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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
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そして事態は動き出す

 漣の一言でナギはハッとする。

 ーーそうだ、まだ千夏は自分を保っている。あいつはまだ完全に ”狂って” なんかいない············!

 そもそも千夏の事情など、ナギには知ったことではなかった。

 例え千夏に別れを告げられようとも、例え軽蔑されようとも······例え、傷付けられようとも、余りにも自分勝手に決めたのだ。

 

 一発殴って、連れ戻してみせると。


 ーーこんなにぶれてたらまたシイナに殴られちゃうな。

 ナギの脳内に拳を握り締める弟の姿が映り、ブルっと震える。

「では」

 漣は静かにコーヒーが入っているマグカップを机の上に置いた。

「訊こうか」

 漣は不敵な笑みを浮かべる。

「桜河············。お前は城本を救いたいのか?」

 ナギも不敵な笑顔で返した。

 ーーそんなこと、考えるまでもない。


「当たり前です」


 ナギが力強く応えると、頼りなさそうな男は何よりも頼りがいのある声音で言った。


「決まりだな」


 今ここに、千夏を ”狂気” から救うべく、二人の人間が動き出した。


        ♢ ♢ ♢ 


 私の、人を殺したいという想いはまるで恋のようだ。

 もしくは麻薬と同じだろう。明らかに私は人を斬る行為に快感し始めている。


『人を殺してしまうことをお勧めするよ』


『······君のとびっきり大切な人をね』


 神谷という男の言葉が頭をよぎる。

 人殺しは············人であるために最もしてはいけない禁忌。

 だが、私の身体こころはそれを望む。

 嗚呼、人を斬りたい······あの全身に迸るひりつく殺意を感じたい。それだけで私は満たされる。

 恐怖。人を切ってはならない。私はもう手遅れかもしれないが、化物には成りたくない。


 二つの混沌がぐるぐるぐるぐる····································。

 

 ーーもう、耐えられない。


 今まで抑えてきた殺意が、快感が、禁忌が、爆発しそうでならない。

 私を、 ”私” でいさせてくれた枷はもうないのだから······。

 あと数日として心は砕けてしまうだろう。

 いっそ神谷という男の言う通り、人を殺ーーいや、駄目だ······! 

 心が求む欲求と、それを辛うじて抑える僅かな理性。

 気が付くと大玉の汗が額に浮かび、口からは粘着く唾液が滴っていた。

 ············さながら、飢えた化物のように。

 自虐的にわらう。

 私は、一体何者なのだろう······。

 涙が頬を伝い、唾液と混じって路地裏の地面を濡らす。

「············ッ。ふぐッ。······ううぅ············。誰か、助けて······」


 私は ”狂って” いた······。


        ♢ ♢ ♢


 時刻は昼過ぎ。

 事務所には来訪者が一人いた。

「························で? 急に呼び出しといて、少し人使いが粗過ぎるんじゃないのかい?」

 ナギと漣は事務所の入口に立つ神谷を見つめた。 

 神谷はここに来てからため息ばかりをついている。

「急な呼び出しに応えれるほど暇なんだろうが」

「お願いします神谷さん。事情はさっき話した通りです、私たちに協力してくれませんか?」

 千夏を救い出すと意気込んだものの、ナギたちはあることを忘れていた。

 つまり、千夏の······通り魔の情報など、手元にあるはずがなかったのだ。

 漣が言うには千夏の精神状態はとても危険らしい。彼女を救う以上、彼女との接触は必要不可欠。

 また、千夏の体外に現れる蒼い眼などの異常事態から鑑みるに、千夏の精神が崩壊するのは時間の問題だという。

 だというのに情報が全く無いというのは痛手であった。

 そこで考えるナギと漣の頭に浮かんだ手段が、神谷竜輔である。 

 当の本人は今目の前で心底不快そうな顔をしているが、藁をも掴みたい現状致し方ない。

 ナギと漣はもう神谷に縋るしかないのだ。

 神谷は顎に手を添えて、ニヤリと不気味に唇を吊り上げる。

「うーん。一応俺も商売だからね。無料ただって訳にはいかないなあ」

 ーーああ、なんて意地汚い。

 ナギは軽蔑の眼差しを向けた。

「うっせえ。緊急事態なんだ。ここは協力的にさっさと情報を寄越しやがれ」

「黙れカフェイン中毒。料金倍にするぞ」

 二人はガンを飛ばし合っている。

 そんな二人は仲良しこよし。

「勝手に人の事務所に盗聴器を仕掛けたの、誰だっけなあ? 不法侵入とプライバシーの侵害で訴えるぞ」

「いちいち昔のことを持ち出さないと反論もできないなんて、そこがお前の悪いところさ。第一、和真、君はそんなにも器の小さな男だったのかい」

「だったらお前はどうなんだ? 竜輔」

「ハッ、分かりきってるじゃないか。俺は人間の屑だよ」

 そしてハハハと軽やかに笑い合う二人。

 次の瞬間漣と神谷は互いの胸倉を掴み合った。

 一方は顔こそ笑顔だが、溢れ出る敵意は狂犬の如くだ。はたやもう一方はまるで意に介さないというようにヘラヘラと笑っている。

 そんなくだらない茶番を頬を引くつかせながら俯瞰しているのはナギ一人だけ。

 そんな彼女も遂に見るに耐えなくなった。

「ええいっ! うるっさいですッ二人とも! 今はそんな事している時じゃないでしょうがあ!」

 大の大人二人が何やってんだー!

 怒鳴るナギはまるで小学生を叱る先生のようだった。

 漣と神谷は、怒りで髪の毛が浮いていそうな、恐ろしい存在へと意識を向ける。「神谷さん!」

「な、なにっ? ナギちゃん」

 怒髪天に達したナギを前に萎縮する大人一号。

「ふざけてる場合じゃないの、分かりますよね? 神谷さんなら持っているんじゃないですか、通り魔の情報くらい。だったらそれを私たちに譲ってください」

「ええぇ、どうしようかなあ······」

「お願いします·······ッ」

「は、はい」

 鬼気迫る迫力と、有無を言わせぬ口調で強引に押し切る。

 神谷にさっきまでの余裕は欠片も伺うことは出来ない。

「漣さん······!」

「はっ、はいっ」

 びくっと体を硬直させる漣は何故か直立不動。

「神谷さんと協力してくれますよね······?」

「も、もちろんです!」

 ナギに向かって、ビシッと敬礼する姿はとても様になっていた。

 大人二人が、ただの女子高生一人を前に口ごたえすらできないでいる······。いや、許されなかった。

 最早この場の支配権はナギの手中だ。

「なら、今から行動開始です」

「「イェッサー!」」

 牙を抜かれた虎と龍はただただ一人の少女にすら逆らえなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は題名の通りいろいろと動き始めた1話です。次回も似たようなものですが……(^_^;)

個人的には神谷のキャラは好きで、少し意識して彼を書いていたりするのですが、読んでくださっている方はどのキャラが好きだったりするんですかねえ。


それはさておき。今回も誤字脱字、間違った表現などあれば、御指摘いただけるとありがたいです。

また、感想や評価など大歓迎ですので質問なども気軽にしてもらえたらなと思います(´∇`)


ではでは、次回も目を通してもらえることを祈りつつ。

              霞アマユキ

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