第十二話 騎士団
そういうわけで獣人のみなさんを助けることになった。
最近急に増えた捜索隊って勇者捜索隊な気がする。
となると早いとこ勇者として何かしないと国民の血税で亜人を傷つけるという俺としては最悪な悪循環を起こしてしまう。
それに騎士団だかなんだか知らんが負ける気はちっともしない。
余裕で勝ってしまうだろう。
決してフラグではない。
「我ら一族のためにすまない」
「なに気にするな困ったときはお互い様ですよ」
「ははっ、そんなに念を押さなくても君たちの一族救出に協力するさ」
熊のおじさんは今の言葉を念を押したと考えたらしい。
お互い様の精神は異世界にはないのか。世知辛いねえ。
「ところで熊さん。なんで獣人討伐のために騎士団が出張るんですか?」
熊さんといっても耳以外は厳ついおっさんだ。熊さんは熊さんでも、大工の熊さんとか鍛治師の熊さんとかそんな感じの熊さんだ。
「ああ、さきほども説明したが我らは弾圧されることを協力者から知らされてな。いち早く逃げ出した一族なんだ。そこで獅子の一族から姫を預かっていて今確認されている王の因子を持つものは彼女だけでな、だからこの機会に一掃する気なのだろう」
「協力者、ですか。その人は信頼できる人なんですか?」
スーが可愛らしく小首を捻って確認をすると、熊さんは誇らしげに笑いながら
「この国で一番な」
と笑いながら言った。
王の因子とかいろいろ気になることを言っていたなあ....
この一件が無事解決したらいろいろ聞いてみよう。獣人のこととか実は結構気になってたしね。ケモミミケモミミ。
◆
熊さんが弓を使えるものを呼びにいく、と言って去ろうとするのを引き留めたり、目を覚まして騒ぎだした襲撃アニマルズを宥めたり、俺の仕草に萌えたスーが襲ってくるのを撃退したりしながら待つこと1時間。
最初は騎士団が来るからか緊張して殺気立ってたアニマルズの雰囲気もいい感じに和やかになり、雑談する余裕も生まれてきたとき、俺は一人立ち上がった。
「きたか.....」
呟くが周りはきょとんとしている。
何キロ先かまでは分からないが一際大きな気配を先頭に、洗練された、というのか、ガチャガチャしてない感じの気配が纏まって此方に向かってくるのを感じた。
「む?まだ匂いはしないが....。っ!」
どうやら熊さん達アニマルズも気がついたようでスーだけがぽやーっとしてる。
こいつは何だかんだ大物なのかもしれない。
「スー、一応お前はフード被っとけ」
「分かった」
スーは大人しく言うことを聞くと、フードを被る。俺も髪と目を金に変える。
それとほぼ同じタイミングで綺麗な銀色をしておきながら、長く使っていることが分かる鎧をつけた集団が街道の向こうに見えてきた。
俺は初めて鎧を見たことで結構興奮している。
重厚感のある金属のかたまりが統率の取れた動きで迫ってくる姿はかなり威圧感がある。
もし俺が役目もなくてただ出会っただけなら間違いなく目を伏せて道を譲る。
というかあんなクソ重そうな物を着て王都からここまで来たってことが尊敬に値する。
魔法か?魔法なのか?
アニマルズもフードを下ろしており、俺だけが素顔をオープンしているからか正面にいた騎士が俺のとこへやってきた。
金髪碧眼のイケメン。危ない、俺が女なら惚れてる。
イケメンは俺へ見事な一礼をする。
「お嬢さん、この近くで獣人を見なかったかい?」
甘いマスクに合う甘い声だが、目と気配は軟派なものでは決してない。
冷静にして勇猛、そんな言葉が似合う。きっと彼は何事にも動じない鋼の心をもっているのだろう。
くっ、一筋縄じゃ行かなさそうだぜ....!
「おい!後ろの連中!フードをとれ!」
空気を読まない後ろのモブ騎士。
まあ、俺でもそうするが。
おそらく考え方の違いだろう。国民に不信を与えたくないイケメンと任務を優先するモブ。俺の考え方はどちらかというと後者だ。為政者として優れるのは恐らく前者だろう。
「えーっと、あっしの顔は醜くとてもとても騎士様に見せられるような顔じゃないんですだ」
「いいから見せろと言っている!」
アニマルズの誤魔化しは無駄のようだ。
モブ騎士は強引にスーのフードを取ろうとする。
「きたねえ手で触るんじゃねえよ」
俺は言うと、その手を握りつぶした。
スーは頬を紅くしているが、俺がフランであるとき限定のデレだろうなと思えてしまうあたり、こいつのことが分かってきてると思う。
行動を起こした瞬間、イケメンもその後ろにいた騎士たちも一斉にこちらに向かって隊列を整える。高い練度が伺える動きだ。恐らく、俺の力を見て人間じゃないと判断したんだろう。
余計なことをしてしまった。
先程のイケメンは、厳しい顔になると、何も言うことなく剣で斬りかかってきた。
ゴウッと空気を斬る音は、先程の獣人とは比べ物にならない威力と理が乗っており、何かしらの武術を知っているのだと感じた。
その鋭い一撃を獣をも凌駕する動体視力で見切り、紙一重でかわす。
しかし、その斬撃はそこで終わりではなかった。
プログラムされたように、人間の知覚速度ではあり得ない速さで剣が俺を追ってきたのだ。
それは俺の額を切り裂いた。
「があっ!」
鮮血が飛ぶ。痛みに思わず叫ぶが、三年間耐えた痛みはこんなものじゃない。まだ耐えられる。
すぐに俺を切った剣に手を添えると、そこに渾身の魔力を注ぎ込む。恐らくオリハルコンで出来ているであろうその剣は、限界魔力容量を越えてくだけ散る。
リミッターを30%まで解放しつつ、アニマルズとスーを抱え、大きく後ろに飛んだ。
すると、それに合わせて後方に控えていた騎士団が火球を放つ。
舌打ちをしつつ、30%解放パンチを放つと、火球は弾ける。
腕の骨が折れる痛みに眉をしかめつつ、アニマルズとスーに手で下がれ、と告げ、間髪入れずに騎士団へと飛び込んだ。
50%まで解放し、イケメンの放った徒手の技を魔力で弾き、5人いる騎士団の後方、魔法使い二人に同時に蹴りを放つことで処理する。
吹き飛ぶ二人はとりあえず無視し、今の攻撃で砕けた足を再生し、同時に目の前騎士にチョップを放つ。
それは騎士の見事な鎧を砕き、中にまでダメージを与える。
「アハハハハハハハハハハ」
思わず笑いが出る。
なにがおかしいってゴミみたいに強いはずの人間が吹き飛ぶのが愉快で仕方がない。
「楽しいか、化け物」
俺は迫ってくる剣に噛みつき、噛み砕いた。
その剣を持っていたのはイケメンで、剣は拾ったものみたいだ。
「ああ、楽しいね。こちらにきてからは初めてかもしれんな、こんなに楽しいのは」
「こちらに来て?どういうことだ?」
「答える道理はないね!」
俺は渾身の突きを浴びせる。
ヤツはそれを受け流し、カウンターのように剣を奮う。
1合、2合、3合、奮い合うたびにお互いの力量が上がっていくように錯覚する。
たまらなく楽しい。奮う力が洗練されていくのを感じ、どんどん体を制御出来るようになる。
切り下ろされた腕が体から離れるのが楽しくて仕方がない。
降り下ろした拳が鎧を紙のように裂くのが楽しくて仕方がない。
俺はまた笑っていた。
ヤツは焦燥を見せていた。
「ちっ、楽しいのかよ化け物」
「ああ、楽しくて仕方がないよ。お前は楽しくないのかい?」
「勝ち目の見当たらない戦いは楽しくねえな」
俺は笑う。さて、遊びを続けようか。
気配は気づいていた。
しかし、嫌な予感はしなかったから通した。
スーが俺に抱きついてきた。
「そんなフランちゃんには萌えらんないから正気に戻りなさい!」
....こいつは本当に自分勝手なやつだ。
さっきまで楽しくて仕方がなかったのに今はなんであんな興奮してたのか分からなくなった。
正直惜しい気もするが、さっきの俺をフェリシアさんが見たら悲しむ気がするしね。
「とりあえず感謝しとく」
冷静になった頭で俺はそう、スーに言う。
その言葉を聞いたスーは悶えた。
「あー、もう戦う気はない。その転がってる騎士たちを連れて王に伝えてくれ。獣人には化け物が着いた、と」
ふむ、と少し考えたあと
「承った。最後に聞きたい。貴様の名はなんだ?」
と聞いた。
「フランだ。吸血鬼だよ」
ウインクをしてやるとイケメンは眉をひそめた。
「『フラン』か、分かったよ、伝えとく」
そう言うと、起きた一人の味方と共に騎士を背負って去っていった。
お兄様は妹からフランのことを聞いていたんでしょうか




