徐々に動き出す世界 [参]
2か月たった今、季節の流れの早いこの世界では、葉は紅葉し秋を迎える。
だがこの地域はもともとの地形に加え、数多くのギルド闘争によってか紅葉を迎えるはずの葉を木々が身につけていないものが目立つ。
さらに加えて、闘争の多いこの地域に留まってまで都市の修復や改善を行う職人系のプレイヤーは少ない。だからこそ荒れても直そうとすることができず、荒れ地が増えている。
中央都市をクロスさせるように東西南北に延びる本道が通っているのにもかかわれず、この荒れようでは、その辺の岩肌が広がる荒れ地と変わりようがない。
クロスケトバ南都市、それより南は海であり、航海というコンセプトがないこの世界設定では、これより先はなにもない。嫌・・・今は知るすべがないと言うべきか。
南東に位置する守護同盟が拠点としているコルム都市と南西に位置する自由が拠点とするカガメル都市に挟まれるこの都市周辺は、彼らの争いの絶えない場となっている。
また、中央都市から真っ直ぐ南に下るとこに存在するこの都市までの道のりは、エネミーの徘徊コースやギルド同士の小競り合いの場を経由するため容易なものではない。
それに闘技場など、まだゲームだった頃の施設が残るこの都市は、血の気の多い奴が集まる活気のある場所とも言える。または、野蛮な場所というべきか。
「よし、そこだ!」
「そのままぶっ潰せ!」
「あぶない!」
都市の施設の中でも一番大きな中央に存在するこの闘技場は、今も闘志を燃やし剣戟を繰り広げるプレイヤーとそれに対しての勝敗に賭けをするプレイヤーで満ち溢れていた。
「君はどっちが勝つと思う?」
「右側の人・・」
「根拠は?」
「・・・右のプレイヤーのガルさんは、ボス狩りで有名な人だったから」
「そうなんだ、僕はボス狩りに参加しなかったからわかんないな」
「そう・・・」
勝負は、あっという間に終わっていた。
敵プレイヤーの槍を弾き返した、ガルはその手に持つ斧を相手の肩に振り落として幕引きとなった。
闘技場のルールは、きわめて簡単で、相手に一太刀入れれば勝利となる。
「そうそうこのあとなんだけど時間を貰えるかな食事でもしながら話たいことがあるんだけど?」
「ごめんなさい・・・人を待っているの」
話しかけた青い髪の男は、再度話しかけようか思考を巡らせていたがついにはあきらめて去っていた。
これで何度目だろうか、この世界のアバターは、現実世界の容姿を元にして利用しているので、もともと整った綺麗な顔をした彼女は、この世界でもひと際目立つほどだった。
彼女ほどの容姿となると多くはないだろう。セアニスなんかは、かなりの美人だが、彼女の魅力とクオの持つ魅力というものはまた別物なのではないかと思われる。
それに彼女は、最有力プレイヤーでありながらギルドに属さない者の一人だ。だからこそ彼女に話かけようとするプレイヤーも少なくはない。
この世界には、全員で2万2500人ものプレイヤーが存在するとはいえ、3年間プレイしてきた古参と言われるプレイヤーは、4000人で有力プレイヤーと言われ、ほとんどのプレイヤーに名前を覚えられるほど知られているプレイヤーとなると200人にも満たない。そして、容姿も覚えられるほどの最有力プレイヤーともなれば20人も満たない。
ちなみに、約一万人が中堅プレイヤーで、残りが一年未満のプレイヤーである。このゲームが本格的に軌道に乗ったのが遅かったからだろうか。
このレベル即ち、最有力プレイヤー[導き手]となればどこかのギルドを統括していたり、各都市の代表者となりえる。
なのに、ギルドに所属してないクオを野放しにするギルドなどいないだろう。
どこのギルドも優秀な人材は必要としている。特に有力者ともなれば、所属するだけでギルドの顔も立つ。そしてなりよりも、これから勢力争いが活発になるかもしれない中での大きな戦力になりえる。
そんな彼女は、あまり話をするのは得意ではなく、少し疲れていたが一人で出歩く気分でもなく、建物の3階スペースにある、一階の闘技場を眺めることのできる席に座り、飲み物を口に含みながらぼんやりしていた。
そんな彼女の心境をしってかしらないがすぐ横に碧い光が広がって中から紅い髪のプレイヤーが姿を現した。
「・・・クライ、遅い。」
「ご、ごめんなクオ、遅くなった。」
「・・・おなかすいた」
彼女と別れたのが3日前だった。本当は今朝には戻ると約束してこの南都市から人の訪れることの多い中央都に情報を集めるために渡った。
今までは携帯情報端末を利用したプレイヤーの情報交換が行われていたが、この端末も世界の変貌とともにガラクタになった。
もともと、VR空間と現実とのやり取りを可能とするために製作された端末は、どうなったかもわからないこの世界で、利用できるものではなかった。
また、これが利用できないということは現実とは、繋がりを持っていないということだろう。
まさしく、異世界の住人となり果てたのだろうか。
とりあえずは、この端末が使えないからこそ現在は、情報を集めることも困難となり、こうしてクライは自ら足を運んだのだった。
今思えば端末は便利な物だった。携帯端末は、プレイヤー同士の意見交換や地図の役割、遺跡の罠やエネミーに対しての情報、友人たちの位置情報、連絡手段、数々の情報がこの端末で行われていた。
これを利用できなくなったプレイヤー同士は、連絡手段を無くし友人同士の連絡も簡易ではなかった。そして情報を無くしたプレイヤーたちの遺跡攻略は、難儀なものとかした。
それでも、人間は凄いのか冒険者の話を頼りに職人系のプレイヤーが地図を手書きで作成していき、連絡手段には代用品になり得るアイテムの開発が進んだ。そして各都市に提示板が置かれ、情報交換がされだした。
また、貴重な情報を商売とするプレイヤーさえ現れだした。
闘技場の建物内にあるプレイヤーが経営する飲食店に立ち寄り昼食をとることにした。
内装は、建物と同じ石造りな壁に木のテーブルそして椅子そして、黄色い光明が照らされていた。
魔法の力を使った光だろう。このような部屋を照らすアイテムも職人プレイヤーが造りあげているのだろうか。
「クライ、それでどうだった?」
「ああ、それが何人か知り合いには会えたけど肝心のクラトスたちには会えなかったよ。」
「そう・・・」
東都市でのあの後、クラトスたちに会うためにあの3人について聞き込みをしながら都市を渡り歩いたものだが、現在まで会うことは、できないでいた。
どうも彼らも都市を転々としながら、好き勝手しているみたいだ。
つい先週までは、この闘技場で勝ちまくったあげくのあてには、お決まりの必殺技で建物の壁を破壊してどっかに旅立ったらしい。クライは、てっきり中央都市に行ったと思っていたが、その後には彼らが中央都市を訪れた形跡はなかった。
どんなふざけた奴だというべきか。それともさすがは、最有力プレイヤーでもっとも有名でもっとも危険な奴と思うべきか。それに加えて、最近では、最有力プレイヤーの貴光とセアニスと三人でギルドを立ち上げたとか・・・もっとも敵にしてはいけないギルドではないだろうか。
友人のことながらクライは半ば呆れていた。
そうこう、考えごとをしていると近づいてきた友人に気づくのが少し遅れていた。
「クライさん、お久しぶりにゃ」
「ああ、ミーシャさん お久しぶりです。北都市で会ったのが最後だから3週間ぶりですか」
「そうにゃ、そしてクオちゃん今日もかわいいにゃ」
「どうもです・・・・ありがとミーシャさん」
ミーシャは、2年前のイベントで手に入れた[アニマルグッズ]という見た目を獣人のようにするアイテムを愛用するプレイヤーの一人だ。ついでにそのころから語尾の[にゃ]も付けているらしい。
本人いわくロールプレイングだそうだ。ようするになりきっているみたいだ。辞める気もなく気に入ってるらしい。
このてのアイテムは、数多くまた種類が多いらしいが、猫や犬のような可愛い系は、手にしていれば自分で使い売ろうとはしないだろうから市場に出回ることは少ないだろう。
クオが隠そうとはしているのだろうが興味津々なのは、クライは気づいていたがそっとしておいた。
もともと動物好きなクオがこの[アニマルグッズ]と言うアイテムをほしいと思っていることは、すぐにわかるものだ。
「こんなとこで会ったのも縁にゃ、これからうちは東都市に向かおうと思ってるのだけども一人はさみしいにゃ・・・前みたいに護衛を頼めないかにゃ?」
「東へですか?」
「そうにゃ! 三日後に東都市で友人たちとお店を開業する予定なのにゃ」
「三日後ですか?」
「そう、だから護衛がほしいのにゃ」
東都市へは、北に移動して中央都市を経由して東都市に行くルートが一番安全だろう。しかし、早くて5日は掛かる。
三日で移動可能なルートといえば、危険だが守護同盟が所有するクロスエディオ砦周辺の道を抜け、14遺跡の一つ[エルド遺跡]を迂回して[ティア洞窟]を抜けると東都市クロスティアの南へと繋がる。
「しかし、三日後じゃなければならないのですか?」
「それは・・・ほかに理由があるにゃ・・けどそこは聞かないでほしいにゃ」
「理由がどうあれ、傭兵ですから相応の報酬さえ頂けるなら聞きませんよ」
「話が早くて良いにゃ、報酬はとりあえず前金で2万ミラにゃ」
「・・・どうする、クオ」
「・・・問題ない」
クオも承諾したことで、クライは依頼を受けることにして準備でき次第に東都市クロスティアへ経つことになった。
東都市へは、2か月ぶりとなるだろう。クライは、東都市の現状について考えながらも出発の準備を急いだ。
「出発しようか」
「そうですね・・・」
「よっし! 出発にゃ!」
12月15日 誤字を修正いたしました。