狂う時ⅳ
月が煌々と夜空に君臨している。
街は夜の静けさに包まれ、夏本番だというのに撫で付ける風はどこか冷たく、薄気味悪い。
住宅街にほど近い筈なのにまるで死に絶えた街のごとく、人の気配が消失していた。
月の魔力などのオカルト的力か、たまたま偶然なのか············それとも、あらゆる事象が重なった、必然の結果なのか。
人は皆この空間に混じることを拒絶しているとさえ感じる。
そんな中、動く影が二つ。
「············まさか、こんな時間まで待たされるなんて」
さらさらと川の水が流れる。
川辺で愚痴をこぼすのはナギで、その隣を漣が歩いている。
「仕方ないだろ。竜輔のバカが持ってきた情報にのっとて、統計的に考えた結果、城本が現れるであろう時間は今だからな」
「だからと言って、もう夜の十時半ですよっ?」
わオーん。と遠くで犬が吠えた。
ナギは何とも言えない寂しさに包まれるのを感じていた。
そもそもこんな時間、流石に女子高生が出歩いていい時間は過ぎている。
「まあ、私も木乃香たちも、友達の家に泊まるってことで親は納得してますけど······」
「だったらいいじゃない」
親指を立てる漣を殴りたい思ったのは当然の反応ではないだろうか。
ナギは軽くため息をつき、不承不承といった風に歩く。
そして何故二人なのかというと、漣の考えである。
数時間前
「先生。作戦ってどういうものですか?」
「それを今から説明する」
「······へえー。先生って以外に真面目なんだ」
「そうそう。私も思った。漣先生って見た目ズボラそうだもんね」
「ちょっと、失礼だって木乃香 渚。······確かに、普段はだらしないし、どんくさいし頼りがいなんて皆無だけどーー」
「うるさいぞっそこ! っていうかそこまで不真面目じゃないからな」
「桜河も案外酷いこと言うよな」
「和真もそんなこといいから説明説明」
「そんなことって······ま、まあいい。いいか、今から二人一組に別れてもらう。だが竜輔は一人で行動しろ」
「ねえ、それってひどくない?」
「んで、俺のチェックした地図の場所に待機。桜河、出来てるか?」
「もちろんですよ。全員分の地図のコピー用意出来てます」
「あれ? 無視ですかー?」
「城本を発見次第他の全ペアに報告。シンプルイズザベストだろ。これが一番連携しやすい」
「先生質問なんだけど。俺たちの張る場所にどうして城本が来るって分かるんですか?」
「ふふふ。なめるなよ。俺だって心理学選考なんだ。城本の精神状態や過去の出現場所から考えて的確な地点を絞った。後はこれら地域の周辺を警戒するだけでいい」
「了解です」
そして今に至る。
本当に千夏が現れるかは少々不安があるが、現状今はこれしか手がないわけで、何もしないよりはいい。
ナギは周囲に千夏らしき人影がないか注意を払いつつ、普通の通行人を装って歩く。
すると、不意に肩を叩かれた。
「どうやら、当たりは俺たちみたいだな」
「はい?」
漣の示す先、そこには一つの人影があった。
先を歩く人影はふらふらと、右へ左へ果てなき道をさ迷い続けているようにも見える。
さながら、亡者の印象をナギたちに与え、そして、
遠くからでも視認できるほど、瞳は炎のように爛々と蒼かった。
「千夏······!」
「桜河、俺は他のやつらに連絡を入れる。それまであいつを見失うなっ。いいな」
「分かってますそれくらい······!」
漣はその場に留まり、携帯を操作し始める。
ナギは急かす足をどうにか抑えつけ、あくまで冷静に夜の闇に消えた人影を追いかけた。
♢ ♢ ♢
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回はついにナギと千夏が接触します。
漣さん、結構出来る人ですよね。最初の方はダメ人間にしようと思ってたのですが、今ではたま頭がキレるところを見してくれて、好感度が上がってますw
さて、毎度のことながら誤字脱字、おかしな表現などありましたら御指摘のほどよろしくお願いします。
感想や批評など大歓迎でございます!
それでは次回も目を通してもらえることを祈りつつ
霞アマユキ




