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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
救われること
4/36

絶望への階段

「ねえ〜ナギぃ。早いと思わない?」

 机に上半身を投げ出し、だらしない姿の木乃香が話し掛けてきた。

「ん? 何が?」

「何が? って、高校生活よ。もう六月だぜ〜って」

 そう。今は六月の半ば。梅雨はまだ明けず、外ではしとしとと雨も降っている。

 入学から二ヶ月というのは早いもので、目まぐるしく直面する新たな出来事などに振り回される毎日を送っていた。

「そうだね。もう二ヶ月かあ······。入学式がつい先日に思えるよ」

 クラスにもだんだんと馴染めてきて、ナギ本人は順風満帆な生活を送っているつもりでいた。

 皆それぞれが、ある程度の個性かたちを確立し始めた頃、何気ないクラスメイトとの会話。微笑ましい光景である。

「でさっ、でさ。あたしは考えるわけよ。今の世の中について」

 唐突に語る木乃香。

「もう何年も前からだけど、鬱になる人が多いじゃない。そんで、結果的に自殺してしまう人も多くなる」

「うん」

「でも、自殺ってさ、要は気が弱いからするんじゃないの?」

 ーーなんだろう。木乃香の言い方が引っかかる。

「元々気が弱いから鬱になんかなるんだしさ。あたしには理解できなーー」

「それって違うくない?」

 何故かナギは反論しなくてはならない気がした。

「鬱になる人はなりたくてなっている人はいないでしょ」

「いやでもさ。明るい人は鬱にならないじゃん」

 二人の抗弁は徐々に熱を帯び始める。

「そうとも限らないって。前テレビで、自殺した人のことを以前は明るい元気な人。とか言ってたし」

「じゃあナギの言う通り、気の弱い人も強い人も鬱になるんなら、今頃日本中が鬱になってるじゃん」

「そういう意味じゃなくてーー」

「なら、どういう意味なわけ?」

 それは、ちょっとした考え方の食い違いからだった。

 

「ーー。ーーーーーー!」

「ーーーー! ーーーーっ」


 ナギと木乃香の二人は瑣末なことから口喧嘩になってしまったのだ。

 ナギの口から発せられる言葉が、木乃香の怒りに触れ、木乃香から発せられる言葉が、ナギの心に突き刺さる。

 二人は引くに引けない状態まで発展している。

 そんな二人をはたから渚や早苗、一文字が困ったように状況を伺っている。

「あらあら。一体どうしたの。ナギがあんなに怒るなんて」

 早苗は瞳を潤ませながら渚を仰ぐ。

「ちょっとしたことだったんだよう。ど、どうしよう。止めた方が良いよね」

「ったり前だろ。ほら、行くぞ」

 他のクラスメイト達によって、大きな騒ぎにはならなかったが、ナギは意固地になってしまった。

 そして、険悪な雰囲気のまま、今日という一日が終わりを迎える。 


 帰り道、千夏と一緒に帰るその足は、どことなく重い。

 ナギは今朝の出来事を千夏に話した。

「··················たぶん、ナギは疲れてるんだよ」

 半袖の夏服姿が眩しい彼女は、ナギを元気づけるために笑顔で言った。

「ついこの間まで何かと行事もあったし、慣れない事ばかりだったろ。それに来週はテストもあるじゃん? だから、疲れてんだよ」

 千夏の言葉に、ナギは少し、癒されたように感じた。

「今日は早めに寝て、明日その子に謝りな?」

 そう言って、すぐ側に屋台を出しているたい焼き屋で一つ買い、それをナギに投げてよこす。

「ほら。僕の奢りだ。さっさと元気だせよ。あんたがそんなんだと、僕も調子狂うからさ」

 ナギはありがたく受け取るが、生憎あいにく今は食べる気になれなかった。

 ーーでも、千夏の言う通り今日は早めに寝よう。私も木乃香に言い過ぎたところもあるし、明日ちゃんと謝らないと。

 ナギは心中で呟く。

 だが、その夜、彼女はなかなか寝付けなかった。


         ♢  ♢  ♢


     ナギの日記より抜粋

 ーー六月十九日

 今日、高校で初めて友達と喧嘩をしてしまった。明日ちゃんと謝ろう。

 ーー六月二十日

 昨日なかなか寝れなかったせいだろうか、気分も悪く、とても仲直りなんてすることはできなかった。

 明日こそは木乃香と仲直りしなければ。

 ーー六月二十五日

 謝るタイミングを逃したまま五日も経ってしまった。このところ寝付けないし、色んな事に集中できない。

 そんな自分が嫌だ。

 ーー七月二日

 最近千夏を避けている。友達とも話さなくなった。私は、一人だ。

 誰か助けて。

 ーー七月十日

 木乃香と喧嘩して以来、不眠症が続く。学校に行くのが嫌だ。一日が辛い。

 ーー七月十二日

 もう、何も楽しくない。

 ーー七月十五日

 私は何のためにこんな辛い毎日を送っているのだろう。

 死にたい。

 ーー七月十七日

 死にたい。

 ーー七月十八日

 死にたい。

 ーー七月十九日

 死にたい。

 ーー七月二十日

 死にたい············。


         ♢  ♢  ♢


 ーーもう嫌だ。

 日付は七月二十一日。もう明日は一学期最終日ということもあり、学校内の生徒は誰もが楽しそうだ。

 ーーなんで私だけっ。こんなにも辛いのっ? 苦しまなきゃいけないのっ?

 ナギは、ボロボロだった。

 心身共に摩耗し、現実を受け付けたくなかった。

 彼女自身、何故こんなことになってしまったか訳が分らない。

 ただ気付いたら、こうなっていた。

 木乃香と喧嘩して以来続く不眠症のせいで、肌や髪は艶をなくし、何歳も年をとったかのようにパサパサになっている。

 眼は血走って白い部分が少ないくらいだ。

 かつての無尽蔵にあった食欲もなくなり、何をするにも力が入らず、日に日に精気は失われた。

 毎日を死にながら生きている。

 未来はお先真っ暗、希望ひかりなど、どこにもありはしない。

 ーー私は何も悪くない。なのに、なのに······っ!

 ナギの足はふらふらと、ある場所へと向かう。

 手には、金槌と、ネジを取り出すドライバーが握られていた。

 一歩一歩、危うい足取りで進む。

 ーーもう、これで終わりだ。私は、やっと開放される············。

 乾き、ひび割れた唇からヒューヒューと、息が漏れる。

 ナギの目の前には屋上へと続く階段。さしずめ、絶望への階段は、堂々と、来る者拒まずといった趣で存在している。

 重い足を上げ、その一歩を踏みしめた。

 彼女にとって、刹那の迷い。それが彼女を、桜河ナギを、自殺へと導く。

 最後の一段を登り、現れたのは固く冷たい扉。最後の防壁。

 普段は屋上に生徒が上がらないように南京錠で、固く閉ざされているはずだ。

 ナギは手に持つ金槌を容赦なく南京錠に打ち付け、ドライバーで、鍵穴を無茶苦茶に壊しにかかる。

 その姿は悪鬼羅刹の如く。修羅にも似た表情で、ひたすらに打ち続ける。

 まるで、この世の鬱憤を晴らすように······。

 激しい音が廊下に響き渡るが、今は放課後。それに元々このフロアーには人の足はあまり向かない。

 ーーなんで私だけっ!? 私だけっ!? 私だけっ!?

 やがて南京錠はベコベコに凹み、カツーンっと、簡単に地面へと落下した。

「ハーっハーっ。っハー······!」

 ナギは荒く息を切りながら、南京錠を見つめた。

 凹み、傷だらけになったそれは、ナギの心を表している気がしてならない。

 だが、彼女は扉に手をかけ、そして、開いた。

 外の光が、一気に目をく。

 そこには巨大な室外機が幾つも鎮座しており、それぞれか低い唸り声をあげている。

 ゴウン······ゴウン。

 それに重なるように!ひぐらしが、寂しく鳴いている。

 夕暮れにさしかかった空は憎たらしいほどにどこまでも晴れ渡り、果てのないそれは、今から命を絶つナギを優しく出迎えているようにさえ感じる。

 もう、ナギを阻む障害は何一つとして無いーー。

 ーーこれで、これで私は、自由に······。

 読んでくださり感謝感激雨霰でごさいます!

 さて、今回で少しストーリーに大きな変化を与えてみました。いや、本当はもっと鬱っぽくしたかったんですけど、如何せん実力が無いもので……。

 

 誤字脱字や、おかしなところが点在したらお願いします!

 感想などもどうかお願いします!


 では、次回も目を通してもらえることを祈りつつ。ありがとうございました!

 

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