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17.隠しクエストのボーナス



 壁穴に挿した鍵を回すと、部屋の中央部分の床が軋み始めた。隠し階段の登場である。

「仕掛けの多いダンジョンだな」

「さすがにそろそろラストだろ?」

 階下からは冷たい空気とともに、ドライアイスのように、紫の煙が溢れ出した。

「ボス演出かな? 妖しい色の煙だし……」

 階段を降りるとすぐ、大きな観音開きの扉が待ち構えていた。

「よし、開けるぞっ」

 勢いよく開いた部屋の中央には石櫃があり、その上には一冊の本が載せられていた。そして、空中には鎧を纏った不気味な騎士の幽霊が佇んでいた。

 これまでの白いもやもや幽霊と違い、薄いながらも細部が分かる。

 眼窩はくぼみ深い影を落とし、肉はそげて頬はこけ、表情は苦痛にまみれている。騎士の幽霊は、ゆっくりと剣を両手に握って構えた。

「くるぞっ! レン、あいつのレベルは?!」

 聖水を剣に振り掛けて、シローが聞いてくる。

「えっ? わざわざ聞きたいの?」

 はっきり言って、この幽霊騎士さん、レベル聞くほどの敵じゃないんですけど。ボス写真を撮る余裕すらあるというのに……。と思っていると、ハイドが予想を述べた。

「雑魚の幽霊がレベル12だろ。同じダンジョンのボスだから、高くてもレベル20くらいだろう」

「おお、ハイドすごい。どんぴしゃだ。幽霊騎士、レベル20。シロー一人でも楽々倒せる相手でーす」

「いい感じに不気味幽霊なのに、残念なレベルだなぁ」

 幽霊騎士の剣戟をかわし、聖属性を施した武器で三人がかりでザクザク切りつけたら、最後は『ぎゃああぁぁぁ!』絶叫して消え去った。

 うん、弱い奴を数で葬るって、ゲームじゃ良くあるよねー。

 これでボス戦終了? と思っていたら、石櫃の中から、違う幽霊が浮かび上がってきた。

 ここで働く司書さんたちと同じく、白いローブに身を包んだ別嬪さんである。


『冒険者たちよ、私を解放してくれてありがとう。私はかの者に捕らえられ、ここに閉じ込められました。やっと解放の時が来たのですね……お礼をいいます。ありがとう』


 別嬪幽霊は一方的に言いたいだけ言って、光の粒になった。

「えっと……話がよくみえないけど、あの騎士が彼女に恋心持ってて、さらって閉じ込めたって設定なのか?」

「この本……まんまじゃね?」

 石櫃の上に乗っていた古い本の表紙には、『囚われた司書』とタイトルがあった。

 

 

 今回の成果は、初心者向けの魔法スキルに関する本と、石櫃を開けて『司書の杖』――回復魔法の回復力UP――あとは、幽霊からのドロップ『冷たい水』――飲み水とある。出所が幽霊かと思うと飲みたくない――が手に入った。

 夜が明けるまで図書館のソファで仮眠し、営業時間になって――何故か、忍びこんでいたことは、司書さんたちにはスルーされるという、ゲームの不思議があったが――カフェで朝ご飯を食べているとき、何気に『囚われた司書』の説明を見ると、『司書の悲しい物語。図書館に寄贈すると……』と書かれていた。

 そこで、手に入れた『囚われた司書』を受付嬢に渡すと『まぁ! これは!』とスイッチが入った。

「この本は司書の間で伝説となっている悲恋の物語なんですよ。ずっと行方不明だったのに見つけていただいて、ありがとうございました」

 受付嬢に丁寧にお礼を言われた後、ポーンと、パーティを組んでいたシローとハイドも同じく、リングから音が鳴った。

 

NEW! 隠しクエスト『図書館の幽霊』をクリアしました。

 隠しクエストによるボーナスが発生しました。

 ボーナスにより装備できるスキルが一つ解放されました。

 

「「「マジか!?」」」

 何そのおいしいボーナスは!!

 

 SDオンラインでは、スキルの装備数がレベルごとに解除される。

 最初が5つ。レベル10ごとに一つ解放される。現在はアップデート後でレベル上限が150、どんなに頑張ってもスキル装備数は15+初期の5で20が限界だ。

 スキルで何でもこなすSDでは、スキル装備が多ければ多いほど、何かと便利だ。

 隠しクエストでスキル装備量が増えるとは、なんて嬉しいんだ!

「うわー。クリアが楽な上にこんなボーナスもらって、いいのか?」

「えっと、シロー。何度も言うようだけど、たぶんこれ、初期に見つけてやるとお得だよ……的隠しクエストだからな?」

 5つしかスキル装備が出来なくて、武器と防具スキルを抜くと3つしか出来ない状態の初期では、もっとスキルが装備出来れば……と思うことが多々ある。

 それを回避するための隠しクエストなんじゃないかなー。

 だが、レベルがそこそこ上がった今でも、貰ってありがたいものである。

「隠しクエストについての情報は、聞かないなぁ」

「お得すぎて、黙っておきたくなる代物だからな。誰も喋らないだろう」

「図書館来て、もうけたなー」

 

 こうして、夜の図書館探検は、ホクホクな気分で終了した。

 

 

 後日、その話を聞いたアリーシアとラエラは、盛大に悔しがった。自分たちも行って手に入れてくるっと息巻いた。

 でも、こっそりスクショで撮った幽霊騎士の写真を見せると、二人は揃って顔を青褪め、息を飲み込んだ。

「そんなにグロくないと思うんだけどな、この騎士。ややリアルな肉の爛れがあるけど、色素も白っぽくて薄いし、ちょっと不気味くらいで収まると思……」

「「無理無理無理無理!!」」

 速攻で否定された。

 二人は他に隠しクエストを探すと、図書館についてはあっさり諦めた。

 人間、無理なものは無理。そうですね。それはよーく分かります。はい。



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