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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第一章 のほほんにゃんこ村
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にゃん娘3 はじめての漁

 天色と呼ばれる、大娘のにゃん娘が笑う。

 

「肩の力抜いて生きようぜ!」

「だにゃ!」

「は、はい」

 

 少しやる気を出しかけた僕はいきなり肩透かしを食らった気分……。

 もうどうにでもなれ。

 どうせ夢だ。

 夢が覚める迄、この変な設定を堪能しよう。

 夕焼けと言われる元気いっぱいな少女が、一番年上に見える天色に思い出したように言った。

 

「天色ねぇさん、おなかすいたにゃー」

「そうだな……そろそろご飯にするか」

「やったー!」

 

 夕焼けは嬉しいのか、獣の様に四つん這いになって辺りを走り回り始めた。

 やっぱ猫娘だね。

 うん。

 夕焼けの四足歩行に目が釘付けになっている僕に後ろから声がかかった。

 

「王様、川に向かいますよ」

 

 月夜だ。

 物静かな月夜がそう言うと、僕を連れて川辺に向かって歩き始めた。

 夕焼けはもう川辺に行って飛び跳ねながら僕らに手を振っている。

 僕らが河原に着くと、岩の有る丘の上に居る天色から声が掛かった。

 

「いくぞ!」

「いいにゃー!」

 

 元気な夕焼けの声が届いたのか、天色は長さ五メートルぐらいあるバスサイズの巨大な岩を持ち上げる。

 嘘だろ?

 あの大岩を持ち上げるのか?

 どう見てもトラック三~四台分の重さが有りそうな岩盤をだ!

 人間がこんな物を持ち上げられるのか?

 

「うおりゃああああ!」


 うそだろ、本当に持ち上げたよ。

 重さ何キロ、いや何十トンか解らない大岩だぞ?

 あの姉ちゃんすげー!


「天色姉さんは、とっても力持ちなんだにゃ」

 

 いや、力持ちで想像するレベルを遥かに超えてるんですが!

 夢にしてもちょっとめちゃくちゃ過ぎる。

 

「うりゃああああ!!」

 

 天色と呼ばれる筋肉質な猫女は、その巨大な岩盤を凄まじい勢いで川の上流に向かって力任せに投げ込んだ。

 うひょ! 有りえねー!

 持ち上げるだけじゃなく、あれを投げただと?

 力持ちってレベルじゃねーよ!

 

 大岩は、五十メートル程の距離を数秒掛けて飛び、川上に着水した。

 地響き!

 衝撃波!

 そして河の中では10階建てのビルの高さを遥かに凌ぐんじゃ無いかと言う規模の水柱を上げた。

 マジすげー!

 僕が驚き半分ビビり半分で度肝を抜かれていると、夕焼けが嬉しそうに騒ぎ出した。

 

「ごはんにゃ! ごはんにゃ!」

「ごはん?」

 

 月夜が僕に早口で説明する様に言った。

 

「岩を投げ込んだ時の衝撃波で気を失って川面かわもに浮いてきた魚を拾い集めるのです。すぐに気絶から覚めてしまうので急いで集めてください」

 

 夕焼けは手慣れた手つきで川の中を四つん這いで走り回り、川面に浮かんだ魚をポイポイと河原に投げる。

 僕と月夜も魚を集めるが、魚がヌルヌルしてて滑るので夕焼け程は手際よく集められない。

 

「夕焼けはお魚取るのが上手いなー」

「だって、わたし、お魚大好きだもんにゃ」

 

 満面の笑みでそう自信たっぷりに答える夕焼けだったが、なんか答えのピントが少しずれてる気もしなくもない。

 僕は頑張って魚を集めるものの慣れてないので思うように魚が掴めない。

 掴んだ途端に目を覚まして僕の顔に水しぶきを掛け逃げる魚も居た。

 一分程すると殆どの魚が目を覚まして再び泳ぎ始めたので漁は終了となった。

 

「さー、いつもの様に配るぞー」

「おさかな、おさかな! ぶんぱい、ぶんぱい!」

 

 河原にお魚を大きい順に並べてそれを配り始めた。

 大きい魚は40センチメートル位の鯉ぐらいのサイズで、小さいのは金魚サイズだ。

 

「今日は三十三匹か。まあまあだな」

 

 天色が順番に大きい順に一匹づつそれを配った。

 

「えーと、みんな八匹づつで、王様だけ今日この国に来たお祝いで一匹多くて九匹だな」

 

 それを聞いた夕焼けが物欲しそうに僕を見ていた。

 

「王様いいなー」

「僕こんなに魚食べれないから、夕焼けに一匹あげるよ」

「いいのかにゃ? やったー!!」

 

 夕焼けに一番大きな魚を手渡すと、満面の笑みでパクついた。

 それを頭ごとかぶりついて噛み砕いて飲み込んだ。

 

「え? 生で食べるの?」

「そうにゃ。他にどうやって食べるんにゃ?」

「焼いたり、煮たり」

「???」

 

 なんかもの凄く不思議そうな顔をして僕を見つめる夕焼け。

 見つめられた僕も返事に困る。

 

「焼き魚にしたり……しないの?」

「焼き魚って何にゃ? それ美味しいのか?」

「あれ? もしかして、火が無かったりするの?」

「火って何にゃ?」

 

 見かねた月夜が僕に言った。

 

「ここには、火なんて物は有りません」

「なんだって?」

「ここでは魚は生で食べるしかないのです」

「マジか……」

 

 ここってそんな文化レベルの村なのか?

 火が無いって原始人レベル以下じゃないか!

 そんな村を発展させろって無理ゲー過ぎます!

 火も無い村って聞いた事ないよ。

 原始人だってマンモスの丸焼き食ってたもんな。

 それを発展させて猫の王国にする?

 むりむり!

 絶対無理!

 この村は一生原始人村以下のままだね。

 僕の夢、早くも設定破綻しまくり。

 火が無いんじゃ仕方ない。

 生で食うしかないな。

 僕は仕方なしに、生のまま一番小さい魚をかぶりついた。

 魚を口に入れ噛むと魚から血と内蔵の汁の入り混じった汁が出て僕の口の中に広がった。

 血生臭い味の汁が口の中一杯に満たされる。

 そして鼻の中までとっても生臭い臭いで満たされる。

 

「うっ!」

 

 鼻を突く血の匂い。

 気持ち悪い……。

 刺身は好きだけど、それとは明らかに違う魚臭さ。

 言い方が悪いけど、生ごみ臭が口の中に広がる。

 生ごみを食べた事なんて無いので本当にこの味が生ごみの味に近いのかは解らないけど、生ごみの臭いに似たキツイ臭いが口の中いっぱいに広がった。

 鱗やエラのザラツキが舌や口の中に刺さる感じもキツイ。

 思わず吐きだそうとすると月夜が手のひらで僕の口を押えて止めた。

 

「吐いてはダメです。ここではこれしか無いんです。食べないと死んでしまいます」

 

 月夜に諭されて僕は涙ぐみそうになりながらそれを飲み込んだ。

 いや、泣いていた。

 食べ物でこんな苦労するなんて……。

 帰りたい!

 元の世界に帰りたい!

 ポテチやハンバーグのある、あの元の世界に帰りたい。

 僕は涙を流しながら魚を食べた。

 僕の夢の中での初めての食事は涙の味がした。

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