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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
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狂う時ⅲ

 神谷が事務所を訪れ、それぞれが、それぞれの成すべき事をしていると時計の針は午後の五時半を指していた。

 小さな子供は家へと帰り、サラリーマンなどのスーツ姿の人もチラホラと駅周辺に見られる時間。


「はろはろ~」

「うわぁ、本当に漣先生こんなとこに事務所構えてるんだあ。なんだかすごい」

「おじゃましまーす」


 ナギ、漣、神谷が居る事務所の扉は勢い良く開け放たれた。

 ガヤガヤと賑やかな集団により事務所内はたちまち喧騒に包まれる。

「おいおいお前ら、せめてノックくらいはしろよ」 

 どうやら一文字もいるようだ。

「急に呼び出しちゃってごめんね。みんな」

 ナギは四人を見つめる。

 木乃香。早苗。渚。それに一文字はナギの無茶な頼みに応じてくれた。

「謝んなくっていいってー。ナギの頼みじゃん」

 木乃香はカラコロと笑う。

 彼女が笑顔だと、自然と笑顔になってしまうから不思議なものだ。

 ナギは場が落ち着くのを待ってから、本題に入る。

「電話で簡単に話したけど、ちょっと危ないかもしれない。なんたって千夏は通り魔なんだから」

 事前にナギは木乃香に助けて欲しい内容を話している。つまり、千夏のことも隠さず全て話したのだ。

 それでもちゃんと来てくれたということは、凄いことなんだろうなと思う。

「ま、城本には七月の件で助けてもらったしね。木乃香から話を聞いたとき、二つ返事でオーケー出しちゃったよ」

「五木の言う通りだな。俺も昨日あいつを近くで見た時さ、怖くて何もできなかったけど、それじゃあダメだよなーって」

 ポリポリとバツが悪そうに、一文字は頭をかく。

「やっぱさ、 ”狂う” ってことは、それ程苦しんだってことだろ? だったら俺は恐るんじゃなくて、手を差し伸ばさなくちゃいけないなって」

「おお······まさしいいこと言うね。将なのにね」

 そう言いつつ一文字の頭を撫でる木乃香は、頭を小突かれた。

「痛いっ。なんでっ? 褒めただけじゃん」

「お前、絶対に俺の事バカにしてただろ」

 仲のよろしいようで。

 早苗と渚も意地の悪い生暖かい眼差しを二人に向けていた。

 それでも、一文字の言うことは正しい。

 ナギは忘れがちだったが、 ”狂う” ということはその分の苦しみを少なからず味わっているということを改めて思い知らされた。

「さあ、上がって。漣さんは隣の部屋に居るから」

 少し不安を感じていたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。

 目の前にいる四人は、あまりにも心強い助っ人なのだから。


「そう言えば私達ここに来るの初めてだよねえ。いいなあ。秘密基地みたい」

 まじまじと室内を物色する早苗。

「ねえねえ渚ちゃんはさ、こういうの憧れたりする?」

「何言ってんの早苗······まあ、憧れないって言ったら嘘になるけど」

「あたしなんかは憧れるよ?」

「おいこら、お前ら三人ともあまり置いてある物をいじるなよ~」

 ーーなんだろう············あまりの緊張感の無さが逆に末恐ろしい。

 完全にペースが偏ってしまったので、ナギは一度咳払いをして空気を変えようと努める。

「おほん。さあ、漣さんはこの部屋の中だから。あともう一人別にいるけど、後で説明するね」

 もう一人とは、もちろん神谷のことだ。

 三人娘に神谷が混じると、妙な化学反応が起きそうなのが恐怖ではあるが······。

 一抹の不安を抱きつつ、ナギは扉を開けた。

「あの、木乃香たちが来ましたよ漣さん」

「うおっイケメンがいるっ!」

 扉を開けて早々、渚は神谷を見つけて驚いた。

 彼を知る人物なら、イケメンなどとは言わないに違いない。

「どーもー。神谷って言います。外の話、悪いけど盗み聞きさせてもらったよ。ナギちゃんの友達だよね」

 ーー盗み聞きとは神谷さんらしい。

「この人は神谷竜輔さん。漣さんの知り合いで情報通······らしいの」

 神谷はにこにこと手を振っている。

 これだけを見るなら、本当に良い人に見えるのだから、狸なのだろう。

「ええと、神谷さんにも今回の件で協力してもらってるんだ」

「そう言うこと。まあ、協力者Aとかで思ってくれたらいいから」  

 かんが良い人ならば、神谷の瞳の奥底に光る怪しいモノに気付いたかもしれない。

 そしてこの時、この部屋で唯一、その気配を感じた者がいた。


「······桜河」


 一文字はナギだけに聞こえるように小声で話し掛けて来た。

「どうしたの?」

「あの神谷って人、信用できるんだよな」

「はい?」

 ナギは最初、彼の言っている意味がわからなかった。

「何となくだけど、あの人から嫌な感じがする。······俺のこういう時のカンってよく当たるんだよ。だからさ、一応気をつけておいた方がいいんじゃないか」

「う、うん······。わかった」

 ナギはナギで、一文字からただならぬ気迫を感じ、尻込みしてしまった。

 ーー神谷さんが危険? 何だかんだで協力してくれる良い人だと思うんだけど············。

 ナギは友人の忠告を軽く受け止めてしまった。 

 ただ、この時既に神谷の裏での暗躍を知っていたのであれば、彼を決して良い人、などとは表現しなかったのだろうが······。

 

「よしっ! こんなもんでいいだろ!」


「うわっ、びっくりしたっ」

 ナギが考えに耽っているとき、突然漣は立ち上がった。

 近くにいた木乃香は驚いて尻餅をついている有り様だ。

「漣せんせー。急に声を上げないでよお」

「うん? 何でお前らがここにいる?」

 そこから話をしなければならないのかッ。と喉まで込み上げたツッコミはかろうじて堪える。

 まあいい。と漣は室内を見回した。

 けんごう々としていた事務所内は驚くほど静まり返る。まるで全員が口を開いてはいけないと、本能で感じ取っているようだ。

「やっと出来たぞ」

 くっくっくっと喉で笑う漣は悪の科学者のよう。

「では、今より作戦を説明する······!」

「えっ、ということは······漣さん」

「ああそうだ」

 犬歯を覗かせ、真っ直ぐにナギを見る。


「城本救う算段ができた」

最後まで読んでいただきありがとうございます!


さて、来週から本格的に動き始めます。どうぞお楽しみに。


今回は言葉少なですが、いつものごとく誤字脱字、間違った表現などありましたら御指摘お願いします。

感想や評価なども頂けるととても嬉しいです!


ではでは、次回も目を通してもらえることを祈りつつ

              霞アマユキ

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