。

 俺はあまり賢くはないから分からないが、ミハサには未来が見えているんだろうな。


 そんなことをたらたらと考えながら歩くこと数時間。

 赤い土の雰囲気は変わらないが、吸血鬼の感覚がピリピリ感じていた威圧感みたいなものが無くなるのを感じた。

 グラルはテリトリーと言っていた感覚なので、恐らくラライヤの監視地帯を抜けたのだろう。

 と、いうことは、だ。

 そろそろ第一魔物が表れるということだ。


 そう考えた瞬間、何やら狼みたいな生き物に角が生えたヤツが集団でこちらに向かってくるのを感じた。

 内心キターーーーッと思いながらニヤニヤしながら待っていると、狼らしき生き物はピタッと俺から100メートルほど離れたところで止まり、俺をじーーーーっと見ると、踵を返してダッシュで逃げていった。


 どうやら、俺はお約束を取り逃がしてしまったようだ。

 逃げたあとに残ったものは心に次にお約束を見つけたら絶対に逃がさない、と思っている諸行無常な顔をした俺だけだった。


 それから先、日が暮れてから狂暴な魔物の活性化タイムに入っているにも関わらず襲ってくる魔物は皆無だった。

 遠巻きに観察しているような気配は感じるのだが、一定以上の距離を詰めることのない様子になんだか寂しくなってきた。

 俺の中の闘争本能が疼いている。

 グラルの屋敷で追加した血液の入った水筒で喉と腹を潤しながら歩いている。

 一歩歩くと一歩下がり、立ち止まると立ち止まるその様子は、なかまに なりたそうに こちらを みている様にもとれるが、まず間違いなくビビっているのだろう。

 たとえ獣でもこうも遠ざけられると、傷ついてしまう。


「....襲ってきてくれてもいいんだよー」


 呟くも当然ながら反応はない。虚しい....

 思えばこちらの世界に来てから孤独を意識したのは初めてだ。

 幸運にも俺の近くには常に親しい仲間がいたものだ。


 俺が悲しみに浸っていると、遠くにいた魔物が決して越えなかった一線を越えて、猛烈な勢いでこちらに突っ込んでくる気配を感じた。


「....!きたきたきたきたきた!!!!」


 思わず、気持ちを言葉に出してしまう。

 いやあ、嬉しいなあ。


 ぐわっと口を開けた四足歩行の鮫みたいなやつが突っ込んでくるのが見える。

 キモい外見からして間違いなく魔物だろうし、血走った目からして敵対行動をとるヤツで間違いなさそうだ。

 内心興奮しながら俺もそちらに向かって走っていく。


 ガッと開けた口で噛みついてくる口を一歩引いて避けると、鮫の頬に手加減して一撃放つ。

 鮫はその一撃を耐えると、俺に向かって吠えると、再び愚直に突っ込んでくる。

 それをいなしながら首に腕を絡めると、大きく投げた。

 悲鳴をあげながら地面に叩きつけた顔を踏み潰すと、俺は静かに余韻に浸った。


今回かなり短め


家族と離れるとフランは暴走します

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