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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
救われること
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今日の星座占い

 桜咲く四月。長いように感じられた春休みも昨日で終了し、心機一転、新たな生活が始まろうとしていた。

 今日から地元の私立高校に通う高校一年生の桜河(さくらがわ)ナギは、新たな制服に身を包み、テレビを観ながらもそもそとパンを齧っている。

 今日は入学式だ。

 ーーもう四月なんだよねえ。

 四月······そう、四月である。桜咲き、新たな出会いがあり、心躍る一ヶ月。

 体がそわそわして予定よりも一時間も早く起きてしまうほど、気分は高揚していた。

 とりあえず、ナギはハッピーなのだ。

 意気揚々に食パンを胃袋へと流し込み、二枚目の食パンを手に取る。

「姉貴、ちょっと待て。どんだけ食うつもりだ」

 今年で中学二年生になる弟のシイナが静止の声をかける。

「どんだけって、これだけだけど?」

 これだけは、尋常ではなかった。

「おかしいだろ! 焼き鮭や味噌汁は別にいいさ。だけどご飯三合は多過ぎだろッ朝飯だぞ!? しかも加えて食パンにまで手を伸ばすとか量を考えろよ!」

「ええー。だってまだ入るんだけど」

 シイナの小言に不満の声が出る。

 そもそも大食いなのはシイナも知っているのだから、もういちいち注意をするのは諦めて欲しいものだ。

「まだ入るじゃない! ったく一体我が家の家計のどれほどが姉貴の食費に消えているのか、考えるだけで頭痛がする······」

「人を悩みの種みたいに言うな」

 シイナは再び溜め息をついて自分の朝食にもどる。

 二枚目の食パンが口の中へと消えた時だった。

『次のニュースです。今日午前五時頃、○○市の山の中で男女合わせて七人の遺体が発見されました』

 ナギは口の中の物を飲み下し、テレビへと視線を向けた。

 不快そうに溜め息を漏らすシイナ。眉を(ひそ)め理解できないといった表情を浮かべるナギ。

 そして、ナギは呟いた。


「····································またか······」


 世間はナギのように明るい話題ばかりではない。むしろその逆、今の日本社会は陰鬱な出来事が蔓延していた。

 現にたった今報道されているニュースもそうだ。

『現場は人通りの少ない山道の途中で、七人の遺体が発見された車内の様子や、遺体の性別、年齢がバラバラなことから警察は練炭を焚いたことによる集団自殺の線で身元の確認を急いでいますーー』

 ここ数年で社会は大きく変わった。良い意味でも、悪い意味でも。

 あらゆる技術や、企業の成長。それによって海外の目に留まり、日本は大きな利益を得た。

 その反面、日本人の心はすり減り続けた。

 忙しすぎる毎日に人々はやがて生きていくことを苦痛に感じ始めたのだ。

 鬱のような症状。連日のように自殺する人が後を絶えない今日、最早社会現象の枠には留まらない。

「最近、多いよねこんなニュース」

「うん············」

「なんで自殺なんてしようとするのかねえ。俺には理解できないんだけど」

「私たちには関係ないこと! それよりも今日一日をどうハッピーに過ごすかの方が大切だって!」

 そう言って食パンを胃袋へと流し込む。

「お気楽だねえ姉貴は……」

 苦笑する弟を横目にナギは自室に向かう。

 お気楽の何がいけないというのか。

 しばらくして髪を整え、真新しいカバンを持って、玄関まで進む。

 そして真新しい靴を履き、用意は完璧だった。

「あ、そうだ」

 忘れてた忘れてた。

 ナギは再び靴を脱いで、玄関のテレビに注意を向ける。

 星座占い。ナギが毎朝チェックしている週間の一つ。

「ほうほう。今日は一位か。············なになに? 運命の人に会えるかも······か」

「早く行けよ遅刻すんぞ」

「へいへい分かってるって」

 いそいそ靴を履き、鞄を担ぐ。

「んじや、行ってきます」

「おう」

 外に出ると空は快晴。顔を撫でる風が春独特の香りを運んでくる。

 そんな香りを堪能せんとばかりに、息を大きくすっては吐く。

「う〜んッ。やっぱ春っていいねえ!」

 一人ごちながら、友人の待ち合わせ場所へと軽い足取りで向かう。


 しばらく歩いてふと、道行く人は新品の鞄に皺一つ無い制服を身に纏った新入生とおぼしき学生がやけに多いと思った。

 ーーほほう。入学式の日がかぶったな。

 辺りをキョロキョロと眺めつつ、歩みを進めていると友人との待ち合わせ場所にたどり着いた。

 その場所に彼女はいち早く来ていた。

「おはよー。千夏ちなつ

「ああ。おはようナギ」

 城本千夏。中学校で出会って以来、ほぼ一緒に過ごしている親友だ。少なくとも、ナギはそう思っている。

 肩まで伸ばした髪に、スラリとした体躯。男が見れば美人。女が見れば恰好いいといった風に見られる彼女、一番の特徴は。

「へえ······なかなか似合ってるね······。特に、スカートが」

「あのね。僕だって好きでスカート履いてるんじゃないからね? ······それよりも」

 一人称が僕と言うところである。

「僕はこっちの方が気になるかなあ?」

 そう言って突然姿が消えたかと思うと、背後へと回り込みナギの胸を揉みしだき始めた。

 通行人の視線などお構いなしだ。

「ちょっやめて······! 他の人が見てるでしょうがあッ!」

 拳を千夏の頭蓋に叩き込み、ひとまず大人しくさせる。

 補足しよう。千夏は変態なのである。

「ったく、先行くよ」

「ちょ、ちょっと待って······。あ、頭が」

 呻く千夏を置き去りに歩き始めるナギ。

 ーー千夏もまともな性格ならモテるのに。男女共に。

 その後、復活した千夏と一緒に学校の門を潜ったのは二十分ほど後のことだった。 

 ナギは校舎を仰いだ。

 今日からお世話になる高校。その外見は中庭を見下ろす様に建てられた立派な校舎に、キッチリ整えられた植木。学校の敷地の広さを最大限に活かした造りはなんとも壮大な印象を与えるものだ。

 ナギ達は、前もって知らされていたクラスに荷物を置きに行き、そして体育館へと移動する。ちなみに、千夏とは違うクラスだ。

 体育館に向かう際、あまりの生徒の多さに廊下がごった返していて一向に前へと進めない。

 そんな中ナギは不思議な人物を見かけた。

 身長百七十センチほどで寝癖が目立つ髪に、気怠げな雰囲気を全身から醸し出しているその人は何故か白衣を着ていた。

 ーー保健の先生?

 いやいや。事前に配布されているパンフレットには該当する先生はいなかったように思う。

 ナギの興味が薄れる頃には、人の波に流される形で体育館に着いていた。

 そしてつつがなく入学式は始まる。


『えー。それでは続きまして、今年度、新たに着任される先生方を御紹介します』

 司会進行を務める禿頭の教師の声がマイクを通じて体育館中に響きわたる。

 入学式と言うが、所詮は校長先生の話がメインであり、今から行われる着任式もナギ達一年生からしたら、どの先生も初めて見るのだからこれといった感情は湧き上がってこなかった。

 そのはずだったが······。

「あれ?」

 見覚えのある顔が壇上に立っている。

 その場には五人ほど、新たに着任する先生が直立不動で立っているが、その中で一番若く。一番だらしなく。最も先生と言う言葉が似つかわしくないであろうあの白衣の男の姿がある。

 ーーあの人やっぱり先生なんだ。けど、何の先生? 白衣も着てるし······。

 などと思考を巡らせていると、その男の順番が回ってくる。

『では、最後にお願いします』

 マイクを受け取り、簡単な挨拶が始まる。

「えー。私は皆さんとは、授業での接点はまず無いかと思います」

 ーーどういう意味だ?

「私は、皆さんの不安や、悩みといった物の相談に乗る、カウンセラーのさざなみ和真かずまです。週二日、この学校に来ているので、抱え込んでいる事があるのなら、相談に来てください。宜しくお願いします」

 パチパチとまばらな拍手が送られる。

 カウンセラー。

 漣と名乗ったあの男の先生と呼べる種類の中で、ダントツで彼に相応しくないものではないのか?

 ーーあんなだらしない人がカウンセラーかあ。そりゃあ、まあこのご時世カウンセラーは求められている職業だけど、あんな人がねえ······。

 ナギの印象に軽く残った程度で、後は特に目立った事は無く、入学式は静かに幕を閉じた。

本作の始まりです!

最初は主人公であり、ヒロインでもあるナギを主体とした話なので、少し淡々としているかと。


誤字脱字などがあれば、是非とも御指摘をお願いします。感想もお待ちしてま〜す。


ではでは。次も目を通してもらえることを祈りつつ

次回もお願いします!

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