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13.苦手も怖いも色々ある


 絶叫系コースターが大好きで、そればっかりある恐怖の遊園地にも嬉々として行った二人、ラエラとシローがグリフに乗って空中飛行に出かけた。

 グリフォンの笛はラエラに渡してある。

 乗れないのは他にもいて、高所恐怖症のアリーシアも、グリフに乗って5メートルほど上昇した段階で悲鳴を上げていた。

「見てると羨ましいんだけどなぁ。……いいなぁ」

 遠ざかるグリフの影を仰ぎ見ながら、アリーシアが呟く。

「いいよなぁ。空を飛ぶってファンタジードリームなのになぁ」

「二人とも怖がりなんだから、仕方ないだろう。ま、グリフはギルド内で乗れる奴が乗ればいいし、一人先行っているヨイチと会うのにも便利だしな」

 確かに宝の持ち腐れ回避出来て良かった。グリフに関しては可愛いペットが出来たと思っている。

「さて、今日は三人か……いない間の戦闘って、二人でどんな感じだったんだ?」

「グリフがいたから、攻撃に関しては問題なかったよ。力強いし飛べるし、複数攻撃可能だし」

「グリフのお陰でレベルもいい感じにあがったんだよ。ほら、レベル40!」

 アリーシアがリングのステータスページを見せ付けてきた。

「うぉっ、アリーシアと一緒のレベルだ! 一度は抜いたのに……」

「他のゲームに浮気しているからだろ。ほれ、俺はレベル45だ」

「……何か悔しい。くそう、中身のスキル上げで挽回してやるっ」

「スキルもアリーシアのほうが戦闘特化で、たぶんレンよりも耐久力あるぞ。お前、ちょろちょろ生産系のスキル取ったりしてるし、時々スキル装備しなおすのを忘れて戦闘したりしてるだろ?」

 

 ――普通のゲームをあまりしないハイドに、何か指摘された!? ゲーマー歴はこっちのが長いのにっ!

 

「レンは器用で何でも出来るからスキルも色々試したいのは分かるけど、より強い敵と戦ってお金を増やすためには、やっぱり戦闘特化だよ?」

 ハイドに続いてアリーシアにまで言われ、うなだれた。

 確かに料理やら調合やら、大量のアイテムを高価なものにするためにスキルを取っている。

 その為の時間もけっこう割いているので、確かに戦闘系のスキルの伸びはいまいち……。

 気長に気楽に遊びたいという思いと、早く目標金額達成して自分たちの家を持ちたい思いがせめぎあう。

「うーん。じゃあ、今日は……」

「真面目に狩りする?」

 小首を傾げて尋ねるアリーシアに、にんまりと笑い顔を向ける。

「いんや、今日は『思わず写真が取りたくなる綺麗な景色』を捜して、適当に敵も倒しつつ、フィールドワークするっ!」

 力強く言い放つと、ハイドが顔を横に背けてぼそりと呟いた。

「それって、いつもと同じじゃないか……」



 いつもと同じフィールドでトカゲ男だったり草原で巨大昆虫相手に……とはならなかった。

 アリーシアと一緒に戦ったのは、一番最初だけなので、忘れていたのだ。

 アリーシアは、虫嫌いで爬虫類嫌いだと……。

 トカゲもダメ、蝙蝠もダメ、カタツムリの巨大なのもダメ、蟷螂、てんとう虫、バッタ……エトセトラ。

 ハイドと二人で良く行っていた場所は全滅だった。

「アリーシア、今まで一体何と戦ってレベル上げてたんだよ」

「レンとハイドの二人がキモチワルイ系の敵とばっかり戦ってるだけだから! 二人にだって苦手な外観の敵とか、いるでしょ?」

 それに、二人そろって首を横に振った。

「特に無い」

「敵に関しては他のゲームでもグロイの見慣れてるし、ゴキ以外なら大丈夫」

 ぶるぶる首を小刻みに振って無理無理と繰り返すアリーシアを宥め、とりあえず苦手が出ない、レベルに見合ったダンジョンへ行くことになった。

 

 

 レベル上げのための塔――正式名は闇の塔――は全10階層からなる塔タイプの分かりやすいダンジョンである。

 敵の種類は動物系が中心で、一階から登って行くごとに敵のレベルが上がっていく。

 レベル適正も、一階がレベル1~10、二階がレベル11~20と判断しやすい。

 塔が高台にそびえ建っているため、窓から眺める景色はが非常にいい。

 一度行ったことのある階層には、入ってすぐに設置された転移の魔法陣で選んで行けるため、雑魚を相手にする必要もない。

「どうする? 転移して……四階? 五階?」

 レベル的には五階に行っても何とかなるが、三人での戦闘で役割分担の確認ということで、四階から始めることにした。

 この塔は、広い。そして同じような道が続くため迷いやすい。実際、アリーシアはここで迷子になったことがあるらしい。

 その上敵の出現率も高く、いい狩場である。

 出てくる敵は動物系や騎士系(中身の無い鎧や、骸骨騎士など。コンセプトは死してもなお塔を守っている……だとか)で、アリーシアの苦手とする虫はいないので、突然悲鳴を上げられることもないだろう。

 

 ちなみに、アリーシアの苦手な敵が出てきたときの反応はこうだ。

「きゃーーーーー!!! いやぁ!!! 来ないでーっ!」

 まず、最大限の音量で叫ぶ。

 そして、普段のおっとりしているくせに、やたら早い逃げ足を披露する。

 結果、戦力外。

 ハイドが『慣れれば大丈夫になるよ』と説得して試してみたところ、考えるより先に身体が動いてしまうらしく、脱兎のごとく逃げたという話だ。

 ま、ゲームやりに来てまで、嫌いなものを見る必要もないか。

 

 

 転移魔法陣で四階にやってきて、フォーメーション――というほどの物でもないが――を確認して、ダンジョンを進んでいく。

 まず先頭に立って索敵で敵を捜す。次にアリーシア、後ろにハイドで念のため背後を警戒。

 塔は石造りで、ところどころ崩れていて、光はそこからも差し込んでいるが、基本的に内部は明るい。光源ってどこだろう? おかしいなー……という仕様になっている。

 さすがに夜になるとそれなりの暗さを演出するが、真っ暗でいちいちたいまつを装備とかしなくていいから、ありがたい。

 崩れた巨大な石、苔むした通路、水溜まりに、細い水路。塔ダンジョンの地形はやや複雑だが、地図スキルがあるのでスイスイだ。

「レンといると、便利だねぇ。迷わないし、宝箱の位置も敵の位置も事前に分かるし、戦闘スキル以外もいいもんだねっ」

「だろ? やっぱ敵には先制、背後攻撃だろ?」

「それはイマイチ……。私後衛回復役だし、両方ともちょっと卑怯チックだよね」

「チックじゃなく、敵からしたらかなり卑怯だ。だがモンスター相手に正々堂々正面からいっても仕方ない」

「それもそうだね」

 レベルに余裕があるので、のん気に会話しつつ歩いていると、次の敵が索敵に引っかかったので、二人に戦闘態勢を指示した。

 遭遇したのは骸骨騎士。レベルは35だが、骸骨のくせに騎士なので当然剣を装備しているため、攻撃力が高い。

 ハイドと二人、ガンガン攻撃しながら、アンデットなので僧侶タイプのアリーシアも回復魔法で攻撃参加するから、HP削れるのが早い早い。

 かなり楽勝だった。

「いいなぁ、アンデットに回復魔法! 今度墓地に行ってアンデット狩りでも」

「えええっ!? それはちょっと……」

「アンデットは大丈夫なんじゃないのか?」

「……。墓地とか、あんまり行きたくないじゃない」

 ――非常に女の子らしい意見だが、ゲームの大半のダンジョンは墓地とか墓所とか、いわゆる墓場だぞ?

 ジト目でアリーシアを見ていると、言いたいことが予想できたのか、慌てて言い訳する。

「夜じゃなかったら、大丈夫だよ! 夜に墓地ってのが怖いだけだから!」

 言い切るアリーシア。きっと夜の墓場のイメージは日本の墓なんだろう。

 苦手なものが多くて行ける範囲が限られるが、回復要員のアリーシアがいると、狩りが非常に楽だ。

 途中で写真を撮るために窓から身を乗り出しすぎて、うっかり落ちそうになって一人焦ったことは内緒にして、日が傾くまで三人で塔に篭ってモンスターを狩り続け、成果は上々。

 骸骨騎士やリビングアーマーから装備品をたくさん盗めたので、これを売り払えばまた小金が手に入ると思うと顔がにやける。

 

 

 グリフに乗っていったラエラとシローとは、夕飯前に落ち合う約束をしていたので、今朝と同じ待ち合わせ場所に向かう。

 すると、そこにいたのはグリフだけだった。

「あれ? 二人がいない、ね」

「グリフ。ラエラとシローはどうしたんだ?」

 言いながら近付くと、グリフが同じだけ後ずさって距離を取った。

 

 ん? なんで離れるの?

 

「グリフ? こっちおいで」

 グリフは手招いてもこちらには近付かない。

 これは同じグリフォンでも、グリフじゃないんだろうか……と考えていると、ハイドが何か思いついたのか、ぱふっと両手を合わせて叩いた。

「ああ、そうか。グリフォンの笛を持ってないから、主人認定されてないんだ。今は笛を持っているラエラのパーティメンバーでもない。だから近付いてこない。グリフがここに戻っているのは、この場所で呼び出されたからだろう」

「それって、ラエラとシローに何かあったってことか? ……アリーシア、二人から連絡あったか?」

「えっと、ちょっと待ってね」

 アリーシアがリングを開いてチャットを開き、ハイドと共に同じくチャットに参加する。二人はすぐにつかまった。

『ごめんね皆、今待ち合わせ場所?』

「うん、そうだよ。グリフしかいなくって……」

『グリフそっちに戻ってたんだ! 良かったーっ!!』

「ん? どういうことだ?」

「ねぇねぇ、どうしてグリフと一緒に帰って来なかったの?」

『あー……実はね、ドラゴンとニアミスして、シローと二人死に戻っちゃったのよ』


「「「はあぁ?!」」」


 三人同時に大声を出したので、離れた場所にいたグリフが、びくりと身体を跳ねさせていた。



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