第十七話 入都
王都エルラント。
エルラント王国発祥の地であるそこはかなり大きい。
小国郡の一つだったエルラントはこの地にあったのだ。
なんだか伝説の地チックでロマン溢れる話だが、この伝説は歴史が浅いので、俺としては100年くらいしたらまた訪れたい。
吸血鬼的に100年後は思春期くらいだろうし
その都を守る塀に設置された巨大な門の前に今、俺たちはいる。
目が痛くなるほどの白、というより歴史を経てややくすんだ白は、渋くて大変よろしい。実に俺好みだ。
門の前に到着すると、そこには長い列が出来ている。
入国、もとい入都審査の列だろう。
なぜなら商人とおぼしき人が多くいるからだ。
この世界、武官を重宝する傾向にある。
なぜなら、戦争がいつ起こるか分からないからという理由と、魔獣の存在があげられる。
極端に言えばグリフォンとか竜種だとかが表れた場合、そいつに街を破壊されるという危険がある、という理由があるからだ。
竜に滅ぼされた国の話なんてのもあるので武官が重宝されるのも分かる話だ。
しかし、エルラントでは文官も積極的に雇っており、給与の差も、ある程度以上の身分になると変わらなくなるらしい。
ある意味次世代的な方針を立てた理由の一つはやはり勇者の存在がある。
戦争になったとき、勇者は一軍にも匹敵する力を発揮する。
その魔術は大地を割り、その剣は一振りで50人を殺すらしい。
盛ってそうな話だが、そう噂されるだけの力があり、しかも軍略にも長けているらしい。チートだ。
そんな勇者がいるから、兵を国防に集中させることが出来るわけだ。
改めて思う。勇者におんぶにだっこな国だなあ。
もう一つの理由はもう適用されないが、亜人の存在だ。
獣人は人より力が優れ、エルフは魔術に長け、ドワーフは質のいい武器を卸す。
そんな奴等が協力しているんだからそりゃ強いわけだ。
先代王はそんな亜人、勇者に慕われていたんだから英雄と言うにふさわしい存在だった。
そんな彼は文官重宝を推進し、役割分担のきっちりとなされた国は栄華を極めたわけだ。
それは今の王が行政改革に乗り出して崩壊した。
賢王にして英雄も子育ては苦手だったのだろう。
だいたい勇者がすでにいるのに俺を追加召喚するなよ。
欲張ったやつはなんも手に入らないものだ。
この国の未来について考えていると、俺たちの番がきた。
俺は目の色も髪の色もレイに揃えている。三人は兄妹設定で押しきるつもりだ。
「次!」
呼ばれたので門の外に設置された簡易受付のような所で検閲を受ける。
スーは商人ギルド証を出す。
俺たち身分証がない組は、雇われ組であると誤魔化すつもりだ。
一般庶民は個人の身分証なんかこの世界にはないのだ。
実にルーズである。
やるきの感じられない入都管理官の男は身分証を見て、分厚い本をぱらぱらすると、
「ああ、商人ギルドのスーさんね。通っていいよ」
と言った。
まさかのフリーパスである。
遊園地の再入場より雑だ。
「え、いいんですか?」
さすがのスーも目を丸くして問いかける。
「ん?いいから早く通れ。後ろが詰まってるからね」
管理官は腕をひらひらさせて俺たちを急かした。
どう見ても管理していない。
困惑してると控えていた兵士が無理矢理通そうとしてきたので慌てて門を通る。
なにが何やらわからない。
難航する予想はしていたけど、ここまで簡単に通れる予想はしていなかった。
入都管理官は文官の中でもエリートだと聞いていたが、あれがエリートだったら、国はもつまい。
盛大に困惑しつつ門を通り抜けると白い街が広がっていた。
建物も道路も白く染められたその街は非常に美しく、小さく見える城は豪奢で精緻な彫刻が入っているのが見える。
思わず溜め息が出るくらい美しい街だ。
「ようこそ。『白の都』へ」
声のした後ろを振り向くとスーが得意気だがどこか陰がある顔ををしていた。
門を潜ったときが俺の本日のテンションの最大値だっただろう。
わくわくしながら美しい街に入ると、荷物を運ばされる獣人、痛々しい傷跡のあるエルフだとかドワーフが小間使いをしている店があっちこっちに見えた所で俺のわくわくはどこかへ消える。
ぎゅっと服を握られる。
そちらを見ると泣きそうな顔のレイナがいて、その隣では暗い顔をしたレイがいる。
俺は二人の頭に手を当てた。
「わたしが生まれたときからこうなの。お母さんから昔の王都のことは聞いてるからこれが異常だってのは分かってるわ」
スーは呟いた。
俺も首輪をしているのは全員亜人だってのは異常だと思う。
「犯罪奴隷?ってのはいないのか?」
「昔はいたって聞くけど今は亜人以外の奴隷は所持していると厳しく罰せられるわ」
なるほど。
マジで腐ってやがる。
歴史の勉強してれば亜人差別はエルラントの生命線を止める行為だって分かるはずなんだが。
平和は人間をダメにするのかね。
日本もそうだったし。
「勇者様はなにをしてるんだか」
そう呟いたらスーがジト目で俺を見てきた。
勇者は勇者でも俺じゃない方ね。
俺は勇者とかとても柄じゃない。
身の回りを守れればそれでいいや。
正直知らないエルラント国民とかどうでもいい。なんかこの字面だけ捉えると悪いことを言っているようなので決して他人には話さないが、俺は俺が勇者召喚されたって聞いてからずっと思ってたんだ。
何で知らない世界に拉致られた俺が知らん世界を守らねばならんのかと。
勇者さまーって崇められるのもゴメンだし、なにより勇者が吸血鬼とかどうかと思う。
吸血鬼は良くて魔王だろ。
アンデットの勇者とか誰も得しない。
「今日はどこに泊まるんですか?もう暗くなりますけど」
そう助け船を出してくれたのはレイだった。
二日をかけてここまで来たのだが、旅の途中で野宿を経験したレイもレイナも不満は言わなかった。
むしろ楽しんでた。
だけどやっぱり泊まるのならきちんとしたベッドに寝たいのだろう。俺だってそうだし。
水風呂ではあるが、入浴の文化がエルラントにはあるらしいので正直わくわくしているのだ。
「うちに泊まっていったらいいよ。お母さんもシアの家族に会いたいだろうし」
スーはそう言うと、俺にキラキラした目を向ける。
旅の途中もいろいろ聞いたが、フェリシアさんとスーのお母さんは仲がいいらしい。
というかスーママはフェリシアファミリーのお抱え商人だったこともあるとのことなので、フェリシアファミリーみたいなもんだ。
俺もぜひ会ってみたいので、頷いた。
「ああ、ぜひ迷惑でなければ泊めさせてくれ」
「うん!いやぁ、知り合いが自分ちに泊まるのってドキドキするねぇ」
スーはいい笑顔だ。
そうか、こいつボッチだったのか。
いやな事実を知ってしまった。
思わず心の癒しを求めてレイナの頭を撫でてしまう。
こう、ふかふかしてて撫で心地がいい頭だ。
レイナも目を細めて気持ち良さそうだ。
レイは、レイナの話を聞いた日からあまり俺に絡まなくなった。
なにか思うところがあったのか、夜に悩んでいることもある。
気になるがあまり触れないようにしたい。
この世界の獣人の過去はけっこう重いものが多い。
平和な日本から来た俺が本当に共感してあげることなんか出来ないだろうしね。
「でもいきなり泊まるって言ってお母さんはなんも言わないの?」
「お母さんはわたしに友達を家に連れてこいってしつこく言ってるし大丈夫だよ」
くっ、涙ぐましい話だ。
こいつとは長く仲良くしていきたいものだ。
そんな会話をしていると、大きな家の前でスーは足を止めた。
「ここがわたしの家だよ。上がって上がって」
驚いたことにかなり大きな家だ。
白が基調なのはどの建物も同じなのだが、所々の意匠が違い、それが家の格を決めているのかと思える。
この家はまわりの家と比べて、意匠のなにかが違うのかと思えた。
芸術とかはさっぱりなのでよく分からないのだが、雑然としている感じだ。
雑然としてはいるが、それぞれの模様の配置が鍵なのか、下品には見えなく、むしろ高級感を感じさせる。
建築の勉強を少しやっとけば良かった。なんだかこう、分からないことがあると少しモヤモヤする。
吸血鬼になってから細かいとこにもよく目がいくようになり、その分わからないことも増える。
まあ、俺の寿命はかなり長い。気長に勉強していこう。
俺たちは門を潜る。
「ただいまー!ママー?いるー?」
そうかそうか、家ではママって言ってるのか。
友達の家に行くとこういう小さな発見があってなんだか気恥ずかしい。
「おじゃましまーす」
「ん?邪魔なんかじゃないよ?」
.....なるほど。
日本語のこういう表現は異世界にはないのか。
やめろよ恥ずかしい。
こら!レイもレイナもそんな顔で見るんじゃない。
俺が顔を赤くしていると、足音がして30くらいの茶髪のお姉さんが出てきた。
スーに似ている。お姉さんかな?
「おかえり、スー。そちらの方たちは?」
「ふっふっふ。驚かないでよね。なんと!シアの家族です!しかも血族の方だよ!」
そう、スーが得意気な顔をして話すと、お姉さんは驚いた顔を見せて、俺に近づいてきた。
「なるほど!この色気はやっぱり吸血鬼のものなのね!始めまして。私はスーの母、ルールよ」
ふーん、ルールさん、母、ね。
なるほど。
いろいろ残念だがスーも一応美少女だ。
その母なら若く美しくも見えるだろう。
なんとなく納得するものの、俺も挨拶する。
「始めまして。俺はフェリシアさんの家族。血族ですね。始祖のフランです。あと、こっちの二人がそれぞれレイナとレイです。こら、挨拶しなさい」
俺は借りてきた猫のように大人しくなっている二人を紹介する。
「始めましてレイです。」
「....レイナ」
おとなしい、というか怯えてるみたいだ。
この国での獣人の扱いを見て、怯えてしまったのかな。
レイは流石と言うべきか普通に挨拶をできたものの、やはり表情は固いし、レイナなんか俺の後ろに隠れている。
「あらあら!二人とも可愛らしいわねぇ」
「お母さん、その二人は獣人だよ」
スーはさらっとそう言う。
この娘は!本当に空気を読もうとしないんだから!
レイナとレイはビクッとして、レイナは一層強く俺に抱きつき、レイも俺の後ろに隠れた。
「....まったく。スー?いきなりそういうことを暴露すると怯えるって分かるでしょ?本当にあなたは昔からそうやって空気を読まないで発言する。それは商人として致命的な弱点になるって教えてきたでしょうが。あなたが本当に私の後を継いで商人になる気があるのならその癖を一刻も早く直したほうがいいわ。だいたいあなたはこの前も...」
説教が始まった。
スーの目は泳ぎに泳ぎ、やがて視線がおれに固定されると目線で助けを求めてきた。
スーよ。残念ながらルールさんの言うことは全くもって正論だ。
友達としてもそこを治してほしいので俺は静観するぞ。
二人のやりとりを見て、レイナとレイは目を白黒させている。
攻められると思っていたら目の前で説教が始まったのだ。
その反応もやむ無しだろう。
「お、お母さんお母さん!ほほ、ほら。お客さんもいるんだし。ね?お客さんの前でこういうのはどうかなー、って思うんだけど」
「あらあら!すいませんねえ。この子は言っても言っても聞かなくて」
「ああはい。わかりますよ」
「む!フランちゃん!」
しょうがない。
スーの人となりをわずかにではあるが見てきた俺はお母様の味方だ。
「まあ、とりあえずお説教はあとでするとして、そちらの可愛らしい娘さんもどうぞ上がってくださいな」
レイナとレイは迷っているようだが、ルールさんを悪人だと思わなかったらしく、
「....はい。それでは入らせてもらいます」
というと上がった。
俺もそれに続き、洋風な世界らしく靴を脱ぐ文化はないようなので土足で失礼する。
「ああ、改めまして。ようこそ。我が屋敷へ。歓迎します」
そう言うとルールさんは微笑んだ。
◆
結果的に言うと、ルールさんも亜人差別反対派だったようだ。
いろいろと手を回しているが歯牙にもかけられないどころか、王都での商売に圧力をかけられたらしい。
だから昔やっていた旅商人のほうに専念していたのだが、三年前にこの国の姫様ミハサ姫によって圧力の撤回をしてもらったらしい。
ミハサ、ミハサね。なんとなーく聞き覚えがあるが、どこで聞いたのかまったく覚えていない。
本かなんかで読んだのだろうか。
ミハサ姫は才気の溢れる人物らしく、亜人差別に反対し、不遇な境遇にあったものをそれとなく助けたり、必要があれば注目を受ける方法でも助けたりしていたらしい。
しかし、亜人差別派に攻撃をされることもなく、王から追放処分を受けないのは上手くやっている証拠だろう。
「そもそも私は今まで仲良くしていた別種族の皆さんを奴隷にしたりして虐げて愉悦に浸る亜人差別派は大嫌いです。同じ空気を吸うのも汚らわしい」
という彼女は本心から怒っているようで、レイもレイナもその言葉を嘘だと思わなかったのだろう。今では普通に接している。
「でも、今の王都でそんなことを言おうものなら追放処分を受けてしまうでしょう。ミハサ姫にも止められています。静観しないといけないのは本当に苦しくてたまりません」
そう言って唇を噛み締めた。
姫様が止めた理由は、有能な商人や貴族などが追放されるのは国として不味いと思ったからだとか。
それすら考えず、いや、考えてなのかもしれないが亜人差別を推奨している王様が国のトップとは、この国は大丈夫なのだろうか。
「昔はこのような国ではなかったのですよ」
そう言ってかつてのエルラントを優しい目で語っていく。
小さな国ではあるが、多種族は仲良くしていた。
しかし、群雄割拠の時代がやってきて、戦争せねばならなくなり、手を取り合って周辺諸国と戦った。
形勢が危なくなったエルラントは勇者を召喚。
初めは消極的だった勇者はこの国の現状を見て、やがて王と仲良くなり、手を取り合って統一した。
そんな昔ばなしと、その後の国の建て直しで、いかにドワーフや、エルフ、そして獣人と共に未来を築いたのかという彼女の子供の時の話を。
それをレイナとレイは目に涙を浮かべ、真剣に聞いていた。
獣人である彼女たちだからこそ思うところがあるのかもしれない。
俺は勇者について考えていた。
今の話と亜人差別が行われたときの話を考えてみると、勇者は三人いる。
エルラントを統一した時代の勇者。
亜人を国から追い出し、フェリシアさんの吸血鬼の国を破壊した勇者。
そして、俺だ。
俺はまあいいだろう。
アホな王が召喚し、失敗した、そんな感じだと予想している。
問題は最初の勇者だ。
勇者の成したことは分かるが、勇者の最後が分からない。
本にも書いてなかったし、人伝にも聞いたことがない。
王が崩御すると同時に姿を消したらしいのだが、その最後がまったくわからないのだ。
姿を消してそこで終わり。なんてのはここまで有名人だとありえない話だ。
どこで何をするにしても目立つはずだし、情報がまったく入らないというのはどう考えてもおかしい。
ありえる話としては魔大陸に渡ったというところだが、どうやって渡ったのか。泳いでか?んなバカな。
何にしても情報が少なすぎる。
考えてみれば二人目も謎だ。
勇者はデカイことをやってこそ勇者だ。
始祖の吸血鬼を討伐、とそれだけを聞くと勇者っぽいし納得もできる。
だが、王のパシりになって亜人を排斥するなんて勇者ではない。
そしてなによりその人間性が掴めないことが謎だ。
一人目の勇者は清廉潔白ではないが、挫折あり、苦難ありの道だったと、今リアルタイムでルールさんが話している。
この国の商人なのだからある程度信憑性はあるだろう。
しかし、二人目の勇者にはそれがない。
まるで人形みたいなのだ。
ふらっと王の命令を聞いて行動しているし、やってることが全て王のメリットになることから考えてもノーと言えないパシりくんだったと分かる。
俺にも宿っているが、勇者の刻印のもたらす力は強大だ。
なんていったって吸血鬼の力を押さえるくらいのものなのだから。
そんな力を持っていてただパシりに甘んじるなどにわかには信じがたい。
本当に俺には分からんことばかりだなあ。
まあそれだけこれから先の長い人生に張り合いがあるってものだが、勇者と、自分に関わりがある話だけあって分からないのは非常にモヤモヤする。
「感動しました!」
そんな言葉で俺の意識は戻された。
その声はレイのものだった。
「私は勘違いしていたんですね。謎が溶けた気分です」
そう頬を紅潮させて涙を流し、話す姿はつい先程までなんだか思い悩んでいた少女のものとは思えない。
涙、そう彼女は泣いていた。
「えーっと、そんなに感動してくれたのは嬉しいけど....大丈夫かしら?」
「はい...!今は泣かせてください...」
下を向いて流す涙は床にぽたりぽたりと落ちる。
なにがなんか分からないが、泣いた女の子を放置するのは男としていかん気がする。
俺はレイの頭を撫でる。
レイは一瞬びくっとしてから俺の顔を見ると、胸に抱きついて声をあげて鳴き始めた。
俺は焦り、なんも悪いことをしてないのだが罪悪感がわいて、ただオロオロとするのであった。
レイの懺悔は次の回で
寒くて手がかじかむ....なんだか書くのが億劫になってきましたが、エタらないように頑張ります。
なんか悪いところあったらご指摘お願いします。




