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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
30/36

おかしな流れ

 訥々と過去の出来事を、心情を語り終わった時には全員が神妙な面持ちで、しんっ······と事務所内は静まり返っていた。

 千夏の過去は想像をはるかに超えてどろどろしていた。安易に声をかけられない程に重たかった。

 ナギですら知らなかった事実、それを悟らせないほどの千夏の強さにこの場の全員が声を失う。

「ふむ······」

 そんな中、白衣の擦れる乾いた音だけが耳に届く。

「さてと、今から俺は城本と少し込み入った話しをするが、お前らはどうするんだ? 時間も時間だからなあ、近くに泊まれるような場所は······」

「私はここに泊まります」

 ナギはあっさりと答えを口にする。

「じゃああたしも」

「右に同じ。あたしもそうしますかね」

「私も泊まるよ~」

 流れるように次々と上がっていく返答。

 最後に一文字が

ろおろと答える。「えっ? 今ってそういう流れなのか······? だったら俺も泊まらせてもらおうかな」

 まさかの全員が事務所で夜を明かすことを希望。

 そんな簡単に決まってしまっていいものなのか甚だ疑問であるが、まあ問題ないだのろう。

「えぇぇこの人数が泊まるのか······。はあ、仕方ねえな。泊まってもいいがシャワーがあるだけで布団なんかねえぞ。それでもいいならな」

 漣も漣で、この人数は流石に無理かと思われたが、彼は軽く息を吐いただけであっさりと許可をしてくれた。

 ーーあれ? おかしな流れになってきてない?

 ナギの心の内を知るはずもなく、場はトントン拍子で事が進んでいく。

 木乃香たちに至ってはどこから持ち出したのかわからない寝袋なんかも準備している。

「んじゃ、城本はこっちの部屋に来てくれ。少しの間だが、いくつか尋ねたいこともあるからな」

「······はい」

 少しばかり元気なく漣と一緒に別室へ移動する千夏。

 彼女の背中を見つめていたナギは不安を感じていた。

 はずだったのだが······。


「みんなで泊まるとかなんかワクワクしない?」

「ホントホント。こんな時はさ、ど定番、ガールズトークでもしちゃう?」

「でも将君いるよ?」


 これまたどこからかお菓子も準備し、賑やかになり始める女児三人。

 ーーちょっと待て、なんで楽しそうにし始めているんだ······。いや、それよりも今は千夏のことが心配だ。

「おいおいお前ら。修学旅行じゃないんだからおとなしくしとけよ。城本だって大変なんだからさ」

 呆れ顔の一文字が一括。

 しっかりしているなあと感心するものだ。

 ーー千夏、大丈夫だろうか。

 そんなナギの心配など露知らず、三人はいつ始めたのだろうか、トランプ(大富豪)で異常な盛り上がりを見せていた。


「ハハハハハ貧民どもよ、あたしの力を思い知れえ」

「く、くそっ。木乃香の奴この土壇場でAだとっ。しかし私はあと二枚だ、勝利はもらった!」

「フフフ甘い、甘いよ二人とも······!」

「「か、革命だってえええええ!?」」

 

 ビキッとこめかみの辺りで何かが切れる音がした。

 

「あんたたちうるさあああい!」


 ナギの怒声で三人はビクッと手を止める。

「お、おい桜河」

 一文字の声なんて聞こえない。

 普段はあまり怒らないナギだが、今回は我慢ならない。

 三人は錆びた機械のようにぎこちなく首から上をこちらへと向ける。

 ナギは声を張り上げた。

「千夏はいま頑張ってんだよっ? そんな大事な時に何してんのーー」

「こんな時こそよ」


 ーーは?


 頭に血が上っていたナギに冷水を浴びせるかのような渚の言葉。

 思わず言葉に詰まってしまう。

「こんな、あたしたちがどうする事も出来ない時、どうしようってそわそわするよりもこうやって前向きに明るくしてる方がいいんだよ」

「そうだよ? 千夏ちゃんがこっちに帰ってきた時に私たちが暗い顔していたら駄目じゃない」

 せ、正論だ。

 ナギは二人に反論することは出来ないでいた。

 叱ろうとしていたはずが、逆に論破されるという事態に。

「ちゃ、ちゃんと考えていたんだ······」

 ーー木乃香たちの言う通りだ。私が下を向いていたって何にも始まらない。

「············いや、こいつらそんなに考えてないだろ」

 一文字の呟きは聞かなかったことにしよう。

 それにしてもナギは初めてこの三人娘を尊敬したかもしれない。

 そ知らぬ顔をしている三人は言うだけあって楽しそうにトランプに興じている。

 いちいち悩んでいたのが馬鹿みたいだ。

 ーー············。

 トランプを切る三人にいそいそと二人が追加して、千夏と漣が戻ってくるのを待つ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回で30話! 知らぬ間にだいぶ進んでいたものですwいつも読んでくださっている方、たまたま読んでくださった方、ありがとうございます<(_ _)>

この作品が処女作ということもあり、自己満足のためだけに書いていたものが30話に達するというのは、ひとえに読み手の皆様のおかげかもしれません。「応援しています」などのお言葉もたまにいただいて、大変力になります!

拙作ですが、あと数話続く予定です。と言いつつもあと何話で終わるかは僕自身分かっていませんwですが、最後までお付き合いいただけたらと思います。

                 霞アマユキ

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