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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
救われること
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救われる

   

         ♢  ♢  ♢ 


 七月二十日。けたたましい蝉の鳴き声を聞きながらふと思う

 今日も、平和な一日が終わってしまう。と······。

 白衣を着た男は目を細め、廊下の窓からギラつく太陽を睨んだ。

 ーー夏なんて無くなっちまえ。

 そんな中、彼の脳内に流れ続けている言葉は同じだった。

「嗚呼······暑い······」

 白衣を脱げ。と言われればそれまでなのだが、これは彼のポリシーなのである。

 何とも安っぽいポリシーである。

 校舎から中庭へと出て、さらに増した熱波を肌に受け、外で元気に部活している学生はなんと逞しいのだろう。と感心するものだ。

「ねえ、いつ海行くの?」

「七月の終わりくらいじゃない? カラオケも行きたいなあ······」

 隣を歩き過ぎる二人の女子学生はすでに心ここにあらずといった面持ちで、夏休みの計画を立てているようだ。

 漣の視線は自然と女子学生へと向けられている。

 ーーやはり女子生徒の夏服には夢がある。

 ちらつく脇の下。緩やかなラインがはっきりと分かる薄手の制服、そして、眩しいほどの白さを兼ね備える太ももと二の腕······!

 しかし、彼は夏が嫌いだ。

「もう夏休みか······」

 漣がこの学校に着任してからもう三ヶ月。彼の周囲は入学前と大して変わらない。

 そのままこれからも過ごすのだろう。

 一人で勝手に頷いていた、その時だった。

「あの······」

 覇気のない口調が、漣の背中を捉える。

 四人の男女がそこに居た······。

「ん? どうした?」

 この三ヶ月、学校の生徒に話しかけられるなど、初めての経験だ。

「漣先生、ですよね?」

 別の小さな女子生徒が尋ねる。

「まあ、そうだけど······」

 漣は三人の女子生徒と、一人の男子生徒を見渡す。

 違和感を感じた。

 ーー少し硬い表情。それにちょっとばかし早口だな。手を何度も握り返している上に、何と言うか、心に落ち着きがない······。

 これでも一応カウンセラーの端くれ。人の抱く感情などを見抜くのは得意な方だ。

 彼女達は目に見えるほど、何かを恐れている。

 蝉の鳴き声すらも消滅するほどの静謐な空間が、この場に広がっているようだ。

 彼女達は漣に一体何の用があるというのか。

「お願いがあるんです」

「······お願い?」

 こくりと、目の前の女子生徒は頷いた。

 幸いにも漣はこれから暇を持て余す予定だ。それに、カウンセラーの立場上、無下に断るわけにもいかない。

「なんなんだ? 言ってみろ」

 四人の生徒は、一斉に頭を下げた。

 唐突な展開に驚きを隠せない漣。

 ーーおいおい。何だってんだ············?

「お願いですッ。私達の友人を、助けてください!」

「························へ?」


 この出来事が、漣和真と、桜河ナギが出会うつい一日前のこと。

 そして、ここから、漣とナギ。二人の歯車は次第に回り始めるのである。


         ♢  ♢  ♢  


 本当に、久々に夢を見た。

 昔······と言っても、一ヶ月ほど前だが、クラスメイトとも、千夏とも過ごしていた毎日の夢だ······。

 今の私じゃ、とうてい手の届かない、明るい場所にある日常しあわせ

 私は、今日何度目かも分からない、どうしたらいい? を思い浮かべる。

 絶望に染まったこの心では、もう、以前の桜河ナギには戻れないのか·········。

 得体の知れない不安が、私の奥底でひしめいている。

 もともとの私はこんなふうになることはなかった。

 自分で言うのははばかれるが、前向きで、溌剌はつらつとした性格だっただろうと自覚している。鬱なんて、心が弱いからかかるんだ。私は欝になる筈がない。そう自負していた。

 しかし、甘かった。

 気づいたら時すでに遅し。まるで、せせら笑うかのように、なんともあっさりと、鬱は私の身体を蹂躙した。

 結果、このザマだ。

 命を捨てようとしたのは許されるべきではない行為だが、この際まだいい。

 私は、命を捨てようとした挙句、その意志さえもある人物によって叩き折られた。

 死ぬこともできず、生きることに絶望している。

 行く先は闇。戻るも闇。ただポツンと、私だけが暗闇の中を漂流している。

 もう、どうだっていいや······。

 私は······私は······私は························。

 そうして、ナギの意識は、ゆっくりと覚醒した。


「う、うぅん············」

 ーーあれ? 私、何してるんだろう。というか、ここどこ?

 瞼の隙間から溢れる光を受け、ナギは自分が寝ていることに気づく。

 頭の中はまだもやがかかっているが幾分軽く感じる。

 ナギはゆっくり上体を起こす。

 制服は着ている。それに、腕に点滴のような物まで刺さっていた。

「んぁ? お、起きたな」

 ーー起きた。ということは、私は眠ってたのか············。うん? 眠ってた?

「あ、あの、どういう状況ーー」

 ですか? と言い切る前に、凄まじい衝撃がナギの体に襲来した。

「げふぅッ!」

 ミサイルを思わせるほどの弾丸タックル。

 肺の中の二酸化炭素が一気に口から吐き出されると同時に、ナギは勢い良くベッドに叩きつけられる。

 何事かっ? と視線を下に向ける。するとそこには。

「ナアアアアァァギイイイィィ!」

 ーーこ、木乃香ッ?

 ナギに抱き着いているのは、紛うことなきあの、木乃香であった。

 ずっと前に喧嘩して、それどころか何十日も話すこともないほど冷え切った間柄の彼女は、顔がクシャクシャになるほど泣いていた。

「ナギぃぃぃいい。ごめんねえええぇぇぇぇ!」

「えっ? えぇっ?」

 涙と鼻水で酷い顔になっている木乃香が、ナギに謝っている。一ヶ月以上も前から関係が冷え込んでいたはずの彼女がだ。

 体は木乃香にがっしりと抱き着かれているので、首だけで周囲を確認する。

 するとナギの瞳には漣以外にも、仲の良かった三人のクラスメイト達が居た。

 渚、早苗、一文字の三人である。

「あっ、目が覚めたのね、ナギ」

「ナ、ナギちゃんんんん! 良かったよおおお!」

「体の方は大丈夫みたいじゃん。何はともあれ本当に良かった。一安心だな」

 安堵の表情を浮かべる面々を確認して、さらに理解が追いつかない。

 ナギはまだはっきりとしない思考を巡らせた。

 まず第一に、何故急に意識を失ったか。

 次に、何故木乃香達がこの部屋に居るのか。

 漣が呼んだとも考えたが、彼がナギと木乃香達との関係を知らないはずだ。

 そして、最後に。

 そもそも何故、ナギは木乃香と会話できているのか、ということだ。

 それこそ、今日の昼まではお互い言葉を交わすほど仲も戻っておらず、ずっと疎遠な関係だったはずなのに······。

「こ、木乃香達が······どうして」

 木乃香は涙を滝のように溢れさせ。ぐずぐずの声で、言った。

「あっ、あだしっ。ずっど謝り、たかったんだヒクッ。あのどき······ヒクッ。言い過ぎたなって······」

 木乃香の言葉が、ナギの心を打つ。

 その言葉は、

 ーー私が、先に言いたかった台詞······。

 その時、すうっと、コーヒーの香りが鼻についた。

「ったくよ。桜河、お前こいつらに感謝しろよ? この四人がわざわざ俺のとこまで来て、お前を助けてやって欲しいなんて言ったんだから」 

「えっ?」

「それに、こいつらずっとお前が気ィ失ってから側にいてくれたんだぞ」

 漣の放った言葉で、ナギは胸が熱くなる錯覚に陥っている。 

「ほんどはね、ナギがここまで追い詰められでるなんて、全然気づけなぐて、ナギの友達の城本って子から最近教えてもらったの。それで、もっど早ぐ謝っとけばよかったて······。ナギぃごめんねええぇ!」

 またも大泣きする木乃香。

 謝らないで欲しい。こんな事になってしまったのは、ナギにも責任がある。

 先に謝らなければならないのは、ナギの方だ。

 少なくとも彼女はそう考えているだろう。

「木乃香············」

 ナギは優しく木乃香の体を抱き締め、額をコツンと相手の額に重ねる。

 今にも沸騰しそうな、熱い、熱い思いを曝け出した。

「ごめん。ごめんねええええぇぇ。私の方こそごめん! 早く、もっと早くに謝ろうと思ってたの。だけどその一歩が出なくて···········。元々は私が勝手に落ち込んで、皆にも迷惑かけて······うわああんッ」

 同じように泣き崩れる。

 静観してくれていた、渚達も近寄ってくる。

「私も抱きつく!」

「うわあっ」

 早苗が飛び込み、二人に飛び掛かる。

「もう私、心配で、木乃香ちゃんもナギちゃんも、見るのが辛いくらい苦しそうだったし······」

 早苗はナギの胸に顔をうずめ、すんすんと泣き始めた。

「早苗······」

 ナギは多くの感情を乗せ、小さく呟いた。

「早苗。アンタが泣くなっての」

 渚は、馬鹿馬鹿しいとばかりに息を漏らした。

 心なしか、顔が赤いようにも思う。

「やっと言えたじゃない。本当にアンタらは不器用なんだから。ちゃっちゃと謝っとけばよかったのに」

「でも、やっと仲直りできんだよ。渚ちゃんだって嬉しいんでしょ?」

「ぐっ······」

 渚は図星だったのか少し狼狽えている。

「あたしに限ってそんなこと無いでしよ? あまり変な事ばかり言うと、この口引っ張るわよ」

「ひたい。ひたいよお。なひひゃひゃん」

 既にほっぺを抓り上げ、早苗は先程とは違う涙を浮かべている。

 気のせいだろうか。若干渚の声がくぐもっていたように思う。

 そして。

「お疲れちゃん」

 そう言って明るい表情で渚と早苗を引きはがしてくれたのは一文字だ。

「まあさ、俺は詳しいことは聞かねえよ。お前らの問題だもんな。でも、前みたいに笑い合えるようになったてのはいいことなんだろ」

 ナギと木乃香は、目を合わせ、笑いあう。

 こうして二人が向かい合うのは、少しばかり遅くなってしまったが、ナギはようやく木乃香との間に隔たっていた氷山が溶けた気がした。

 一文字は満足げに頷いている。

「うんうん。お前らはそんな感じが一番だよな。良きこと良きこと」

 みんな、思う事はそれぞれだし、泣くだけ泣いた。だが、苦しいなんて感じることは無い。喜びを噛み締めるからこそ、涙が溢れるのだ。

 簡単に言おう。


 ナギは、”救われた”。

   

  

お読みいただきありがとうございます!


今回の話で主役であるナギは一つの山を越えたことになります。いきなり主人公がこんなに暗くなって良いのかとも思いましたが、僕の書きたいものを書こうとしたらこうなってしまいました。

やけにあっさりと鬱が治っている。と感じたかもしれませんが、実際はこんなに簡単ではありません。ただ、鬱というものを、ちょっとでも知ってもらおうと思ったので、あえて簡単に表現させていただきました。


えー。なにぶん素人ですので、誤字脱字が存在すると思います。また、ここの表現はおかしいだろう。という点もあるかと思います。まとめて御指摘いただけたらありがたいです。 

感想などもありましたらお願いします。


ではでは。少し長くなってしまいましたが、次回も目を通してもらえることを祈りつつ。


                 霞 アマユキ

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