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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
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不安問診

「んじゃまあ、始めますか」

「うん······」

 別室では白衣姿の漣がコーヒーと問診表らしき物を手に、千夏と対峙するようにソファに腰を下ろす。

「城本がさっき言っていた昔のことって本当か?」

 いきなりエグいところを突く。

 今更迷うことなどないので千夏も淡々と応える。

「本当だよ」

「それからずっと殺人衝動はある、と······」

 それから幾つか質問をされ、その度逐一漣はどんどんメモを書き留める。

 これだけ見たら真っ当なカウンセリングの先生なのだが······。

 漣はじっと千夏の顔を見つめる。

 些細な変化すら見逃さないように。

 そんな時、沈黙に耐え切れなかったのか、質問が上がった。

「あのさ」

「なんだ?」

 少し緊張した面持ちで、拳をきゅっと握り、漣を見上げる。 

 滅多に敬語を使わないというのは少しどうかと思うが、もう彼にとっては慣れたことだ。

 千夏は不安そうに口を開いた。

「僕は、結局どうなるの?」

 素直な質問だった。

 それに対して漣はどう答えようか悩み、数秒後に小さく息を吐く。

「非常に言いづらいが、お前の殺人衝動は治ることはないな」

 カウンセラーとして、精神科医として敗北宣言とも取れる台詞。

 だが、漣の実力では治す力がないというのもまた事実。せめて、出来る限りのことはしてやるつもりだ。それが筋というものだ。

「殺人衝動の症状が現れてから時間があり過ぎる。しかもそれがゲームやらマンガとかから影響されたようなものならまだ良かったんだが、いかんせんお前の場合は ”本物” を味わってるからなぁ」

 漣の口調は軽いが目はちっとも笑っていない。

 千夏は彼から滲みでる真剣さを肌で感じている。

 その事実を受け止めるしかないのか······。

「だったら、僕はどうしたらー」

「おおーっと、誰も打つ手なしとは言ってないだろ」

「は?」

 思わずマヌケな声が漏れてしまった。

 漣が着ている白衣がゆらりと揺れる。

「治すことは叶わないにしろ少し症状を軽くすることや、あわよくばその殺人衝動を制御することはできるかもな」

 千夏は目を丸くして食いつく。

 冗談みたいな話だ。殺人衝動を制御するなんて。

「ちょっと待って。そんなこと、出来るの?」

 天井を仰いでうーんと唸った後、なんとも適当な返事を返す。

「為せば成るんじゃねえか?」

「············」 

 一瞬にして千夏の黒色だった瞳が、突き抜ける青空の色へと変化した。

 いつでも仕留めれるといった雰囲気を全身から醸し出す彼女に、漣の防衛本能は危機を感じとる。

 まったくもってどういう原理で瞳の色が変色するのかは理解できないが、漣にとっては専門外なのでどうでもいいようだ。

 それよりもいまは目の前に集中すべきである。

「ほうほう······。なんとなくだけど、今の私ならあんたを躊躇いなくれる気がするよ」

「ま、待て待て待て! やれるって言葉が意味深なんだがっ? 俺の言い分くらい聞いてくれても構わないだろ」

 慌てて取り繕う漣に、千夏は冷ややかな視線を送っている。

 冗談抜きの殺気に体を動かすこともままならない。

「俺が言いたいのは、今が ”最悪” じゃないってことだって」

「 ”最悪” じゃない?」

 漣はこくこくと何回も首を縦に振る。

「お前がなんであの通り魔を追っていたのかは訊かないが、結局さ、誰一人傷付けなかっただろ」

 千夏は動きを止めた。

「今回の騒動でお前は殺人衝動に駆られてどう仕様もないっていっていたが、実際どうなんだよ」

 ーー実際? 

 千夏は考える。

 しかし、上手く思考が働かず、ただ漣の言葉が耳に流れ込んでくるだけだ。


「お前は、人を殺すことなんかなく、逆に守る立場だったんじゃないのか?」


 どくん。と心臓が大きく一度脈打ち、目を見開いた。

 対して漣は確かな手応えを感じ取ったようだ。

「それはお前が ”狂い” ながらも自分という存在を否定していたからだ。人を殺したいだぁ? 否。そんな自分を否定し続けたから今こうしてここに居られるんだろうが。第一言ってたじゃねえか」

 早口に捲し立てられ、反論する余地すら与えられない。

 いや、反論なんて出来なかった。

 漣の瞳が、戸惑い、不安定に揺れる千夏の瞳を捉える。

「ーー化物になりたくないってよ」

 千夏は足から力が抜けたようにぺたりと座り込む。

 そして焦点の合わない瞳は虚空を見つめ、呟く。

「そう、だった······。僕は人を殺したいと思いながら、殺したくなかったんだ。化物にはなりたくなかったんだ」

 真っ青であった双眸は、今は普通の黒だ。

「でも」

 千夏は無機質な視線を宙に向けているばかり。

 漣は静かに耳を傾けた。

 彼女の心の複雑なところ全てを知り、理解しようとするために。

 千夏はしっかりとした口調で先を続ける。


「僕は確かに、この手で、人を殺しているんだ。人は、人を殺したら真っ当ではいられない。そんなもの化物だ。現に僕の眼は蒼くなって ”狂った” 。そんな僕なんかが皆がいるような綺麗な世界に居ていいはずがないじゃないか」 


 言った。

 千夏の心に渦巻いていた一抹の不安。それをついに曝け出した。

 彼女の唯一の危惧······皆と同じ世界を共有できないのでは······。

 千夏の心の内を知った漣の反応はシンプルであった。


「はあ?」


 馬鹿にしきったその顔が無性に腹を立たせた。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字や間違った表現などの御指摘などあればお願いします。

感想、評価などお待ちしています!

                 霞アマユキ

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