18.装備品を整えよう
このゲームの個人的な主目的は、みんなで家を建てること。よって重要なのは金稼ぎだ。
だが、特に期限を設けていないので、今のところ目標金額に到達しているのは、一人独走状態の戦うドワーフ鍛治屋ことヨイチのみ。
後はまぁ似たり寄ったりで、あんまり精を出していない。
もっとレベルを上げなければいけないのだが、装備の低さがさすがにやばくなってきた。ほぼ紙状態で、レベルと攻撃力の高い敵にやられると、HPの減りがすごいことになる。
外観に拘りすぎたか……と反省して重い腰をあげ、装備品の改善に乗り出した。
一番店の種類の多い、商業の街へとやってきた。初期の装備から値の張る一点ものまで、店だらけの街だ。
お金はそれなりにある。
何故なら、装備品に金をかけていないからである。拾ったものか、盗ったものを装備していたからだ。
装備品は上を見たら切りがないからなぁ。
装備は、重装備・中装備・軽装備の順で軽いほど安くなっていく。防御力が高いほど重く速度が殺され、軽いほど防御はそれほど高くならないが、速度は保証される。
まだ軽装備なので安くつくと思うべきか……。
軽装備を中心に扱っている防具屋は、クリスに教えてもらった。棚に並んだ商品を見ながら、悩む。
予算的には問題ない。
しっかし、この女性向けのひらひらデザインが多いのはどういうことだろうか。
普通の白いシャツかと思いきや、襟元がヒラヒラしていたり、ふつーのジャケットに見せかけて手首が広がっててうっとうしかったりと、どーもシンプルさにかける。
中世洋風ってこんなにヒラヒラしてないだろうに……くそーっ、誰だよ、デザインしたのは……。
顔を顰めてブツブツと言いながら物色していると、店の奥からNPC店員ではない、プレイヤーが出てきた。
フリフリのミニドレスの上に、革のベストを着て、ヘッドドレスをつけている。色は白と生成りと革の茶色でナチュラルだが、ゴスロリ風味な服装は、服の生産者のオリジナルだろう。
髪はピンクのふわふわロングヘアで、お人形のように可愛い女の子だ。
「いらっしゃいませー。お悩みのようですが、どんな装備をお探しですか? よかったらお見立てしますよー?」
「うーん……ここのお店は女性向なんですか? 軽装備ならここだって、紹介されたんですけど……」
「あらっ、紹介でいらっしゃったんですね。ありがとうございまーす。当店は女性向けというわけではありませんよ。全て私が作っているので、商品の細かい変更は可能ですよ?」
おお、製作者さんで店持ちか! それなら確かに問題ない。ヒラヒラを失くせば、大丈夫そうだ。
後は予算と防御力か。
ピンクの店長に予算を言うと、店長はにこやかな営業スマイルのまま、2秒ほど止まった。
どうやら、布の服を着ているのを見て初心者だと思っていたようだ。紛らわしい客ですみません。
「あ、デザイン優先で装備変えなかったんですけど、そろそろ防御が無さ過ぎて、まずくなってきちゃいましてねー」
「防御力よりおしゃれ! それって尊敬です! やっぱりゲームでもおしゃれしないとダメですよね! 防御よりもおしゃれ!」
――見た目重視はおしゃれってことになるんだろうか? 単なるこだわりだから、おしゃれじゃないよなー。まぁ、店長さんが上機嫌になったからいいか。
「それで、どういうのが好みです? これとかどうでしょう?」
いくつかの布製装備を進められる。みかわしの服的機能や、魔法防御機能が付属しているらしい。機能は申し分ない、ただ……。
「んー。もうちょっとシンプルで、ヒラヒラしてないのがいいかな」
「これが可愛いのにー。でもお兄さんには確かにシンプルな方が似合うかなぁ。じゃあ、これの飾りを取って、こっちのコートはどぉ? これ着るだけで防御力がずいぶん違うしぃ」
「予算内で収まるかなぁ」
「じゃあねぇ……」
他の客がいなかったため、店長さんに丁寧に接客され、無事予算内で買い物を終えた。買った商品はアイテムボックスに放り込み、装備を変更すると、一瞬で装備が変更される。
黒のハイネックインナーは初期の魔法なら跳ね返してしまう魔法布で出来ている。
デニムのようなパンツは表面がやや硬い。打撃防御のコーティングが施されている。
そして、上はマントのような膝丈の、こげ茶のジャケット。上半身はライダー風のデザインだ。腕につけたリングを使いやすいように、手首には切込みが入っており折り返しも可能で、邪魔にならないようになっている。
服に合わせてブーツも新調した。
使っている革の種類がモンスターなので、簡単に高レベルの敵のドロップなのかどうかが分かる。『カイザーリザードの靴』とあり、戦ったことのない敵だが、ワニ系敵の上級モンスターっぽい名前だ。この靴が一番高かった。
トータルで15万もかけたが、防御力は5倍くらいに跳ね上がったので、満足だ。
これまでが低すぎただけだけど……。
ここまで装備品を変更すると、武器も変えたくなるなぁ。
今装備している武器、『疾風の短剣』はダンジョンの宝箱からの入手品だ。
「これにもちょっとは金をかけるか……」
より金を稼ぐための先行投資だと、鍛冶屋のスキルを持っている幼馴染、ヨイチに連絡を取った。
「ヨイチ。武器、作るか、改造してくれー」
『相変わらず簡潔に要求だけ突きつけてくるな……。別にいいけど、材料はあるのかぁ?』
「んー、鉱物形のドロップアイテム、結構持ってるから、それで出来る範囲で? ヨイチは今どこにいるの?」
『仕入れと販売と製作で、商業の街にいるぞ。来れるか?』
「おおっ、行く行く。今、商業の街のメインストリートだからすぐ行ける」
『じゃ、待ってらぁ』
幸運なことに、ヨイチが目と鼻の先にいた。チャットを終えると、ヨイチから地図が添付されたメールが来た。それを頼りに、彼がレンタルしている工房へと向かった。
商業の街のレンタル工房は、巨大な倉庫だった。
巨大な門扉が開いており、その隅に小さな管理室があった。
小さな窓があり、それを叩くと管理人らしき人物が顔を覗かせた。
「はいはい、どうされました?」
「ここの工房を借りてる、ヨイチってのに会いに来たんだけど……」
「はいはい。お貸ししておりますよー。№5の工房にいらっしゃいますよー」
「ありがとーです」
お礼を言って奥へと進む。
倉庫の内部はレンガの壁で仕切られ、個室が作られている。手前の部屋から、鉄製扉にでっかく1・2・3……と番号が並んでいる。
「んー。工場って感じがするなー」
機械や油の臭いや、鉄を打つ音や機械の駆動音などが反響してやや煩い。
「ヨイチも鍛治屋としてその筋では有名プレイヤーらしいし、ツリーハウス計画(幼馴染のみんなで家を買おう)よりも、個人の店舗が欲しかったりするのかな……。みんなの家プラス店舗みたいに出来たら楽しいのかなー」
ふと、そんなことを思いながら5番の鉄扉をガンガンと拳で叩いた。
「レンだけど! ヨイチ、入るぞー」
「おおっ、いいぞっ」
扉を開けると、熱風が吹き出てきた。
「熱っ! なにこれ?」
「ああ、炉に火を入れたところだからな。ちぃーっと隅っこで待っとけ。客もいるが、気にするな」
「へーい」
ヨイチが顎で指示した先に目を向けると、先客が居た。薄暗い隅に、木箱に座っているのは、真っ黒な狼フェイスだった。
青騎士のところの黒狼さんじゃないですか!? ヨイチ、この客、知り合いだよ……。
黒狼とばっちり目が合ったので、とりあえず笑っておく。
「こんちはー。クロさん」
「クロさんじゃねー。この卵泥棒」
「うっ、否定出来ない」
黒狼は勝ったとばかりに鼻を鳴らした。
「随分マシな格好になったな、ケーキ屋。丁度いい、腹が減っていたところだ。チーズケーキ売ってくれ」
「ケーキ屋じゃねぇし! ケーキはやるが、金の代わりに条件がある!」
「ぁあ? なんだ? アイテムはやらねーぞ?」
「アイテムはいらねーから、撫でさせてくれ!」
「はぁ?!」
力いっぱい要求すると、黒狼は目を大きく見開いて固まった。
そのやりとりを完全に無視し、一人全神経を集中させ、鍛治仕事をやり続けていたヨイチは、ある意味プロだと思った。…………ゲーム内だけど。




