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The hopeless world ?  作者: ハロハロ
狂った化物は慟哭する
14/36

不安は確信へ

 一瞬しか視認できなかったが、直感で分かる。

 ナギの心臓が大きく撥ねた。

 ーーま、さか············。

「千夏············?」

 ナギは駆け出した。

 千夏に見えた人影が、曲がり角に姿を消したのをナギはしかと見た。

「っおいっ。桜河っ?」

 一文字が何か口にするが、ナギの耳には届かない。

 ーーなんで? 千夏がここにいるわけない。朝あんなに辛そうだったんだから、今頃まだ家の中じゃ······。

 この思考は既にナギの想像を肯定しているようなものだ。

 何よりもこの空間を占める不気味な何かがナギの心をはやし立ててた。

 幸いにこの道は一方通行である。すぐに追いつく。と、角を曲がった時だった。

 ガッ! と足が躓いた。

「ーーおわぁっ!」

「ッ!」

 ナギの悲鳴と、盛大に転けたことにより、先を進んでいた人影は足を止める。

「っ痛たたたた······」

 ナギは顔だけ上げると、そこで人影の視線と空中で交わった。

 

 蒼眼。


 ナギの前に立つ人物の双眸は透き通るような蒼が、炎のように荒々しく揺らいでいる。

「ナ、ナギ············」

「千夏············?」

 人影である人物、城本千夏は消え入りそうな声で呟いた。

 彼女にとってもあまりにも予想外な闖入者だったのだろう。千夏は時間にして五秒程その場に立ち尽くした。

 対してナギの脳内はパニックだ。

 ーーどうして、千夏がここに······っ?

 お互いまるで石像にでもされたかのように動くことができないでいた。

 静謐な時間だけが粛々と流れていく。

 しかしその均衡は一文字の悲鳴によって破られた。

「桜河、勝手に走るなよってうわあぁぁぁぁ!」

 一文字は何に悲鳴をあげたのか。

 眼を蒼くした千夏? それともただナギが地面に突っ伏していたから?

 違う。

 一文字はナギの足下。躓いたモノを見て悲鳴を上げたのだ。

 ナギは緩慢な動作で首を動かし。

 そして見た。

「·······················え」

 ナギの瞳に飛び込んだモノは······。


 ーーーーーーーー人。


 糸の切れたマリオネットのように力無く四肢を地面に投げ出した女の人が、そこに倒れていた。

 生死の判断はつかないが、現在進行系で腹の辺りからとくとくと赤い液体が地面を侵食している。

 ーー私は、これに躓いて······。

 ナギは悲鳴を上げるでもなく、ただ無の感情で視線を目の前の人物に戻す。

 そして信じられない物を千夏の手に見つけることとなる。

「そ、それって······ 」

 見てはいけないモノを見てしまった恐怖が全身を駆け巡る。ナギは歯が鳴り出しそうなのを必死に我慢した。

 ナギの言うそれは、今も血を滴らせる、ナイフであった······。

 恐怖に慄くナギに千夏は感情を殺した顔で呟く。 

「ああ············これか······」

 混沌を孕む真っ蒼な瞳が無機質に揺れる。その眼だけを見ると、何て美しいことであろうか。

 千夏は興味なさげにナイフを眺める。

 彼女の足元で千夏の頭は今にも破裂しそうだ。

 今朝のニュースが脳内を巡る。


『巷で噂の通り魔はーー」


 ーーどうしてっ? 千夏がそんなものを持っているのかかが分からない。千夏が何故ここにいるかもわかるない。千夏の眼が蒼くなっているのも分からない。何も感じていないような千夏の態度が分からない。


 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。


 ーーまるで ”狂って” いるみたいじゃない。

 どうして? なんで? という疑問が脳内を埋め尽くすのに歯止めが利かない。

 だが、そんなナギでも唯一はっきりと認識できるものがあった。

 

 ーー通り魔は、千夏だったんだ······。

 

 視界が眩む。

 時が止まったとさえ感じる。息をすることすら忘れてしまいそうだ。

 分からない何かを拒絶するために思考がおかしな方向に働き、結果分からない何かがそんな思考もろとも底知れぬ穴へ落ちていく。

 この感覚にナギは思い当たる節がある。


 ーー嗚呼、私は覚えている··················。これは私が ”狂った” ときの······。


「ごめん。ごめんね、ナギ」


 千夏の声が聞こえた。

 そしてお別れだと言わんばかりに背を向け、立ち去ろうとする。

 しかしこの先は行き止まり。どこかに行けようはずもない。

 だが。

「待って、待ってよ千夏」

 ナギは千夏が、城本千夏という人物が消失するような気がしてたまらない。

 千夏はぴくっ。と反応を見せる。

 もし本当に千夏が狂っているのだとしたら、何としてでも止めなくてはならない。

 友人として、どんな手を使ってでも。  

 ナギが立ち上がり、手を伸ばそうとした時だった。

「来るなっ!」

 咆哮のような一喝が響く。

 ナギは全身を強ばらせた。 

 ーーなん、で。

 赤く濡れた切っ先が僅かに煌めく。

 ······ナギの喉元には紅いナイフが突き付けられていた。

 すでに喉に触れている絶妙な距離。一歩でも前に進もうものなら、また一つ、糸の切れたマリオネットが出来上がることだろう。

 彼女の対応は明確な拒絶を表しているにほかならない。

 なのに、なのにーー


 千夏はとても悲しそうな顔をしている。


 眉間を寄せ、泣きそうなのを堪えている。


 後悔が、彼女を包み込んでいる。


 ーーなんでそんなに辛そうな顔をしてるの······?

 

「もう僕はナギとは一緒にいられない。だってーー」

 肩を震わせている千夏はサッと背を向けて、ナギに一方的な決別を突き付けた。

 止めなければならない。でなければ確実にナギはこの日の自分を許せないだろう。

 だというのに、体は動いてくれない。

 ーーくそっ動いて、動けっ。

 そうこうしてるうちに千夏は地面を蹴った。

 すると人間業とは思えないほどの跳躍力で一気に五メートルほどの高さにたどり着き、ビルの側面を蹴って向かいのビルへと跳躍。繰り返し跳ぶことであっという間にビルの屋上へと姿を消した。

「千夏、どうして······」

 ーーもう、私の声は届かないのか。

 ナギは強く唇を噛み締める。何もできなかった自分に軽蔑すらする。

 

 力ずくでも止めれば良かったじゃないか。

 ーー果たしてナギにできたのか。

 優しく語りかけることだけでもーー。

 ーーナギの言葉は千夏に届いたのだろうか。

 千夏だってこんな事したくはないに違いない。

 ーー本当に?

 ······························答えは全部否だ。

 

 ーー私はあまりにも千夏を知らない······。


 唇を強く噛み締めすぎたのか口内に血の味が広がり、何もできなかった悔しさが重く、重く残った。

「おいっ、桜河しっかりしろよ!」

 強く肩を揺すられてナギは我に返る。

 今まで、ただ傍観することしか出来なかった一文字が早口で捲し立てる。

「さっきの奴、城本だよなっ?」

「う、うん」

「そうか。あいつのことも気になるけど、まず第一にこの人だ。早く救急車を呼ばないと」

 一文字は倒れている人を指差し、唾を飛ばす勢いで言った。

「この人、まだ息してんだよ!」


 それから救急車が到着したのは十数分後。

 警察も同時に到着し、ナギと一文字は事情聴取を受けることとなる。

 どう説明したらいいか分からず、なんとも曖昧な返答をしたが、結局二人とも千夏の名前は一言も口にしなかった。


 そして、ナギ達にとって、衝撃的すぎる一夜が幕を閉じる。

 と、同時に悲劇的な一日が開幕する。

最後まで目を通していただきありがとうございます!


今回の話はちょっと詰め込み過ぎてわかりずらい箇所があるかもしれません。申し訳ないです<(_ _)>

しかし話の都合上、どうしても区切りのいいところまでまとめなければ次の話に影響があったのです。


さて、毎度のことながら誤字脱字、間違った表現などがありましたら御指摘のほどよろしくおねがいします。

またアドバイスや感想がありましたら是非ともお願いいたします!


それでは、次回も目を通してもらえることを祈りつつ。


              霞アマユキ


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