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不死属性の生き方  作者: ひみゃらや山脈。
第二章 エルラント王国編
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第十一話 獣人

 俺とスーは馬車に揺られながら歌っていた。そう、ドナドナである。

 出発してから暫くはエルラント王国の話や、フェリシアさんの話を基軸に、雑談をしていたものの、俺の爆心地ことサリオン荒野を走るころには会話も尽き、無言でいた。

 俺はこれでも寂しがり屋である。

 沈黙とか30分耐えるのもキツい。

 沈黙に耐えかねた俺がドナドナ(ジャズバージョン)を口ずさむと、スーはすぐにリズムを掴み、追従し始めた。

 そして序盤に戻るわけだ。


 歌う俺たちを乗せた荷馬車は荒野を抜けると街道に出た。は

 街道といっても整備もなにもされておらず、走る馬車と人の足で固められた、といった感じだ。

 なんでもサリオン荒野は迷宮と呼ばれているらしい。中にはいるとこの街道に出てしまうのだ。

 正体はフェリシアさんの魔術であるらしい。

 安定してパねえフェリシアさん。


 スーは完全に暗くなる前に夜営にすると言い出した。

 旅初心者は玄人に従う。俺は当然賛成した。


「暗くなってから準備を始めると危ないからね」


 と、いいながら荷馬車に布を被せたりしていると俺が乗っていた荷馬車の荷物部分がテントになった。

 床で寝なくていいから寒くないらしい。


「俺なら夜も昼のように見えるけど」

「アンタこのテントの設置方法知らないじゃない」


 たしかに。

 そう言えば吸血鬼なのに俺は夜行性じゃない。太陽だって平気だ。この世界のか吸血鬼はみんなこんなもんなんだろうか。


「アンタはスープ飲む?」

「あ、俺は血だけだ大丈夫なんで遠慮しときます」

「そう?なんか悪いわね」

「いや、気にしないでくれ。そういえばこの血袋と樽に入れるとなんで血液が新鮮なままなんだ?」


 水を入れる袋は水袋、血を入れる袋は血袋だとフェリシアさんに教わった。

 だがなんで腐らないのかは失念していたので非常に気になる。


「なんだっけ。抗菌?だかなんだかの魔法文字が刻まれてるとかなんとか。ちょっと魔法はわかんないわね」

「ほぅ、やっぱり魔法なのか」


 ジーっと袋を見ているとうっすらと文字が見えるが全ては見えない。

 裏に刻まれているのだろうか。全部飲んだら調べてみよう。


「ところでその、血ってどんな味がするの?」


 なぜかもじもじするスー。


「ものによるなぁ。エルフの血はなんとなくフルーティーだし、ドワーフの血は塩辛い感じ?人間はもっと多種多様だね」


 説明してるとなんか犯罪的な話をしている気がしてきたが、俺にとっては米の銘柄の味を語るようなものなのでセーフ。


「私の血はどうなんだろう.....ちょっと飲んでみる?」

「知り合いの血はあんま飲みたくないなぁ」


 なんとなく罪悪感があるからな。


「そういえばこの世界だと血を吸われると吸血鬼になるの?」

「んー、聞いたことないわねぇ、シアが言うには契約を交わすって言ってたけど」


 契約ねー。わからん。暇があったら調べてみよう。


「でも、凄いわよね、吸血鬼」

「ん?」

「だってその姿とか色々便利だし」


 ちなみに俺の今の姿はフランではなく美化した工藤巽のものだ。

 どうやら人間に変身って言っても自分の顔をベースにある程度までしか変身出来ないみたいだ。

 俺の場合ベースが二つあるから幅が広がるが。


「これが死ぬ前の俺の姿だからな」


 ちょっと盛ってるが。


「はーん、元も後も美形とか羨ましい事ねー」


 ちなみに今の俺は身長180ちょっと体型は引き締まった感じのナイスガイに調整してある。

 変身ばんざーい。


「ふふん、羨ましいか?」

「そうね、私がもっと美人だったら売り上げ上がるかもしれないしね」


 ここでも商売か。

 見上げた商魂だ。


「十分可愛いと思うけどな」

「そういうのはフランちゃんの姿で言って。ペロりたいから寝るときは元の姿に戻りなさいよね」


 どうやらこいつはフランちゃん男の娘発覚事件を経て可愛ければ男でも女でもいいじゃない、という結論に至ったらしい。

 嫌な方向に成長したなあ。

 まあ俺もブリジッ○ちゃんや秋月○をかつて愛してたこともあった。気持ちは分かる。

 愛でられる対象でなければだが。


「いやいや、交代で見張りに出るからそんな一緒に寝る暇なんかないっすよ?」

「理屈ばっかの男はモテないわよ、私が貰ってあげる」


 身の危険を感じたので俺はぐいっと血を一気飲みするとほ、星空を見てきますと言い残して外に出た。


 先程まで明るかったのだがすでに外は真っ暗で、野営するタイミングの良さにスーの旅の経験深さを感じた。


 空は満天の星、というか気持ち悪いくらい星が見える。

 星座は詳しくは知らないけどメジャーなオリオン座とかそこらの星座が見えないことがなんだか寂しく感じた。

 俺はこの先ちゃんとこの世界でやっていけるのだろうか。

 元の世界の家族の姿が脳裏に浮かぶ。

 いかんな。

 なんかナイーブな気持ちになってしまった。

 俺はもう決意したんだ。

 フェリシアさんの家族、フランとしてこの世界でやっていくことを。


 翌日、起きたら変身が解除されてて隣ではスーが寝ていた。


 ◆


「いや、だから悪かったって。見張りを終えてテントに戻ったら天使がいるんだもん、一緒に寝るしかないじゃん」


 悪いと思ってるやつの態度ではないね。

 スーへの罰として荷馬車から下ろして隣を走らせている。

 御者は俺だ。というか命令したら馬が言う通りに走ってくれるのだ。

 吸血鬼の能力をまたひとつ発見した。

 動物に好かれやすい。

 ムツ○ロウさんかよ。


「ねー、そろそろおねーさん限界ちかいなー」

「おねーさんじゃねえよ。お前の方が年下だろうが黙ってキリキリ走れ」


 あー、そういうのはフランちゃんの姿で言ってー、とか言ってるスーは間違いなく変態だと思う。

 早いとこちゃんとした宿に着かないと俺の貞操が危ない。

 なるべくエクスカリバーは顕現させないようにしよう。付いてると俺も血迷いかねない。


 そんなことを思っていると、不意に気配を感じ、馬を止めた。

 隣でひーひー言いながら走ってたスーも足を止めて荷馬車に垂れかかる。


 人間の気配なのだが、なんだかザラザラした感じで俺の嫌な予感センサーもビンビン反応してる。


 すると、矢が俺に向かって飛んできた。

 たいした速さでもないので難なくキャッチする。


 ビュンビュン音をたてて飛んでくる矢、計30本くらいをキャッチしては地面に刺しを繰り返して処理するとやがて矢が止んだかと思うと雄叫びを上げて人影がこちらに向かってきた。えーっと6人くらい?


 先頭にいるやつの奮う剣を片手で白刃取りして、顔にビンタをする。

 二人目、三人目も同様に対処すると動きの止まった四人目、五人目のそばに行き、顎にでこぴんをして倒す。斧だとか槍だとか持ったやつもいたが、ヤモリとイモリ程度にしか変わりがない。

 そもそも刺さっても再生するし。


 六人目は素手だった。いや、なんかゴッツイトゲトゲしたメリケンサックを着けている。

 迫ってくるそれを当たると痛そうなので回避すると、ジャブのようにしながら攻撃をしてくる。

 5、6発回避しても終わる気配がないので飛んできた拳を腕を掴んで泊める。


「なにか御用ですか?」


 とりあえず聞いておく。

 もしかしたら切羽詰まったトイレを探している人かもしれないしね。


「貴様、何者だ!」

「旅人ですが」

「騎士団のものか!」

「いや、だから旅人ですって」


 会話にならないのでメリケンサックの男にもビンタをかます。

 吸血鬼ビンタは当たるとゴッと嫌な音をたてて、相手は問答無用で気絶する。リミッターがかかっている10%にも満たない力だ、死にはしないだろう。


「こいつらも始祖吸血鬼を襲うとか運が悪いわねえ」


 そういいながら倒れた男を突っついていたスーは眉をしかめると男の被っていたフードをおもむろに捲った。

 するとそこから出てきたのは熊耳。


 獣人だ。


 吸血鬼はアニマルに好かれやすい。ここは俺の出番が来たのかもしれない。


 アニマルズを念のため縛り上げ、目を覚まさせる。

 映画でよく見るなんか背中で気合いをかけて起こさせるような技は俺にはないので、このビンタで起こす。

 ビンタ万能説。

 そういえばこいつら弓を持っていない。

 矢が飛んでこないってことは逃げたのかな?

 気配もしないし。

 何も盗らないで逃げる盗賊ってなんだよ。


「うっ....あっ?」


 お、起きたかな?


「やあ、おはよう」

「っ!貴様は!」


 にらみ殺さんばかりに睨んでくる。こわい。


「凄んでもなんも出んぞ」


 とりあえず余裕ですよ、と虚勢をはっとく。


「貴様はまた俺の家族を奪いに来たのか!!人間めっ!」


 熊のおじさんは汚い言葉を吐いてくる。


「お前らは盗賊じゃないのか?」

「貴様らが盗賊だろ!俺達の家族を奪い何もかも持っていく!!」


 なんとなく読めてきた。

 これは勘違いパターンかな。


「なんかよくわからないですけど俺は貴方たちに危害を加える気はありませんよ?」


 後ろでスーがもう加えてるんじゃ.....とか言ってる。まぜっかえさないでほしい。


「そんなに血の臭いを漂わせといてよく言う!それだけの濃密な臭いだ。殺した数は100以上だろう」


 ええ、主食ですので。とは言えず、なんかもう色々めんどくさいので正体を明かすことにする。

 ようはこいつらあれだろ?エルラントで弾圧された獣人の一族だろ?なら味方だ。敵の敵は味方。同じような境遇にあるこいつらは味方だ。

 俺は変身を解く。


 みるみる縮む身長、ガッシリした体格は華奢に、イケメンな顔はラブリーな顔に。

 逆変身シーンは何気に貴重かもしれない。


 そしていつものフランちゃんに戻ったとき、熊のおじさんは唖然とした表情を浮かべていた。


「な、なんだ?」

「俺は吸血鬼である」


 なんとなく格好つける俺。

 さっき戦闘したせいか妙に血潮が熱くなっている。

 戦闘狂の吸血鬼がいるのも納得だ。


「吸血鬼?ならたしかにこの濃厚な死の臭いも納得だが、なぜ貴様らがこんな所にいるのだ?」

「同族を助けに王都に向かっていてな」


 ここは一応正直に答えておこう。

 なにか助けになってくれるかもしれないしな。


「ならば我らを助けてくれないか!きっと貴公の同族を助ける手助けをする!だから我らの一族を助けてくれ!」


 おや?

 獣人は誇り高い一族だと本で読んだことがある。

 その獣人が頭を地面に擦るようにして助けを乞うってことは相当切羽詰まってるのか?


「なにがあったんだ、まずはそれを教えてくれ」

「我ら一族は王都からいち早く逃げ、ここの近くの森に避難することができたのだ。しかし、最近急に増えた人間の捜索隊に偶然見つかってしまい、今こちらに騎士団が向かっているという情報が入ったのだ。闘える者は今ここに転がってる奴等と弓を射た者達のみ。このままだと全滅は免れん!貴公が吸血鬼ならばきっと騎士団にも対抗できるはず。どうか、どうか助けてくれ!」


 そう一息に言うと再び頭を地面につけた。

 この焦り具合嘘とは思えないし、たとえ嘘だとしてもこいつら程度なら100人いても殲滅できる自信がある。


「ふむ、どうするか」

「ちょっとちょっと、フランちゃん?助けないの?」


 そう、黙っていたスーが言う。

 スーはこちらをじっと見ながら


「シアならきっと助けるよ」


 と言った。

 たしかに。ならば選択肢なんかあってないようなものだ。助けるか。


「分かった。きっと君達を助けよう」


 とりあえず寝てる奴等を起こさないとな。

今回はかなり長め

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