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14.レッドドラゴン



 ラエラはジョッキになみなみと注がれた麦酒を一気飲みした後、机に空のジョッキを叩きつけるように置いた。

「いやーほんと、死ぬかと思ったわ。いや、死んじゃったんだけどさ。まさかドラゴン出てくるなんて、ないわー。ほんとついてないわ」

 ついてないと言いながら、ラエラは始終笑顔である。ドラゴンの襲われた恐怖の後でハイテンションになっているのだろうか?

「なぁ、ラエラすげぇ機嫌いいけど、死に戻りしてバッドステータスでもかかってんのか? 普通に考えたらボスのドラゴンと遭遇ってアンラッキーな話だろう?」

 隣に座ったシローに聞くが、彼が答える前にラエラが両手を机に付いて、勢い良く席から立ち上がった。

「何言ってんのよ! 間近で架空生物リアルで見れたのよ! ドラゴンよドラゴン! あーっ、めちゃめちゃ格好良かったよ、ドラゴン!」

 そうでした。こいつは動物園に行っても、獰猛な動物――トラ、ライオン、豹など――を見てかっこいいと目をハートマークにしているようなコでした。

「映画のCGでしか観れない生物が目の前にいるのよ! レンも生で見たいでしょう?」

「うっ、否定出来ない」

 そうだよな、ドラゴン生で見る機会なんて今のレベルじゃありえないし、遭遇したのは幸運なのか? と思考が脱線し始めた所で、ハイドがシローにことの経緯を尋ねた。

「で、シロー。詳しい話は?」

 シローも、このまま放っておくと映画やマンガなどのドラゴン談義に突入するのは目に見えているので、口を開いた。

 

 

 二人はグリフに乗って、まずは周辺の自分たちが知っている場所を巡っていた。

 その後、グリフの速度を上げて、行ったことのない方向を目指そうと進路を北に、高速で進んでいった。

 普通なら風圧とかあるはずなのだが、グリフのおかげか、それほど風に叩き付けられることもなく、上空の寒さも感じない。

 途中で空を飛ぶモンスターにも遭遇したが、グリフのスピードでかわしていた。

 自分で操作できる空中飛行は、非常に楽しかったようで、二人はぐんぐん高度を上げ、雲の上に出てみようとした。

 

 ――その気持ちは分かる。飛行機に乗ったときに見る、雲の絨毯の景色っていいよな。あれを窓っていう小さな枠じゃなく見れるんだから。羨ましい。

 

 グリフで雲の上に出て見た光景は、絶景だった。二人は普段あまり写真を撮らないが、後で皆に見せようと撮っていた。

 しばらく景色を堪能した後、戻ろうとした時、前方に何かの影を発見した。

 その小さな赤い塊は徐々に大きさを増し、こちらに迫ってくる。

「ねぇ、シロー。あれってヤバイ?」

「裸眼でこんなにはっきり見えるってことは、かなりの大きさの敵だ。かなりヤバイ」

「よしっ。グリフ反転! 雲の下まで抜けて!」

 グリフが一鳴きし、下降を始める。

 雲を抜けて地上が見え、後ろに跨っていたシローが振り返るとより大きくなったドラゴンが追って来ていた。

「ドラゴンだっ!!」

「なんですってぇ!? それ、今のラスボスじゃないっ! 見る見る!」

 前に乗っていたラエラが身体を捻る。

「キャーっ、レッドドラゴンだーっ」

 ラエラが叫ぶ。語尾にハートマークがついている悲鳴だった。

 同じく雲の下に出たドラゴンは一直線にグリフに乗ったシローとラエラに迫っている。

 二人のレベルは42。到底ラスボスであるドラゴンに叶わない。

「おおっ、すごい迫力……いやいや、ヤバイって。このままじゃ追いつかれるぞっ!」

 ドラゴンの口の端から炎が漏れているのが見えた。

「ドラゴンだけに炎のブレスってとこか? まずい……まずいぞ……もしあれを喰らって、グリフも一緒に死んだりしたら、レンに悪いっ」

 ドラゴンの速度は早く、すぐ後ろで口を開き始めた。喉の奥に炎がくすぶっている。

「よし! シロー。グリフから飛び降りるよっ!」

「ええええっ!?」

「あのブレスで生き残るとは思えないし、グリフを死なせるわけにはいかないでしょ。私らなら、死に戻るだけで済む!」

「こんな所でスカイダイビングか!」

「シロー、あそこに湖があるわ! 運が良ければ大丈夫かも。いくよっ。1・2……3っ」

 二人はグリフから飛び降りた。ものすごい度胸だ。

 ドラゴンは予想通り口に溜まった炎をブレスとして二人に向かって吐き出した。

 一瞬の閃光と灼熱が二人を包む。

 熱いと思った次に目を開けると、神殿の目覚めの部屋だった。

 


「とまぁそんな感じで、グリフが無事で本当、良かったよ。借りておいて死なして無くしましたとか、レンに申し訳ないしね」

「怖っ。二人とも飛び降りるなんて、凄いね……。私は絶対無理だ」

 想像したのか、アリーシアが顔を歪める。

 ハイドもお疲れ様と言いながら、空いたジョッキに麦酒を継ぎ足していた。

「確かにグリフを失くすのは惜しいけど、そんなに無茶なことしなくても良かったのに……」

「どっちにしても死んじゃってたし、こっちもドラゴンに追いかけられて、パニクってたからさー。結果オーライってことでいいんじゃない?」

 グリフは確かにレアで、卵から孵した大事なもんだけど、過剰に大事にするのもどうかなぁと思う。でも、二人の心遣いは嬉しかった。

「しかし、レッドドラゴンかー。見てみたいなー」

「掲示板に情報とか、載せるか?」

 ラスボスの情報はドラゴンということしか流れていない。

 短時間の接触だが、二人の体験は、現時点では貴重な情報だろう。

 

・レッドドラゴンである。サイズは成長したグリフォン(四人乗り可能)の倍。

・遭遇場所は北方面、雲の上。

・炎のブレスを吐く。レベル42でも一撃死。

・感知攻撃タイプ。見つかったら攻撃対象にされる。


 皆で話し合った結果、分かったことを後日、掲示板に書き込むことにした。

「誰か、倒してくれるといいね~」

「でもその前にもう一回見たいわ」

「ドラゴン見たい……でもグリフに乗るの、降りるときがなぁ……」

 ラエラとシローの話を酒の肴に、遅くまで宴会は続いた。

 

 

 後日、グリフォンを所持している青騎士のパーティに連絡を取った。

 ラエラたちに、掲示板に書き込む前に彼らに話してもいいかと許可を取ってある。グリフが手に入ったのは彼らのおかげなので、お礼も含まれている。

 彼らは最前線パーティだし、グリフォン持っているし、一番ドラゴン討伐出来る条件を整えている。

 青騎士たちは興味深く話を聞いていたが、グリフォンから飛び降りたくだりで、やや驚いていた。

『無茶したわねぇ』

『別に飛び降りなくても……』

『レンさん。空の敵と戦っている時は、グリフォンは乗り物扱いで、ダメージを受けないんですよ。だから炎のブレスを受けても……』

『グリフォンは無事だった、というわけだな』

「まじっすか!?」

 

――あの二人にその事実を言うの、ちょっと可哀相だな……。しかし、これからもグリフに乗るメインだし、メ、メールで報告しておこう。

 

 ドラゴンの情報を提供し、こちらも有益な情報をもらってしまったので、あんまりお礼にならなかった。残念。

 青騎士たちと話し終えた後、メンバー全員に『飛行中の仕様』というタイトルで、青騎士たちに聞いた情報をメールした。

 シローとラエラは揃って顔文字で返してきた。

 

 (T△T)

 

 なんかゴメン。

 情報って大事だよね……。



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