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10.たまごを孵そう

 家風亭は町の端っこにある、こじんまりとした宿屋兼酒場だ。

 一度来た事のあるはずのクリスが迷ってしまい、四人が来たころには、謝らなきゃという緊張感が何処かへいってしまっていた。

「何で同じ町にいるのに、三十分以上もかかんだよ……」

「迷いましたっ。も、申し訳ないですぅ」

 クリスがへにょっと目を潤ませて泣きそうな顔になる。

「いえっ、気にしなくていいですよ。こっちが来てもらったんですから……」

 ハイドがクリスの肩をぽんぽんっと叩いて慰めていた。小さい子が涙ぐんでいる様は可愛いし、実妹が重なるのかも知れないが、それの中身はたぶんおっさんだぞ、ハイド……。

 待ってる間あまりにも暇だったので、また酒場の厨房を借りてケーキを作っていた。お詫びと、勝手に盗んだことを黙ってたことを許してもらおうという下心があるので、チーズケーキ以外にりんごのケーキも焼いておいた。どっちも混ぜて焼くだけだ。

 六人がけの席に、ケーキと取り皿、紅茶を並べ、席に着いた。

「話があるってことだったけど、それはこの間の……ことかな?」

 青騎士の問いかけに、神妙な顔をして頷く。

「ええ、実は……死に戻る前にあのボス敵から盗みをしまして……」

「盗んだっ?」

「えっ? そんなことしてたの?!」

「はい……すみません。で、コレなんですけど」

 アイテムから取り出し、両の掌に乗せて見せると、四人が身を乗り出して見てきた。

「これはっ!?」

「卵……ですよね? ということは、例のボスの卵ですか?!」

「レン君、ただお間抜けに死んじゃったんじゃなかったのね」

「何故すぐに言わなかったんだ?」

 四人分の言葉を一気に聞き取れるような、聖徳太子能力は無いものの、最後の黒狼の咎める声だけは耳に入った。

 言葉を選びつつ、慎重に『申し訳ないです!』を前面に押し出して言い訳をする。

 話し終わると、ボスが突然ゲストを攻撃した謎が解けたと青騎士が苦笑して言った。

「バグか何かでそういうこともあるのかと思っていたが、やっぱり何かしたから攻撃されたんだね」

「びっくりして、心配したんですよ。扉解除で協力してもらったのに、一人だけ死に戻りでしたから……でも、心配しなくても良かったみたいですね。こんなレアな物、手に入れちゃってるんですから……」

「うう……申し訳ないっす」

 卵を掌に乗せたまま、四人にちくりちくりと軽い冗談半分の嫌味を応酬され、何度も謝り、ハイドに助けを求めて視線を送ると、さすがハイド。すぐに気づいてくれた。

「あの、本人も反省してるんで、そろそろ苛めないでやってください。つか、皆さん突いて遊んでるでしょ?」

 青騎士は肩を竦めて笑ってるし、クリスは舌をぺろりと出している。サラ姉さんは大口開けて笑っているし、一人真面目に怒っているのは黒狼だけだった。

「当たり前だ。ゲストで入った癖に、勝手な行動するからだ」

「ええ、本当、すみません。……で、お詫びも兼ねてケーキたくさん焼いたんで、召し上がってください」

 ささっ、どーぞ……とチーズケーキを皆に切り分けて勧めると、心なしか黒狼の眼の色が変わった。

 

 ――クリスが言ってた『ケーキを気に入っていた』って本当だったんだ。

 

 甘いおやつで和やかな空気になる。

 結局のところ、青騎士たちはグリフォンの隠しイベントをクリアして、グリフォンを召喚できるようになったため、こちらにも寛大な対応だ。『うちも無事手に入れたから、別にいいよ』って感じだ。

 ケーキを口に運びながら、青騎士が聞いてきた。

「それで、その卵は……孵ったりするのか?」

「さぁ? それが分からないんですよねー。卵ってどうやったら孵るのか、何の情報も出てませんでしたし……」

「卵か……普通なら温めればいい話なんだが……」

「ここって一応ネットですし、そんなリアルの方法で孵ったりするものかどうか、と思って……」

 何かのイベントクリアとかで、ぽんっと孵るのではないかと考えていたので、そのことも言うと、思いがけず黒狼から提案があった。

「物は試しだ。温めてみればいいじゃねーか」

 口調はそっけないが、ケーキを口に運ぶ手は早く、セルフで次の一切れを取り分けて自分の皿に乗せていた。顔は、狼なので分かりにくいが、確実に笑っている。

 甘いものが好きな狼……それもまた可愛い。

「黒さん」

「誰がクロさんだっ! 犬みたいな名前で呼ぶなっ!」

「ルーさん……アンタ意外にいい人だったんだ。まさか助言をもらえるとはっ」

「そんな大層なものじゃないです、レンさん。私でも思いつきます」

 即座にクリスに突っ込まれ我に返る。どうも狼さん相手だと犬好きの血が騒ぐわ。どんなにつんけんされても、許してしまうというか可愛いと思ってしまう。……50%獣人恐るべし!

 

 

 そんなお茶会が終了し、食べている間にリーダーの青騎士と色々話し、卵を盗んだことについては、特に気にすることは無いと、言ってくれた。

 結局、卵が孵ったら知らせる約束をして、クリスたちとは別れた。

 土産にケーキを1ホール渡しておいた。

 あれだけ喜んで食べてくれたから、サービスだ。

 ハイドと二人になり、卵についてまた頭をひねることになった。

 まず、どうやって温めるのか。

 ずっと宿屋に篭って布団かぶってるのは、却下。折角ファンタジー世界にダイブしているのに引き篭もるのは嫌だ。

 かと言って抱えて持ち運んでいては、割れるかも知れない卵を持ったまま、戦闘は出来ない。ってことはフィールドに出られない。

 はてさて、どうしたもんか……。

 暫く二人で唸っていたが、古代獣の卵に関してハイドを巻き込むのは違うなぁ、と思い始めた。

 そもそも、原因は自分なんだし……。

 卵が孵るまでの間、ソロプレイをすればハイドにも迷惑がかからないだけの話だ。

「あのさぁ、ハイド。卵が孵るまで、しばらく一人でぷらぷらするわ」

 そう切り出すと、ハイドが首を軽く横に振った。

「……レンは、たまーに、変な気の使い方をするよな。俺も卵が孵るのかどうか、興味あるんだ。つき合わせろ」

「ハイド……なんか色々迷惑かけてゴメン」

「別に迷惑とは思ってないぞ。寧ろ、人が風邪引いている間に、何楽しいことになってるんだ! ……ってところだな」

「うん。……さんきゅー、な」

 やっぱ友達っていいよなー。などと思ったのは久しぶりで、何となく照れくさくなった。

 ゲームやってて、友情再確認、か。

 住む場所が遠く離れてしまった幼馴染たち。そんな彼らと内輪でこじんまりゲームするのもいいもんだ。

 


 卵を孵すためにまず作ったのは、卵を入れておく袋。巾着型の簡単な布袋にして、リュックのように背負える紐をつけた。

 このためだけに裁縫のスキルを取得したが、苦手なはずの針仕事がスイスイ進んでびっくりした。何補正がかかってるんだろう。うむ、便利便利。

 作った袋にドロップアイテムの『柔らかい毛皮』を敷いて卵を入れ、上からも毛皮をかけて口を閉じた。

 それをリュックとは逆に、腹の方に抱えるように負うのだが…………これが非常にかっこ悪い。

 かっこ悪いと部屋に篭りきり。二択を天秤にかけて、諦めた。

 かっこ悪くても、外に出歩けなくても、町中を散策している方が楽しい。しばらくそれで歩いていたが、変に注目を浴びて居た堪れなくなり、途中でマントを買った。

 上からマントを羽織るとずいぶんましになった。なんで最初からこれに気付かなかったのか……。

 そんな格好で、町をうろつくこと三日。その間、ハイドと交代でずっと卵を抱いて温めていた。

 鍛治の町の隅から隅まで散策しつくし、いい加減飽きてきたなぁと話していた夜、ついに卵からコツコツと音がし始めたのである。

 

 

 さすがに三日で生まれるとは思っていなかったらしく、クリスはメールを受け取って驚いていた。生まれたばかりの掌サイズのグリフォンの写真も添付しておいたので、ハートマークがいっぱいの返信が返って来た。

 名前はグリフ。まんまが一番です。

 刷り込みって奴で、最初に見たのを親と思う性質からか、人の頭の上で寛ぐのがお気に入りだ。

 幼馴染のシローたちにも見せたら、やっぱり完全にペット扱いだった。形はグリフォンでもミニ過ぎて、威厳とかないからなぁ。メ目もくりくりの黒で愛らしい。

 この小さいグリフが成長して、いつかその背中に乗って空を……とか、ドリームだなぁ。

 

 でもまぁ、その前に、ギルドで家を買うために、今日も金稼ぎに狩りに行くとしますか!





2012/4/3 修正

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