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4.幼馴染全員集合



 VRMMOにすっかりハマって一週間。寝るのが待ち遠しい毎日になった。夜更かし朝寝坊が当たり前だった生活スタイルが激変した。

 スリープダイブは良質の睡眠でないとダイブ出来ないため、規則正しい食生活を送っている。以前と同じように運動不足なこと以外はすこぶる調子が良い。

 

 

 レベルはとうに10を超え、25くらいまで来たが、相変わらず男前狼のハイドと二人で組んでいる。

 さすがに最初の街からは移動して、草原を越えた先の鉱山の町を拠点にしている。

 一度シローたちと一緒にボス攻略に参加したのだが、やはりレベルの隔たりは否めない。

 こっちが強くなれば、向こうもその分強くなっているわけで……。惰眠貪りのお陰で成長早いわっ! って言われたけれど……。

 足手まといだなぁと感じて、またハイドに一緒に組んで欲しいとお願いした。

 今はレベルを上げながら何とかハイドと一緒に合流出来ないか、画策中である。

 ハイドとの連携があれば、足手まといにはならないだろう。それなりに息の合ったコンビプレイになってきているからだ。

 ――あっちと一緒にご飯食べて交流図りたいなぁ。何と言うか、新しく出来た友達を幼馴染に紹介したい。つか、自慢したいみたいな気分? もあるんだよなー。ハイドは他にフレンドたくさん作ってる風には見えないしなぁ……。迷惑かなぁ。

「レン、ギルドを通り過ぎてどうする」

 考え込んでいる間に目的地を通り越したらしく、ハイドに止められた。

「ああっ、ぼーっとしてた。わりぃ」

 今日は受注したクエストの精算のために、ギルドにやってきた。いいクエストがあればまた受けることになっている。

 クエストの利点はお金がもらえる、アイテムがもらえる、クエスト終了でスキルをもらえる、この三点が挙げられる。

 面倒なのは、ギルドがとってもお役所仕事な点だ。

 まず、ギルドの開いている時間はゲーム時間で九時五時。窓口は細かく分類されていて、総合窓口で用件によって三階建ての建物内を行ったり来たり……。

 ギルドが二十四時間フル稼働ではないのは、ゲーム内のギルド職員が、ゲーム会社が雇ったアルバイトプレイヤーであるからだ。

 『よりリアルな対応を』というコンセプトで、企業が実施している。NPCではある程度決められた受け答えしか出来ないが、アルバイトプレイヤーであればそれを解消できるとギルド以外にも、店舗に配置されているという噂だ。

 総合窓口でクエスト完了の手続きをして、採取したアイテムを売り、掲示板の前に陣取った。

「今日はどうする? 採取か討伐か、お使いか……」

「討伐は昨日がんばったしなぁ。猪大量狩り……牡丹鍋食いたいな」

「もう腹減ったのか? クエスト決めたら飯にするか?」

「おう! 今日は採取で行こうぜ」

 手ごろな地点の手ごろな採取クエストを見つけて、掲示板から剥がす。ハイドも内容を確認して了承したので、手続きした後、プレイヤーが経営している小料理屋に入った。

 ここの店長は無類の犬好き料理人で、店の前を通ったハイドを見つけて追いかけて来た人だ。

 本人は、いかにも板前ですといったいでたちで、緑色の五分刈り、日本人風の顔にがっちり体格のアバターである。

 ハイドがプレイヤーだとわかると、店に連れ込んで『頼む、その毛並みを撫でさせてくれ! 奢るから!』と叫んだ。ハイドが女の子だったら完全にセクハラだよな。

 ハイドはいつものように困った顔していたが、割と打算的な性格だ。一食分浮くならしばし我慢すると、撫でさせてあげていた。

 ついでに撫で撫でに参加したのだが、しっかり回復アイテムを要求された。

 そんな経緯で知り合った料理人――サブちゃんに、昨日入手した猪肉を渡す。

「サブちゃん、牡丹鍋が食いたいですっ」

「また食材持込リクエストかっ! お前ほんとに食いしん坊だな!」

「だって、料理のスキル取ってないしさー。サブちゃんの料理美味いし。お願いしまーす」

「わかったわかった。作ってやるから、待ってな」

 リアルでは自分でも料理をするのでいずれ料理スキルを手に入れたいと考えているが、それは家を買ってからでもいいかと思っている。

「昼から牡丹鍋か……贅沢だな」

「うんうん。その上、サブちゃんが調理するから、何かの上昇オプションが付いて、この後の探索が楽になるし、美味しいし、言うことないね」

 狼フェイスで器用に箸を使ってご飯を食べるハイド――うん、カッコ可愛い。

 同じように思っているのだろう、サブちゃんもやに下がっていた。

 牡丹鍋は脂が美味くて出汁が効いてて、本当に美味かった。そして効果は、アタック上昇だった。さすが猪、力強い系の効果だ。

 

 

 採取にやってきたのは、鉱山の町から東にある夢幻の森。ループする道が何箇所かあり、別名は迷子の森だ。

 しかし、スキルでマップを装備していれば問題ない。スキルなくても自分で地図書いていても大丈夫だ。メモでマイ攻略本作るようなことするのはレンくらいだって言われたけど……。

 道を覚えるのは元から得意なので、マップなしでも夢幻の森歩きが出来るのだが、あると索敵との相乗効果でマップに敵味方や他のプレイヤーが表示されるのが大変便利だ。

 目当ての物は森の中ほどにある湖の傍に群生している光草。夜になると白い花が開いて、ほんのり光るらしい。

 採取数は光草×10個。

 ループゾーンさえクリア出来れば、楽勝のクエストだ。

「森林浴もいいもんだなぁ」

「湧いて出てくるキノコ軍さえいなければ、もっとゆったりした気持ちになるんだがな……」

 ハイドが背負っていた両刃アックスを構えてぼそりと呟く。

「まぁまぁ、これも予想通りというか、キノコがいっぱい採れていいじゃん。しいたけ、しめじ、えのきにエリンギ、マッシュルーム……」

「レンはあのピンクと紫のまだら模様が食材に見えるのか……食欲もそこまでいくと凄いな」

「あの、ハイド……変な感心しなくていいから。全数8体。先制するから、とどめヨロシクー」

 声を掛け合いながら、一体一体数を減らしていく。不気味な色合いのキノコ軍は、毒と麻痺をしてくるので、回避のスキルで胞子攻撃をかわす。

 バッドステータスになっても回復アイテムは調合で大量に持っているので、恐れずに切りつけていく。

 防具よりも武器を先に買い換えている。この辺りはいつもの力押しと同じで、攻撃は最大の防御とか思っている。

 

 武器・風のダガー

 防具・革の帽子・布の服・鎖かたびら・革のブーツ

 

 未だに布の服の理由は……見た目が気に入ってしまっているからだ。中に着込めるかたびらで防御数値はそれなりにある。

 キノコに体当たりを食らって吹っ飛んでも、痛みはない。横転して立ち上がると、ハイドがちらりと様子を伺っていた。

「大丈夫か?」

「このっ、キノコの分際で!」

 近付いて追撃してきた紫キノコを蹴り飛ばす。大木に叩きつけられた紫キノコは光を放って消失した。

 横から殴りかかってきた赤キノコはハイドの一撃――切るというより叩きつける――で倒される。ハイドは傍に立つと、顔を顰めた。

「レン――顔、真紫になってるぞ?」

「あああっ! 避け損ねたかっ! 紫の肌、きもっ! 悪い、しばらく頼むっ」

「了解」

 毒状態で動くとHPがじりじり減少していくのがやっかいだ。敵の残数も後二体、任せても安心なので、アイテムから解毒薬を取り出してふりかける。

 ふんわり白く光って解毒終了。

 戦況を見るとハイドも最後の敵を倒し終えていた。

「お疲れー。しかし、この森はキノコ豊作だな」

「森狼は夜にならないと出てこないからな。昼間のモンスターはキノコメインだ。ドロップアイテムもレンの希望通りキノコだぞ?」

「食の充実は生活の活力! 湖で採取終わったらまたキノコ狩りするか?」

 キノコたちは集団で現れて、攻撃力もそれほど高くなく、スキルレベル上げに最適なモンスターだ。

 但し、毒になったときの紫の肌と、麻痺になったときの痺れっぷりが嫌だが……。

 それから湖に着くまで何度かキノコ狩りをして、アイテムの中にはキノコ満載になった。

 

 

 ぽっかりと森の開けた場所だった。小さな湖に滝が流れ落ちてしぶきを上げている。水の色は深いグリーン。なのに透明度は高く、深くまで透けて、見ることが出来る。

 その周囲に光草は群生していた。

「ここは、聖域ゾーンのようだな。キノコが入ってこない」

 木々の間の茂みからカラフルなキノコの頭が顔を出している。

「丁度良いな。採取して休憩してスキルの整理しようぜ」

「了解だ」

 依頼より多めに採取して、屋台で買っておいたジュースを取り出し、滝を眺めながらの休憩はなかなか乙なものだ。

 天気良し、風は爽やか、マイナスイオン満載。

「癒されるなぁ」

「ああ。このゲームは本当に良い気分転換になる」

「リアルの知り合いは皆、ストレス発散って言ってたな。擬似運動に擬似食、モンスター倒すのもスッキリするらしい」

「ニュースでも分析していたな。SDオンラインと近年の電気使用量低下と、労働意欲、ストレスの軽減についてって……」

「こないだの通りすがりに居たパーティの人、ちょっと怖かったよな『死ね! 部長!』って叫んでモンスター倒してたもんな」

「あれは端から見ると怖いが、本人はいいストレス発散になっただろうな」

 他愛ない話題で笑いながら、空になったジュースの器をステータスのゴミ箱に捨てて、立ち上がった。

「ハイドはさ、パーティプレイが目的で始めたんだよな?」

「ああ、そうだが?」

「なら一回、六人でパーティプレイしてみないか?」

 ストレートに誘ってみると、ハイドは一つ頷いて口角を上げた。狼面でそれをやられると牙剥かれているようでちょっと怖い。

「前から誘ってくれてる面々か……。俺が入ってもいいのか?」

「うん。みんなの了承は得てるんだ」

「一緒にプレイするのはいいんだが、その……この見た目で怖がられないだろうか?」

「大丈夫! 皆…………あーっ、一人を除いて犬好きだから! だったらさ……」

 夕飯を一緒に食べに行かないかと誘おうとしたとき、チャットのお知らせがリングから響いた。

 ちょっとゴメンと断って出ると、侍シローだった。

『よぉ、レン。今ちょっといいか?』

『ああ。聖域にいるから大丈夫。どうした?』

 隣でハイドもゴソゴソし始めたと思ったら、誰かからメールがきたらしく、リングを開いて返事を打っていた。

『あのな、よっしーがやっと奥地から戻ってきて、鍛治の町に夕方到着予定らしいんだ。それで、今はっちゃんも誘ってるから、皆で集まろうぜ』

『よっしーにはっちゃんか! 行く行くっ。ここで会うの初めてだな! シローたちは会ったことあるのか?』

『よっしーはあるよ。まぁよっしーらしいチョイスのアバターだよ。はっちゃんはまだ会ってないんだ。メアドだけ知ってんだけどアバターは知らねぇ』

『そっかー。それも含めて楽しみだな。あっ、いい店知ってるから、予約しておくよ。人数決まったらメール頂戴』

『了解。あっ、ちょっと待て。はっちゃんから返事来たみたいだ。OKだってさ』

『全員で六人な。わかった』

 待ち合わせ場所を聞いてチャットを終えると、ハイドも操作を終了していた。

「悪いハイド。夕方までに町に戻る用が出来た」

「レンもか? 俺もだ。さっきメールが来て、人と待ち合わせることになったんだ」

 ハイドがこのゲーム内で誰かと約束とは珍しい。だが、ゲーム人口が多いのだ。会社や友人がやっているのが判明したとか、呼び出されたとか、リアルの付き合いがこっちに響くこともあるのだろう。実際、エルフのラエラは会社の同僚と会ってることも多いし。

 都合よく両方が町での待ち合わせだったため、とっとと帰ることにした。

 

 

 町に戻るとすでにギルドは閉まっていて、ハイドと揃って町の中心にある時計台のしたに立っている。

 ここは、この町での待ち合せのメッカで夕飯前の時間は待ち合わせるプレイヤーで溢れている。

 ハイドのように特徴ある外見だと、待ち合わせもしやすいなぁと考えながら、スキルを弄りながら幼馴染たちを待っていると、ハイドに名前を呼ばれた。

「……レン」

「何?」

「実はレンに言わないといけないことが……」

 そのハイドの言葉に被さって、大声が響き渡った。

「おおっ! そこにいるのはレンじゃないか? リアルで見れるとは思わなかったぞ! はっちゃんも元気か? メールで教えてもらった通りの見つけやすさだなっ」

「えっ?!」

 視線の先に居たのは胸くらいまでの身長のずんぐりとした体型のドワーフだった。

 

 

 無事に全員が集まり、サブちゃんの小料理屋へと移動した。今日はキノコ祭りだ。

 隣に座るハイドの耳をもふもふ撫でながら、ラエラの質問に答える。

「じゃあ、レンははっちゃんだと気付かずにゲームにダイブし始めてからずーーーっと一緒に行動してて、はっちゃんはレンの外観のことコロっと忘れてたけど途中で気付いたものの、気まずくて言い出せなったってことなのね」

「そうそう」

「はっちゃんはありがちだけど、レン……鈍い。……私もはっちゃんの毛皮、撫でたいなー」

 アリーシアが両手をわきわきと蠢かしながらにじり寄ってくる。

「ダメっ! 今ハイドから謝罪代わりに撫で放題の許可が出たが、普段はアイテムと引き換えなんだぞ!」

 ハイドの頭を抱きしめてアリーシアの手から距離を取ると、ハイドが諦めたように、長く細く息を吐き出した。

「ふぅ……そんなに手触り、いいか? 自分で触ると硬く感じるんだが……」

「めちゃめちゃ良い毛並みだ。もっと自信を持っていいぞ、ハイド」

「いいなー」

 指を咥えてみているアリーシアに、自分の猫耳を触ればいいじゃないかと提案すると、それは気づかなかったという顔になって、ふわふわの猫耳に触わり始めた。自分も獣人を選んで猫耳があるのに、気付かない天然っぷりがさすがアリーシアだ。VRにダイブしても性格はそうそう変わらないな。

「それにしても、よっしー……いや、ヨイチはソロプレイするつもりでドワーフにしたのか? 色々不利そうに感じるんだが、大丈夫なのか?」

「当然! お前らの武器も素材さえ持ってきたら作ってやるぞ?」

「……でも、作るのにお金取るんでしょう?」

「当然っ!」

 一人発売当初からゲームを始めていたよっしーはヨイチという名前のドワーフである。アバターをあまり弄ることもなく、ノーマルな低身長、ずんぐり体型、髭もじゃ、人相悪いのドワーフだ。

 当然一人レベルもスキルも飛び抜けている。ドワーフをアバターにしたのは鍛冶屋がやりたかったかららしい。

 自分で素材を手に入れて自分で加工、それが究極のソロプレイ――というのがヨイチの主張だ。昔から楽な道より難しい道を選んでそれを攻略するのが好きだっただけのことはある。

「しかし、六人もいて見事に種族がバラけたもんだ。女の数がラエラとアリーの二人ってのがまた悲しいっ!」

 幼馴染を見渡してヨイチが大げさに嘆く。

 

 男前な青年シロー。

 美女エルフのラエラ。

 可愛い天然猫娘アリーシア。

 もふもふのリアル狼顔ハイド。

 低身長ドワーフでおっさんなヨイチ。

 童顔系な青年レン。

 

 並べてみると中々バランスの取れた配置だと思うのだが、確かに華は少ない。

「いいじゃん。現実と同じ性別にしてもつまらんしさー。なぁ、シロー」

 同意を求めると、シローも深く頷いた。

「そういうことだ。アバターなんだから思い切り違っても楽しいじゃないか、なぁ、レン」

 ヨイチは納得いかないらしく、アリーシア相手にぶつぶつと文句を垂れて宥められていた。

 それから話が家購入になり、改めてギルドを作ることになった。

 仕切りはシローだ。

「えーっ、では、六人揃ったところで、ツリーハウス計画の実現に向けて、ギルドを結成したいと思います! ギルド名は……」

「『ツリーハウス』でいいんじゃね?」

「あんまり強くなさそうな感じがする」

「やっぱ漢字だろ? 夜露死苦みたいな当て字で……」

「やーめーてーっ! そんなの嫌ーっ!」

 各々好きに叫び始めて収拾が付かなくなった頃合を見計らい、シローがさらりと告げる。

「では、『ツリーハウス』ってことで」

 どうやら、シローも良い案が出なかったらしい。

 結局、分かりやすいのが一番だと、皆が賛同してそのまま決定となった。

 ギルドメンバー、六人。

 目的は土地と家の共同購入である。





「レン、黙ってて悪かった」

「んなに気にしなくっていいって、はっちゃん」

「レンってそういう細かいこと、拘らないから大丈夫だ」

「……そうだったな」

「どうしても気になるなら、謝罪してもらおうか? 撫で回し無制限解禁でどうだ!」

「………………今日だけなら」

「よっしゃーっ!!」

「レンってそういえば、犬……大好きだったな」

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