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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
15/36

孤独な化物

        

        ♢  ♢  ♢


 改めて認識する。

 私は化物だ。

 ああ······身体は求めている。

 砂漠の真ん中で、渇ききった旅人が数滴の水を求め、歩き続けるが如く、あることを渇望する。

 だが、それは決して手を出してはならない禁忌。


 ーーーーーーーーーー人を、殺したい······。


 ただ血が見たいというわけでも、恐怖に歪んだ顔が見たいというわけでもない。

 悲鳴が聴きたいというサディスティックなかんがえでもない。ましてや命が切れる瞬間を堪能したいなどという異常者でもない。


 私は、それ以上の逸脱者なのだから。


 そもそも人間の理念上、人を殺すという行為は出来ないようになっているらしい。

 それを可能とするのは一瞬の気の迷いか、箍が外れた快楽殺戮者などの限定された範囲内の種類だ。

 素直に言うと、私は ”殺意”を感じたいのだ。 

 人が人を殺めるための導火線。

 あのヒリヒリとした血がたぎるるような麻薬にも似た感覚を存分に味わいたい。

 ずっと我慢して、我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢してずっとずっと我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢してずっと我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢してずっと我慢して我慢して我慢してずっと我慢ずっと我慢してずっとずっと我慢しずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、我慢し続けた。

 殺意と言う名の快楽が私の身体の爪先から撫でるように、余すところなく駆け巡り、そそらせるその刹那こそ、私の求めるもの。

 その高揚感こそ、私が ”私” であると肯定する。

 しかし根本的な話、殺意など人間が求めてはならない禁忌なのだ。

 私は必死に抑えてきた。

 だがもう限界だ。溢れんばかりの水が注がれたグラスを押すように。ちょっとした衝撃で零れてしまう。

 抑えて、抑えて、抑えて······。

 いつしか私の中の殺人衝動は ”狂気” となり渦巻いていた。

 

 私はどうしてしまったのだろうか。

 私はどうしたら、いいのだろうか······。


 今、私は夢遊病者のように夕刻の街を徘徊している。

 ナイフはすでに腰の辺りに隠し、簡単には見られることもない。

 暫く歩き、誰一人としていない閑散とした公園を見つけると、ゆっくりとベンチに腰掛けてついさっきの出来事を思い出した。

「························ナギ」

 そんな呟く私の前に一つの影が落ちた。


「やあ」


 清々しい声で私に話し掛けるのは、大学生ほどのそこそこ顔立ちのいい若い男だった。

「····································」

 こいつ、誰だ?

 下から声の主を睨みつける。 

 少なくとも、私の知り合いにこんな男はいない。そもそも今の私の雰囲気を感じても話しかけるなんて、正気の奴だとは考えられない。

 それとも、他に仲間が潜んでいて私を襲おうとする正真正銘の馬鹿なのか。

 どちらにせよ、警戒するに越したことはないと結論づけ、気づかれないようにそっと、ナイフに手を添える。

「おおっと。なんだか俺怪しまれちゃってるね。だけど多分君の予想は見当外れだ」

 男は鋭い気配を察しても飄々とした笑顔を浮かべる。

「俺は君に会いたかったんだよ」

 ······こいつ、何を言っている············?


「やっと見つけた。ーーーー通り魔さん。いや、厳密には違うのかな」


 ーーッ!


 瞬きをする間もない程の速度でナイフを構え、その鋭い切っ先を謎の男の首、すなわち喉へと突き付ける。

「っとと。ちょっと待ってよ。俺は君に何もしてないし、する気もないさ。ただちょおっとだけ尋ねたいことがあるだけ。············だからさ、そんな射殺すような眼で睨まないでナイフしまってくれないかな」

 口では戦いてみせても表情は命の危機にあるこの現状が愉快でたまらないと言っている。

「俺みたいな無害で、困っている人を放っておけないなんて善人もそういないよ?」

 善人? こいつが?

 笑顔や、こいつを纏う不気味な雰囲気から善人とは真逆の存在だというのはすぐに分かった。

 ヘラヘラと笑うこの男は特に武器らしき物を保持しているわけではなく、人一倍体格がいいというわけではない。非逆に力さを感じさせるほどだ。

 目の前の男の真意が分からない以上、油断をするわけではないが、ゆっくりとナイフを下ろす。

 男は私がナイフをしまうのを確認した直後、質問を投げかけて来た。

 男の目は、どこか不思議な彼方を見つめているようだ。

「ねえ、君は死後の世界を信じるかい?」

 ーーはあ?

 急に何を言い出すんだこいつは。頭がおかしいんじゃないのか?

「ッハ。そんなものある筈ないし、第一私が知っているわけ無いだろう」

 警戒を解かずに私は投げやりに答えた。

 そもそも私はこんな奴に構っている場合ではないのだ。

 ······ナギと最悪のタイミングで出会ってしまったのだから。


 ーーッグ


 瞬間両眼に灼熱の痛みが迸る。

 眼が、熱い······!

 蒼くなり始めた眼で男を睨む。

 さっさとどこへなりと行ってしまえと。でなければその身の保証はしないぞと。

「ま、やっぱりそうだよねえ。君でも知らないか」

 最初はなから答えなんて期待していなかったのだろう。

 彼は僅かに、ほんの僅かに落胆の色を見せた後、無防備にも、ナイフを所持する私に背中を向け、何事もなかったかのように歩き始めた。

 去り際、男は軽い調子で告げる。

「ああそうだ。勝手に質問しちゃったからお詫びと言っちゃあなんだけど、君にアドバイスをしておこうか」

 ブワッと強い風が髪をさらう。

 その男の台詞に、私は戦慄した。


「もし君の心の底から沸き上がる充足感、君が満足したいなら、人を殺してしまうことをお勧めするよ」

 あまりにも歪んで、真っ直ぐな笑み。


「君の············とびっきり大切な人をね」

 

 既に両眼が蒼く染まっている私は全身に嫌な汗をかいた。

 そして、後にも先にも ”狂った” 私に純粋な恐怖を与えたのはこの男だけだった。


「あんた、何者なんだよ」


 含みのある笑で、自らを名乗る。


「神谷竜輔。しがない情報屋だよ。じゃあねまたその内会えるだろうからさ」


 神谷と名乗った男は夕刻の街に消えた。

 と、同時に辺りを人の気配や、鳥たちの囀りが満たし始める。

「神谷、竜輔······」


 まるで、死神のような人間······。 

 

最後まで目を通していただきありがとうございます!


今回は千夏サイドですっ。彼女の心情を上手く表現できたか不安ですが、千夏がどうしようもなく ”狂っている” と理解して頂けたらと思います(^ ^;)

そして最後に出てきたあの男。意味深な事を訊きましたね。彼にはちゃんとした意思があってのことですので、まだ先になるかもしれませんがそこらへんも書いていけたらなと思います。


さて、今作で15話目となりました\*'ヮ')/

早いものですねえ、いつも読んでくださっている方々に感謝っ!


えー毎度のことながら誤字脱字、おかしな表現などあるかもしれません。御指摘のほどよろしくお願いします。

感想や評価もお待ちしてますので、是非こちらもお願いいたしますm(_ _)m

 

では、次回も目を通してもらえることを祈りつつーー

              霞アマユキ



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