表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第一章 のほほんにゃんこ村
5/90

大自然Tueee!1 僕の名は。

 僕がこの世界に来てから二週間ほど経った。

 最初はたちの悪い夢と思っていた。

 でも、この異世界での生活は覚める事無く延々と続いてる。

 さすがに二週間もこの生活が続くと、何時かは覚める悪夢と思い現実逃避する事も出来なくなった。

 この生活が僕の置かれた現実。

 むしろ、今まで住んでた日本での生活が夢だったんじゃないかとさえ思える様になってしまった。

  あれから何が有ったかと言うと……何も無かった。

 

 朝起きて、ゴロゴロして、

 お昼になって、漁をして、

 漁をしたら、お魚を食べて、

 お魚を食べたら、ゴロゴロして、

 夜になったら、眠るだけ。

 

 こんな生活を毎日送っていた。

 勉強も仕事もしない自堕落じだらくな生活だと最初の数日こそ恥じたけど、それで何不自由なく生活出来てしまうのでこれはこれでいいんじゃないかと思えるようになって来た。

 始めは生臭くて口に入れただけで涙が出た生魚も、慣れてくると生臭いはずの汁がジューシーに思えて来てそれ程嫌な感じはしなくなった。

 ただ、内臓あたりの血と消化物が混じったねちょりっとした部分の生臭さは未だに慣れなかったけど、魚を(さば)くにも包丁なんて便利な物は無かったのでそのまま食べるしか無い。

 生魚を噛みしめる時の鱗や背びれが舌に刺さる感覚も嫌だったがそれも段々と慣れて来た。

 きっと、もう暫くするとそれも嫌だと感じなくなるのかもしれない。

 慣れたと言うか、慣らされた。

 一言で言えば、『諦めの境地』と言えば間違いない。

 夜に星空を眺めながら寝ていると、日本での生活の事を思い出して涙が出る。


 大学での生活……実家から出て一人暮らし始めて二年だったんだよな。

 アルバイト先の本屋さん……店主オヤジさんと娘のマルちゃん元気にしてるのかな?

 ネットコミック……あのマンガの連載の続きが気になるなー。

 僕の拾った子猫……僕がいなくなっても元気にしてるかな?


 そんな事を考えると日本の生活には二度と戻る事は出来ないんだなと実感し涙を流す事が多かったけど、段々と思い出す事も悲しくなる事も涙を流す事も減って来た。

 ポカポカとしたお日様の日差しの中で、そよ風に吹かれてのんびりと暮らす。

 いいじゃないか。

 そんな暮らしも悪くない。

 住めば都と言うことわざが有るけど、正にここがそうだな。

 なんにも無いけど、仕事もせずに、勉強もせずに、食っちゃ寝するだけで暮らせる。

 正に理想郷なユートピア。

 よくよく考えたらこんな暮らしもいいものだ。

 僕はやる事が無いのでゴロゴロしながら皆と話をした。

 話していると皆の事がなんとなく解って来た。

 夕焼けはとても明るい子だ。

 でも、昔はそうじゃ無かったらしい。

 

「わたしは昔、毎日泣いて暮らしてたにゃ。なんにも出来なくて、なんにもわからなくて、ご飯も取れなくて、毎日お腹減らして泣いてたにゃ。そうしたら夢の中に神様が出て来て『お姉さんを連れてくるから、もう泣いちゃダメにゃ』って言ってくれたので、次の日に上の丘に行ったら本当に天色お姉さんが来てくれたんだにゃ」

「あれ? 姉さんと言うぐらいだから、天色の方が夕焼けよりも先じゃ無かったの?」

「違うにゃ。私の方が先にゃ」

 

 僕と夕焼けの話が聞こえてきたのか天色が僕の目の前にやって来る。

 

「俺は夕焼けの後にここに来たぞ。あの頃の夕焼けは泣いてばかりでなー。俺がお姉ちゃんになってやるからその代わりにもう二度と泣かない事って、二人で約束したんだぜ。それから夕焼けは一度も泣いてないんだ」

「えらいでしょ」

「えらいえらい」

「てへっ」

「その時に夕焼けって名前も付けたんだよな」

「そう。ここに来た時初めて見たのが綺麗な夕焼けだったのを思い出したから、わたしは夕焼けって名前にしたにゃ。天色姉さんは、雲一つない晴れた日にここに来たから、天色って名前にしたにゃ」

「月夜は?」

 

 月夜が俺の声が届く距離の大岩に寄りかかって座っていたので声を掛けてみた。

 

「…………」

 

 聞こえてるはずなのに月夜から返事は無かった。

 月夜はあまり自分の事を語りたがらない感じの子だ。

 月夜が時々僕に話す会話の内容を聞いてるとかなりの博識なのは間違いない。

 どうやら月夜は僕と同じ転生者らしい。

 ひょっとすると僕と同じ現代社会の日本の出身者なのかもしれない。

 でも、月夜は自分の事を一切語らないのでそれが真実かどうかを確かめるすべは無かった。

 

「月夜姉さんは、満月の綺麗な夜の次の日に来たから月夜なんだ」

「そうなのか」


 名前の話で思い出したけど、肝心な事を思い出した。

 僕は名前が無かった。

 

「そう言えば僕は名前が無いんだけど……付けてくれる?」

「王様は王様が名前にゃ」

「だよなー。王様の名前は王様でいい」

「ちょっ! 僕だけ役職名が名前?」

「うんっ!」

「マジかよ。もうちょっとこうクールでかっこいい名前がいいな」

「くーる? くーるって名前がいいのかにゃ?」

「いやいや、そうじゃなくてかっこいい名前」

「王様って名前はカッコいいにゃ」

「カッコいいぞ」

「王様かっこいいにゃ!」

「それに王様で呼び慣れたのに、今更他の名前に変えても言いにくいしな」

「そうだにゃ。だから王様がいいにゃ」

「俺も王様でいいぞ!」

「じゃ、決定にゃ! 王様の名前は今日からも王様決定ですにゃー」

 

 ちょ!

 僕の意見は無視かよ!

 と言う事で、僕の名前は『王様』に正式決定されました。

 なんか納得がいかないけど、まあいいか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ