メタマグ最後の日
殺す気はない、それはこちらの都合。向こうの気迫に圧されず押し返す。言葉で言えば簡単だ、でもこっちはそれでもやはり押し負けるだろう。負けない理由それはあっちだってある。
部屋を出て階段を下りる
「こんな時間にどこへいく?」
「決着をつけに」
それだけ言って玄関から鉄砲玉のように走り出す。ここで俺が懸念することは俺の家が戦場になることだ。
それだけは避けなくてはならない。
「宏継?どうしたの?」
「くそ!?」
お節介な奴だよ本当に!!出てくるタイミングが悪いんだよ!出直せ!部活帰りとはね。無視して走る!
「ちょちょっと!?」
「悪い!話は明日!生きてたらな!」
香代美は巻き込めない。追ってくるほど暇じゃないのか黙って不機嫌そうな顔で見送ってる。なんだよ、今日死ぬかもしれない男にその顔はないだろ。せめてもう少しだけでも…奴に何を期待する?
走れ!走れ!走れ!できるだけ遠く!追ってきてるだろ?ついてくるとはね。でもここまでか…
ヒュン!
風を斬る音が聞こえたからとっさに身を屈める。走る速さはこっちのほうが上だったらしくこれ以上引き離されないために放ったものかもしれない。投げナイフは音もたてず闇に消えた…振り向く勇気が出ない…それどころか何も投げてこない…
「ははっ…びびってるのか?脚が震えてやがる」
死ぬ!敵は殺す気できてる!拳を固めて後ろに放つ!
当てない、あくまで牽制。俺の拳の届く範囲が今の俺の射程範囲だ!
気迫の一撃はもちろん外れた。俺は困惑した、拳が当たらないことはわかってた。それではない、投げナイフだった。投げた奴は誰だ?
暗闇しかない。いい加減目はなれてる。遮蔽物も無い田舎道だから多少の門はあっても見えないなんて事はない。ナイフを投げた奴がいない。突然闇から飛んできたのか?違うだろ。冷静に考えろ、見ただろ前に身近にこの現象をさー!
「透明化!砂鉄を身に纏うこれは!」
闇の中、何時も聞こえる田舎の夜の音。俺は何度も耳にしている。ゆえに逃さない、異音を。地面を蹴る音を!距離おおよそで8メートル以上…警戒されてるのかそこで止まる…
「待てよ…なんで止まる?アウトローが怖い、警戒するならアウトローの射程範囲外だ。近距離攻撃型だと言っていた。だから近づかない、でも本当に近づけないからあそこでいるのか?」
俺が攻撃できない遠距離から攻撃するすべがあるのかもしれない。でも前に発動した二回もどちらも近距離からだ、俺にそこにいたことがバレる可能性もあるほど近く!
「前に現れたのはごく近く…ん?」
あのとき窓の外にこいつはいた。暗殺のプロが敵に姿を見せるか?思わせるための錯覚…だとすれば今のこの距離感は!!
「っそが!!そう来るよな!!」
かなり遠距離からでもメタマグは使用可能とする。でもナイフなどの物体の形状を形成するのに時間がかかるとしよう。敵が一番警戒するのは攻撃から次の攻撃へ移るまでの何もできない時間だ。
俺は接近しないと能力が使えないのに対し、メタマグは時間さえかかるが遠距離から攻撃が可能だ。敵がつけいる隙があるのは能力がいくら強大でも使ってる俺が人も殺してないガキだと言うこと。こちらからメタマグで一方的に攻撃できること(しかしこれは分けられると相手は思っている)俺が戦闘の日が浅い。これが勝負を分けた。
「俺はいくら意気込んでも素人だ…」
闇からナイフが飛んでくる。地面の砂鉄を使えば無限と言ってもいいほど投げられるだろう。敵は隠れながら攻撃、俺はただたんに避けるがそれも続かないだろう。俺は前方に走る。
予想外地面が針山となる。これを待っていたのか…
俺が痺れをきらして突っ込むのを!針山は足の裏に刺さっているがメタマグを血の中に流し込んだ訳じゃない、あくまでちょろまかと動き回れなくするための足止めだ。分けられるのを警戒しての作戦だろう。ナイフが飛び出す。腕に刺さる。ナイフが飛び出す。腹に刺さる。景気よく的になって刺さる。
「あくまで遠距離からじわじわと…ナイフをアウトローで弾いてないことから察しがつくだろ…」
この声が聞こえてか透明化を解いて目の前、針山まで
歩いてくる。前より落ち着きがある、殺し屋が姿を見せる。これが奴の敵に対しての最後の敬意なのだろう全然嬉しくない、殺されるからな。
「最後に言い残すことは?」
「そうだな…最後じゃないってことかな?」
「終わりにしてやる」
地面の砂鉄が浮き上がりナイフの形に形成される。
急所を狙ってくる、時間がかかるのが弱点その1だ。
俺は握っていた土を投げつける。と言ってもただの土だこの辺の田んぼの少し粘土質の土だ。それは防弾アーマーのような戦闘服にへばりつく。敵は最後の苦し紛れとしか思わないだろう。
「死体は処理して証拠も残らん。失踪…で片付けられるだろう」
構えたその時だいきなり浮いて田んぼに転がりだす!
俺は土の塊を半分に割って持っていた。時間差で発動も出来るよう訓練した。へばりついた土は元の田んぼに戻るのだ。これで避けたはいいが…
「針山なんて痛いじゃねえか!もうプッツンきたぞ!
止めらんねぇ!!」
痛みが恐怖を薄れさせる。走れない、跳び跳ねるようにして突進する、今はそれしか出来ないからな。ナイフは道端に落ちて砂鉄に還る。これで新しいナイフを作り出すのに時間がかかる!わずかな時間差で決めるんだ!
「それでも甘いんじゃないか?」
太股のホルスター、拳銃を引き抜く。サイレンサー付きで撃ってもここでは誰も気づかないだろう。銃口が標的に向けられこっちを見る。銃口のライフリングまではっきりと見えた。照星と照準を合わせてる、俺は限界まで横に身をよじる。体勢なんて気にしない大胆な行動だった。正体を現した時から警戒はしていた。
手榴弾の他に武器があるんではないかと。ホルスターに納められた銃を知っていた。知っていたが防ぐ術なんか知らなかった。俺の単純な経験不足だ。
パシュッ!
渇いた音、くぐもった音が聞こえ、横腹がじんわりと熱くなる。熱した鉄を押し当てられた気分だ。俺は力なく倒れこむ寸前体重を足に乗せ、バネのように突進した。後が残らない最後の残り火だ。
再度放たれた弾丸、見える、空気を切り進んで飛んでくる弾丸が見える。かわすのだ、まるでアウトローになった気分だ。俺の右ストレートが飛ぶ。弾丸は右手をつきだしたことによってそれたと思われた。だがそれも敵の作戦の内だった。油断…だった。
高速回転運動をする弾丸を見切るのはもはや人間技じゃない、アウトローのお陰だろう。問題は弾丸、材質は鉛…ではなく鉄なのか?なんにせよ弾丸から針が飛び出した。針ネズミのごとくでも俺は腕を限界まで引き伸ばす…
ブシュン!!
血が出た、だがその痛みを神経が脳に運ぶより拳が何かを吹き飛ばしたと言う情報が先に届いた。
「ウラァァァァッ!」
怪我を引きずった足からバネのようにはぜる力そのままつきだした拳から放たれる一撃。それが速かったのだろう。弾丸からでた針は消えたそれは戦闘不能を意味する。
柔らかい土の上に寝そべる女の顔に確かに当たった一撃は無意識に発動した俺の能力でなんの変てつもない。
「終わったな…殺せ」
指差す方向には拳銃が、それで止めをさせという事なのだろう。
「いたいけな少年に人殺しを?勧めるならもっと別にしろ」
あえてふざける。
「もう楽にしろ」
死を望む女。
ビギン!!
「うっ…くっ!!」
突然苦しみだす!?怪我はしていない。俺がさせていても治るはずなんだ!これは?
「おい!なんだってんだよ!」
「わ…私は…作られた…だ。…無しには生きられない体…失敗した作品は…必要…無い!」
途切れ途切れの声、何を無しには生きられない体なのかはわからないでもようやく暴れている犯人を見つけた。頭が沸騰しそうになる…
(なんだよ!制御できてないんだろ!メタマグが暴れてる!このままでは!)
分ける…これはアウトローの能力だ。アウトローは俺の能力なんだ。使えるはずなんだ!あのときを思い出せ!冷静さを欠いて焦っていた。
「殺れ!殺るんだ!」
俺は拳銃なんて握らない。ただ真っ直ぐに見つめ、集中し、引っ掻く!!
シュイン!!
引っ掻いた右手に残ってたのは黒い液体、血のようでもあるが妙に鉄臭い。これがメタマグなんだろうと今は結論付けておく。
腹部からの出血が酷いな…足もくそ痛いし。
俺は敵である女をかつぎ上げ歩く。自分も死にそうなのにご苦労なこった。途中何度も質問される。
「なぁ…なぜ助けるんだ?見返りを求めるのか?」
俺は答えるんだ。
「本当は血なんて見たくないんじゃないのか…戦いの中でそう思えた。お前の能力は血を求めるがお前からは寂しさしか感じなかった。あくまでも感覚の問題だけど」
「そうか…お前は見てくれるんだな…」
月明かりの中、こんな気持ちで家まで歩くのは初めてだった。