大自然飢えぇぇぇ!1 楽園の終わりの始まり
気がつくと誰かが僕の肩を揺すってる。
「王様、起きてくれー!」
何かあったのか?
僕は慌てて目を擦り、飛び起きる。
「どうした!?」
「やっと起きてくれたか。そろそろご飯の時間だから、この岩貸してくれ」
「あー、ご飯か。何か有ったんじゃなくて良かった」
僕は起き上がると、まだ濡れてぬかるむ芝の様な草の上を歩き、河原まで歩いた。
水量はかなり減ったけど、水の色は相変わらずカフェオレみたいな色に濁っていた。
「いくぞー!」
「いいにゃー!」
天色が大岩を川に投げ込む。
大きな水柱が立ち上がった。
「おさかな! おさかなー!」
夕焼けは魚が食べれるので四つん這いになって獣の様に走り回って大喜びだ。
だが、大岩を川に投げ込んでも魚は殆ど浮かんでこなかった。
「あれ? 全然お魚浮いてこないにゃ?」
「これだけ水が濁ってたら仕方ないです」
結局捕まえたのは四匹。
それもかなり小さいサイズの魚だった。
「ずいぶんと少ないけど、この大雨で魚が下流の海まで流されちゃったのかもしれないな」
「そうにゃのか。雨が止んだからお魚沢山食べれると大喜びしてたのに」
「よーし、配るぞー! 一人一匹な!」
「えー? 一匹だけにゃのか?」
「もう一回、岩投げるか?」
「ダメですよ!」
「だよなー!って事で、夕焼け! 今日は一匹で我慢してくれ」
「ううう」
夕焼けは僕の魚をじっと見ている。
「欲しいにゃ……」
「だめだめだめー! 僕もお腹空いてるから今日はダメ!」
「ちぇっ!」
舌打ちしたよ、この娘。
僕は夕焼けに盗られる前に、魚をパクリと食べた。
泥水の中を魚が泳いでいたせいか、魚を食べると口の中がざらついたけど、我慢がまん。
「全然足りないにゃ」
「僕も足りないな」
こんな小さい魚を食べても腹の足しにならない。
むしろちょっとだけ食べたので余計に空腹感が増してくる。
お腹がきゅるきゅるとなっている。
お腹すき過ぎで目が回りそうだ。
「なあ月夜、ここって魚以外の食べ物って無いのか?」
すると月夜が聞き返して来た。
「どんな食べ物の事です? 具体的に言って貰わないと、私には答える事が出来ません……」
か細い声でずいぶんと事務的な答えが返って来た。
なんだよ、月夜って随分とめんどくさい奴なんだな。
仲間なんだからそう言うめんどくさいのはやめて欲しいんだけど。
「木の実とか知らない?」
「今は晩春なので時期じゃないですね。木の実は秋の食べ物です」
「他に食べられるものは無いかな?」
「具体的に言って貰えますか?」
「具体的って、食べられれば何でもいいんだけど」
いちいち具体的な名前を出さないとダメなのか?
カップラーメンとか有るなら食べたいけど、そんなものここに有る訳ないしなー。
簡単調理で手軽に食べられるものと言えば芋かな?
サツマイモなら火の中に放り込むだけで食べられるしな。
「んー、サツマイモとか?」
「サツマイモは時期じゃないのでまだです」
「他に食べられるものは無いか?」
「具体的に言って貰えます?」
また具体的にってかよ……めんどくさ。
「芋。サツマイモじゃない他の芋は無いか?」
「ジャガイモならこの時期に取れます」
「ジャガイモか! いいな。何処にあるのか教えてくれ」
知ってるならとっとと言ってくれよ。
こっちはお腹が空いて目が回りそうなんだからそう言う面倒臭いのはやめて欲しい。
「上の草原に登って左の方の端です。そこに群生しているはずです。ただ……」
月夜は何かを続けて言おうとしていたが、話が長くなりそうなのでそれを遮って芋掘りに出掛ける事にした。
ああいう責任回避的な事務的な受け答えはめんどくさいし苦手だ。
「そうか。すまない。よし! みんなで芋を掘りに行こうか!」
「掘りに? 何を?」
「お芋さんだ。蒸かすとホクホクしてとってもおいしいぞー」
「お魚より美味しい?」
「同じぐらいかな?」
「おー! いもいもいもー!」
「それじゃ、芋ほりに行こう!」
「「おー!」」
僕たちは月夜の案内で、みんなで草原の端っこに有るジャガイモの群生地に来た。
村から歩いて一〇分ぐらいのところだ。
これぐらい近いなら、雨が降ったときは無理に漁をせずに芋掘りをしたい。
「ここでいいのか?」
「ここですね」
「おいもおいもー!」
「俺、芋を食べるのは初めてだ。魚以外にも食えるものが有ったんだな……知らなかったぜ」
「この世の中には色々と美味しい物が有るんだぞ」
「そうなのか。これからは王様に色々と美味しい物食べさせて貰うぞ」
「食べさせてもらうにゃ!」
「この芋って言うのは、この葉っぱを食うのか?」
「ちがうちがう。この茎の下に埋まってる丸っこいのが食べるとこなんだ」
「じゃあ、ここの根元の土を掘ればいいのか?」
「そう、ここを掘ってくれ」
「じゃ掘るにゃー! おいもおいもおいもー!」
「いもいもいもー!」
僕たちは四人で芋を掘り始めた。
夕焼けは喜々として犬のように四つん這いになって前足で地面を掘り返し、芋を掘っている。
天色も力任せに芋を掘っている。
「なんか出てきたにゃ! これかにゃ?」
「そそ、その丸いのが芋だよ」
「わかった」
「一人十個目標で掘るぞー!」
「おー!」
まだ地面がぬかるんでる事も有って目標の十個のじゃがいもはあっという間に掘れた。
ふと夕焼けを見ると三〇個ぐらい芋を掘り出していた。
「こんなに取れたにゃ」
「俺も、こんなに掘れたぞ!」
天色は夕焼け程じゃ無いけど二〇個を超えるぐらいの芋を掘っていた。
僕と月夜はノルマの一〇個づつだ。
「さー帰るぞ。帰ったら蒸かして食べるぞー!」
「ふかすって?」
「蒸気で蒸すと、ホクホクになるんだ」
「それは美味しいのかにゃ?」
「美味しい、美味しい。すんごく美味しいぞ!」
「たのしみにゃー!」
「王様、早く帰ろうぜ!」
「早く帰るにゃ!」
僕は夕焼けと天色に急かされる様に村に戻って来た。
「王様、これどうするにゃ?」
「まず、川でジャガイモを綺麗に洗って泥を落とします」
「わかったにゃ!」
「川に流されない様に気を付けろよ! ジャガイモも夕焼けもな」
「はーい!」
芋に付いた泥を手早く洗い流すと、僕の前に戻ってくる夕焼け。
「全部洗ったにゃ」
「はや! 俺まだ一個しか洗ってないんだけど……ちょっと待ってくれる?」
僕が芋を洗ってる間、夕焼けがじれったそうに待っている。
「よし洗ったぞ!」
「わーい! 次は、次はどうするにゃ?」
「じゃあ、これを蒸すぞー! 月夜、火を出してくれ」
「ありません」
「へ?」
「火なんて物、ここには有りません。もし火が有るなら魚を焼いて食べてます」
「火を起こす方法を知らないか? 良くあるじゃん、木の棒に紐を括り付けたやつをくるくる廻して火を付けるやつ」
「あれは無理です?」
「どうして? 原始人もあれを使って火を付けてたぐらいだろ?」
「それはアニメや漫画の中の話ではないですか?」
「そうかも……。でも、マッチやライターが有るんだから、実際にはあんなもん使って火を起こしてる人なんて居ないだろ?」
「あの火を着ける機械は実際に作ろうとするとかなりの技術が必要なんですよ。作る為にはかなりの加工技術と道具が必要なんです」
「マジか?」
「本当です。あの機械に使う木の棒は真っ直ぐの丸棒じゃないとダメですし、紐も必要ですし、木の板が無ければ無理ですし、丸棒がずれない様にその木の板に正確に丸い穴を空けなければなりません」
「それを作ればいいじゃないか! 木なんていくらでも有るんだから簡単だろ?」
「ではお聞きします。どうやって作りますか? 材料の中で一番簡単な紐。これはどうやって作ります?」
「それは……」
よく考えたら、紐の作り方さえ解らなかった。
そんな僕が、あんな火起こし機を作れるはずが無い。
サバイバル小説とかマンガだと、あっさり火を起こしてるんだが……実は有りえないぐらい大変な事をしてるのか。
僕が頭の中で考えを巡らせていたら夕焼けが僕の顔を覗き込んで話し掛けて来た。
「王様、はやく、おいもふかしてー」
「ごめん。悪いんだけど、今日は生のまま食べてくれ」
「わかった。じゃあ、いただきます―!」
ジャガイモをかじった夕焼けの顔が困った様な顔に変わった。
眉間に皺を寄せて明らかに不味そうな顔をしてる。
「王様、これまずい。すっごく固いし、ごりごりして、にがい。ぜんぜんおいしくない」
「これ食えないぞ。王様こんな物が美味しいのか?」
僕も食べてみた。
苦くて固くて食える代物じゃ無かった。
サツマイモなら猿が生のまま食べてたのを見たから生でも食べれると思うんだけどな。
ジャガイモは生ではダメみたいだ。
「ご、ごめん。これは食べられないな」
「ちぇっ……喜んで損したな。王様は口だけだな」
「王様は口だけにゃ! よろこんでそんしたにゃ! くちだけー! くちだけー!」
「くう……」
僕は意地になってジャガイモを生のまま食べた。
固くて苦くて不味くて涙が出て来た。
甘く考えてたけど、思った以上にこの世界は厳しいかもしれない……。
ゼロからのサバイバル生活の厳しさを肌で感じた、初めての時であった。