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12.グリフォンに乗ろう


 事の経過――グリフォンのグリフは自分でエサとなるモンスターを食べてすくすく成長し、現時点で二人乗りが可能なまで大きくなった。

 さすがゲーム仕様、成長がめちゃくちゃ早い。

 盗んだボスのグリフォンが四人は乗れそうなサイズだったので、最終的にはそこまで大きくなるだろうと予想できる。

 結果、うるさいのが色々とやってきたらしい。

 次のボス敵が空を飛ぶドラゴンということで、上位にいるパーティは空飛ぶ乗り物を必死になって探している。

 そんな中、青騎士率いるパーティがグリフォンを召喚できるようになったという情報が掲示板に出回った。実際に召喚する現場を偶然見た人が書いたようだ。

 当然、ハイドが連れている小さなグリフォンは何なんだ!? というツッコミが入り、別におかしなことをして手に入れたわけじゃないと、釈明のために情報を開示した結果、「譲ってくれ」だの「いくらなら売ってくれるんだ?」だの「貸してくれ」だの、見知らぬ上位のプレイヤーに、ハイドは声をかけられ続けている。

 ハイドとの待ち合わせ場所は草原と森の境目。森の木々の間に、大きくなったグリフがいて、こっちを見て一声鳴いた。

 気付いたハイドが手を振って合図する。隣には幼馴染の一人、エルフのラエラもいた。

「二人とも久しぶりー」

「うん、お互いにお疲れ。レンの方も仕事大変だったみたいね」

「違う違う。ラエラ、こいつ仕事落ち着いた後、新発売のRPGやってハマってただけだから」

「えええっ!! そんな理由で落ちてたの!? それはそれで遊びつつ、寝てる間にダイブすれば良かったじゃない」

「いや。それはしない。ゲームの複数同時進行はしたくない」

「また変なこだわりを……」

 そんな感じでしばらくいなかった間の話を聞いたり、大きくなったグリフに圧倒されて、近付こうとしたら離れられたりして首を捻っている間に、話がグリフの騒動のことに及んで、思わず謝った。

「えっと、何か、色々ゴメン。迷惑かけちゃって……」

「いや、レンが悪いわけじゃない。アップデートのタイミングが悪かったんだ。あと、アリーシアと二人でいた時、グリフもいい戦力だったんで連れ歩いていたのが目立つ原因に……」

「そうそう。グリフが大きくなったから、レンにメールして、先に乗っていいか許可取ったでしょ? それも見られててね」

 たぶん、ネット落ちしてなかったら、二人と同じ事をした自信がある。

「とりあえず、持ち主から預かっているだけだからって言って、逃げていたんだが、かなりしつこく交渉してくる人もいるな」

「…………はぁ…………」

 一言で今の気分を表現すれば『めんどくせぇ』だ。

 相手がゲームのプログラムではなく人なので交渉やアイテムの交換などがあるのは当然なのだろうが、人にも色んな人がいる。

 最初からレアだから無理だと冷静に考える人もいれば、金さえ出せばと考える人もいるだろう。

 あー、めんどくせ。

「んー。どっちにしてもグリフを手放す気、ないしなぁ。ま、断り続けるしかないか……。ところで、一緒に連れてフィールド出ている以外は、グリフをどうしてたんだ?」

「……ああ、それなら、放し飼い? ……かな」

「迷子とか、他のプレイヤーに捕まるとか……危なくないか?」

「ああ、すごくファンタジーつか、ゲーム的な出来事があってな」

 グリフの首元を撫でながら、ハイドが喉を鳴らして笑う。

「えっとね、大きくなったグリフがすごい変な声で鳴き出して、口からゲロっとね、これを吐き出したの」

 そう言ってラエラが取り出したのは、金属製の親指程の大きさの金色の笛だった。

 鑑定で見てみると『貴重品:グリフォンの呼び笛』と分かりやすいネーミングがついていた。

「これを口から……ファンタジーだな」

「これを吹いたらやってくるから、ある意味ベタだよな」

「呼べるのは分かったけど、放し飼いでも大丈夫なのか? 他のプレイヤーの攻撃対象になったりするんじゃないのか?」

「論より証拠。レンはまだーパーティに入ってない状態だから、攻撃対象選択してみればいい」

 ハイドに言われて武器を手に持ち、グリフを選択しようとした。

「おおっ、NPC扱いだ。これなら攻撃されることはないね。けど、グリフに乗って連れ去られる可能性もあるんじゃ……」

「ああ、それも大丈夫」

「笛を持ってる人と同じパーティに入っている人じゃないと、乗ろうとしても乗れない仕様になっているのよ」

「何でそれがわかったんだ? 誰か乗ろうとして乗れなかった、とか?」

「そうだ。シローが戻ってきたときに、パーティ入る前に乗ろうとしたんだが、またがることが出来なかったんだ」

「へぇえ」

「ってことで、はい、笛。レンに渡しておくね。失くさないように!」

 受け取って、アイテムボックスに入れる。これを持つのがグリフォンの持ち主ってことか。本当に失くさないように気をつけよう。

 リングの画面を表示させたので、ついでにパーティ設定も行う。

「じゃあ、一回グリフ乗って飛んでみたらどうだ?」

 ハイドに同意するように、グリフも一鳴きする。

 

 ――空を飛ぶ……それってよく考えたら、絶叫系乗り物の乗り心地に近いんじゃないだろうか……。

 コースターの落下時の浮遊感、ダメなんだよな。ぶっちゃけ浮遊感が怖い。

 

「ラ、ラエラ、一緒に乗ってくれないか?」

「何へたれなこと言ってんのよ。空中飛行、快適よ。高いところ好きでしょ?」

「いやだって……。良く考えたら、絶叫系乗り物に近い浮遊感があるんじゃないかと思って。ほんと、アレ、ダメだからさ。お前強いだろ、絶叫系乗り物」

 大丈夫な人と乗ればまだマシな気がするという、気を紛らわす選択である。

「確かに急降下したら、似た体感になるな」

「ううううう……」

 思わず尻込みすると、ラエラに腕を掴んで引っ張られた。

「ほらっ、乗るわよ。絶叫系よりはマシだから、一回試しに実験よ。後ろに乗って掴まってていいから」

 さっさとグリフに跨って、ラエラが手を差し伸べてくる。

「折角、卵から孵したんだ。一度は乗ってみろよ」

 ハイドにも後押しされ、覚悟を決めてラエラの手を取った。

「じゃ、行くわよ」

 前に乗ったラエラの細い腰にしがみつき、身体を固定する。グリフの翼が羽ばたき、上昇を始めた。

 

 

 グリフは森と草原の上を一周したあと、ゆっくりと下降して、ハイドの傍に降り立った。

 ラエラは空を翔るのを気に入ってるらしく、機嫌良く笑っている。

「あー楽しかった。今度はもっと長距離とか飛んでみたいわー」

「お疲れ、レンはどうだった?」

 その後ろ、硬直した状態でラエラの細腰にしがみついていた。やっと地面に戻ってきて安堵の吐息をつく。

「重力まで体感のプログラム組むことないのに……上空からの眺めは最高だったけど、ううっ、無理、着地がもう無理……」

「こんなに爽快な乗り物なのに、残念ね」

「そんなに気にならなかったけどなぁ」

「それは大丈夫な人の言い分ですからっ!」

 

 ――何だかグリフォンの笛、持ってても宝の持ち腐れ状態? ごめんよー、グリフ。乗れないヘタレで……。でもその分可愛いがるからっ!

 

 結論。ヴァーチャルであろうと、ダメな感覚はダメなままであった。折角の空を飛ぶという貴重な経験なのに、非常に残念だが、仕方ない。浮遊感、怖い。



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