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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
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闖入者

 ナギの迫力に、千夏はすこし気圧される。

 またしても躊躇う·····。

 ······本当にこの手を離してもいいのか。

 今、この瞬間の決断は、いつか必ず後悔することになる。そんなことは分かりきっていた。

 ナギの手を握り返すことは ”狂った” 千夏が彼女を傷付けてしまうということ。

 ナギの手を突き放すことは ”狂った” 千夏が

慣れてしまった温かさを、この先は孤独の冷たさに塗り替えられてしまうこと。

 二つに一つの選択。千夏の答えは決まっていた。


「ナギ、お前が来たところで私は変わらないよ······もう、手遅れなんだ。だから私には構うなっ」

 

 千夏はナギの手を突き放す選択を選ぶことに迷いはなかった。

 ナギを傷付けてしまうことに、千夏は耐えられなくなるに違いないから。


 ナギは、そんな千夏の態度に無性に腹が立った。

 口を引きつらせ、額に青筋を浮かべて怒鳴る。


「っの分からず屋! 手遅れも何もないっ。たとえ千夏が ”狂って” いようがいまいが知ったことか!」

 住宅街から離れた川辺にナギの大声が響く。

 この付近を歩いている人がいないことを願いたい。

「私は、私のわがままで構いたいのっ。私の勝手な思いに千夏が入り込む余地はない!」

 語気は強いが、優しのある言葉をぶつける。

 対して千夏は痛いほど鋭い言葉を返してきた。

「ナギに私の何が分かるっていうの!? どれだけ悩んで、こういう決断をしているか、分からないだろ!」

 千夏は今にも泣きそうな顔をして、腰に隠してあったナイフを静かに取り出す。

 月明かりを反射し、幻想的とさえ受け取れるほどの美しさを、そのナイフは放つ。

 蒼い瞳が、ナギを捉えた。

「お願いだから、私に構わないでくれ……」

 その言葉は、ナギの心奥にまで響く。

 瞳をギラつかせ、燃え上がるほど熱の籠った調子で千夏は慟哭した。

 

「もううんざりだっ。ナギたちが居るような明るい世界に私が存在することもっ、自分に嘘をつき続けて仮染を演じるのもっ。正直、迷惑なんだよ!」


 ············感情がぶれる············ぶれる。

 ナギに向けられたナイフの切っ先がカタカタと震える。

「私は、私に正直に生きる。誰にも邪魔はさせない」

 この時、千夏は本当にナギを刺してしまおうかと考えていた。

 彼女を実際に傷付けてしまうことで、もうこの先千夏に近づく事はしないだろう。そればかりか、千夏と共有した思い出を忘れようとするかもしれない。

 千夏と関わる事など、無くなる。

 ある意味最善の選択かもしれなーー


「それは嘘だ」


 千夏は無理やり現実に戻される。

 ナギの真っ直ぐな視線とぶつかった。

 

 それは心まで見透かしているように透明なモノ······。 

 

「······千夏はさ、嘘をついてる。正直に生きるなんて言ってるけど、そんなはずないじゃない」

「なんッ············」

 雷に撃たれたかのような動揺が見て取れた。

 一歩、千夏に寄る。

「ナギ······来るなって言ってるだろ······っ。流石にナギでもこれ以上はーー」

 更に一歩近づく。

 千夏は一歩後退る。

「刺すぞ。って? 刺せるか。バカ」

 更に二歩近づく。

 千夏は二歩後退る。

「·················私は、本気だ······」

「じゃあさ······」

 更に三歩近づく。

 千夏は、後退るのを止めた。


「どうしてそんなにも苦しそうな顔してるの」


「············えっ?」


 もうナイフはナギの喉元寸前の距離にある。

 少しでも押し出すとたちまちナギの喉元は真っ赤に染まるだろう。

 ーーこのバカ、気づいてないの?

「自分に正直って、千夏さあ。そんな苦しそうな顔してたら誰が見ても嘘だってわかるよ?」

 茫然自失といったふうに、千夏は自分の顔に何度も触れる。

 そう。千夏は今にも泣きそうなほど、何かを堪えていた。

 ······ナギに、一つ思うことがある。

 自分に嘘をついてまで、通り魔のようなことをしている事実だ。

 漣さんは言っていた。千夏はまだ狂っていないと。

 ーー······。

 神谷さんに見してもらった資料によると、四年も前から続いているらしいが、この一連の通り魔事件で、死者は一人もいないらしい。

 もし千夏が殺人衝動に呑まれかけているとしたら、こんなにも長い間、人を殺していないということにも驚く。

 ······こればかりは、千夏に直接問いただすしかないようだ。

「千夏。どうして通り魔なんかしていーー」

 その時だった。


「っ、ナギっ!」

「ごふぅっ!」


 反応するまでもない。千夏渾身のタックルがナギに直撃。諸共地面に倒れ込む。

 ーー何事っ!?

 と、同時に。


 ヒュカッ。


 暗闇に不釣り合いな銀色の一閃が宙を薙ぐ。

 ちょうど、ついさっきナギが立っていた場所だった。

 そして耳を劈く金切り音が、静まり返った川辺に残響する。

 ーーっな。

 ナギの目に飛び込んだもの。それは、


 サバイバルナイフを片手に握る不気味な人物だった。

  

 たった今、千夏がいなければ死んでいたかもしれないということと、目の前の急な出来事に頭が追いつかず、声すら出せない。

 ーーえっ? ······えっ。

 そんなナギを放っておいて、千夏は不気味な人物を睨みつける。

 両者は動き、ナイフが交差する。

 千夏も、相手も器用にナイフを受け止め、またしても金切り音だけが響く。

 千夏は口の端を吊り上げ、心の底から楽しそうに言った。

 耳を、疑うような真実を。


「やあ。やっと会えたね。通り魔さん」  

最後まで読んでいただきありがとうございます!

 

夏休みも終わって、また小説書く時間が取れなくなってしまう……(-.-;)

夏休みではいろいろなことに挑戦というか、初めての試みのようなことをしていたのでそれはそれで時間は取れていなかったのですがw


ではでは、毎度のことながら誤字脱字、間違った表現などありましたら御指摘のほどよろしかお願いします。

感想や批評、アドバイスなどもいただけるととても嬉しいです!


それでは、次回も目を通してもらえることを祈りつつ。

              霞アマユキ

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