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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第一章 のほほんにゃんこ村
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大自然Tueee!4 氾濫

 大岩は濁流の河の中にポツンと浮かぶ島の様になっていた。

 

「すっかり水に飲み込まれたな……危なくなる前にこの河原から逃げよう。丘はこの河原のすぐ近くだろ?」

「もう手遅れです」

「なに!?」

「あそこの丘に登る坂道は大雨が降ると丘から水が流れてきて、泥道の斜面が滑って登れないんだぜ」

「マジか? じゃあ、川原に居る僕らはどうすればいいんだ?」

「水が引くまでここで耐えるしかない」

「マジかよ」

 

 段々と川の水かさが増してきて足元のすぐ近くまで水が迫って来た。

 日も暮れて辺りが暗くなり始めて、周りの様子が良く見えなくなって来た。

 まだまだ水嵩みずかさが増えそうだ。

 このままここに居るのは危ない。


「動けるうちに岩の上に登ろう。ここよりずっと高いから少しぐらい水が増えても安心だ」


 岩の厚みは二メートル弱ちょっと位有る。

 僕の背よりもずっと高い。

 岩の上ならもう少し増水しても耐えられる。

 気持ちよさそうに眠る夕焼けを起こすと、僕達は手に手を取り合って大岩の上に登った。


「どうにか登れたな。王様結構役に立つじゃないか。岩の上に避難するなんて考えつかなかったぞ」


 いや、普通思いつくでしょ……。


「王様はすごいにゃー。ほんと王様だにゃ!」

「これで一安心だな。王様えらいぞ!」

「そこまで褒められると照れるな」

「まだ、安心できませんよ」

 

 月夜が依然として心配そうな表情を浮かべている。

 

「川がまだ増水しています。きっと昨日上流で雨が降って増水してた所に雨が更に降ったので一気に水面が上昇しているみたいです。気を抜いてはダメです」

「マジかよ! このまま水が増えたら?」

「みんな濁流に飲まれて流されますね」

「ダメじゃん! 王様!」

「王様、役立たず!」

「ぐぬぬ」

 

 事実、さっきまで居た岩影は既に川に飲み込まれていた。

 こうなると、岩の上まで流れに飲み込まれるのは時間の問題かもしれない。

 僕は覚悟を決めた。

 

「いいか、みんな。これから水が引くまで寝たらダメだ。岩の真ん中から動くな。流れの速い川に落ちたら溺れて死んでしまうからな。もし岩の上にまで水が来ても怖がらずにみんなで抱き合って、手を絶対に放さずに流れに逆らって堪えるんだ。いいな?」

「おう!」

「わかったにゃ!」

「解りました」

 

 しとしとと降る雨は止まず、僕らの体温を奪い続けた。

 時間は夜一〇時ぐらいにはなっていたと思う。

 冷たい雨がにゃん娘達の体力を少しづつ奪い続けた。

 

「寒いにゃ……寒いにゃ」

 

 一番身体の小さい夕焼けの唇が青くなりかけていた。

 月夜は何も言わないけど、奥歯をガタガタと小刻みに震わせてかなり辛そうな感じだ。

 とりあえず、元気なのは僕と天色だけだ。

 

「天色、悪いんだけど、風上に座って二人の雨避けになってくれないか?」

「解った。俺に任せろ」

 

 天色は風上に背を向けてどっかりと座ると、二人が雨に当たらない様に胸の中に抱きかかえた。

 そして僕は天色の背中に抱きつく感じで雨避けになった。

 大きいけど、柔らかい女の子の背中だった。

 

「いいのか? 王様。そこじゃ寒いだろ? お前も俺の腕の中に入って来いよ」

「身体が大きいって言っても女の子一人を雨避けにするなんて僕には出来ないからな。僕の小さな身体じゃ、天色の大きな背中全部を覆い尽せないけど……ごめんな」

 

 僕は天色の雨除けとして天色の背中を守った。

 

「お前、俺よりちっちゃいのにずいぶんと男らしいな。惚れてしまうぞ」

「惚れろ惚れろ。ここには僕しか男は居ないんだ。どっちにしろ僕に惚れるしかないぞ」

「ははは! そう言えばそうだな」

 

 そんな事を言っていって笑っていたら雨があがった。

 でも、川の水かさが上がる勢いが止まらない。

 水嵩は更に上がり、遂には足の甲を超え、足のくるぶし辺りまで水面が上がって来た。

 慌てて、夕焼けと月夜を立ち上がらせる。

 僅かに差し込む月明かりの中に夕焼けと月夜の顔が見えるが二人ともかなり苦しそうだ。

 

「ヤバいな……雨が止んだのに水面がまだ上がってる。みんな流されるなよ」

「おう!」

「……」

「はい」


 天色はまだ大丈夫そうだけど、夕焼けと月夜の二人は体力の限界が近いのか元気があまりない。

 僕は二人を背中側から抱きかかえ暖めた。

 二人の背中は氷の様に冷たくなっていた。

 かなりヤバそうだ。

 

「これ以上水かさが上がったらヤバイ……どうにかならないのか?」

「どうにもならないな……」


 いつもは力強く思える天色が小さく小さく見えた。

 所詮、僕らなんて大自然を前にしたらちっぽけな存在。

 そんな僕らは自然に寄生してるだけ。

 人間が自然に打ち勝った現代社会の東京ならば、ボロアパートでさえこんな雨は難なくしのげる。

 だが、ここでは自然の力が明らかに人間よりまさっている。

 ここでは自然が人間を蹂躙していた!

 たかが雨如きで命に係わる事になるとは!

 大自然tueee!の世界だ。


 僕の頭の中で何かが弾けた!

 そう、常識と言う幻想が!

 この世に、理想郷なんて無いんだ。

 ユートピアなんて幻想だ。

 ならば僕が日本の現代知識でこの地を少しでも理想郷に近づけてやろう!

 僕はこの時、そう心に誓った。

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