忌まわしき過去ⅱ
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小学校生活も残り少なくなった冬だったと思う。
たしか私は両親が何日か家を空けていた時、一人で買い物に行っていたんだ。
両親は共働きで帰りが遅いことなんてしょっちゅうだったし、小さいながらに私もそんなことには慣れていた。
そんな、よく風が吹くある日買い物からの帰り道のことだ。
ーー私は何者かに襲われた。
相手は一人だけの男の人だった。けど、小学生の女の子からしたら大人なんて誰であろうが関係ない。ただの恐怖の塊だった。
その男の人は私を近くに停めてあった車に連れ込み、殴った。
そのあと手足を縛ってどこかの山に連れて行ったんだ。
そこでまた殴られたり、蹴られたり、とにかく乱暴されて、私は泣きながら逃げようとしたんだけどそれも叶わず、ただされるがまま。
怖くて、どうしようもなく怖くて、痛くて、私の逆らう気力なんてとっくに折れていたよ。
手足の拘束を解かれても何もできなかった。
その男の人はどこかおかしくてさ、急に笑い出したら、急に自分のしていることを後悔し始める。
情緒不安定なんてものじゃなくて、何かが壊れていたんだと思う。
でもね
その人は
ずっと泣いていたんだよ。
私を山に連れ込んだ時からずっと涙を流してさ、私からしたら訳がわからなかった。
でも、今なら少し分かるかもしれない。
多分だけど、その人は救いようのないほど ”狂って” いたんだと思うよ。
そしてその男の人はナイフを取り出した。
ああ、私は死ぬんだ。
そう実感した。
けれど、そのナイフが私を貫くことはなかった。
何故なら、そのナイフは男の人、自身に突き刺さったんだから。
目の前で起こった事実に私は呆然とするしかなかったよ。
どうして? 助ける? 逃げる?
私はパニックになりそうだった。
そりゃそうさ。さっきまで乱暴されて、このまま死ぬんだって思ってたのに、そんな展開になるなんて誰も予想つかないだろ。
目の前で人が血を流している。苦しんでいる。
そんな時だったよ。
呼吸も満足にできていない。血は流れ続けて放っておいてもいずれ息絶える。
でもその人は私に近づいて、何かを手渡した············。
ナイフだよ。
その人は私に目で訴えかけていた。
「君が僕を殺してくれ」と。
その瞳は、澄んだ海のように蒼かったんだ。
私は訳も分からずついにパニックに陥った。
そんなことできるはずもない。私はボロボロ泣いて必死に抵抗したんだけど、男の人はどうもそれを許してはくれない。
ついに私はカタカタと震えながら、血にまみれたナイフを手に持つ。
その瞬間、私は見たんだ。
木々の隙間から垣間見る爛々と散りばむ星空を。
一瞬だった。
全身がカッと熱くなってヒリヒリした感覚が私を支配した。
気づけばね、男の人は倒れていて、自分で刺した腹ともう一つ別に首から血を流し続けていた。
そして私の手は真っ赤だったんだよ。
もうその後は無我夢中でさ、何をどうしたのか全く覚えていない。気づいたら山を下りていて空は明るくなってた。
その時の私の手には離したくないっていう意思表示なのかな、ナイフがしっかりと握られていた。
私は理解した。
ナイフを向けられた時、私を支配した感覚は殺人衝動で、そして握られたナイフを見て笑っていられる自分は ”狂って” いるんだって。
························。
それからだ、時々変な高揚感に浸ることがあり始めたのは。
でもそんな私を救ったのは、ナギ、君だよ。
フフ。そんなキョトンとした顔しないで。
なんでだろうね。ナギが側に居てくれるだけで私の心は落ち着いていられたんだ。
おかしいのかな? ナギが、私にとっての支えだったんだと思うよ。
♢ ♢ ♢
最後まで読んでいただきありがとうございます!
最近何かと忙しく、さらにテストも近づいててんてこ舞いでございます。
もっと効率よく執筆できるようにはならないのだろうか……w
毎度のことですが、誤字脱字や間違った表現などの御指摘がありましたらお願いいたします。感想、アドバイスも頂けるととても嬉しいです!
ではでは、次回も目を通してもらえることを祈りつつ
霞アマユキ




