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徐々に動き出す世界 [弐]

世界は、徐々に動き出した。


2か月前の世界を変えるように、人もまた動き出す、自分のために。



「さすがに、細道に入ったとはいえ、こんだけ数で押されたら、いつまでもつか・・・」


クライは、目の前のプレイヤーが光の粒子となり、都市のほうへ飛ぶのをみてつぶやいた。


都市間を移動する大商人プレイヤーの護衛として、14人が中央都市クロスアトラを出発したのが、まだ朝だったか、ギルド[自由(フリーダム)]の襲撃を受け、細道まで逃げ延び、迎え撃ったは良いが、圧倒的な数の差の前に、一人一人とライフ零を記す蒼い光の粒子となり、自らが拠点とする都市へと飛ばされていった。


このゲームに、プレイヤーたちが隔離されて、2か月間どのプレイヤーも現実に帰るどころか、死ぬことができなかった。ライフが零になれば、都市に例外なく飛ばされて戻ることになる。


だからだろうか、プレイヤーたちは、どこか現実とゲームの区別ができず、このような争いや略奪を繰り返している。痛みは存在するのに。


「このままでは、ごり押しされます。」


「わかっている。仕方ない私が残り、時間を稼ぐ。お前らは、馬車を都市まで護送しろ。」


護衛リーダーのアッガイが、そう言った。彼は、3年間このゲームをプレイしてきた実力者で、彼ならこの先のさらに細い道を利用すれば、時間稼ぎは、可能だろう。


しかし、残るということは、通常帰還はできない。押し寄せてくるプレイヤーにいずれは打ち倒され、光の粒子となり都市に死帰還することになるだろう。


これは、あくまで一時的にライフ零を示すだけであり、都市に戻り復活ポイントである祭壇に飛ばされるだけで死にはしない。だがこのゲームにおいてもペナルティーは、存在する。


所有する金銭(ミラ)の3割とアイテムを数個ランダムにその場に置き去りにする。そして、所得熟練度の一割を無くすことになる。


どれだけ、死が一時的な仮のものだとしても、置き去りにするアイテムが貴重な装備品や、時間をかけて手にした熟練値を失うのは、どのプレイヤーも良しとは、しないだろう。


だからこそ、クライは、こう述べた。


「アッガイさん! しんがりは自分が行います。」


「馬鹿言え!、ここは、一番このゲーム経験の長い私が残るべきだ。」


「大丈夫です。 自分には、生き残るすべがあります。」


嘘ではなかった。クライは、あの2カ月前のアップデート時に、クオから渡された紋章を身に着けていた。これさえあればいざという時、戦場から彼女の元に一瞬で移動することができるだろう。


彼女が、今もこの紋章を身に着けていてくれさえいれば。


「わかった。そういうことなら、お前に任せる。 報酬は、今度あった時に渡してやる!」


「はい! 皆を頼みます」


「ああ! よし! 全員馬車を護送するぞ 敵を押しのけながら陣形を整えろ。」


「了解!」「お、おk」「う、うん」


クライは、遠ざかる馬車と護衛のプレイヤーを背に感じながら、一本道に陣とった。


「時間を稼がせてもらう!」


最初に動いたのは、大斧を担いだ大男だったか。


「ふっ」


一歩その男は、大斧を構えて踏み込もうとした。


大男だということ、そして、基本重たくて攻撃速度が遅い大斧だということで、誤った判断をクライはしてしまった。


(奴の攻撃が、届く前に、叩き斬る!)


大きく一歩踏み込んだクライは、得意の抜刀スキルを放った。


[一閃(いっせん)]


鞘から抜き放たれた横薙ぎの瞬速の一撃が敵を薙ぎ払うはずだった。


「なっ」


なんとその大男は、一歩踏み込んで攻撃すると思わせて後ろに下がり攻撃をかわした。そして、その状態からこちらに飛び込みながら大技を仕掛けてきた。


「デス・インパクト!」


その技名と赤い閃光そして防御を捨てたその思い切った大技は、まさしく一撃でクライのライフを零に持っていくだけの迫力があった。


だが、クライとてこのようなことを想定してのスキルを所得していた。クライは、とっさに抜き去った剣を鞘に高速で戻しながら敵の攻撃スキルを防御するためにスキルを発動させた。


(カラス)


敵の大斧とクライの剣が重なりあい、火花を散らした。


だが、クライのステータスは、その大男のステータスには、及ばなかったようで、クライの剣をはじき返し彼の胴体を斬り裂き、ライフを大きく削り取った。


「ぐっ・・・」


痛みに耐えながら、自分のライフを確認する。大きく削れてはいるが、防御スキルのおかげで致命傷は避けられたらしく、黄色い点滅を数回刻み、止まった。


だが、まだ、油断できない。半分以上削られたライフでは、このまま、闘うのは危険だろう。そして、運よくこの大男を倒せたところで、後ろには、まだ70人ものギルド、自由(フリーダム)のプレイヤーたちが迫っていた。


(せこいが仕方ない・・・)


クライは、バックステップで距離を取りながらアイテムショートカット欄から、戦闘用アイテム[炸裂弾]を出して、大男のほうに投げつけた。ショートカット欄に入れておいたことで、アイテム欄からアイテムを探す手間が省けるのが、こういうとっさの戦闘時には、役にたった。


しかしこのアイテムが、当たったところで、ライフは、一割も削ることはできないだろう、だが避けた場合は、地面で炸裂を数秒間、繰り返すので時間稼ぎにはなる。


予想どおり、大男は、大きく後ろに下がり[炸裂弾]を避けたので、数秒間時間を稼ぐことができた。


クライは、その隙に紋章の力を発動させた。


「ゲート:オープン」


紋章は、碧い光ゆっくり広げて、クライを呑み込んだ。















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